公認心理師 2021-102

動機づけ理論に関する問題です。

過去問で問われたことのある選択肢が正誤判断に使われたので、比較的解きやすかったと思いますが、それ以外の選択肢を正しく説明するのは結構大変だったろうと思います。

問102 動機づけ理論の説明として、最も適切なものを1つ選べ。
① D. C. McClellandの目標達成理論では、課題への不安や恐怖を示す回避動機によって動機づけが低下すると考える。
② E. A. Lockeの目標設定理論では、難易度の低い目標を設定した方が動機づけが高まり、業績の向上につながると考える。
③ E. L. Deciの認知的評価理論では、金銭などの外的報酬により、内発的動機づけが高まると考える。
④ F. Herzbergの2要因理論では、会社の衛生要因を改善しても動機づけは高まらないと考える。
⑤ V. H. Vroomの期待理論では、管理監督者の期待が高いほど、労働者の動機づけが高まると考える。

解答のポイント

各動機づけ理論の概要を把握している。

選択肢の解説

① D. C. McClellandの目標達成理論では、課題への不安や恐怖を示す回避動機によって動機づけが低下すると考える。

マクレランドは動機づけを主な研究テーマとし、TATを用いて達成動機、親和動機、権力動機を測定する方法を開発し、達成動機の訓練法も考案したほか、各国の経済発展をその背後にある国民の達成動機の強さの点から解明を試みました。

労働者に達成動機・親和動機・権力動機があると考えるのが、マクレランドの「欲求理論」になります。

それぞれの動機について解説していきましょう。

マクレランドは達成動機を、主に欲求論的な立場から研究を行い、達成想像の程度を、卓越した水準を競うこと、独自の達成を目指すこと、長期的な目標に関わることなどの基準から測定しました。

達成動機とは「ある優れた目標を立て、それを卓越した水準で成し遂げようとする動機」であり、マクレランドによると達成動機の高い人はより良い成績を上げたいという願望の点で、他の動機を持つ者と差があることを発見しました。

マクレランドによると、高い達成動機をもつ人は、①個人的な進歩に最大の関心があるため、何事も自分の手でやることを望み、②中程度のリスクを好み(=成功の確率が50%程度の時に最も強く動機づけられる。総達成動機づけを予測するモデルによる算出の結果)、③自分が行ったことの結果について迅速なフィードバックを欲しがる、という傾向があるとされています。

なお、マクレランドは調査の結果、3つの動機うち「達成動機」の高い人は、他と比べて業績達成意識が高いことを見出しました。

親和動機とは「他者と友好的な関係を成立させたり、それを維持したいという社会的欲求」であり、これを持つ人の特徴としては、①他者からよく見てもらいたい、好かれたいという願望が強く、②心理的な緊張状況には一人では耐えられなくなる傾向がある、とされています。

権力動機とは「他の人々に、何らかの働きかけがなければ起こらない行動をさせたいという欲求」であり、これを持つ人の特徴として、①責任を与えられることを楽しみ、②他者から働きかけられるよりも、他者をコントロール下におき影響力を行使しようとし、③競争が激しく、地位や身分を重視する状況を好み、④効率的な成果よりも信望を得たり、他者に影響力を行使することにこだわる、とされています。

このようにマクレランドの欲求理論は、従業員の行動には「達成動機」「親和動機」「権力動機」のうちいずれかの動機が存在するという理論ですが、後に4番目の動機として「回避動機」が追加されました。

回避動機とは「失敗や困難な状況を回避しようという動機」であり、①失敗を恐れて適度な目標をあえて避けようとする、②批判を恐れて周囲に合わせようとする、などの特徴を有します。

マクレランドは人が行動を起こす際に見られる動機を上記の4つに分類し、程度の差はあったとしても必ずこれらの動機によって人が動かされていると主張しました。

本選択肢でテーマとなっている回避欲求は、失敗を避けたいという気持ちが行動要因を担っていると捉えます。

ですから、本選択肢の「課題への不安や恐怖を示す回避動機によって動機づけが低下すると考える」というのは正しくない表現であると考えられます。

回避動機が動機づけを下げるという捉え方ではなく、回避動機自体を一つの動機づけと見なすという捉え方がマクレランドの理論ではないか、というのが不適切ポイントであると考えられます。

ただ、本選択肢の不適切ポイントが上記であるか否かは正直なところハッキリしません(原著を当たれないし、そう明言できるだけの言説を探し切れていない)。

実は、上記以外にも不適切ではないかと思えるポイントがあり、それは理論名についてです。

本選択肢ではマクレランドの理論を「目標達成理論」としていますが、一般にマクレランドの理論は「欲求理論」と呼ばれることが多いはずです。

事実、回避動機などは「欲求理論」の概念ですから、本選択肢は「欲求理論」の内容について問ういていると考えられますから、そうなると本選択肢の「目標達成理論」という表現がおかしいということになります。

本選択肢の「目標達成理論」と似ている理論としては「達成目標理論」があり、これは達成目標の違いが、課題への取り組み方、感情、課題のパフォーマンスの違いを生むとする理論です(理論者としては、ニコルズ、ドウエック、エイムズなどがいます)。

以上より、「マクレランド=目標達成理論」としているところが、もしかしたら不適切ポイントなのかもしれません。

上記のいずれが本選択肢の不適切ポイントであるか定かではありませんが、いずれにしても「D. C. McClellandの目標達成理論では、課題への不安や恐怖を示す回避動機によって動機づけが低下すると考える」というのは不適切な内容であると言えます。

よって、選択肢①は不適切と判断できます。

② E. A. Lockeの目標設定理論では、難易度の低い目標を設定した方が動機づけが高まり、業績の向上につながると考える。

ロックの目標設定理論は、外発的動機づけにかかわる代表的な理論の一つです。

動機づけの違いは、目標設定の違いによってもたらされているという考え方です。

目標の明確さ、目標の高さ、目標の受容と拒否、段階的成功の評価、フィードバック、目標との距離などの変数が注目されています。

この中でも重要な変数について解説を加えていきましょう。

  • 目標の難易度:ある程度、難易度の高い困難な目標が強い動機づけにつながり、高いモチベーションを生み出す。ただし、あまりにも難易度が高すぎて達成が困難だと諦めてしまう目標では、取り組む前から達成不可と認識されてしまい、動機づけにつながらない。努力すれば達成できる可能性のある範囲で、できる限り高い目標設定をするのが適切な目標設定となる。
  • 目標の具体性:定量的かつ具体的な目標が強い動機づけにつながり、高いモチベーションを生み出す。目標達成度の測定が容易であり具体的であれば、達成に向けて必要な努力も具体的に想像しやすく、実行手段が見えてくることがその要因となる。
  • 目標の受容度:目標は、他者が一方的に押し付けるのではなく、本人が受け入れていることが重要で、本人が理解・納得する方が強い動機づけにつながり、高いモチベーションを生み出す。
  • フィードバックの有無:目標の達成度合いを定期的に確認し、目標の進捗度を示すことにより、高いモチベーションを維持することがでる。自身では見え辛い目標までの距離感や道筋を見失わないよう、定期的なフィードバックでフォローしていくことが大切と言える。

この理論においては、明確で高い目標は、それが遂行者に受容されている場合には動機づけ効果を高める働きをすると考えられます。

成果主義導入の中で目標設定の重要さが認識されるようになりましたが、達成だけが評価され途中の段階的成功が評価されないall or nothing的な目標設定は、却って動機づけを低めてしまう危険性があります。

これらを踏まえると、本選択肢の「E. A. Lockeの目標設定理論では、難易度の低い目標を設定した方が動機づけが高まり、業績の向上につながると考える」というのは、理論とは逆の内容になっていますね。

正確には「本人に受容されている前提で、難易度の高い目標を設定した方が動機づけが高まる」ということになります。

よって、選択肢②は不適切と判断できます。

③ E. L. Deciの認知的評価理論では、金銭などの外的報酬により、内発的動機づけが高まると考える。

認知的評価理論は自己決定理論を構成するミニ理論の一つです。

自己決定理論は、デシとライアンによって構築された内発的動機づけ研究から発展してきた理論で、人の成長と発達、ウェルビーイングを導く動機づけの在り方を説明する大きな理論的枠組みです。

認知的評価理論、有機的統合理論、因果志向性理論、基本的心理欲求理論、目標内容理論、対人関係動機づけ理論の6つのミニ理論によって構成されています。

デシらは、外的な報酬によって内発的動機づけが低下する現象を実証的に明らかにしており、これは認知的評価理論によって説明がなされています。

デシはこの理論の中で、外発的報酬が次の3つの点から自らの行動に対する認知的評価に変化をもたらし、内発的動機づけに影響を与えるという説を提唱しました。

  1. 自発的な行動であっても、それに外発的報酬が与えられると、その行動を統制するのは自分ではなく、外部にあるものと認知するようになり、それによって内発的動機づけが弱められる。
  2. 自らの行動について、外部から正のフィードバックが与えられ、有能さと自己決定の感情が高められると、それによって内発的動機づけは強化される。
  3. すべての外発的報酬は、「制御的側面」と「情報的側面」の2つの側面を有している。制御的側面が強ければ、外発的報酬は内発的動機づけを弱めてしまうことがある(これを「アンダーマイニング効果」という)。逆に、情報的側面が強く、有能さと自己決定感が高めることができれば、外発的報酬は内発的動機づけを強化する。

臨床実践で見ていると、確かに金銭などの外的報酬は内発的動機づけを下げることがわかります。

特に上記の1に該当することが起こるのがマズイと感じることが多いですね。

例えば、子どもが内発的動機づけで頑張ろうとしているのに、親が外的報酬を与えることで「内発的動機が外的報酬に置き換わる」という現象が生じてしまいます。

この置き換わりの影響は多大で、子どもの人生のあらゆる場面で負の影響が出ることも覚悟せねばなりません(根っこの問題は、子どもが自分の内面を感じ取る力が弱くなるということ。動機づけが置き換わるとは、自分の内的感覚がすり替わるということだから、内的感覚の感知が鈍くなる)。

本来、子どもの内発的動機の発露に対して、親は「成功」ではなく「その発露自体」を喜ぶような心持で関わることが重要なのですが、最近は「子どもに内発的動機があることを信じられない」「動機づけが出なくなるのが怖くて報酬を与える」「親が、自らとの関係性が内発的動機を高めるという認識(自信)がない」という事態が見受けられます。

これらを踏まえて、本選択肢の検証をしていきましょう。

本選択肢は「E. L. Deciの認知的評価理論では、金銭などの外的報酬により、内発的動機づけが高まると考える」とされていますが、こちらは上記の通りデシの認知的評価理論の主張とは逆の内容になっていることがわかりますね。

ちなみに本選択肢の内容は「エンハシング効果」が近いのですが(エンハンスとは高める、強化するという意味)、エンハシング効果における外的報酬は「言語的報酬:褒める」ということが入ってきますから、本選択肢のニュアンスとは異なることがわかりますね。

以上より、選択肢③は不適切と判断できます。

④ F. Herzbergの2要因理論では、会社の衛生要因を改善しても動機づけは高まらないと考える。

ハーズバーグの2要因理論(動機づけ衛生理論とも呼ばれています)とは、アメリカの臨床心理学者フレデリック・ハーズバーグが提唱した職務満足および職務不満足を引き起こす要因に関する理論です。

ピッツバーグの会計士と技師を対象に、対象となる事象が際立って鮮明に生起した事態を分析する「臨界事例法」を用いて実施した面接調査から生まれた理論です。

彼は、面接において「仕事上どんなことによって幸福と感じ、また満足に感じたか」「どんなことによって不幸や不満を感じたか」という質問を行ったところ、人の欲求には二つの種類があり、それぞれ人間の行動に異なった作用を及ぼすことを発見しました。

ハーズバーグは、人間が仕事に満足を感じる時に関心は仕事そのものに向いているのに対して、人間が仕事に不満を感じる時に関心は自分たちの作業環境に向いていることを見出し、前者を「動機づけ要因」、後者を「衛生要因」と名づけました。

すなわち、ハーズバーグは、人間の職務満足感と不満足感を別の変数であると考えていたわけですね(つまり、ある特定の要因が満たされると満足度が上がり、不足すると満足度が下がるとは考えなかった)。

動機づけ要因として挙げられているのは、「達成すること」「承認されること」「仕事そのもの」「責任」「昇進」「成長」などで、仕事そのものの要素と言えます。

これらが満たされると満足感を覚えますが、欠けていても職務不満足を引き起こすわけではありません(つまり、満たされていると動機づけが上がり、満たされていなくても動機づけは下がらない)。

これに対して、衛生要因として挙げられているのは、「会社の方針と管理」「上司の存在」「上司との関係」「労働条件」「給与」「同僚との関係」「個人の生活」などで、いわゆる労働環境と言えるものです。

これらが不足すると職務不満足を引き起こしますが、満たしたからといっても満足感につながるわけではありません(満たしていても動機づけは上がらないが、不足すると動機づけが下がる)。

このように「満たされていると動機づけが上がるけど、不足しても動機づけは下がらない=動機づけ要因」と「満たされていても動機づけは上がらないけど、不足すると動機づけが下がる=衛生要因」に分けて論じたのが、ハーズバーグの2要因理論の特徴と言えます。

本選択肢の「F. Herzbergの2要因理論では、会社の衛生要因を改善しても動機づけは高まらないと考える」というのは、まさに衛生要因の特徴を述べたものであることがわかります。

普通は「改善すると動機づけは高まるものだろう」と考えがちですが、動機づけの上下を別要因で捉えるのが2要因理論の特徴ですから、その辺はきっぱりと「衛生要因を改善しても動機づけは高まらない」と見なすのが正しいわけです。

「衛生要因を改善しても動機づけは高まらない」という言い方だけではなく、「衛生要因を改善すれば動機づけが下がることを防ぐことが出来る」と捉えることもできますから、このように考えておく方が実践上や役立つかもしれないですね。

以上より、選択肢④が適切と判断できます。

⑤ V. H. Vroomの期待理論では、管理監督者の期待が高いほど、労働者の動機づけが高まると考える。

ブルームの期待理論は、外発的動機づけにかかわる代表的な理論の一つです。

職務遂行の努力が報酬につながるであろうという期待と、その報酬に対して人がもつ主観的価値によって決まると考えるのが「期待理論」になります。

名称としては「期待理論」と呼ばれることもありますが、他にも「道具性期待理論」「道具性の理論」などとも称されます。

この理論では、ある行為の産出によって他の何らかの産出が得られるか否かについての期待が、行動を動機づける重要な要因となることを強調しています。

ここでは、ある行為の産出は他の産出を得るための手段(道具)となります。

例えば、ある行為の結果が金銭的報酬を得るための手段になるという期待が高い場合には、動機づけが高まると考えられています。

この理論には以下の3つの変数が組み込まれています。

  • 期待(Expectancy:E):ある特定の行為がある特定の結果につながる確率についての、つかの間の信念。頑張ることでどれだけのことが成し遂げられたか、という主観的確率。
  • 誘意性(Valence:V):ある特定の結果に対して感じる魅力の度合い。もたらされたものに、どれだけの値打ちがあると予想されるかという主観的確率。
    ※結果それ自体(第一次結果)が持つ誘意性と、その結果がもたらすであろう二次的な結果(第二次結果)のもつ誘意性に区別される。
  • 道具性(Instrumentality:I):第一次結果を得ることが第二次結果をもたらす手段として役立つ見込み。それが成し遂げられた場合、さらに何がもたらされるのかの主観的確率。

ヴルームはこれらの変数をもとに、動機づけ(Force:F)を「F=E×Σ(V×I)」の公式で捉え、組織従業員の動機づけを数量的に把握することを試みました。

ちなみに「期待」と「道具性」は本人の見込みであり、主観的確率と捉えられるので、数値上は0~1の間で変化します。

「誘意性」は魅力の度合いであり、好ましいものもあれば避けたいものもあることから、数値上は+1~-1の間で変化すると考えます。

この理論に基づけば、例えば勉強の場面において、「ここで頑張れば試験に合格できるかもしれない(期待)」という感覚と、「試験に合格すれば昇進できる(道具性)」という感覚と、「試験に合格(第一次結果)と昇進(第二次結果)に対する魅力(誘意性)」がモチベーションを高めるということです。

簡単にまとめると「やるべき限界値が明確で、戦略が必要十分であり、達成した目標の成果が魅力的なら、その目標に向かうモチベーションが生まれる」という捉え方の理論になります。

ですから、「頑張っても試験に合格できる確率は低い」という場合や、「試験に合格しても昇進できるかどうかわからない(あるいは昇進しても従業員へのメリットが少ない)」といった場合、モチベーションは低下してしまうわけですね。

これらを踏まえると、本選択肢の「管理監督者の期待が高いほど、労働者の動機づけが高まると考える」というのはヴルームの期待理論の説明になっていないことがわかりますね。

期待理論では、管理監督者のような他者の期待については理論の中に組み込んでおらず、あくまでも当人の主観的な期待・誘意性・道具性が重視されています。

つまり、期待理論の「期待」は、他者からの期待ではなく、本人がある行為や結果に向ける期待を指しているということですね。

他者の期待が高いほど動機づけが高まる、という動機づけに関しては他者志向的動機(自己決定的でありながら、同時に人の願いや期待に応えることを自分に課して努力を続けるといった意欲の姿)になるのかなと思いますが、そこまで一般的な用語でもないように感じます。

あとはピグマリオン効果(他者からの期待を受けることで学習や作業などの成果を出すことができる効果のこと。 アメリカの心理学者ローゼンタールが、教師からの期待があるかないかによって生徒の学習成績が左右されるという実験結果を報告したことが始まり)が近いような気もします。

いずれにせよ、選択肢⑤は不適切と判断できます。

2件のコメント

  1. いつもお世話になっております。

    「回避欲求が高い人は、受動性が高くトラブル回避能力に長けている人が多いため、安定したルーチンワークの多い事務職に向いています。」

    というサイトがありました。

    https://mitsucari.com/blog/desire_theory/

    確かに、経理関係には冒険好きは少ないかも。でもそれはそれで会社には貴重な人財ですね。
    いかがでしょうか、

    1. いつも、お世話になっております。

      選択肢①の趣旨

      「回避動機が動機づけを下げる」という捉え方ではなく、

      「回避動機自体を一つの動機づけと見なすという捉え方がマクレランドの理論」なのですね。

      前の質問は、少し勘違いが含まれていました。大変失礼しました。

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