公認心理師 2022-143

事例に考えられる病態を選択する問題です。

選択肢で示されている各病態の代表的な症状や特徴を理解していることが求められていますね。

問143 60歳の男性A、俳人。物忘れが最近増えてきたことを心配した同居の息子Bに連れられ、精神科クリニックを受診した。黙っているAに代わって話をしたBによると、Aは、半年前から膝が上がらなくなり、徐々に歩幅が小さくなった。今では、脚が左右に開き気味で、歩行が不安定である。また、3か月ほど前からトイレに行く頻度が増え、近頃は、間に合わずに尿を漏らすこともある。日中は、ぼんやりしていることが多く、楽しみにしていた地域の句会にもしばらく参加していない。一方で、夜間はよく眠れており、食欲も以前と変わらず、奇異な訴えもない。
 Aに考えられる病態として、最も適切なものを1つ選べ。
① 正常圧水頭症
② 老年期うつ病
③ 前頭側頭型認知症
④ Lewy小体型認知症
⑤ Alzheimer型認知症

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解答のポイント

選択肢で示されている各病態の、特徴的な症状を把握している。

選択肢の解説

① 正常圧水頭症

水頭症とは、脳室内の過剰な脳脊髄液の貯留を指します。

正常圧水頭症は水頭症の一種で、特に60代、70代の高齢者に発症します。

正常な状態では、「脳室」と呼ばれる空洞内で脳脊髄液の産生、循環、吸収の微妙なバランスが保たれています。

水頭症は、脳脊髄液が脳室系を流れて通過できなくなったときや血流内に吸収される脳脊髄液の量と産生される脳脊髄液の量のバランスが崩れたときに起こります。

正常圧水頭症の特徴として、通常は以下の順で次の3症状が徐々に現れます。

  1. 歩行障害(歩行困難):
    小幅で足を引きずるように歩く。転びやすい。足が重く感じられる。階段使用が困難。
  2. 尿失禁(排尿のコントロールの障害):
    頻繁に、または急に排尿したくなる。排尿を我慢することができない。
  3. 軽い認知症(認識機能障害):
    健忘症。短期記憶喪失。行動への関心の欠如。気分の変化。

こうした症状の原因は脳室の肥大です。

拡張した脳室は、脳と脊髄の間の神経経路をゆがませ、症状を引き起こすと考えられています。

正常圧水頭症は、外科手術で治る唯一の認知症であり、脳室にチューブをいれそのチューブを皮下を通しておなかの中にチューブを埋め込む手術が一般的に行われます(脳室-腹腔短絡術)。

主な症状である歩行障害・軽度の認知症症状・排尿機能障害は髄液シャント術後数日で改善する場合もあれば、数週間、数ヶ月で改善することもあります。

改善が見られる患者は、多くの場合髄液シャント術後の1週間で変化が見られます。

さらに、この改善には軽度から劇的改善まであり得ますが、この改善がどの程度長続きするかを予測することは不可能です。

本事例の「半年前から膝が上がらなくなり、徐々に歩幅が小さくなった。今では、脚が左右に開き気味で、歩行が不安定である。また、3か月ほど前からトイレに行く頻度が増え、近頃は、間に合わずに尿を漏らすこともある。日中は、ぼんやりしていることが多く、楽しみにしていた地域の句会にもしばらく参加していない」については、正常圧水頭症の3症状に合致しており、Aに考えられる病態として正常圧水頭症はあり得ると言えますね。

「一方で、夜間はよく眠れており、食欲も以前と変わらず、奇異な訴えもない」という記述から、他の病態との弁別がなされていると考えられます。

すなわち、うつ病(睡眠障害や食欲不振)や近時記憶障害や人格変化等に伴う症候(奇異な訴えがない)を除外しているわけですね。

以上より、選択肢①が適切と判断できます。

② 老年期うつ病

老年期うつ病とは、老年期(65歳以上。とりあえずは)でかかるうつ病のことで、「気分がめいる」「物事に対する興味や喜びがない」「食欲がない」「よく眠れない」「いつも体がだるい」「集中できない「などといった症状が2週間以上にわたってほとんど毎日続く状態です(正式な病名ではなく、一般的に65歳以上の方がうつ病を発症した時に「老年期うつ病」という表現を用いる)。

ここでは、日本うつ病学会による「高齢者のうつ病治療ガイドライン」を基準に述べていきましょう。

まず高齢者であってもうつ病の診断は基本的には一般的なうつ病の診断と変わりません。

ここではDSM-5の抑うつエピソードを見ていきましょう。


A.以下の症状のうち5つ(またはそれ以上)が同じ2週間の間に存在し、病前の機能からの変化を起こしている。これらの症状のうち少なくとも1つは、(1)抑うつ気分、または(2)興味または喜びの喪失である。
注:明らかに他の医学的疾患に起因する症状は含まない。

  1. その人自身の言葉(例:悲しみ、空虚感、または絶望感を感じる)か、他者の観察(例:涙を流しているようにみる)によって示される、ほとんど1日中、ほとんど毎日の抑うつ気分。 (注:子どもや青年では易怒的な気分もありうる)
  2. ほとんど1日中、ほとんど毎日の、すべて、またはほとんどすべての活動における興味または喜びの著しい減退(その人の説明、または他者の観察によって示される)
  3. 食事療法をしていないのに、有意の体重減少、または体重増加(例:1ヵ月で体重の5%以上の変化)、またはほとんど毎日の食欲の減退または増加(注:子どもの場合、期待される体重増加がみられないことも考慮せよ)
  4. ほとんど毎日の不眠または過眠
  5. ほとんど毎日の精神運動焦燥または制止(他者によって観察可能で、ただ単に落ち着きがないとか、のろくなったという主観的でないもの)
  6. ほとんど毎日の疲労感、または気力の減退
  7. ほとんど毎日の無価値感、または過剰であるか不適切な罪責感(妄想的であることもある、単に自分をとがめること、または病気になったことに対する罪悪感ではない)
  8. 思考力や集中力の減退、または決断困難がほとんど毎日認められる(その人自身の言葉による、または他者によって観察される)
  9. 死についての反復思考(死の恐怖だけではない)。特別な計画はないが反復的な自殺念慮、または自殺企図、または自殺するためのはっきりとした計画

これらが基本ではありますが、こちらに加えて老年期に見られるうつ病の臨床的特徴を見ていきましょう。

抑うつ気分と興味・喜びの喪失は高齢者のうつ病と成人早期のうつ病の共通の中核症状ですが、それに続く中核症状は高齢者では自殺念慮、悲観であるのに対して、成人早期では易疲労感や食欲の変化であるとされています。

また高齢者のうつ病と成人早期のうつ病のHAM-Dスコアを直接比較した研究では、高齢者のうつ病では精神運動激越、心気症、身体症状、身体症状(消化器系)の重症度が高く、罪責感と生殖器症状は低いとされています(一方で、強い罪責感や罪業妄想を伴う場合は、自殺のリスクが高い)。

高齢者のうつ病では入院患者の45%が精神病性うつ病であったという報告があります。

すなわち、高齢者のうつ病では、自殺念慮、悲観、精神運動激越、心気症、身体症状、精神病症状の頻度が高いとされており、また、より高齢であるほど抗うつ薬への反応は悪い、再発率が高く、維持療法が重要である、自殺や認知症への移行に注意が必要である、などの留意点が指摘されています。

これらを踏まえると、本事例では「日中は、ぼんやりしていることが多く、楽しみにしていた地域の句会にもしばらく参加していない」といううつ病を疑わせる記述は見られますが、老年期のうつ病で「半年前から膝が上がらなくなり、徐々に歩幅が小さくなった。今では、脚が左右に開き気味で、歩行が不安定である」や「3か月ほど前からトイレに行く頻度が増え、近頃は、間に合わずに尿を漏らすこともある」などについては説明がつかないと考えられます。

ですから、本問において老年期うつ病を第一選択とするのは、現時点では無理があると言えます。

ちなみに、本選択肢については「事例は60歳だから老年期うつ病にはならないのでは?」という疑問もあるでしょう。

しかし「高齢者」の明確な定義は国連やWHOにおいてもなされおらず、多くの国で65歳以上とされており、一部では60歳以上とする国もあります。

日本では行政機関を中心に65歳以上を高齢者としているため、65歳を基準とする考えが一般的ではありますが、高齢者のうつ病を対象とした研究では、高齢者を50歳以上としたものから75歳以上としたものまで様々です。

ここでは、本選択肢を除外する理由として「年齢」は考えないでおくことにします。

以上より、選択肢②は不適切と判断できます。

③ 前頭側頭型認知症

「前頭側頭型認知症」の神経精神症状をより具体的に示すと以下のように分類できます。

  • 軽度神経精神症候群:
    ピック病では、潜行性に発症し緩慢な進行経過をとりますから、症状が明らかになる以前にさまざまな前駆的な精神症状を見ることがあります。
    疲れやすくて集中力や思考力が低下し、どことなく不活発で、まるで抑うつ気分があるように見えることもあります。
    また、頭痛や頭重感の訴えもあります。些細なことで立腹したり(易刺激性)、うつ気分や自己不全感がみられたり、態度にも落ち着きがなくなる(不穏)といったこともしばしば見られます。
  • パーソナリティ変化:
    人柄の変化は、本病に特有のものです。
    共通する特徴は社会的な態度の変化であり、発動性の減退あるいは亢進です。アルツハイマー型認知症では、少なくとも初期には、対人的な態度が保たれているのと比べると、この行動面での変化が際立っています。ときには周囲のことをまったく無視して自分勝手に行動するように見えることがあります。また、異常に見えるほど朗らかになって冗談をいったり、機嫌がよくなったりすることもあります。このようなことが続くと、もともとの性格と比べて人格の変化が生じたと見做されるようになります。
    ただ、このような時期には、まだ新しい事柄を記憶する能力は比較的残っていることがあって、アルツハイマー型認知症とは違った印象を受けることが少なくありません。
    特に、衝動のコントロールの障害は、欲動の制止欠如とか、人格の衝動的なコントロールの欠落などと表現され、思考において独特の投げやりな態度は考え不精と呼ばれます。
  • 滞続症状:
    しばしば、話す内容に同じことの繰り返しがあります。これは特有な常道的言語で、運動促迫が加わっています。まるでレコードが同じことを繰り返すようであることから、グラモフォン症候群と呼ばれたこともあります。
    この症状は側頭型ピック病において特徴的とされています。言語機能の荒廃にはまだ至っていない段階で見られるものですが、次第に言語の内容は乏しくなります。
  • 言語における症状:
    言語の内容が貧困になり言語解体と呼ばれる状態になります。自発語や語彙が少なくなり言語の理解も困難になります。中期になると、話を聞いても了解できなくなりますし、自発言語も乏しくなりますが、文章の模写や口真似は十分にできるといった超皮質性失語のかたちをとります。
    本病では、まず健忘失語や皮質性感覚失語が始まり、そのうち超皮質性感覚失語、超皮質性運動失語などが明らかになり、最も進行した段階では全失語も見られます。この段階になると、認知症に加えて、失書、失読、失行、失認、象徴能力の喪失などが出現します。
    同じことを繰り返す反復言語、それに反響言語、緘黙、無表情の四徴候は本病の特徴とされています。
  • ピック病の認知症:
    アルツハイマー型と比べると、初期には記憶障害は目立たないことが少なくありません。しかし、抽象的思考や判断力の低下は、最も初期から認められます。また、対人関係において常道的な態度をとることもあって、社会的な活動はもとより、周囲に対して適切な態度をとることができなくなります。
    初期にはそれまで獲得している日常生活上での技能(自動車の運転など)は残っていますが、トラブルを生じたときに自主的な判断で切り抜けるといったことはできなくなります。しだいに記銘力の低下や健忘が、特有な人柄の変化と相まって、認知症の病像を呈するようになります。しかし、注意力や記銘力は後期においてもかなり残っていることが少なくありません。そのため、前頭側頭型認知症は、記憶よりも言語面で目立つ認知症と表現されることもあります。
  • 精神病様症状:
    神経衰弱様の症状が前駆期に見られることがあります。また、自閉的で無関心な対人的態度や反社会的と周囲から受けとめられるような行為から、統合失調症を疑われることもあります。ただ幻覚妄想を見ることは多くありません。
    精神病様症状としては、進行麻痺様症状、統合失調症破瓜様症状、衝動行為を伴う妄想状態、不安でうつ気分を帯びた状態、強迫症状、身体的影響感情などが知られます。後期になると、自発性の低下が目立ち横臥がちとなります。末期には精神荒廃状態となり、原始反射をともなって無動無言状態となることもあります。

これらを踏まえて、本事例の特徴を見ていきましょう。

本事例の問題としては…

  • 半年前から膝が上がらなくなり、徐々に歩幅が小さくなった。今では、脚が左右に開き気味で、歩行が不安定である。
  • 3か月ほど前からトイレに行く頻度が増え、近頃は、間に合わずに尿を漏らすこともある。
  • 日中は、ぼんやりしていることが多く、楽しみにしていた地域の句会にもしばらく参加していない

…という、歩行の困難さ、排尿障害、意欲減退が見られ、これらを説明可能な病態を選択することが求められています。

前頭側頭型認知症では、パーソナリティの変化を中心としたさまざまな問題を示しますが、本事例においてはそれらと合致するような症候が見られません(奇異な訴えもない、とされておりますね)。

以上より、選択肢③は不適切と判断できます。

④ Lewy小体型認知症

Lewy小体型認知症は、認知症と意識障害、それとパーキンソン症状などを特徴とし、大脳においてレビー小体を認める疾患です。

マッキースらによって1996年に「レビー小体をともなう認知症」の臨床的診断基準を提唱したのが注目を集めるきっかけになったのですが、それ以前より、通常はパーキンソン病の脳幹部に限局して見られるレビー小体が大脳皮質にもみられることがあることは知られていました。

老年期の認知症患者において、大脳皮質にレビー小体を認めた報告は、岡崎によってなされましたが、その後、日本を中心に多くの症例が報告されています。

小阪ら(1990)は、このような症例をびまん性レビー小体病と名付けて報告しました。

レビー小体型認知症の診断基準は以下の通りとなります。

Lewy小体型認知症は、進行性の認知機能障害で、正常の社会的、職業的な機能に相当な障害を生ずるもので、著しいあるいは持続的な記憶障害は必ずしも初期からみられるとは限らないが、進行するにしたがって明らかになっていきます。

注意、実行機能、視空間機能の障害は特に著しいとされています。

以下が中核症状、示唆する症状、支持する症状、むしろ否定される症状になります。

中核症状:

  • 浮動的に変化する認知機能(ことに注意と活動性においてみられる)
  • くりかえされる幻視(細かい点まで、はっきりしている)
  • パーキソンニズム(特発性)

示唆する症状:

  • レム睡眠期の行動障害
  • 神経遮断薬に重篤な過敏性あり
  • SPECTやPETで基底核にドパミン伝達物質が低値を示す

支持する症状:

  • よくみられるが、診断的な特異性は証明されていない
  • 転倒と卒倒(くりかえされる)
  • 一過性の(説明がつかない)意識の喪失
  • 自律神経障害(重篤、たとえば起立性低血圧、尿失禁)
  • 幻覚(あらゆるかたちのもの)
  • 妄想(系統的)
  • うつ
  • 画像で内側側頭葉が比較的保たれている
  • 画像で後頭部の活動低下
  • MIBG心筋シンチグラフで異常(低値)
  • 脳波で徐波が目立つ(側頭葉に一過性鋭波)

むしろ否定的な症状

  • 脳血管障害がある
  • 身体疾患がある、あるいは臨床症状を説明できるような大脳疾患がある
  • 重篤な認知症で、パーキンソンニズムが初めて出現したとき

上記のように、レビー小体型認知症の中核症状としては浮動する認知機能、幻視、パーキンソン症状が挙げられています。

これらを踏まえて本事例を見ていきましょう。

本事例の問題としては…

  • 半年前から膝が上がらなくなり、徐々に歩幅が小さくなった。今では、脚が左右に開き気味で、歩行が不安定である。
  • 3か月ほど前からトイレに行く頻度が増え、近頃は、間に合わずに尿を漏らすこともある。
  • 日中は、ぼんやりしていることが多く、楽しみにしていた地域の句会にもしばらく参加していない

…という、歩行の困難さ、排尿障害、意欲減退が見られ、これらを説明可能な病態を選択することが求められています。

本事例ではレヴィ小体型認知症の中核症状であり、幻視やパーキンソニズムは見られません。

歩行障害は見られますが、これはパーキンソニズムとは異なり、むしろ身体疾患の存在は否定的な症状として挙げられていますね。

これらを踏まえれば、本事例の病態をレヴィ小体型認知症と見なすのは難しいと言えます。

よって、選択肢④は不適切と判断できます。

⑤ Alzheimer型認知症

アルツハイマー型認知症は、進行した段階では大脳全域に変化の及ぶ疾患ですが、もっとも初期には側頭葉底面や海馬などにおいて、まず病変が現れます。

この部位は、記憶の獲得に重要な部位なので、記憶障害のうちでも記銘の困難が最も初期から出現しやすいと言えます。

病変はさらに広範な領域に及ぶため、クリューヴァー・ビューシー症候群(側頭葉の障害)、ゲルストマン症候群(頭頂‐後頭葉の障害)、バリント症候群(後頭葉の障害)などが目立つようになります。

病変が大脳のほぼ全域に及ぶ時期になっても、大脳皮質運動野、知覚野の神経細胞の変化は軽微であることはアルツハイマー型認知症の特徴です。

アルツハイマー型認知症の経過は次のように分けることができます。

  1. 前駆期:特徴的な認知障害が明らかになる前に、頭痛、めまい、不安感、自発性の減退、不眠などの軽度の神経衰弱様症状がみられる時期があります(軽度神経精神症候群)。軽度の人格の変化が明らかになり、頑固になったり、繊細さが見られなくなったり、自己中心的な傾向が見られたりします。また、思考力や集中力の低下があって、物忘れに患者自身で深刻に悩むことがありますし、うつ気分、不機嫌、不活発、焦燥感などの感情や意欲の変化も見られます。
  2. 初期:近時記憶の障害が目立ってくる時期で、時間的な見当識障害や自発性の低下などを認めます。また、新しく経験した事柄や情報を記憶しておくことが困難となりますし、昨日や今朝の当然覚えているはずと思われるような出来事を覚えていないため、周囲の人たちとトラブルを生ずることがあります。
    この中でも記憶記銘障害に関しては、近時記憶が最も初期に障害されやすく、具体的には「反復して同じことばかり聞く」「金銭、通帳など収納した場所を忘れて大騒ぎする」「繰り返し同じものを買ってくる」などが挙げられます。なお、即時記憶は近時記憶に次いで障害されやすく、比較的初期に見られるものとされています。
    また時間的な見当識の低下も初期から見られ、1日の時間帯を間違うなどが起こり得ます。
  3. 中期:この時期になると、近時記憶に留まらず、自己および社会における古い情報に関する記憶が障害されます。見当識では、外出しても道を間違えて家に帰れなくなったり(地理的失見当)、自宅にいても他人の家にいると思い込んだり(場所に関する見当識障害)します。判断力が低下して、簡単な問題の解決も困難となり、日常生活でも着衣、摂食、排便などで介護が必要になります。
    妄想を形成することもありますが、その内容は断片的です。運動面では、多動があり、徘徊や常同行為があって、行動に混乱が多くなります。この時期には、しばしば、失語、失行、失認などの神経心理症状、筋トーヌスの亢進(筋の緊張状態を指し、筋を受動的に伸長したときの抵抗として表現される)、けいれんなどが見られます。
    ただ、この時期には自分の意思を言葉で他人に伝えるということは可能です。このことは行動障害が出ないで生活できるというためには重要な意味があります。
  4. 後期:言葉によって自分の意思を人に伝えることができない段階です。そのために自分の意思や気持ちを不適切な故魚津で表現することが行われます。記憶障害は最も著明で、近時記憶はもとより、自分の出生地、両親、きょうだいの名前、更には、自分の名前まで忘れてしまうことがあります。人物に対する見当識障害もあって、目の前にいる人が誰かわからないということも起こってきます。さらには、鏡に映った自分の顔もわからず、一日中、鏡に向かって話しかけているといったこともあります(鏡徴候)。摂食、排泄、着衣いずれにおいても介護が必要となりますし、失禁も見られます。感情は鈍麻し、まとまった思考は困難です。また自発性の低下は著しく、臥床するようになります。さらに失外套症候群も見られることがありますが、これはもっとも重篤な段階であると言えます。

上記の変化については、きわめて緩徐に発症し進行していきますから、年数で単純に区切れるような分類ではありません。

これらを踏まえて本事例を見ていきましょう。

本事例の問題としては…

  • 半年前から膝が上がらなくなり、徐々に歩幅が小さくなった。今では、脚が左右に開き気味で、歩行が不安定である。
  • 3か月ほど前からトイレに行く頻度が増え、近頃は、間に合わずに尿を漏らすこともある。
  • 日中は、ぼんやりしていることが多く、楽しみにしていた地域の句会にもしばらく参加していない

…という、歩行の困難さ、排尿障害、意欲減退が見られ、これらを説明可能な病態を選択することが求められています。

アルツハイマー型認知症では、やはり近時記憶障害が最も顕著に見られやすいですから、やはり記憶障害の有無がアルツハイマー型認知症を想定するかどうかのポイントになると考えられます(何事にも例外はありますが、やはり一般的にはそう考えてよいでしょう)。

本事例では、そうした記憶障害を疑わせる記述はありませんから、現時点でアルツハイマー型認知症を第一選択とするのは難しいと言えます。

よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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