公認心理師 2020-10

 学習心理学の領域の問題です。

ちょっと趣向を変えて「ある概念の存在が証明された実験を把握しているか?」という切り口からの問題となっています。

実験内容について知らなくても解けるのですが、自信をもって答えるなら成立過程も把握しておくに越したことはないですね。

問10 E. C. Tolmanは、ラットの迷路学習訓練において、訓練期間の途中から餌報酬を導入する実験を行っている。この実験により明らかになったこととして、最も適切なものを1つ選べ。

① 回避学習

② 観察学習

③ 初期学習

④ 潜在学習

⑤ 逃避学習

解答のポイント

各学習が提唱された代表的な研究について把握していること。

選択肢の解説

① 回避学習
⑤ 逃避学習

オペラント条件づけでは、反応すれば刺激を与えられる場合と除去される場合があり、また、刺激には報酬(強化刺激)と嫌悪刺激があります。

そしてこれらの刺激と随伴性の組み合わせによって、オペラント条件づけは以下の4つに分けられます。

  1. 正の強化:反応に対して報酬を与えると反応が増加する。
  2. 正の罰:反応に対して嫌悪刺激を与えると反応が減少する。
  3. オミッションor負の罰:反応に対して報酬を除去すると反応が減少する。
  4. 負の強化:反応に対して嫌悪刺激を除去すると反応が増加する。

そして上記の「負の強化」では、嫌悪刺激を経験している状況から逃れることを「逃避」といい、やがて経験すると予見される嫌悪刺激を事前に避けることを「回避」と呼び、それぞれが形成されると逃避学習・回避学習と呼びます。

逃避や回避を確かめる装置としては、オペラント条件づけで知られるスキナーボックスなどが使われます。

逃避学習は、先に嫌悪刺激が与えられ、特定の反応をすれば嫌悪刺激が除去される学習であり、反応は増加します。

例えば、ラットが、電撃が流れる部屋に入れられて、隣室に逃げれば電撃から逃れられる場合などで、即座に逃避行動を取るようになります。

回避学習は、先に嫌悪刺激を予告する刺激(例えば、音とか光とか)が呈示され、特定の反応をすれば(例えば、その場から離れるとか)嫌悪刺激は来ないという学習であり、反応は増加する傾向にあります。

例えば、ラットに対して電撃を与える前に警告信号として光を示すと、警告信号直後に逃げるようになります。

ただし、逃避学習と違って即座に逃げるという形にはならず、警告信号後で電撃が流れる直前に逃げるように最終的にはなります。

このように回避学習では、訓練時から電撃を受けない試行を繰り返しているので、消去手続きを採られても消去が遅れます。

このように、回避学習はいったん形成されると、嫌悪刺激を受けないまま長期にわたって反応が維持されるため興味を呼び、二要因説などの理論が提出されました。

このように回避学習は、本問にある「ラットの迷路学習訓練において、訓練期間の途中から餌報酬を導入する実験」という状況ではないことがわかります。

よって、選択肢①および選択肢⑤は不適切と判断できます。

② 観察学習

観察学習とは、自ら直接に経験したり、外部から強化を受けなくても、他者(モデル)の行動を観察するだけで、その行動型を習得する学習のことです。

モデルは実際の人物に限らず、テレビやラジオなどのメディアを通しても呈示され、学習が成立することが知られています。

また、言語的あるいは映像的に表現された行動も観察学習の対象になることから、広範に学習内容が伝達されます。

観察学習は、バンデューラの社会的学習理論を提唱する上で中心に据えた学習であり、モデルを観察することによってある反応を習得することから「モデリング」と呼ばれています。

バンデューラ以前には、人間の模倣行動を模倣学習としてハルの動因低減説(つまり、報酬をもらえるから模倣が起こる)で説明されていましたが、バンデューラの理論では模倣行動の成立に必ずしも報酬を必要とせず、直接経験も試行錯誤もないままに学習が成立するという観察学習の考え方を示しました。

バンデューラの行ったもっとも有名なのが、たくさんあるおもちゃの中から、大人のモデルがトラの風船に対して特に乱暴な行動をするのを見た子どもが、その後、同じ状況におかれたときにモデルと同じ行動をする率が高くなるということを示した実験です。

このように観察学習は、本問にある「ラットの迷路学習訓練において、訓練期間の途中から餌報酬を導入する実験」という状況ではないことがわかります。

よって、選択肢①は不適切と判断できます。

③ 初期学習

初期学習とは、初期経験によって個体にもたらされる学習のことを指します。

個体発生の初期において、個体が持つさまざまな経験のうち、個体の後の発達に大きな影響を与え、ローレンツが報告した臨界期(敏感期)における刻印づけ(インプリンティング)のように、場合によって修正が不可能か困難な効果をもたらすものを「初期経験」とよびます。

人間に関する初期経験・初期学習の知見で有名なのは、アヴェロンの野生児でしょう(アマラとカマラも同様に有名ですね)。

これらの野生児研究では、言語や情動の発達においては、乳幼児期の人間らしい環境が不可欠であることが示唆されており、人間の言葉の発達や情緒の発達における敏感期の存在や、初期経験(および初期学習)の重要性が示唆されています。

このように初期学習は、本問にある「ラットの迷路学習訓練において、訓練期間の途中から餌報酬を導入する実験」という状況ではないことがわかります。

よって、選択肢③は不適切と判断できます。

④ 潜在学習

トールマンとホンジックは、白ネズミを3群に分けて1日1試行の迷路学習を行いました。

第1群には迷路の終点に餌を置き、第2群は餌なしで訓練しました。

そして第3群では、最初の10日間は餌なしで訓練を行いましたが、11日目からは終点に餌を置くという条件としました(本問の「ラットの迷路学習訓練において、訓練期間の途中から餌報酬を導入する実験」については、この群のことを指しています)。

その結果、当初は第2群と第3群の成績(袋小路に入り込む回数)は、第1群に劣っていました。

しかし、第3群では、条件を変化させた翌日の第12試行目から急速に成績が向上し、第1群と同等の結果を得るに至りました。

この事実は、行動の遂行に直接は現れない「潜在的な」学習過程の存在を示すものとして解釈されています。

つまり、第3群では第1試行~第10試行までの間に明確な成績という形では表に出ませんでしたが、潜在的には学習効果が生じていたため、報酬が与えられた直後からそれが発揮されたということですね。

ちなみにこの迷路の道順を覚えることを「認知地図」の学習と呼びます。

以上より、本問の「ラットの迷路学習訓練において、訓練期間の途中から餌報酬を導入する実験」という状況は潜在学習の研究と考えられます。

よって、選択肢④が適切と判断できます。

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