コントラストの知覚についての心理測定関数を得て、そこから弁別閾や主観的等価点を推定するための心理物理学的測定法として、最も適切なものを1つ選ぶ問題です。
類似問題である公認心理師2018-82をおさらいしておきましょう。
公認心理師2018-82(解説に誤りあり)
公認心理師2018-82(修正・最終版)
ある比較刺激が標準刺激と等しく知覚された時、その比較刺激は標準刺激の等価刺激ということになります。
等価刺激となる比較刺激の値を主観的等価点と呼びます。
そこから変化させることで弁別閾の測定が行われます。
弁別閾は上弁別閾と下弁別閾に分けられますが、上弁別閾は「比較刺激の方が大きい」とする確率が75%のポイントであり、下弁別閾は「比較刺激の方が大きい」とする確率が25%のポイントということになっています。
これらを踏まえて、選択肢の検証に移ります。
ちなみに、本問を解くにあたっては「基礎心理学実験法ハンドブック」を参照にしました。
解答のポイント
心理物理学的測定法について把握していること。
各測定法が得意とする研究デザインを知っていると良い。
選択肢の解説
『①階段法』
『④上下法』
古典的心理物理学的測定法は必ずしも効率が良いとは言えません。
そのため、高い効率を目指して適応的測定法が開発されてきました。
古典的測定法(恒常法と極限法)では実験開始前に刺激の強度を決めておくのに対して、適応的測定法では参加者の応答に応じて変更します。
適応的測定法はいくつかありますが、以下によって特徴づけられています。
- 刺激強度をいつ変えるのか
- 刺激強度の決定方法は何か
- いつ測定を終えるのか
- 最終的な推定値はどのように求められるのか
そして、実験者の事前知識や前提、測定の目的によって「ノンパラメトリックな方法」と「パラメトリックな方法」に分類することができます。
ノンパラメトリックな方法は、心理測定関数が単調に増減することが唯一の適用条件で、閾値のみを計測する時に用います。
極限法を主に改良されたものが多いとされており、上下法と階段法が最も実装が容易な適応的測定法の1つです。
極限法との違いは、観察者の反応を刺激強度の決定に役立てている点です。
これらの手法では、まず階段的に値が増加もしくは減少する一連の刺激を提示します。
観察者の反応が変わった時、その刺激値を記録し、刺激系列の方向を上昇から下降へ(もしくはその逆へ)反転させます。
この手続きを十分な数の反応遷移点が得られるまで続けていきます。
そして、それらの遷移点の平均を閾値とします。
階段法で用いるステップの大きさは、十分に注意して決める必要があるとされています。
大きなステップで増加させると閾値をかなり上回る遷移点を得ることになり、同様に大きなステップで減少させるとかなり下回ってしまいます。
ちなみに「階段法」と「上下法」ですが、違いを見つけられませんでした。
例えば平凡社から出ている「最新 心理学事典」では、「極限法を変形した手法に上下法がある。実験参加者の反応カテゴリーが変化するごとに、刺激強度の変化方向を逆転させるもので、階段法ともよばれる」という風に、イコールで結んでいる基準が多いです(他にも、北大路書房から出ている「心理物理学 方法・理論・応用(上巻)」でも同様でした)。
本解説では、階段法と上下法を同じものとみなしておきましょう。
いずれにせよ、これらの方法は閾値のみを推定する時に用いる方法ですから、弁別閾・主観的等価点の測定には不適切です。
よって、選択肢①および選択肢④は不適切と判断できます。
『②極限法』
絶対閾、弁別閾、主観的等価点の測定に用いられますが、恒常法に比べると精度はよくありません。
ただし、測定時間ははるかに短くて済むので、定数測定にはよく採用されます。
極限法で弁別閾、主観的等価点を測定する場合は、標準刺激と比較刺激を対にして提示し、実験者が比較刺激を標準刺激方向に少しずつ変化させて、観察者の判断を求めます。
弁別判断には3件法が用いられることが多いです。
上昇系列では、例えば比較刺激が標準刺激よりも「小さい」と反応する点から開始し、「等しい」を経て「大きい」という反応が出た点で刺激提示を打ち切ります。
下降系列では、比較刺激を「大きい」と判断する点から開始して、「等しい」を経て「小さい」という反応が出現した点で提示を打ち切ります。
この方法では、上昇系列についても下降系列についても、それぞれ上閾と下閾の2つの遷移点が得られます。
上閾は「大きい」という反応と「同じ」という反応の中間点、下閾は「同じ」という反応と「小さい」という反応の中間点になります。
以上のように、弁別閾や主観的等価点を測定することは可能ですが、恒常法に比べると精度が落ちるという点で除外されます。
よって、選択肢②は最も適切とは言えないと判断できます。
『③恒常法』
恒常法は、絶対閾、弁別閾、主観的等価点の測定に用いることができます。
弁別閾や主観的等価点を測定する場合は、観察者に標準刺激と比較刺激を提示し、比較刺激強度を施行ごとに変化させて、標準刺激と比較刺激のどちらが(例えば)「大きい」かの判断を求めます。
比較刺激には、最も弱い刺激がほとんど標準刺激よりも「小さい」と判断され、最も強い刺激がほとんど標準刺激よりも「大きい」と判断されるような5〜9種類の刺激を選択しておきます。
提示に際しては、標準刺激と比較刺激の提示順序・提示位置に依存する恒常誤差が生じる可能性があるので、これらの誤差を相殺するように実験を計画します。
2件法で測定した場合、各比較刺激に対するイエス反応の比率をプロットします。
そして「比較刺激の方が大きいと答える確率が50%」「比較刺激の方が小さいと答える確率が50%」が(かなりざっくりと言えば)主観的等価点ということになります。
※実際は誤差があっていろいろ計算していますが、その辺は割愛。
主観的等価点は標準刺激と比較刺激の弁別はできませんが、比較刺激強度を主観的等価点から変化させると「比較刺激の方が大きい」と答える比率も変化します。
弁別閾を求めるために用いられるのは、「比較刺激よりも大きい」とする確率が75%および25%のポイントです。
上弁別閾が75%点であり、下弁別閾が25%点になります。
以上より、選択肢③が最も適切と言えます。
『⑤調整法』
調整法は主に主観的等価点の測定に用いられますが、絶対閾の測定に用いることも可能です。
この方法の特徴は、刺激の変化のコントロールを観察者が行うところにあります。
代表的なのはミュラー=リヤー錯視の実験ですね。
調整法を主観的等価点の測定に用いる場合は、標準刺激と比較刺激のマッチング作業を行います。
例えば、比較刺激強度を変化させ、標準刺激と同じ大きさに感じられるデータ点を求めます。
十分な数のデータ点を求めて平均することにより、主観的等価点の平均値が得られます。
観察者が行うという点や簡便さに特徴がありますが、それゆえに誤差が大きいという問題があります。
またミュラー=リヤー実験を思い返していただければ分かるように、弁別閾の測定には適しません。
以上より、選択肢⑤は不適切と判断できます。