公認心理師 2024-106

射乳や子宮収縮を促す作用があり、近年は社会性行動との関連が指摘されているホルモンを選択する問題です。

ホルモン問題は何度も出題されますから、覚えておきたいところです。

問106 射乳や子宮収縮を促す作用があり、近年は社会性行動との関連が指摘されているホルモンとして、適切なものを1つ選べ。
① グレリン
② オレキシン
③ オキシトシン
④ バソプレシン
⑤ プロラクチン

選択肢の解説

① グレリン

グレリンは、1999年に久留米大学分子生命科学研究所の児島将康教授らが発見したとされています。

同大学の研究グループが発表した2019年の研究では、グレリンはドーパミンと関係が深い脳内報酬系に作用し、運動へのモチベーションを高めていることが明らかになりました。

内因性の成長ホルモンアナログ受容体の内因性リガンドとして同定されたグレリンは、主に胃で大量に産生されていますが、他にも大腸、下垂体、腎臓、胎盤、視床下部でも産生されています。

グレリンは、成長ホルモン放出促進作用を有してはいますが、それとは別にヒトやラットなどの動物で空腹感を誘発し摂食を亢進させる効果があります。

即ち、食欲を亢進する効果があるということですね。

空腹になると胃から血液中にグレリンが分泌され、血液を流れたグレリンが脳の摂食調節部位に作用することで、食欲が刺激され、空腹感が生まれます。

グレリンの分泌に異常が起こると、食事をした後でも短時間で食欲を感じやすくなるなど、肥満やメタボリックシンドロームの発症リスクが高まると考えられています。

なお、肥満あるいは摂食により血中グレリンは減少し(つまり食欲が抑制され)、逆に空腹時や飢餓、摂食障害で増加する(つまり食欲が亢進される)ことが確認されています。

血中グレリン濃度は肥満モデル動物やヒトの肥満者において低値で、体格指数(BMI)と負の相関を示すことが明らかとなっています。

これらのことから、グレリンは負のエネルギーバランス時に活性化され、摂食刺激、脂肪蓄積などによる同化作用により生体の恒常性を維持するために働いていると考えられます。

以上より、グレリンは「射乳や子宮収縮を促す作用があり、近年は社会性行動との関連が指摘されているホルモン」ではないことがわかりますね。

よって、選択肢①は不適切と判断できます。

② オレキシン

オレキシンは、視床下部で作用する食欲や睡眠、体内リズムなどに関わるホルモンです。

オレキシンが発見された当初、摂食中枢である視床下部外側野とその周辺部に局在することから、摂食に関連する研究が多く行われました。

ラットやマウスの脳室内にオレキシンを投与すると摂食を誘発すること、絶食によりオレキシンが増加すること、オレキシン遺伝子ノックアウトマウスの食餌量が減少することなどが明らかにされています。

また、マウスに甘い味のついた水を毎日決まった時刻に与えると、オレキシンを作り出す神経の活動が盛んになることがわかっています。

このことは、なにか動機があり(○○が食べたい、飲みたいなど)、それが達成されると、オレキシンの産生が多くなるということを示しています。

そのためかオレキシンを放出するオレキシン神経が「食事をよく味わいながら、美味しく、規則正しく摂る」ことにより活性化するなどと説明がなされています。

ただし、オレキシンの摂食促進作用は短時間であり、24時間の総食餌量も体重も対照群と比較して差がないことが示されています。

現在、オレキシンの摂食促進作用は、オレキシンニューロンの軸索が投射先の一つである弓状核NPY産生ニューロンでのオレキシンによる活動亢進によりなされると考えられています。

また、オレキシン産生ニューロンの多くはレプチン受容体を発現しており、レプチンによりオレキシン産生ニューロンの活動が抑制されることが明らかになっています。

この他、オレキシンには睡眠と覚醒のコントロールと関わっており睡眠中は活動が抑えられているので、夜中に食事をしてすぐ寝てしまうと、オレキシンによって促される筋肉での糖の利用が抑制され血糖がより上昇し、上昇した血糖は筋肉ではなく脂肪組織などに蓄えられ、肥満の原因になる可能性が出てきます。

また、交感神経の活動を促進して体のエネルギー消費を促進する、などの重要な役割を多く担っているので、体の中で産生されないとナルコレプシーを引き起こす原因になる可能性も示唆されています(ナルコレプシー患者の脳脊髄液を検査すると、9割以上の症例でオレキシンの量が測定できないほど低下しています。死後に脳を調べるとオレキシンを産生する神経細胞が消失しています)。

以上より、オレキシンは「射乳や子宮収縮を促す作用があり、近年は社会性行動との関連が指摘されているホルモン」ではないことがわかりますね。

よって、選択肢②は不適切と判断できます。

③ オキシトシン

オキシトシンは9つのアミノ酸で構成されたタンパク質であり、視床下部の室傍核、および視索上核にある神経細胞によって産生されます。

ここではまず、女性と関わりの深いホルモンを挙げておきましょう。

  • エストロゲン(卵胞ホルモン): 女性らしい体を作る。排卵、月経を起こし妊娠に必要な子宮の環境を整える。皮膚や骨の健康、感情、自律神経の働きにも関与する。
  • プロゲステロン(黄体ホルモン): 子宮の環境を整え妊娠しやすい状態にする。妊娠後は妊娠状態の安定化に関与する。
  • 性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH):性腺刺激ホルモンである卵胞刺激ホルモン(FSH)や黄体形成ホルモン(LH)の分泌を促す。
  • 卵胞刺激ホルモン(FSH):卵胞の成長とエストロゲンの分泌を促す。
  • 黄体形成ホルモン(LH):排卵とプロゲステロンの分泌を促す。
  • オキシトシン:子宮を収縮させ分娩を促す。出産後は乳汁の分泌を促す。
  • プロラクチン(乳汁分泌ホルモン):乳汁の産生を促す。

上記の通り、オキシトシンは子宮収縮を促す作用があり、乳汁の分泌を促すホルモンとされています。

分娩には子宮で産生されるプロスタグランジンと下垂体後葉から放出されるオキシトシンが重要で、前者は子宮平滑筋を収縮させます。

陣痛の開始から分娩までのオキシトシンの分泌は高まり、子宮平滑筋を強力に収縮し、分娩を促進します。

こうしたオキシトシンは、母性行動の形成にも重要な役割を果たしているとされています。

実際、マウスを使った実験では、オキシトシンとオキシトシン受容体を働かなくしておくと、母乳が出なくなるほか、母性行動が少なくなるというデータがあります。

オキシトシンは、精神的な安らぎを与えるといわれる神経伝達物質のセロトニン作動性ニューロンの働きを促進することでストレス反応を抑え、人と交わったりする社会的行動への不安を減少させると考えられます。

これまでの研究でも、オキシトシンを人に投与すると、他人に対する信頼感を増加させるという報告がありますし、社会行動に障害がある自閉症スペクトラムの患者にオキシトシンを投与したところ、前頭前野の活動が増加して症状の改善が見られたという報告も話題を呼びました。

オキシトシンは脳の中心部にある扁桃体においては活動を抑制する作用を持ち、扁桃体は神経細胞が集合した神経核と呼ばれる組織であり、急を要するような事態に対して敏感に反応するといったアラームのような役割を担っています。

他者から裏切られる可能性が高い状況において扁桃体は反応を示すが、オキシトシンを鼻から投与した場合には、その活動が抑制され、他者から裏切られる可能性が高い状況であっても他者を信頼し続けてしまう傾向が高まることが明らかにされています。

これは一見マズいことのように感じるかもしれませんが、実際はそうではなく、日常生活においては置かれた社会環境からの刺激によりオキシトシンの濃度が適切に調節されています。

つまり、安心できるような社会環境においてオキシトシンが分泌されることで他者から裏切られるリスクへの見積もりが低下し、その結果として向社会行動が促進されると考えられているわけですね。

以上より、オキシトシンは「射乳や子宮収縮を促す作用があり、近年は社会性行動との関連が指摘されているホルモン」に合致すると考えられます。

よって、選択肢③が適切と判断できます。

④ バソプレシン

下垂体後葉からは抗利尿ホルモンとオキシトシンが分泌されます。

このうち、抗利尿ホルモンのことをバソプレシンとも呼びます(vasopressin:vaso=血管、press=加圧、を意味する)。

バソプレシンは、集合管(腎臓に存在する管系。遠位尿細管に続き、尿を排泄する通路となる)での水の再吸収促進による抗利尿作用を持つとともに、血管平滑筋の収縮による血圧上昇作用も有します。

すなわち、バソプレシンは腎臓から排出される水分量を制御することで体内の水分量を調節する役割を担っています。

バソプレシンは腎臓から排泄される水分量を減少させるので、その結果、体内により多くの水分が保持され、体内のナトリウム濃度が薄まります。

ちなみに、血液中のナトリウム濃度が低いことを低ナトリウム血症と言います。

以上より、バソプレシンは「射乳や子宮収縮を促す作用があり、近年は社会性行動との関連が指摘されているホルモン」ではないことがわかりますね。

よって、選択肢④は不適切と判断できます。

⑤ プロラクチン

プロラクチンは下垂体前葉から分泌されるホルモンで、哺乳動物の乳腺の発育と乳汁産生を促進するなどの作用が知られています。

ヒトの妊娠においては、妊娠中に血中のエストロゲンとプロゲステロンの濃度は高い値に保たれており、これによって妊娠が維持されます。

妊娠の初期は黄体からのエストロゲンとプロゲステロンが面であるが、妊娠8週以降には胎盤からエストロゲンとプロゲステロンが役割を担うことになります。

分娩には子宮で産生されるプロスタグランジンと下垂体後葉から放出されるオキシトシンが重要で、前者は子宮平滑筋を収縮させます。

陣痛の開始から分娩までのオキシトシンの分泌は高まり、子宮平滑筋を強力に収縮し、分娩を促進します。

出産後にはすぐに授乳が始まります。

妊娠中にプロゲステロンとエストロゲンの作用で乳腺が発達し、脂肪が蓄積して乳房が肥大します。

妊娠中にはこれらのホルモンが乳腺に作用し、乳汁産生の準備をします。

分娩後、下垂体後葉からのプロラクチンが作用し、乳腺の上皮細胞の増殖を促し、乳汁畜生を促進します。

また、プロラクチンは視床下部にも作用し、ドーパミンの分泌を促進し、下垂体前葉からのプロラクチン分泌を抑制します(負のフィードバック)。

ちなみに、プロラクチンの分泌刺激は乳児の吸乳です。

このようにプロラクチンは母乳を作るホルモンであり、このホルモンが活発な間、つまりは妊娠や授乳期間中は(負担軽減のため)身体が自然と妊娠しにくい状態となります。

ちなみに高プロラクチン血症に関しては「公認心理師 2018追加-103」で解説していますから、併せて理解しておきましょう。

このようにプロラクチンは「乳汁蓄生」を促進するホルモンになります。

本問で問われている「射乳」とは微妙に異なることがわかると思いますし、「子宮収縮」および「社会性行動との関連」との関連についてはありませんね。

よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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