公認心理師 2024-87

言語能力の生得性と関係が深い概念を選択する問題です。

正解は選びやすいですが、それ以外の選択肢も言語習得に関するものが多いので、併せて覚えておきましょう。

問87 言語能力の生得性と関係が深い概念として、最も適切なものを1つ選べ。
① 類推
② 共同注意
③ 普遍文法
④ 状況モデル
⑤ 即時マッピング

選択肢の解説

① 類推

類推とは帰納的推論の一種であり、類似を利用するところに特徴があります。

つまり、ある事例X(ターゲット)が自分のよく知るY(ソース)と十分に似ているとすれば、Xのまだ観測されていない特徴はそれに対応するYの特徴と同じ、または似たようなものであると考えることになります。

類推は、ターゲットの表象生成、ターゲットの理解に役立つソースの検索、ソースとターゲットの要素の対応付けを行う写像、写像の結果生み出された推測の検証、そして学習のプロセスを経ます。

類推をうまく行うためには、よいソースの検索と適切な写像が重要になります。

これについて、構造写像理論、多重制約理論が提案されています。

類推は、科学的類推、芸術、宗教、司法など、人間活動の様々な分野に関係しています。

こうした「特定の事物に基づく情報を、他の特定の事物へ、それらの間の何らかの類似に基づいて適用する認知過程」である類推は、本問の「言語能力の生得性と関係が深い概念」とは合致しないことがわかりますね。

よって、選択肢①は不適切と判断できます。

② 共同注意

共同注意とは、子どもがほかの人と同じように物体や人物に対して注意を向けている状態を指します。

言葉を話し始める前の1歳前後から、子どもは自分の身の回りのものに対してしきりに指差しをするようになります。

多くの場合、指差しと同時に言葉に似た発声をします。

このとき一緒にいる親は子供が指差している対象に視線を向けますが、これを共同注意といい、親子の間で一つの共通した対象に注意を向けるというコミュニケーションが成立したことを示します。

ブルーナーは乳幼児の共同注意行動に2つの段階があることを示しました。

  • 第1段階:
    2ヶ月頃の乳児が大人と視線を合わせる行動。
    この段階では、外界と関わるやり方として、大人と視線を合わせたりして関わる子ども―大人のやりとり(二項関係)と、モノと関わる子ども―モノのやりとり(二項関係)しかもっていない。
  • 第2段階:
    9~10ヶ月では、例えば大人が指さした対象(犬)を子どもも一緒に見るといった、外界の対象への注意を相手と共有する行動がみられるようになる。
    第1段階が乳児と大人という2者間の注意共有であったのに対し(二項関係)、第2段階では、自分-対象-他者の3者間での注意のやりとりが可能になる(三項関係)。 

トマセロは、9~10ヶ月頃の子どもは大人と同じ対象に注意を向けるだけだが、12ヶ月頃になると対象を指さした後、大人を振り返ってその対象を見ているかどうかを確認する行動が出現するとし、これを他者の意図を理解した行動と指摘しました。

三項関係を表す共同注意行動には、指さし(見てほしいものを指差す)、参照視(既知の物を目にした場合にも母親の方を見る)、社会的参照(対象に対する評価を大人の表情などを見て参考にする)などがあります。

こうした共同注意に関する内容は、本問の「言語能力の生得性と関係が深い概念」に合致しないことがわかります。

よって、選択肢②は不適切と判断できます。

③ 普遍文法

通常の状態にある人間であれば、誰でも言語を使いこなすことはできます。

これは、人間には生まれつき言語を習得する能力が備わっているからであると考えられ、この能力のことを普遍文法と呼びます。

チョムスキーは、人間には生まれつき言語を獲得する装置(言語獲得装置)が備わっており、言語獲得装置は、普遍文法とそれを介して言語的経験から特定の個別語(日本語とか英語とか)を形成するための関数(これを言語習得関数と呼びます)を含んでいると捉えています。

図式化すると以下のようになります。

言語獲得装置は、以下の3つの特徴を有しています。

  1. 遺伝的に決定されている。
  2. 人間の言語に特定的である。
  3. 言語の多様性を生み出すほどに複雑であり、かつ、子どもが短期間に習得を完了させるほどに単純である。

続いて、普遍文法について見ていきましょう。

日本語や英語等の個別言語に関する理論を「(個別)文法」と呼び、文法一般に関する理論を「普遍文法」と呼びます。

つまり、普遍文法とは、人間の文法として可能なものは何かに関する仮説ということになります。

普遍文法は人間の言語の基本設計であり、言語習得装置の中心をなすものです。

人間に生得的な言語習得装置は、経験すなわち言語資料を入力にして個別言語の文法を出力とする上記のような装置であるとチョムスキーは考えていました。

子どもは、短期間に大きな個人差も無く、複雑な文法体系を習得します。

このように経験における刺激の貧困と、経験だけから帰納するとすれば極めて特殊な文法の特性とを考え合わせると、普遍文法は豊かな内部構造を備えていると考えざるを得ません。

原理とパラメータの理論による普遍文法のモデルでは、個別文法は中核部と周辺部からなると仮定し、周辺部のみが経験により獲得される個別言語に特有の部分であると考えます。

一方、文法の中核部には全ての言語に共通な言語の基本設計として「原理とパラメータ」を仮定し、言語の習得可能性を説明しようとします。

普遍文法の内容が豊かであり、「可能な文法」に対する制限が十分に強ければ、短期間にしかも限定された経験によって、一様な文法を獲得することが可能になります。

従って、普遍文法の内容を詳細に研究することが、言語普遍性を明らかにするのみならず、言語習得の問題を解明することにもなるわけです。

このように、普遍文法にはあらゆる言語の「もと」があると考えられています。

以上のことから、本問の「言語能力の生得性と関係が深い概念」として普遍文法は合致すると考えられます。

よって、選択肢③が適切と判断できます。

④ 状況モデル

認知心理学における文章理解のモデルでは、文章を読むことは意味ある心的表象を構築する活動であり、表象には複数のレベルがあるとされています。

代表的な文章理解のモデルであるKintschらの提案した構築‐統合モデルは、文章を読むことで構築される表象を2つの軸から捉え、第1軸は音韻→単語→命題→命題間のつながり(ミクロ構造)から文章全体(マクロ構造)を把握する「部分から全体へ」の軸になり、ここで構築される表象は「テキストベース」と呼ばれます。

第2軸は、このテキストベースを既有知識と統合して解釈、情報補充、精緻化等を行い自分なりの一貫した表象を構築する軸であり、知識と統合された自分なりの一貫した表象を「状況モデル」と呼びます。

状況モデルは長期記憶に表象されると考えられており、後々他の機会にも使うことができます。

また、第1軸の処理と第2軸の処理は相互作用的に実行されるとされています。

読解時の具体的な活動からとらえ直してみると、テキストベースは、文章を読んで重要な部分を抽出したり、要約を作成したりといった「文章の学習」を通して構築される表象になります。

一方、状況モデルは、文章の内容を自分自身の知識と照らし合わせながら解釈・批判したり、新たなアイデアを創出したりといった「文章からの学習」を通して構築される表象になり、「文章から得た知識を活用・熟考・応用する」という「文章に対する深い処理」は状況モデルの構築過程に該当します。

文章から得た知識を活用・熟考・応用するためには、テキストベース構築と、既有知識との関連づけを相互作用的に実行する高次の認知処理が必要となります。

状況モデルは「文章の内容を自分自身の知識と照らし合わせながら解釈・批判したり、新たなアイデアを創出したりといった「文章からの学習」を通して 構築される表象」ですから、本問の「言語能力の生得性と関係が深い概念」とは合致しません。

特に「生得性」というところとは相容れないことがわかると思います。

以上より、選択肢④は不適切と判断できます。

⑤ 即時マッピング

こちらは語意学習に関する概念ですね。

語意学習とは、推論による語意、すなわち語の意味の学習のことを指します(語彙ではないです)。

子どものことばの学習は、非常にパラドクシカルであり、これは大人が外国語の単語の学習をするときと比較するとわかりやすいです。

大人は未知の単語の意味を知りたいとき、辞書を引くことができます。

辞書には当該の単語の意味が母語で説明してあり、たとえば日本人が「rabbit」という英単語がどのような意味なのかを知りたければ英和辞典を引き、「ウサギ」という定義を見れば、直ちに「rabbit」の意味を知ることができます。

大人は「ウサギ」が何を意味するかはすでに知っており、後はその概念に英語でラベル(名前)を対応させるだけでよいわけです。

しかし、子どもは未知のことばの意味を学習するときに、そのことばが指示する概念をもっていないので、子どもは大人の外国語学習と異なり、すでに存在する概念にラベルを貼り付けていくのではなく、単語の指示する概念自体を学習しなければならないということになります。

こうした語意学習のパラドックスにもかかわらず、子どもは多くの場合、初めて聞いたことばの意味を推論し、他の対象に自発的にそのことばを用いていて、これを「即時マッピング」と呼びます。

この即時マッピングを説明するためには、語意推論がなんらかの形で制約やバイアスの存在が仮定されています。

多くの研究者は、この語意推論を制約する知識のことを語意学習バイアスと呼んでいます。

しかし、語意学習バイアスは、それだけでは多くの種類の語に対して十分な制約を与えることができず、バイアスを制御する他の知識と併用されなければならないので、語意学習を制御するのは語意学習バイアスだけではなく、ことばに関して話者がさまざまなレベルでさまざまな種類の語に対して暗黙裡にもつ抽象的な知識であるとされています。

このように「即時マッピング」とは、新奇な語を一度聞いただけで、その語を概念に対応させて学習することができる現象を指しますから、本問の「言語能力の生得性と関係が深い概念」と関連がありそうに感じますね。

しかし、即時マッピングはあくまでも「語意(言葉の意味)を習得する」という点での概念であり、「言語能力自体の生得性」を説明するためのものではありません。

よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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