公認心理師 2018追加-142

68歳の女性A、夫と二人暮らしをしている事例です。

事例の内容は以下の通りです。

  • Aは2年前にLewy小体型認知症と診断され、月1回専門医療機関に通院している。
  • 特に介護保険サービスは受けておらず、日常生活にも大きな問題はない。
  • 物忘れは目立たないが、男の人が台所に立っているという幻視がある。
  • 夫に対して「あなたは夫と似ているけどにせ者だ」と言うことがある。
Aに認められる症状として、最も適切なものを1つ選ぶ問題です。

まずはレビー小体型認知症の特徴を押さえておきましょう。
公認心理師2018追加-25でしっかりと書いたので、こちらをご参照ください。

併せて、不適切な選択肢の内容を、どのタイプの認知症から引っ張ってきたのかもわかると良いでしょう。

解答のポイント


レビー小体型認知症の特徴を把握していること。
前頭側頭型認知症、アルツハイマー型認知症の特徴も把握しておくと望ましい。

選択肢の解説

『①記銘障害』

記憶は、心理学的には情報の流れとして理解され、それらは記銘・保持・取り出しの3つの過程から成り立ちます。
そのうち記銘とは、覚える過程を指し、心理学的には短期記憶から長期記憶への情報の移行、神経科学的には記憶の固定化に該当し、脳の中では回路が形成されています

本問では「記銘=覚えること」という理解があれば十分でしょう。
選択肢の記銘障害とは、当然覚えることが障害されているということになります
記銘障害が中核となるのは、アルツハイマー型認知症となりますね

一方で、事例には「物忘れは目立たない」と記載があるため、記銘障害には該当しないことがわかります。
よって、選択肢①は不適切と判断できます。

『②常同行動』

常同行動とは、身体の一部分あるいは全体を目的なく繰り返し動かす行動であり、持続時間も長い場合が多いものです。
知的障害や統合失調症でも認められますが、認知症の場合は頑固に同じことを繰り返そうとするといった形を取る場合が多いです
例えば、いつも同じコースの長い時間の外出を繰り返すなど、です

こちらは前頭側頭型認知症で見られることが多い症状です
前頭側頭型認知症では、ほぼ全例で常同行動がみられます。

一方、事例はレビー小体型認知症です。
また、事例内にも「日常生活にも大きな問題はない」とされており、常同行動があるとは認められません。
よって、選択肢②は不適切と判断できます。

『③転導性の亢進』

転導性とは、次々と創造的なアイデアを思いつくが、それを具体的に詰めていく際に必要な注意力や集中力が欠如している状態です
一つのものごとや計画に集中できず、他のアイデアへと興味や関心が移ってしまうため、生産性が低く、疲労だけが蓄積していきます。
よく発達障害、特にADHDに対して使われる言葉で、注意が移ろいやすいという意味で用いられることが多いように見受けられます

こちらは前頭側頭型認知症で見られることが多い症状です
ある行為を維持できず、外界の刺激に対して過剰に反応するという形で出現します。

事例はレビー小体型であり、更に「日常生活にも大きな問題はない」とされており転導性の亢進は明示されてもおりません。
よって、選択肢③は不適切と判断できます。

『④カプグラ症候群』

神経精神症状として妄想は時折みられるものです。
アルツハイマー型や脳血管性認知症において被害妄想(特に物盗られ妄想)や見捨てられ妄想、不実妄想などがみられることが多いとされています。
また、レビー小体型では、妄想的誤認症候群(カプグラ症候群)がみられます

カプグラ症候群とは、近親者などが瓜二つの偽物と入れ替わったと確信する妄想であり、1923年にCapgras. J. とReboul-Lachoux. J.によって報告されました
身近な人がそっくりの他人に入れ替わったと確信する妄想であり「替え玉妄想」とも呼ばれます。
カプグラ妄想は、意識障害などにおける単なる人物の誤認ではなく、あくまで妄想的な誤認であると考えられています。

初めて報告されたときには妄想症、統合失調症においてみられる妄想とされましたが、今日では器質性精神障害、特に認知症(アルツハイマー型、レビー小体型)においても認められることが知られるようになりました
大脳の右半球や前頭葉の病変との関連が指摘され、カプグラ症候群を認知心理学的に説明する仮説も提唱されています。

替え玉は本物そっくりだが、時に患者は本物とのわずかな「差異」(雰囲気や身体的特徴)を指摘することは見られます。
配偶者、両親など自分が愛着を持つ人物が偽物であることが妄想の主題であり、本物の居場所や偽物の正体は二次的な問題となります。

事例内には「夫に対して「あなたは夫と似ているけどにせ者だ」と言うことがある」という記載があり、こちらはカプグラ症候群と見てよいでしょう。
よって、選択肢④が適切と判断できます。

『⑤被影響性の亢進』

被影響性の亢進とは、外的刺激に対して反射的に反応し、模倣行動や強迫的言語応答がみられることを指します
外的な刺激や内的な欲求に対する被刺激閾値が低下し、その処理が短絡的で、反射的、無反省なものになることが特徴的です。
こちらは前頭側頭型認知症で見られることが多い症状です

事例はレビー小体型であり、更に事例内にも被影響性の亢進は明示されてもおりません。
よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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