公認心理師 2021-128

バンデューラの自己効力感に関する問題です。

かなり単純な問題ですから、取っておきたいところですね。

問128 A. Banduraの理論において、自己効力感〈self-efficacy〉を高める方法として、最も適切なものを1つ選べ。
① モデリング
② タイムアウト
③ ホームワーク
④ トークン・エコノミー

解答のポイント

バンデューラが指摘している自己効力感の変動に係る要因を把握している。

選択肢の解説

① モデリング

バンデューラは、予期(期待)を以下の2種類に区別しています。

  • 結果予期:ある行動がある結果を導くであろうという予期
  • 効力予期:その結果が生じるのに必要な行動を適切に遂行できるという予期

そして、行動に対する両者の予測力の差異、すなわち、効力予期の方がより強い予測力を持つことを実証しました。

バンデューラは、ある課題や状況において自分がどの程度の「効力予期」を持っているかを知覚することを「自己効力感」と呼んでいます(ある個人が課題を前にして、自分はどの程度効力予期を持っているかを認知した際に、その個人は自己効力感がある、とされる)。

従来の研究では、行動と結果の随伴性の期待に焦点がありましたが、むしろ重要であるのは、人がそもそも行動を起こせるという確信を抱いている(=自己効力感を持っている)かどうかであると、その意義をバンデューラは強調しました。

すなわち「自己効力感」とは、自分が行為の主体であると確信していること、自分の行為について自分がきちんと統制しているという信念、自分が外部からの要請にキチンと対応しているという確信のことを指します。

自己効力感の起源として考えられるのは、バンデューラによると以下の4つになります。

  1. 達成経験:いわゆる成功体験で、自分で何かに臨み、成功したという経験を指す。成功を重ねれば自己効力感は高まり、失敗経験に対する脆弱性も低減される。
  2. 代理経験:自分以外の他人が何かを達成・成功するのを観察すること。ピアモデリングと呼ばれるが、仲間など自分と類似した他者が成功した様子を観察すると、自己効力感が高まりやすくなる。
  3. 言語的説得:自身の行為を言葉で励まされること(特に1の経験を褒められると良い)。松岡修造がやってくれそう。自分はできるという自己暗示も言語的説得の一種である。
  4. 生理的情緒的高揚:生理的状態が自己効力の判断の手掛かりになる。生理的な状態の解釈を変えることで、自己効力感を高めることができる(情動の二要因理論に似ていますね)。

以上が自己効力感の起源であり、その変動に影響する要因になります。

この中に代理経験が含まれていますが、これが本選択肢の「モデリング」に該当することはわかりますね。

以上より、選択肢①が最も適切と判断できます。

② タイムアウト

タイムアウトとは、オペラント反応に強化子が随伴しない期間を指します。

具体的には、別の場所に待機させた操作体(スキナーボックスのレバーなど)を取り除くことで、オペラント反応を行う機会を剥奪するか、もしくは何らかの弁別刺激を呈示しつつ、その間のオペラント反応を消去するという手続きのことを指します。

狭義には、上記の前者のみがタイムアウトとされていますし、こちらを指して「タイムアウト」と呼んでいる例の方が圧倒的に多いですね。

よくパニックを起こした発達障害児に対して「何もない部屋」を用意し、パニック時にその部屋に入れることで鎮静を測るという方法があり、こちらがタイムアウト法の代表的な利用法だろうと思います。

すなわち「パニックに至った強化子」から遠ざける目的で「何もない部屋(パニックになる強化子が存在しない空間)」を作り、パニック時にそこに入れることで「オペラント反応に強化子が随伴しない」という状況を作るわけですね。

タイムアウト法は、望ましくない副作用が比較的少ないことから、人を対象とする介入場面でも用いられることが多い方法です。

上記の通り、バンデューラが述べている自己効力感を高める経験(達成経験、代理経験、言語的説得、生理的情緒的高揚)にタイムアウトに類する経験は含まれていないことがわかります。

また、社会的学習理論のバンデューラに対し、タイムアウトはオペラント条件づけですから、理論枠が異なりますね。

以上より、選択肢②は不適切と判断できます。

③ ホームワーク

ホームワークとは、認知行動療法で用いられる治療技法で、治療セッションで得られた成果を基に、次のセッションまでに患者やクライエントが実行する課題を設定することを指します。

次回のセッションでは、そのホームワークの成果や問題点について話し合い、治療的に生かすようにしていきます。

上記の通り、バンデューラが述べている自己効力感を高める経験(達成経験、代理経験、言語的説得、生理的情緒的高揚)にホームワークに類する経験は含まれていないことがわかります。

ホームワークでは「達成経験」にはならないのだろうと思いますね。

ちなみに、「認知行動療法がピタッとはまるうつ病のクライエント」に、こうしたホームワークは効果的であるという印象を私は持っております。

また、なんとなく「やることがある方がいい」「何に向かっているという感覚を持っている方がいい」というタイプのクライエントに良いのかもと思わないでもないのですが、この辺の感覚はホームワークを多用しない私としてはまだ掴みきれていません。

以上より、選択肢③は不適切と判断できます。

④ トークン・エコノミー

精神障害患者の施設や学校の教室など、比較的小規模の集団において、代用貨幣であるトークンを流通させることによって、望ましい行動の形成や維持を試みる行動療法の技法の一つがトークンエコノミー法です。

トークン経済(エコノミー)が機能する基本原理は、オペラント条件づけの強化・弱化といった行動増減の原理に基づいています。

患者や児童が望ましい行動を取ることで、ポーカーチップなど有形な条件強化子であるトークンが提供されます(反応が先にあって、強化を行うのでオペラント条件づけですね)。

トークンは一定の価格で、さまざまなバックアップ強化子(お菓子や嗜好品などの特定の物品、外出やテレビ視聴などの特定の活動)との交換が可能になります。

ケンカやカンニングなど望ましくない行動がとられた場合には、トークンが没収されることもあります。

1970年代に矯正施設、病院、学校などにおいて盛んに活用されましたが、参加者の自発的な同意に基づかない点など、参加者の権利に関する倫理的な問題の指摘もあり、次第に用いられることは少なくなっています。

ただ、この考えを用いた技法は、日常的に使われているのを見聞きしますね。

このように、バンデューラが述べている自己効力感を高める経験(達成経験、代理経験、言語的説得、生理的情緒的高揚)にトークンエコノミーに類する経験は含まれていないことがわかります。

むしろ、トークンエコノミーの問題として、当人の自発性が担保されていない等がもともとあり、それを踏まえれば自己効力感を高める方法としてトークンエコノミーが入ってくることは無いと考えられます(ついでに言えば、社会的学習理論のバンデューラに対し、トークンエコノミー法はオペラント条件づけですから、理論枠が異なりますね)。

個人的な経験則で言えば、望ましい行動に対してわかりやすい「賞」を与えて行動を統制していこうとするやり方は、長期的に見てあまり効果がない、もしくはマイナスの影響の方が大きいという印象が強いです。

その理由は色々ありそうですが、ある行動に対して「賞」が与えられるという枠組みの背景には、「自身の行動への報酬として、その「賞」が妥当である」という点への暗黙の合意が必要な気がしています。

そして、最近の(子どもたちに対して)トークンエコノミーのような技法を行って失敗している事例をみると、どうも「自身の行動への「賞」として、子どもは当初は納得していても(もしくは、きちんと考えていない)、その後不満を示すようになる」という前提をひっくり返すような形での破綻が多いように思うのです。

こういう例を見ることが増えるにつれて、ガチガチのトークンエコノミー法は、それなりに厳密な施設や病院のような状況自体をかなり統制できる環境下ではないと難しいというのが正直なところです。

ただし、上記の意見は「外的な報酬で人を統制することに、どうしようもないくらいに嫌悪感が拭えない」という私の性向がかなり影響している可能性もありますから、話半分くらいに聞いておいてもらって良いかもしれません。

以上より、自己効力感を高める方法としてトークン・エコノミーは該当しないと考えられます。

よって、選択肢④は不適切と判断できます。

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