公認心理師 2018追加-85

B.LatanéとJ.M.Darleyの理論による緊急時の援助行動までの以下から1~5の意思決定過程の順序について、正しいものを1つ選ぶ問題です。

  1. 何か深刻な事態が生じているという認識
  2. 自分に助ける責任があるという認識
  3. 事態が危機的状況であるという認識
  4. どうやって助ければよいかを自分は知っているという認識
  5. 援助しようという決断
まずはラタネの有名な理論等を概観し、その上で解説に入っていきます。
この意思決定過程よりも傍観者効果、社会的手抜きといった理論の方が有名かもしれませんね。
これらはすべて繋がっており、一連の研究ということもできますから、この機会に覚えておきたいところです。

解答のポイント

ラタネの業績、特に傍観者効果について把握していること。
そこから派生した緊急時の援助行動に関する意思決定過程の順を理解していること。

B.Latanéの業績

ラタネは、他者の存在による影響に関する研究を多く出しています。
彼は、困っている人の周囲に多くの人が存在しているのに、誰も助けようとしない現象を「傍観者効果」と名付け、多くの人が存在しているから援助行動が抑制されることを明らかにしました。
その他、社会的インパクト理論や社会的手抜きに関する研究があります。

【傍観者効果】

援助が必要とされる事態に自分以外の他者が存在することを認知した結果、介入が抑制される現象を指します。
ラタネとダーレーは、キティ・ジェノヴィーズ事件という殺人事件において、多くの人が事件に気づいていた(目撃者が38人もいた)にもかかわらず、誰も被害者を助けようとしなかったことに注目しました。
彼らは実験(人数が違う集団による援助行動の違いを調べた)によって、援助すべき緊急事態に出くわしている人が多数いるにも関わらず介入が起こらない原因を追究して、この傍観者効果の存在を明らかにしました。
一般には、傍観者の数が増えるほど、また、自分より有能と思われる他者が存在するほど、介入は抑制されます。
この現象が生起する理由として、責任の分散(自分がしなくても誰かが行動するだろう)、多数の無知(周囲の人が何もしていないのだから、援助や介入に緊急性を要しないだろうという誤った判断をする)、評価懸念(行動を起こして失敗した際の、他者のネガティブな評価に対する不安から、援助行動が抑制される)で説明されています
これらの説明は、次の緊急事態での介入モデルで重要な考え方になります。

【緊急事態での介入に関するモデル】

ラタネとダーリーは傍観者効果の研究を通して、緊急事態での介入までの意思決定過程と、介入を抑制する要因について検討し、人が援助行動に至るまでの過程を意思決定モデルとして提示しました。
これによれば、以下のような5つの段階に分けられます。
  1. 異常な事態が発生しているという認識
  2. それが緊急事態であるという認識
  3. 援助するのは自分の責任であるという認識
  4. 援助方法を自分は知っているという認識
  5. 援助を行うことの決断
上記を細かく説明していくと以下の通りとなります。
まず第1項の「異常な事態が発生しているという認識」ですが、その緊急事態が起きていることが認識されなければ援助しようと思わないので、これが最初に来ることになります。
第2項の「それが緊急事態であるという認識」については、緊急事態というのはそれほど頻繁に起こるものではないので、多くの場合、普通の人が緊急事態であることをはっきりと認識するのは難しいものです。
上記の事件では、そこで状況を判断する情報を周囲に求めた結果、誰も行動しておらず落ち着きを払っているように見えたために、緊急事態ではないと判断したと考えられます(多数の無知)。
第3項の「援助するのは自分の責任であるという認識」については、責任の分散(自分がしなくても誰かが行動するだろう)によって援助行動への義務感が薄れるということが示されており、援助行動を起こすには援助する責任があると感じる必要があるということになります。
ちなみにラタネとダーレーの実験によると、緊急事態に気づいたのが自分だけだと思った被験者は85%が援助行動を起こしましたが、自分以外にもうひとり気づいた人がいることを知っていたときには62%に減少したとされています。
「他の誰でもない自分が行うのだ」と思うのって難しいわけです(家事も家族がいると相手任せになってしまいがちですしね)。
第4項は「援助方法を自分は知っているという認識」ですが、人は緊急事態に遭遇するとパニックに陥ることがあるため、何をすればよいのかわからず結果的に何もしないということが起こりやすいです。
緊急時には救急の電話番号なども、正確に思い出せなくなるというのはよくある話ですね。
最後の第5項は「援助を行うことの決断」ですが、例えば「自分が介入することによって騒ぎを大きくしてしまうのではないか」「自分も巻き込まれて怪我を負わされるのではないか」などの不安が決断を妨げることもあるとされています。
自分が他者を援助するときの思考・感情の流れを細やかに追っていくと、少し理解しやすいかもしれないですね。

【社会的手抜き】

集団で協同作業を行うとき、一人あたりが投与する作業への遂行量が、人数が多くなるほど低下する現象を指します。
ラタネは、これが協同作業に伴う調整ロスではないことを、現実集団と疑似集団を用いて実験しました。
集団の人数を変えて、防音室で大声を出させたり、拍手をさせたりすると、人数が増えるにつれ、各個人が投与する遂行量が、現実集団だけでなく疑似集団においても低下することが検証されました。
この点は社会的インパクト理論で説明もされています。

【社会的インパクト理論】

他者の存在が、個人の遂行行動(認知・感情・生理的変化を伴う)に与える影響を定式化しようとする考え方です。
個人が受ける社会的インパクトは、影響源である他者の強度(地位や社会的勢力)、他者との直接性(時間的、空間的な接近)、他者の人数の相乗効果として定義されます。
ラタネは、援助行動の抑制や社会的手抜きを含む広範な現象を、この理論で説明しようとしました。
この理論において、影響源である他者は一人で、これを受ける個人の人数が増加すれば、社会的インパクトは分散し、小さくなります。
緊急の援助が必要な他者に対して、責任の分散が起き、援助が抑制されるのはこのためとされています。

選択肢の解説

『①1→2→3→4→5』
『②1→2→4→3→5』
『④1→3→4→2→5』
『⑤1→4→2→3→5』

これらは上記で示された順序と異なっております。
よって、選択肢①、選択肢②、選択肢④および選択肢⑤は誤りと判断できます。

『③1→3→2→4→5』

これらは上記で示された順序と合致します。
よって、選択肢③が正しいと判断できます。

1件のコメント

  1. いつも、お世話になっております。
    この問題は、ラタネとダーリーの理論についての問題であって、
    緊急時の援助行動が実際はどうか、という問題ではないですよね。
    と言うのは、必ずしも、「1→3→2→4→5」ではないという場合もあるかなと考えるからです。
    例えば、1→3→4→2→5
    つまり、「どうやって助ければよいかを自分は知っているという認識」を自分は持っているから、「自分に助ける責任があるという認識」を持つ場合もあるのではないか
    と考えるからです。例えば、飛行機内で意識を失う人が居ても、皮膚科医や眼科医は救助を躊躇するかも知れないが、内科医ならば責任を自覚しやすいのでは、と思います。

    如何でしょうか。
    ご多忙のところ、すみません。

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