公認心理師 2021-29

せん妄に関する問題です。

意識障害の一様態であり、多くの疾患に併存しうるものですから、しっかりと覚えておくようにしたいですね。

問29 せん妄について、適切なものを1つ選べ。
① 小児では発症しない。
② 注意の障害を呈する。
③ 早期に症状が悪化することが多い。
④ 予防には、補聴器の使用を控えた方がよい。
⑤ 予防には、室内の照度を一定にし、昼夜の差をできるだけ小さくすることが有効である。

解答のポイント

せん妄の特徴や治療、予防について把握している。

選択肢の解説

① 小児では発症しない。

せん妄は高齢者に多くみられ、高齢者の約15~50%は入院中にせん妄を経験します。

高齢者に多い理由としては…

  • 薬剤:高齢者では、多く薬剤に敏感になっています。高齢者におけるせん妄の最も一般的な原因は、鎮静薬など脳の機能に影響を及ぼす薬の使用です。しかし、多くの市販薬(特に抗ヒスタミン薬)を含め、脳の機能に影響を及ぼさない薬剤が、せん妄を引き起こすこともあります。こうした薬剤の多くには抗コリン作用があり、高齢者はこの作用に対して敏感になっています。錯乱はこうした作用の1つです。
  • 加齢に伴う脳の変化:せん妄が高齢者により多くみられる理由の1つに、一部の加齢に伴う脳の変化によってせん妄にかかりやすくなることが挙げられます。例えば、高齢者では、脳細胞の数が減少し、神経伝達物質(脳の神経細胞間の情報伝達を可能にする物質)であるアセチルコリンが減少しています。(薬剤、病気、状況などによって)ストレスが生じると、アセチルコリンの量がさらに減少して、脳の機能が阻害されます。そのため、高齢者では、このようなストレスによってせん妄が発生する可能性が特に高くなります。
  • その他の病態:せん妄が起こりやすくなる状況は他にも、脳卒中、認知症、パーキンソン病、その他の神経の変性を引き起こす病気、3薬剤以上の薬剤の併用、脱水、低栄養、体を動かせない状態があり、高齢者ではこれらの病態がよくみられます。

…などが挙げられています。

このように「せん妄」と聞くと高齢者に多いとされていますが、高齢者にのみ出現するというわけではありません。

特に上記のような薬剤への敏感性は子どもでも認められますから、むしろ子どももせん妄状態になりやすい一群と言えます。

国立成育医療研究センター」のページが非常にまとまっているので、こちらから引用していきます。

子どものせん妄は、小児科の入院患者の約10%に出現すると報告されていますが、子どもが成人に比べて行動上の問題がマイルドであることから事例化することが少ないとされています。

しかし、潜在的には頻度が高く、入院日数や生命予後にも関連しているということです。

子どものせん妄の特徴は…

  • 大人で認められる認知の障害や行動上の障害よりも、気分の不安定さ、イライラ、幻聴、妄想が目立つ
  • 急性の発症が多い
  • 発達に伴い症状の表出が異なる
  • 非活動性のせん妄も多い

…などが挙げられています。

また、せん妄の危険因子としては…

  • 男子、低年齢、既存の知的な問題・行動上の問題
  • 養育者の不安、うつ
  • 児童・思春期では成人期よりもせん妄への脆弱性(特に熱性疾患、麻酔)
  • ICUなどの特殊な環境:家族や生活環境から離れた孤独な状況、身体拘束、ノイズ、睡眠リズムを妨害されること

…が挙げられています。

子どものせん妄の基礎疾患としては以下が挙げられています。

  • 感染症:脳炎、髄膜炎、HIV、敗血症
  • 離脱:アルコール、鎮静睡眠導入剤
  • 代謝性:アシドーシス、アルカローシス、電解質異常、肝不全、腎不全
  • 外傷:頭部外傷、熱中症、重症熱傷
  • 中枢性:膿瘍、出血、水頭症、硬膜下血腫、感染症、てんかん、梗塞、主要、血管炎
  • 低酸素:貧血、一酸化炭素中毒、低血圧、呼吸器不全、心不全
  • 欠損症:ビタミンB12、葉酸、サイアミン
  • 内分泌性:副腎機能障害、低高血糖、甲状腺機能障害、副甲状腺機能低下症
  • 血管性:高血圧、脳症、梗塞、不整脈、ショック
  • 中毒・薬物:薬物、非合法農物、農薬、有機溶媒
  • 重金属:鉛、マグネシウム、水銀

そして児童期の場合、①意識レベルの評価、②行動の変化、が診断には不可欠とされています。

意識レベルの評価としてはRASSが優れているとされ、これは…

  • ステップ1:30秒間、患者を観察する。これ(視診のみ)によりスコア 0〜+4 を判定
  • ステップ2:①大声で名前を呼ぶか、開眼するように言う。②10秒以上アイ・コンタクトができなければ繰り返す。以上2項目(呼びかけ刺激)によりスコア -1〜-3 を判定する。③動きが見られなければ、肩を揺するか、胸骨を摩擦する。これ(身体刺激)によりスコア-4、 -5 を判定する。

というものになります(0が意識清明で落ち着いている状態です。+が高ければ好戦的、-がひどい場合は昏睡に近づいていきます)。

行動評価においては、PAED評価があり、①子どもが医療提供者とアイコンタクトをする、②子どもの行動が目的があるものである、③子供が周囲について気づいている、④子どもが落ち着きない、⑤子どもの気が休まらない、の5段階で評価し、せん妄の診断の提案を行っていくとされています。

このように、小児であってもせん妄は生じうると言えますね。

よって、選択肢①は不適切と判断できます。

② 注意の障害を呈する。
③ 早期に症状が悪化することが多い。

せん妄は神経認知障害群に含まれる一疾患です。

まずはDSM-5のせん妄の診断基準を挙げておきましょう。


A.注意の障害(すなわち、注意の方向づけ、集中、維持、転換する能力の低下)および意識の障害(環境に対する見当識の低下)

B.その障害は短期間のうちに出現し(通常数時間~数日)、もととなる注意および意識水準からの変化を示し、さらに1日の経過中で重症度が変化する傾向がある。

C.さらに認知の障害を伴う(例:記憶欠損、失見当識、言語、視空間認知、知覚)

D.基準AおよびCに示す障害は、他の既存の確定した、または進行中の神経認知障害ではうまく説明されないし、昏睡のような覚醒水準の著しい低下という状況下で起こるものではない。

E.病歴、身体診察、臨床検査所見から、その障害が他の医学的疾患、物質中毒または離脱(すなわち乱用薬物や医療品によるもの)、または毒物への曝露、または複数の病因による直接的な生理学的結果により引き起こされたという証拠がある。


すなわち、せん妄では軽度ないし中等度の症状が時間経過で変動する意識障害(環境に対する見当識の低下)と注意障害(注意の方向づけ、集中、維持、転換する能力の低下)に加え、活発な幻覚、強い不安・恐怖、不穏・興奮を伴う意識変容を起こし、認知の障害も生じさせます。

ここでは上記を引用しつつ、せん妄の特徴を列挙していきましょう。

  1. ぼんやりして、思考がまとまらなくなり行動も混乱する
    せん妄は軽度ないしは中等度の意識障害による精神症状で、患者は少し眠そうな様子を見せますが話しかけるとちゃんと応答できます。しかし、注意力や集中力は低下し、判断も混乱していて、あとでせん妄の時に体験したことを思い出すことができません。思考もまとまりが悪く、周囲に対して関心が乏しく無気力となり、行動も混乱し動き回ったり、逆に無動になったりします。
  2. 見当識の障害がある
    いま何日の何時ごろであるか(時間の見当識)、ここはどこであるか(場所の見当識)、目の前にいる人は誰であるか(人物の見当識)といった認識が障害されます。このような見当識障害が、時間・場所・人物に関して一気に、しかも突然に障害されるのはせん妄の特徴です。認知症でも見当識障害が見られますが、この時には時間・場所・人物の見当識の順序でゆっくりと(時には何年もかかって)障害されてゆきます。
  3. 後で思い出せない
    先述の通り、意識障害があったときのことを後で想起することは困難です。これは意識障害があるために注意の障害があり、そのために記銘できないことも関連していると思われます。意識障害のある時の体験が早期不能であるということは、せん妄の重要な特徴の一つです。
  4. 幻視と錯視
    主観的な体験としては、対象を間違ったものとして認識する錯視は頻度の高い体験です。薄暗い部屋の隅に植木鉢や人のうずくまった姿に見えるといった体験がしばしばあります。
    また、実際には存在しない人や動物が見えるといった幻視体験も見られます。いるはずのない人物が見えるとか、部屋の中に入り込んで座っているといったように訴えられます。また小動物や蛇のようなものが見えることもあります。稀には以上に小さい人物が見える幻視(こびと幻視)もあります。
    幻視そのものの体験ではありませんが、確かにそこに人がいるとか、部屋の外に人が経っていて内部を窺っているといった感覚(実体意識性)が体験されることがあります。
    そのほか、視覚系の認識の障害として遠方のものがすぐ目の前にあるように思われたり、逆に近くの物が極端に遠方にあるように感じられたりする遠近感の変化が起こることがあります。また、天井が下で、床が上にあるといった上下逆転した感覚が訴えられることもあります。
    また、ものの輪郭が鮮やかに浮かび上がって見えると訴えることもあります。例えば、机の輪郭がはっきり浮き上がって見え、しかもその輪郭の線が一定の方向に動くといったように体験されることがあり、これは知覚の変容と呼ばれます。
  5. 日内変動がある
    せん妄は日内変動があり、1日のうちにも症状の変化があります。たいていは夜間に症状が悪化することが多く、「夜間せん妄」と呼ばれます。夜間は見当識を助ける手掛かりが減るため、症状が悪化することが多いとされています。また、夕暮れ症候群として知られる夕方から夜間にかけての全般的な精神症状の悪化は、せん妄の出現が原因となっていることが少なくありません。
  6. 活動亢進か活動低下か
    精神運動活動が活発になることが多いのですが、逆に不活発になることもあります。活動低下型のせん妄はそれと気づかれないことも少なくありません。両者が混在して見られることもありますが、活動性は一日のうちでも急速に変化します。
  7. 脳波など
    脳波検査で徐派が見られることもあります。この脳波変化は意識障害の深さと平行し、原因疾患が異なっても一定のパターンを示すとされています。
    ただ、せん妄状態でも実際には脳波異常が見られないこともあります。したがって、脳波に異常が見られないからといってせん妄ではないとまでは言えないということになります。

これらを踏まえて、選択肢の解説に入っていきましょう。

まず選択肢②に「注意の障害を呈する」とありますが、せん妄では意識障害と注意障害に加え、活発な幻覚、強い不安・恐怖、不穏・興奮を伴う意識変容を起こします。

この点はDSM-5の基準A「注意の障害(すなわち、注意の方向づけ、集中、維持、転換する能力の低下)および意識の障害(環境に対する見当識の低下)」からも明らかですね。

このように、注意の障害はせん妄の代表的な症状と言えるでしょう。

また選択肢③の「早期に症状が悪化することが多い」ですが、せん妄では時間・場所・人物の見当識が突然に障害されますが、それを「早期に症状が悪化」と見なすのは早計です。

DSM-5の基準Bには「その障害は短期間のうちに出現し(通常数時間~数日)、もととなる注意および意識水準からの変化を示し、さらに1日の経過中で重症度が変化する傾向がある」とあるように、せん妄の症状は非常に浮動性があるものと言えます。

5分前はせん妄状態だった人が、今は正常な精神状態であることがよくあり、継続的あるいは短時間に何回も観察しないと見逃してしまいます。

ただし、せん妄の原因を速やかに特定して治療しないと、眠気と反応の鈍化が進行し、昏迷(非常に強い刺激を与えなければ覚醒しない状態)に陥ることがあり、昏迷は昏睡や死につながる危険性があるので注意が必要です。

すなわち、せん妄の症状は突然発症するものの、1日以上の経過は不動性であり、上記にもあるように、たいていは夜間に症状が悪化することが多いとされています。

このように「早期に症状が悪化することが多い」とは言えないのが、せん妄の特徴と言えますね。

以上より、選択肢②が適切と判断でき、選択肢③は不適切と判断できます。

④ 予防には、補聴器の使用を控えた方がよい。
⑤ 予防には、室内の照度を一定にし、昼夜の差をできるだけ小さくすることが有効である。

せん妄の治療にも予防にも、せん妄の発症要因を把握しておくことが重要になります。

せん妄の発症要因は、直接因子、誘発因子、準備因子に分けることができます。

直接因子とは、単一でせん妄を起こしうる要因であって、①中枢神経系への活性を持つ物質の接種(抗コリン薬・ベンゾジアゼピン系抗不安薬・睡眠薬・ステロイド・オピオイドなどの医薬品、アルコール、覚せい剤など)、②依存性薬物からの離脱、③中枢神経疾患(脳血管障害、頭部外傷、脳腫瘍、感染症など)、④全身性疾患(敗血症、血糖異常・電解質異常・腎不全・肝不全・ビタミン欠乏などの代謝性疾患など)、などが挙げられています。

誘発因子は、単独ではせん妄を起こさないが、他の要因と重なることでせん妄を喚起しうる要因のことであり、①身体的要因(疼痛、便秘、尿閉、脱水、身体拘束、ドレーンなどの留置、視力や聴力の低下)、②精神的要因(抑うつ、不安)、③環境変化(入院、転居、明るさ、騒音)、④睡眠障害(不眠、リズム障害)、などが挙げられています。

準備因子とは、せん妄の準備状態となる要因で、高齢、認知機能障害、重篤な身体疾患、頭部疾患の既往、せん妄の既往、アルコール多飲などが挙げられます。

せん妄の治療では、まずは直接因子から取り掛かる、つまりは、せん妄を引き起こしていると目される身体的な病気などに対して速やかに治療を行う必要があります。

特に薬物関連性のせん妄は頻度が高く、処方整理や見直しの価値は高いとされています。

せん妄の治療には、病態を包括的・縦断的に把握することが重要で、在宅では情報も治療手段も限られるため、病院受診が必要なことも多いが、入院自体が誘発因子となり得ることにも留意し、必要最低限の滞在に留める等の工夫が必要です。

主に誘発因子に着目した対応は、いわゆる環境調整になります。

環境調整では、①不安を助長しない環境(光、機械・治療器具・モニターの音、スタッフの話し声などの調整)、②馴染み感が感じられる環境(認知症がベースにある場合は、その人の馴染喪のあるものを環境に取り入れると安心感につながりやすい)、③見当識を維持できる環境、④部屋の移動(入院治療ならば、個室か大部屋かなど)、などが挙げられます。

上記の「③見当識を維持できる環境」としては、具体的には、適度な刺激を入れる、時間を意識できるカレンダーや時計を見える位置に置く、適度な数の面会者、人・場所・時間の見当識を維持できる環境調整、日頃から老眼鏡や補聴器を使用しているならば装着を促すなどが挙げられます。

聴覚障害があればせん妄が促進される可能性がありますから、補聴器の使用は促進因子への対応であり、見当識の維持への対応でもあるということですね。

また、せん妄によって昼夜逆転も生じやすいので、家族や医療関係者から話し掛けたり、昼夜の区別を付けるために光刺激の調整を行うことなどを通し、日中の覚醒・活動が活発になり夜間の睡眠を確保することがしやすくなります(睡眠不足はそれ自体がせん妄の誘発因子であることは既に述べた通りですね)。

こうした環境調整もせん妄治療や予防において重要なものと言えますね。

以上のように、特に聴覚に問題がある場合は聴覚刺激が入るように補聴器の使用は推奨されており、昼夜の区別がつくように光の調整を行うことが勧められています。

よって、選択肢④および選択肢⑤は不適切と判断できます。

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