公認心理師 2022-10

トランスアクショナルモデルに関する説明を選択する問題です。

他の選択肢も有名な考え方ばかりですが、意外と今までの過去問できちんと説明が求められたことはなかったように思います。

問10 R.S.LazarusとS.Folkmanによるトランスアクショナルモデル〈transactional model〉の説明として、適切なものを1つ選べ。
① パニック発作は、身体感覚への破局的な解釈によって生じる。
② 抑うつは、自己・世界・未来に対する否定的な認知によって生じる。
③ 無気力は、自らの行動と結果に対する非随伴性の認知によって生じる。
④ ストレス反応は、ストレッサーに対する認知的評価とコーピングによって決定される。
⑤ 回避反応は、レスポンデント条件づけとオペラント条件づけの原理によって形成される。

関連する過去問

なし

解答のポイント

トランスアクショナルモデルに関して理解している。

正答以外の選択肢が何という概念を指しているか理解できている。

選択肢の解説

① パニック発作は、身体感覚への破局的な解釈によって生じる。

こちらはパニック障害の認知モデルで採用されている考え方になります。

パニック障害に対する認知モデルでは、まず、発作の引き金になる刺激(例えば電車に乗るなど)に対して、脅威(危険)を感じ不安が高まってくると、身体感覚の変化(動悸・呼吸困難など)が生じます。

この身体感覚に対して「心臓発作を起こしかけている」「窒息死する」など、「症状が進んでいって生命の危機に至る」イメージ(誤って破局的に解釈する)が頭の中で自動的に浮かんできます(自動思考)。

このような「自分の身体感覚は死につながるといった自己イメージを構築し、否定的イメージを過大評価する」ということを指して「身体感覚の破局的な誤った解釈」と呼び、Clark& Salkovskis(1997)によって提唱されました。

こうした「身体感覚への破局的な解釈」によって、さらなる危機感が生じ不安が増悪し、身体症状がエスカレートしていくといった悪循環が生じるというのがパニック障害の認知モデルになります。

厚生労働省の「パニック障害(パニック症)の認知行動療法マニュアル(治療者用)」は、この認知モデルに基づいた治療マニュアルになっています。

以上より、Lazarus&Folkmanのトランスアクショナルモデルの説明として、本選択肢の内容は合致しません。

よって、選択肢①は不適切と判断できます。

② 抑うつは、自己・世界・未来に対する否定的な認知によって生じる。

こちらはBeckの認知理論に登場する考え方ですね。

Beckは抑うつの脆弱性として、以下の3つの認知要因を仮定しています。

  1. スキーマの脆弱性:スキーマとは、個人の中の比較的安定した体系的な認知構造で、刺激に対する注意や解釈などの認知操作を方向付ける機能を持つ。Beckによると、抑うつに陥りやすい人のスキーマ(いわゆる、抑うつスキーマ)には特徴があって、「自分は〇〇でなければならない」「もし〇〇なら、自分は価値がない」といった自己の在り方や対人関係の持ち方に対する極端な信念や態度が含まれる。
  2. 認知の誤り:特定の刺激や出来事に注意を向け、その出来事を否定的に解釈する認知操作を指し、抑うつスキーマによって引き起こされる。6つのパターンが存在するとされる。
    ①過度の一般化:ある事象から過度に一般化された結論を下す。
    ②過大解釈と過小解釈:出来事の重要性や影響力を過大に、もしくは過小に評価する。
    ③二分法的思考:物事を良い‐悪い、成功‐失敗と捉え、中間がない。
    ④恣意的推論:証拠がないにもかかわらず否定的な結論を下す、反証を見ない等。
    ⑤個人化:自分が原因で起こったのではない出来事を自分のせいと考える。
    ⑥選択的抽出:他に注目すべき情報があるにも関わらず、無視して些細な情報に注目。
  3. 否定的な自動思考:これは自己・世界・未来に関する悲観的な思考内容を指す。

これら3つの認知要因が抑うつをもたらすプロセスについては、これまで素因ストレスモデルの枠組みで説明されてきています。

このように、抑うつにつながる認知パターンとして自己・世界・未来に関する悲観的な自動思考を仮定したのがBeckの理論であると言えますね。

以上より、Lazarus&Folkmanのトランスアクショナルモデルの説明として、本選択肢の内容は合致しません。

よって、選択肢②は不適切と判断できます。

③ 無気力は、自らの行動と結果に対する非随伴性の認知によって生じる。

こちらはSeligmanの学習性無力感の概念で示されている考え方になります。

セリグマンは、いかなる能動的行動もいっさい嫌悪刺激の回避に役立たないという経験を通して無気力が学習されること(学習性無力感)をイヌを用いた実験から明らかにしたことで有名ですね。

学習性無力感の実験は、1967年にセリグマンとマイヤーが犬を用いて行いました。

予告信号のあとに床から電気ショックを犬に与えるというもので、犬のいる部屋は壁で仕切られており、予告信号の後、壁を飛び越せば電気ショックを回避できるようにしました。

実験では「電気ショックを回避できない状況を経験した犬」と「足でパネルを押すことで電気ショックを終了させられる状況を経験した犬」の二つの集団を用意しました(実験ではその二つの集団に加え、なにもしていない犬の集団で行われた)。

実験の結果、電気ショックを回避できない犬は、その他の集団に比べ回避に失敗しました。

具体的にはその他の集団が平均回避失敗数が実験10回中約2回であるのに対し、「電気ショックを回避できない群の犬」は平均回避失敗数が実験10回中約7回でした。

これは犬が前段階において、電気ショックと自分の行動が無関係であると学習・認知した為に、実験で回避できる状況となった場合でも何もしなくなってしまったと考えられます。

こうした現象を指して、セリグマンらは「学習性無力感」と呼びました。

こうした学習性無力感が生じる主な理由として「非随伴性認知」および「統制不可能性認知」があげられており、「非随伴性認知」とは「自分の行動と望ましい結果が結びつかない」と認識することを指し、「統制不可能性認知」とは「自分では環境・状況をコントロールすることができない」と認識することをさします。

大学受験でも資格試験の受験でも思いますが、勉強を本格的に開始してその効果が見え出すのは3か月くらい経ってからです。

この間に「勉強(行動)しても成績(経験)がまったく上がらない」といった状況が続くと、勉強と成績の結びつきを低く見積もり(=非随伴性認知)、自分では成績を上げることができないと認識し(=統制不可能性認知)、結果的に勉強の自発頻度は消失してしまうことになり、このような「認知の歪み」によって学習性無力感が生じると考えられます。

学習性無力感の概念はヒトにも生じ、これは抑うつの原因の一つとされています。

上記のような「非随伴性認知」および「統制不可能性認知」によって認知の歪み(出来事の原因に関する帰属スタイルという捉え方がわかりやすいでしょう)が生じて抑うつを引き起こすとされており、自らの環境を制御できるという経験を積むことで学習性無力感の形成を阻止できることが知られています。

以上より、Lazarus&Folkmanのトランスアクショナルモデルの説明として、本選択肢の内容は合致しません。

よって、選択肢③は不適切と判断できます。

④ ストレス反応は、ストレッサーに対する認知的評価とコーピングによって決定される。

ストレスを単に「刺激」や「反応」ではなく、両者の相互作用と捉えるトランスアクショナルモデルを提唱したのがLazarus&Folkmanです。

このモデルでは、環境と人間との双方向的な影響過程が重視されています。

脅威やチャレンジとして評価された環境は情動的反応を喚起し、それを低減するためにコーピングが行われます。

実行されたコーピングは環境及び環境に対する評価を変容させます。

更に、変容された環境やそれに対する評価は情動的反応やコーピングの質や量に影響を及ぼします。

このように、環境と人間とが互いにある時点では原因になり、ある時点では結果になるような双方向影響プロセスをトランスアクションと呼び、このプロセスが活性化している状態がストレスと考えます。

そして、このストレス状態が慢性的に持続するようになると、不適応で安定的な認知的・行動的・生理的反応が形成され、精神疾患や身体疾患への罹患可能性が高められます。

こうしたトランスアクショナルモデルは、人間の内的過程を説明する心理学的モデルとして広く受け入れられています。

すなわち、今日のストレスコーピングのトランスアクショナルモデルは、上図が示すように、ストレス反応を惹起する条件が必ずしも絶対的なものではなくて、ストレッサーとしての心理社会的要請と個体のコーピング資源との間のトランスアクショナル(相互作用的)な不均衡から生じることを強調しているわけですね。

ラザルスとフォルクマンといえばストレス事態における心理学的要因、とりわけ認知的要因を重視した人物として有名ですね(これに対してセリエは、ストレッサーとなるさまざまな環境的事象が類似の生理的反応を引き起こす:汎適応症候群を提唱して、ストレスに対する非特異的な身体的反応として警告期・抵抗期・疲憊期の3つの段階を仮定している)。

ラザルスらの有名な概念として、認知的評価によってストレス反応となるか否かが分かれるという「認知的評価モデル」があり、ストレス事態における認知的評価は一次的評価(驚異的か否か)と二次的評価(対処できるか否か)であり、これらをすり抜けてしまった場合(つまり、どちらも出来ないと評価された場合)にストレッサーに対する様々な身体的・心理的反応が生じる(つまり、ストレス反応になる)ことになるとされています。

こうした認知的評価モデルは、前述のトランスアクショナルモデルの中身をより詳しく述べてものであると見なすことができそうですね。

ラザルスらの理論の特徴は、意識的な思考に重きを置いている点であると言えそうです(言い換えれば、他の側面からの影響を包含できてない可能性がある。例えば、発達的視点など)。

以上より、Lazarus&Folkmanのトランスアクショナルモデルの説明として、本選択肢の内容が合致すると言えます。

よって、選択肢④が適切と判断できます。

⑤ 回避反応は、レスポンデント条件づけとオペラント条件づけの原理によって形成される。

こちらは回避学習の二要因説になります。

回避行動の学習には古典的(レスポンデント)条件づけとオペラント条件づけの両方が必要であると考える説であり、回避行動には信号つき回避と自由オペラント型回避の2種類があるとされています。

  1. 信号つき回避:嫌悪刺激の出現に先立つ信号刺激が古典的条件づけにより条件嫌悪刺激になり、回避行動はこの条件嫌悪刺激を消失させることでオペラント条件づけという負の強化を受けると考える(以下のマウラーの実験がわかりやすい)。
  2. 自由オペラント型回避:こちらでは2通りの仕方で古典的条件づけが関与しうる。まず、回避しないと嫌悪刺激が一定の時間間隔で出現する場合には、時間条件づけにより時間計が条件嫌悪刺激になる。また、回避行動は後に嫌悪刺激が出現しない期間(または通常より出現頻度の低い期間)が続くので、回避行動に伴う自己受容刺激が安全信号として条件強化子になる。そのため、自由オペラント型回避では、これらの条件嫌悪刺激の消失や条件強化子の出現が随伴することで回避行動が強化され得る。

すなわち回避学習の二要因説では、まず第1段階として最初の数試行で信号刺激が古典的(レスポンデント)条件づけによって有害刺激と結合されて条件性の情動反応(恐怖など)を引き起こすようになり、次に第2段階としてこの恐怖の動因に基づいて特定のオペラント反応が学習されると考えられています。

こうした回避学習の二要因説はMowrerによって提唱されました。

マウラーの行った実験では、ネズミはシャトルボックス内の白い部屋に入れられて、しばらくすると、電撃を受けるが隣の黒い部屋に移動すると電撃を回避でき、しばらくすると、白い部屋に入れられただけで電撃を受ける前ににげるという回避学習が成立します。

しかし、回避学習がいったん成立すると、電撃を受けないにもかかわらず回避行動の消去は進まず、この点についてマウラーは以下のことを主張しました。

  • レスポンデント条件づけにおける電撃と白い部屋の対呈示により白い部屋への恐怖反応が生じ、恐怖低減の動因が発生すると考えた。
  • この動因はオペラント反応である白い部屋からの回避行動によって低減され、そのために回避行動によって低減され、そのために回避行動は強化されつづけると考えた。

怖かったり嫌なものと認識した対象があって、それを回避することで不穏感情は減るけど、その「回避する行動」によって不穏感情が低減されるために、その回避行動が強化され続けるということですね。

以上より、Lazarus&Folkmanのトランスアクショナルモデルの説明として、本選択肢の内容は合致しません。

よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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