公認心理師 2022-96

ストレス状況で副腎髄質から分泌が促進されるホルモンに関する問題です。

各ホルモンが分泌されている器官を把握しておくことが求められますね。

問96 ストレス状況で副腎髄質から分泌が促進されるホルモンとして、最も適切なものを1つ選べ。
① インスリン
② メラトニン
③ アドレナリン
④ コルチゾール
⑤ サイロキシン

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解答のポイント

各ホルモンが分泌されている器官を把握している。

選択肢の解説

③ アドレナリン
④ コルチゾール

生体内におけるストレス応答の引き金となる外部刺激のことをストレッサーと呼びますが、ストレッサーの種類は様々であり、細胞レベルから、物理的、化学的、生物学的および精神的なあらゆる刺激がストレッサーになり得ます。

ストレス応答に関連する生理学的な主要経路は以下の図のとおりです。

視床下部-下垂体-副腎皮質を介する経路は「HPA系」と呼ばれ、ホルモン分泌による伝播を主体とする液性伝達経路です。

様々なストレッサーによって刺激された視床下部では、室傍核と呼ばれる場所で副腎皮質刺激ホルモン放出因子(CRF)が分泌されます。

CRFは下垂体門脈系を通って下垂体前葉を賦活し、そこで副腎皮質刺激ホルモン(ACHT)の分泌を促進します。

また、視床下部室傍核からの神経軸索は、下垂体後葉においてバソプレシンの分泌を促進します。

バソプレシンは抗利尿作用を有する他に、CRFと相乗的に働いてACHTの分泌亢進に寄与しており、さらに、バソプレシンにおいては慢性ストレス時のHPA系亢進に関わりが深いと考えられています。

一方、下垂体前葉ではACHTの分泌と同時にβ-エンドルフィンという内因性オピオイドも約1:1の割合で分泌されることがわかっており、「ストレス負荷時に痛みを感じにくい」のはこのためだとされています。

こうして下垂体前葉から分泌亢進によって血中濃度が上昇したACHTは、副腎皮質に到達してコルチゾールの分泌を促進します。

コルチゾールの主な生理作用は、糖新生(血糖維持)、心収縮力の増大およびグリコーゲンの貯蔵をはじめとする糖、タンパク質、脂質などの代謝調節です。

また、電解質コルチコイドとしての性質も有しており、腎臓を効果器とする水分保持作用によって昇圧効果を発揮します。

しかし、至適生理量を超えるコルチゾールは、タンパク質の異化(分解)や脂肪分解を促進し、水分保持機能のアンバランスを招いて脱水や水中毒を生じる原因となります。

さらにコルチゾールは糖質コルチコイドに共通の性質として、リンパ球や線維芽細胞などの間葉系細胞に対しては異化的な働きを有するため、免疫機能を低下させ、抗炎症作用を示します。

コルチゾールの分泌量は、1日あたり平均約20mg程度とされており、早朝にピークを示す概日リズムに沿った日内変動が特徴的です(ただし、食事やストレスによる顕著な一過性上昇も見られる)。

このようにHPA系では、コルチゾールの効果器に対する作用を介して、ヒエラルキーを形成しながら様々な生体防御反応を亢進させます。

一方、視床下部-交感神経-副腎髄質を介する経路は「SAM系」と呼ばれ、情動刺激または興奮に対して、交感神経系が亢進する攻撃もしくは闘争-逃走反応を担う重要な経路です。

HPA系に比べると効果器への指令を交感神経の遠心性線維を介する神経伝達と、副腎髄質からのホルモン分泌による液性伝達の2つのメカニズムを担っており、即時性のストレス応答の基盤となる経路です。

HPA系と同様に、大脳皮質もしくは大脳辺縁系で処理された情動興奮は、ストレス応答の司令塔とも言える視床下部の室傍核から投射される遠心性の神経繊維を伝わり、交感神経の場合は脊髄側角、副交感神経の場合は脳幹および仙髄を起始部とする節前線維を介し、一旦各の神経節(交感神経節および副交感神経節)に入ります。

交感神経節および副交感神経節は、核支配臓器の近傍に存在しており、そこで節後線維に乗り換えて効果器へ向かいます。

節後線維の神経終末からは、交感神経の場合はノルアドレナリン、副交感神経の場合はアセチルコリンが分泌されます。

さらに、交感神経系節前繊維による支配を受けている副腎髄質では、カテコールアミン類を合成・貯蔵できるクロム親和性細胞が存在しており、これが興奮することでアドレナリン、ノルアドレナリンの分泌が促進されます。

副腎髄質から分泌されたアドレナリン、ノルアドレナリンは液性伝達により標的臓器に運ばれます。

アドレナリンやノルアドレナリンなどのカテコールアミン類の効果器にはα受容体とβ受容体の2種類ありますが、それぞれにサブタイプがあり、分布の密度は効果器と(標的臓器)の種類や部位によっても大きく異なります。

基本的にSAM系の興奮は、心拍数の増加、血圧上昇、血糖上昇、発汗、代謝亢進、攻撃または闘争-逃走反応の亢進をきたすと考えられます。

以上のように、ストレス状況において副腎皮質からはコルチゾール、副腎髄質からはアドレナリンが分泌されることがわかります。

よって、選択肢③が適切と判断でき、選択肢④は不適切と判断できます。

① インスリン

インスリンは膵臓から分泌されるホルモンの一種で、膵臓にはランゲルハンス島(膵島)と呼ばれる細胞の集まりがあり、その中のβ細胞からインスリンは分泌されます。

食後に血糖値(血液中のブドウ糖濃度)が上昇すると、それに反応して膵臓からインスリンが分泌されます。

細胞の表面にはインスリン受容体があり、インスリンがこの受容体に結合することで、細胞は血液中のブドウ糖をとりこみ、エネルギー源として利用します。

余ったブドウ糖はグリコーゲンや中性脂肪に合成され蓄えられますが、その合成を促進するのもインスリンの働きです。

このように、血糖値を下げる働きをするホルモンはインスリンだけですから、糖尿病の予防には食後の急激な血糖値の上昇を抑え、インスリンの分泌を節約することが大切です。

他選択肢の解説にもあるとおり、ストレスを感じるとコルチゾールやアドレナリンなどのホルモンの分泌が増えます。

これらホルモンは血糖値を上昇させる作用があり、ストレスはインスリン抵抗性を引き起こすホルモンの分泌も増やします(インスリン抵抗性は、インスリンに対する感受性が低下した状態)。

そういう意味ではストレスとインスリンは無関係ではないのですが、本問で問われているのは「ストレス状況で副腎髄質から分泌が促進されるホルモン」ですから、インスリンは異なることがわかりますね。

以上より、選択肢①は不適切と判断できます。

② メラトニン

メラトニンは、脳内の松果体において生合成されるホルモンです。

網膜から入った外界の光刺激は、体内時計(生物時計・視交叉上核)を経て松果体に達します

松果体におけるメラトニン合成には顕著なサーカディアンリズムが認められ、昼行性夜行性を問わず夜間に合成が亢進します。

光入力経路はサーカディアンリズムの光同調経路と共通しており、網膜から入った光情報は網膜視床下部路、視交叉上核を経由して交感神経系に入り、松果体細胞に達します。

明るい光によってメラトニンの分泌は抑制されるため、日中にはメラトニン分泌が低く、夜間に分泌量が十数倍に増加する明瞭な日内変動が生じます(この経路は形態視を司る視神経から独立しており、完全盲の人でも眼球が保存されている場合には、メラトニン合成が光によって抑制されることがわかっています)。

光によるメラトニン抑制反応は、ヒトでは500ルックス以上の光で生じるとされています。

よく朝日を浴びるようにと言われますが、朝に光を浴びることで脳にある体内時計の針が進み(人間の体内時計は24時間50分なので、どこかの時点で早送りが必要)、体内時計がリセットされて活動状態に導かれます。

この際、こうした強い光を浴びることでメラトニンの分泌が止まります。

メラトニンには目覚めてから14〜16時間くらい経過すると、また光が弱くなってくると再び分泌が始まります。

このメラトニンの分泌の高まりによって、脈拍・体温・血圧を低下させ、睡眠の準備ができたと体が認識し、休息に適した状態に導かれて眠気を感じるようになるわけです。

メラトニンは幼児期に一番多く分泌されることがわかっており、それ以降、年齢を重ねるごとに分泌量が減っていきます。

これが歳をとると眠る時間が短くなるメカニズムの一つとされていますね。

メラトニンはセロトニンから合成されていますが、ストレスフルな生活を送っているとセロトニンを分泌する神経が弱ってきて、メラトニンの量も減少して眠りにくくなるとされています。

睡眠不足が継続すると、ホルモン系や免疫系、自律神経系システムの働きが低下し、身体的・精神的な問題を招きやすくなるとされていますね。

このようにメラトニンとストレスは無関係というわけではありませんが、メラトニンは松果体から分泌されるなど、本問で問われている「ストレス状況で副腎髄質から分泌が促進されるホルモン」ではないことがわかりますね。

以上より、選択肢②は不適切と判断できます。

⑤ サイロキシン

甲状腺は、咽頭下部から気管上部を覆うように位置する蝶形の器官ですが、ここから分泌されるホルモンにはサイロキシンとトリヨードサイロニンがあります。

これらのホルモンは、核内受容体に結合し幅広い遺伝子産物の発現を変化させることによって実質的に全身のあらゆる組織の細胞に作用します。

甲状腺ホルモンは、胎児や新生児では脳および身体の組織の正常な発育に必要とされ、あらゆる年齢層でタンパク質、炭水化物および脂肪の代謝を調節します。

トリヨードサイロニンは核内受容体への結合活性が最も高く、サイロキシンにはわずかなホルモン活性しか認められませんが、サイロキシンは長時間保持されトリヨードサイロニンに変換されるため、トリヨードサイロニンの貯蔵庫として働きます。

要するに、こうした甲状腺ホルモンは、熱やエネルギーをつくるため、血糖値を上げたり、心臓の収縮力を高めたりする作用があり「からだを元気にするホルモン:エネルギーを作ったり、神経系の活動を活発にする」と言えます。

上記の通り、サイロキシンは甲状腺から分泌されるホルモンであり、本問で問われている「ストレス状況で副腎髄質から分泌が促進されるホルモン」ではないことがわかりますね。

以上より、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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