長期記憶に関する正しい記述を1つ選択する問題です。
記憶は認知心理学の一分野ですね。
長期記憶については、以下の図が基本事項になります。
各用語の意味を踏まえつつ解説していきます。
解答のポイント
長期記憶に関する基本的な事項を把握していること。
長期記憶の分類を行った研究者について知っていると混乱せずに解くことができる。
選択肢の解説
『①宣言的記憶〈declarative memory〉は手続的記憶とも呼ばれる』
宣言的記憶とは、言葉やイメージで表現することのできる事実に関する記憶のことを指します。
言葉で宣(のたまう=ひろめる、はっきりと述べる)ことができる記憶ということです。
宣言的記憶は意味記憶とエピソード記憶を含むとされていることが多いですが、命題ネットワークモデル(知識データ・ベースが複雑に絡みあった命題により形成されている、とする考え方)などで表現し、区分する必要性を認めない考え方もあります。
こうした宣言的記憶と対になる用語は「手続的記憶」です。
手続的記憶は、一定の認知活動や行動の中に組み込まれている記憶であり、必ずしも言葉やイメージで伝えることができるとは限らない記憶です(自転車の運転、などがよく例として出されますね。自転車も乗馬も一度覚えれば、また乗れるとか)。
宣言的記憶が「何であるか?(what)」についての記憶であり、手続的記憶は「どのように?(how)」についての記憶と言えます。
以上より、選択肢①の内容は誤りと言えます。
『②意味記憶〈semantic memory〉は時間的文脈と空間的文脈とが明確な記憶である』
長期記憶を意味記憶とエピソード記憶に区別することを提唱したTulving(1972)によると、意味記憶は「言語の使用に必要な記憶であり、言語野その他の言語的シンボルやその意味やその指示対象について、それらの関係について、そしてそれらの操作に関する規則や公式やアルゴリズムについて人が保有する知識を体制化した心的辞書」とされています。
非常に一般化した言い方をすれば、意味記憶とは知識についての記憶と言えます。
選択肢後半の「時間的文脈と空間的文脈が明確な記憶」はエピソード記憶です。
エピソード記憶とは、時空間的に定位された自己の経験に関する記憶のことを指します。
意味記憶とされている知識は、元々はそれを得たというエピソード記憶だったと考えられますが、その後、意味記憶化したと考えることができます。
そういう意味で、先述したように意味記憶とエピソード記憶を区別しない考え方もあります。
以上より、選択肢②の内容は誤りと言えます。
『③エピソード記憶〈episodic memory〉は一般的な知識としての事実に関する記憶である』
先述したとおり、エピソード記憶とは「時空間的に定位された自己の経験に関する記憶」です。
選択肢の内容は「意味記憶」のことを指しています。
中井久夫先生は「エピソード記憶がしっかりしておれば、その人は人間である」とし、意味記憶に偏りがちな記憶論の瑕疵を指摘しています。
「長期記憶は、長らく一般記憶に重点を置いて考察されてきた。そこに記憶論の一つの偏りがあると思う。…一般記憶が重視されてきたのは、それがテストに乗りやすいからである」(徴候・記憶・外傷 p39)など。
以上より、選択肢③は誤りと言えます。
『④顕在記憶〈explicit memory〉と潜在記憶〈implicit memory〉とは記銘時の意識の有無によって分けられる』
顕在記憶とは、記憶があるか否かが意識される記憶のことであり、意味記憶やエピソード記憶が該当します。
「思い出す」という想起意識を伴う再生法・再認法などで確認される記憶です。
これに対し潜在記憶とは、記憶にあるか否かが意識されない記憶を指します。
手続的記憶がこれに該当し、自転車の操縦などが良い例です。
何十年も乗っていない自転車に「乗れますか?」と問われたら、おそらくは即答できずに「乗っていないとわからない」と答えることになるでしょう(たぶん)。
そういった記憶のことを指します。
以上のように、顕在記憶と潜在記憶の区別は「記銘時の意識の有無」ではなく、「記憶にあるか否かの意識の有無」と捉えることができます。
よって、選択肢④は誤りと判断できます。
『⑤非宣言的記憶〈nondeclarative memory〉は技能・習慣、プライミング及び古典的条件づけの3つに分けられる』
宣言的記憶と対になるのが「手続き記憶」であることは既に述べましたが、これが実は「非宣言的記憶」に該当します。
この非宣言的記憶(手続的記憶)は、時間の経過と共に認知レベル・行動レベルでしている様々な活動における変化、すなわち情報処理過程の記憶のことを指します。
教科書によって表現はさまざまで、上記の図で示したような書き方をする場合もあれば、「宣言的記憶(顕在記憶)-手続的記憶(潜在記憶)」と表記される場合もあります。
その理由は以下の通りです。
この分類法は、Squire(1987)が「宣言的記憶」と「手続き記憶」に区別したのが最初です。
Squireのオリジナルの分類では、手続き記憶の中に古典的条件づけやプライミングが分類されています。
Squireの手続き記憶には多様な内容が含まれるため、これらを非宣言的記憶として宣言的記憶と対比することがあります。
この場合、体で覚えた記憶を手続き記憶として、古典的条件付けや、プライミングと同列に並べます。
詳細は以下の通りです。
- 技の記憶:身体で覚えた記憶、技術の記憶。手続的記憶と称される場合も。
- プライミング:前に入力された情報が、そのあとの情報に影響を与えるような記憶のこと。単語完成課題(単語を提示し、その単語を虫食い状態にして出すやつ)で測られる(これは潜在記憶課題の一つで、プライミング課題と呼ばれます)。10回クイズで引っかかるのもプライミング記憶のため。
- 古典的条件づけ:「意識上に内容を想起できない記憶」として、古典的条件づけも該当すると考える。
以上より、選択肢⑤の内容は正しいと言えます。