公認心理師 2023-85

学習における消去に関する問題です。

これは基本的な問題と言えるでしょう。

問85 学習における消去について、最も適切なものを1つ選べ。
① 消去によって一度消失した反応は、自発的には回復しない。
② 毎回ではなく間欠的に強化された反応のほうが消去されにくい。
③ 消去が開始された直後から、反応は一定のペースで減少していく。
④ レスポンデント条件づけでは、条件刺激の除去によって反応の消去が生じる。
⑤ 条件づけによる反応の形成後、強化子を提示することによって反応の消去が生じる。

解答のポイント

学習における消去の過程で生じることを理解している。

選択肢の解説

② 毎回ではなく間欠的に強化された反応のほうが消去されにくい。
④ レスポンデント条件づけでは、条件刺激の除去によって反応の消去が生じる。
⑤ 条件づけによる反応の形成後、強化子を提示することによって反応の消去が生じる。

心理学における「消去」とは、学習心理学における古典的(レスポンデント)条件づけおよびオペラント条件づけの両方で起こる事象を指します。

古典的(レスポンデント)条件づけでは、条件づけられた刺激が単独で与えられ、もはや無条件刺激を予測しなくなったとき、徐々に条件反応は起こらなくなります。

パブロフの犬で説明すると、メトロノームの音(条件刺激)で唾液を分泌する(この場合は条件反応)よう条件づけられた後(要するに、メトロノームと食べ物を対呈示して、メトロノームの音だけで唾液が出るようにした後)、メトロノームが繰り返し鳴っても食べ物(無条件刺激)が与えられないでいると、最終的にはメトロノームに応じて唾液は分泌しなくなります。

つまり、古典的条件づけにおける消去では、条件刺激の除去ではなく(これが選択肢④の内容ですね)、条件刺激を呈示するが食べ物は与えないという試行を繰り返すことを指すわけですね。

対して、オペラント条件づけのパラダイムにおける消去とは、それまで行動を維持していた強化刺激が、一切提供されなくなった状況を指します。

条件づけによって以前強化されていたオペラント行動が、もはや強化されなくなったとき、強化された行動の頻度は徐々に減少していくわけですね。

このように、条件づけによって反応を形成した後に、条件づけで用いられていた強化子や無条件刺激を呈示しないのが「消去」という操作であると考えて良いでしょう。

こうした「消去」ですが、特にオペラント条件づけにおいては、どのような強化スケジュールによって条件づけられたかによって「消去」のされやすさが異なるとされています。

同じ行動が自発するたびに毎回強化子の提示を行うことを「連続強化」と呼び、反応に時々強化を行うことを「部分強化(または間歇強化)」と呼びます。

Skinnerはこの「反応をいつ強化するか」という環境側から見た規則を「強化スケジュール」と呼びました。

「反応の習得」だけに注目をすれば、連続強化の方が習得が早いとされています。

ただし、連続強化よりも部分強化の方が消去抵抗が高い(つまり、消去されにくい)とされており、この現象を「部分強化効果」と呼びます。

毎回強化された方が反応と強化の結びつきは強くなり、消去されにくくなると考えられがちですが、実際の消去抵抗は部分強化の方が高いです。

このため、この効果を強化矛盾、あるいは発見者の名を付してハンフレイズのパラドックスと呼ぶこともあります。

教科書等を読んでも、連続強化と部分強化の比較をするときには必ずと言っても良いほど上記の消去抵抗の違いについて述べられています。

よく言われる例では、パチンコにはまりやすいのはパチンコという不定率の強化スケジュールで強化された故に、なかなか消去されないのだというものがありますね。

以上より、選択肢④および選択肢⑤は不適切と判断でき、選択肢②が適切と判断できます。

① 消去によって一度消失した反応は、自発的には回復しない。
③ 消去が開始された直後から、反応は一定のペースで減少していく。

こうして消去の過程は始まるわけですが、消去の過程は一定のペースで進み、消失すれば終わりという単純なものではありません。

一般に消去の過程は以下のような形で進んでいきます。

まず消去過程で見られる「反応頻発:消去バースト」について述べていきましょう。

消去の手続きを導入した場合、一時的に標的とした問題行動の頻度や持続時間や強度が増大したり、別の問題行動が起こったりすることがあり、これを「反応頻発:消去バースト」といいます。

例えば、注目を得る機能を持った自傷行動を計画的無視によって消去する場合、今まで自傷行動をすることによって注目を得ることができていたのに、急に関わりが減少するため、自傷行動の頻度が増えたり、叩いてきたりすることがあるということです。

他にも、「自動販売機でボタンを押しても缶ジュースが出てこないと何度もボタンを押す」「ボールペンで字を書いていたが、途中からインクが出なくなったら、強くグルグルとペンを押し付ける」などもこうした消去バーストの例とされています。

応用行動分析学などの実践的・治療的に消去の手続きを行う領域でよく指摘されることです。

理論的に言えば、こうした反応が出たとしても「消去を継続すること」が正しい対応になるのでしょうが、実践的に言えば間違いと言わざるを得ません。

問題行動が頻発しているにもかかわらず「消去を継続する」ということが可能なのは、ごく一部の限られた領域に限定されますし、たいていの社会的状況では「反応を無視するわけにはいかない」のです(よくリストカットなどに「無視をして」などと言う人がいましたが(今は流石にいないのでしょうか?)、そんな対応を取るわけにはいかないのが世の常です)。

大切なのは、こうした「消去バーストが起こらない程度のところから始める」という考え方であり、問題行動に連動するようなさまざまな小さな言動にまで視野を広げ、焦点を当て、そういうところへの対応から変えていくこと(消去していくこと)が重要なのです。

さて、こうした「消去バースト」以外にも、消去は一筋縄では行きません。

消去がなされたと思っても、一定の休憩時間後に再び条件刺激(レスポンデント条件づけですね)を呈示すると、「自発的回復:自然回復」が生じるとされています。

こういう形で、消去手続きの休止による条件反応の回復を「自然回復:自発的回復」などと呼んでいます。

以上より、選択肢①および選択肢③は不適切と判断できます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です