言語に関する心理学:生成文法、認知的制約、記号論など

臨床心理士資格試験にはほぼ見られなかった「言語心理学」の分野についてまとめていきます。
ブループリントの項目を見ても、ちょっと分かりづらいものも多いですね。

【チョムスキーの生成文法】

生成文法とはチョムスキーが唱えた理論であり、有限の規則によって文法的な文の集合を生成する文法を指す。

生成文法理論ではあらゆる言語の初期形態である「普遍文法」が生物学的な言語能力の基盤として仮定されている。

  • 人間の自然言語には「すべての言語に共通する本質的特徴」があり、そのお陰で「外国語への翻訳と外国語の母語的な理解」が可能になる
  • チョムスキーはすべての言語に共通する性質や規則性は生物学的に規定されていると考え、生得的な言語にまつわる知識・規則のことを「普遍文法」と呼んだ
  • ヒトの脳はすべての言語を作り出す特性があり、言語の習得は基本的に環境とは独立に行われる、という理論

【言語の獲得に関する理論】

チョムスキーは、言語獲得は基本的に環境と独立して行われるとしましたが、環境要因に目を向けた知見も多くあります。

◎言語獲得支援システム

Bruner(ブルーナー)が提唱した。
大人が子どもに対して行う言語的コミュニケーションが、大人同士のコミュニケーションとは異なり、子どもの言語獲得を容易にする特徴があると考えた。

◎共同注意と三項関係

✔共同注意

子どもがほかの人と同じように物体や人物に対して注意を向けている状態を指す。
 →指差し行動:見てほしいものを指差す
 →視線追従:大人が見ている方向を見る
 →社会的参照:対象に対する評価を大人の表情などを見て参考にする

✔三項関係

自己と他者と、そのどちらにも属さない注意共有対象となるものの三者の関係を表す。
この第三者のものに対して、親と子の共同注意が生じることによって、言語発達が促進されると考えられている。

◎認知的制約

認知的制約とは、認知的な課題(ここでは言語獲得)を遂行する際に、検討されるべき仮説や探索すべき情報があらかじめ制限されている状態。
新生児や幼児が短い時間で学習を進める際に、この制約が重要な役割を果たすとされている。
  • 事物全体制約:幼児が言葉を物の部分にではなく全体に対して当てはめる傾向を指す(大人がゾウを指差すと、ゾウ全体を「ゾウ」と認識する)。
  • 分類学的制約:幼児が言葉を特定事物に対してではなく、それと形の似たもの全般に適用する傾向を指す(路面電車を「電車」と教えると、特急電車も「電車」と呼ぶ)。
  • 相互排他性の制約:ひとつのカテゴリーにはひとつの言葉が付与されるものと考える傾向を指す。

◎言語相対仮説(サピア・ウォーフ仮説)

  • 言語の形式が、思考や知覚の仕方に影響を与えるという考え方。
  • 生成文法の立場からは批判されている。

【Morrisによる記号論】

哲学者モリスの記号論を示している。
ある物体や事柄を表すのに、それそのものを使わずに他の表現に託した場合、その表現にあたるものを「記号」という(記号の代表として「ことば」がある)。
この世界はすべて「記号」によって成り立っている、と考える。
記号論研究は、以下の三つに分かれる
  1. 意味論:記号の意味(記号と外部との関係)について研究する立場を指し、統語論と対立する。
  2. 統語論:記号と記号との関係を論じる(語・句・文・テクストといった記号列(文字列)の構成について論じる)立場。
  3. 語用論:記号とその使用者との関係を扱う立場。言語の辞書的・文法的説明では決定できない使用規則などを研究する。
上記の3つについては、具体例を示して説明します。
例えば「私はバスケットボールです」という言葉がある。
意味論(その言葉が意味として適切か否か):人間がバスケットボールであることは有り得ないので、この立場からすれば上記の文章は誤りとなる。
統語論(文法的に適切か否か):上記の文章は文法的には誤りはないとされる。
語用論(状況もひっくるめて考えよう):普通だったら奇妙な上記の文章も、スポーツ用品店で「お探し物はなんでしょう?」と問われた場面であれば間違いではない。

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