公認心理師 2021-46

インフォームド・コンセントの問題ですが、実際は心理療法に関する説明をする際の当たり前のマナーが問われています。

心理療法について適切な説明をするというのは必ず求められる力である一方、実践は個々人に任せられていることが多いですね。

問46 公認心理師が、クライエントに心理療法を行う場合、インフォームド・コンセントを取得する上で、最も適切なものを1つ選べ。
① 公認心理師が考える最善の方針に同意するように導く。
② 深刻なリスクについては頻度が低くても情報を開示する。
③ 心理療法についての説明はクライエントにとって難解なため、最小限に留める。
④ クライエントに対して不利益にならないように、心理療法を拒否したときの負の結果については強調して伝える。

解答のポイント

支援者が心理療法について説明する際の心構えやマナーを理解している。

心理療法の理論と実践を、支援者が咀嚼し、自分の言葉で伝えることの重要性を理解している。

選択肢の解説

① 公認心理師が考える最善の方針に同意するように導く。
③ 心理療法についての説明はクライエントにとって難解なため、最小限に留める。

心理療法の契約(これを治療契約と呼んだりしますね)を結ぶ前に、公認心理師(臨床心理士)からクライエントに提供されるアプローチについて説明することになります。

クライエントの問題に対する見立てを伝え、その見立てに基づいたアプローチを提案し、それに対する意見を踏まえて、同意に至るという流れが一般的ですね。

これはそのまま心理支援者としての能力と関連し、①クライエントの問題を適切に見立てる力、②その見立てに基づいたアプローチを選択・工夫する力、③それをクライエントという非専門家に適切に伝える力、などが重要になるわけです(④クライエントの意見に耳を傾ける力、もあるかもしれませんね。これは力というよりもマナーですが)。

まず選択肢①について考えていきましょう。

「公認心理師が考える最善の方針」については、適切に伝えることが大切になります。

具体的には、強迫性障害には行動療法の技法が第一選択になるだろうという、かなり強固なエビデンスが存在しますから、それを伝えていくことが大切になるでしょう(当該機関でその実施が可能であるか否か、可能であってももっと良い機関がある可能性なども併せて伝える)。

また、公認心理師の学派やオリエンテーションでは、どういう方針を取るのかを伝えることも大切ですし、併せて他の学派であれば〇〇という方法もある、という伝え方もあり得ますね。

公認心理師の学派やオリエンテーションに沿って伝えるという考え方には違和感を覚える人もいるでしょうが(支援の方針が狭くなりがちで、クライエントに不利益になってしまう可能性がある)、クライエントがその学派やオリエンテーションの「雰囲気」に惹かれてその公認心理師のもとを訪れている可能性もあるわけです。

ですから、選択肢①のような「公認心理師が考える」という点もOKになるということですね(もちろん、他の学派やオリエンテーションで出来る可能性があることも伝えておくのがマナーですけど)。

選択肢①に問題があるのは「同意するように導く」という箇所ですね。

これは「誘導」の雰囲気があり、公認心理師が意図的に自分の方針にクライエントを寄せようと思っている感じがありますよね。

そういう意図が公認心理師にあると、クライエントに示す情報を操作してしまう可能性があり、それはインフォームド・コンセントの基本から外れた行為になってしまいます。

そもそも「同意するように導く」のはインフォームド・コンセントではなく、公認心理師が提供できる支援方針を可能な限り提示し、それぞれのメリット・デメリット(という表現が馴染むかはわかりませんが)を伝え、その中からクライエントが自由に選択できるようにすることがインフォームド・コンセントであると言えますね。

また、こうしたクライエントに多くの可能性を適切に伝えるにあたっては、選択肢③が関連してきます。

確かに心理療法の理論については、哲学が絡むなど難解な面があると言えます。

しかし、クライエントは専門家や学生ではありませんから、クライエントの支援に関連するところを「わかりやすく」「丁寧に」「情報の恣意的な取捨選択が無いように(公認心理師の都合が良いところだけをつまみ食いしないように)」しつつ伝えていくことが大切です。

「難解だから伝えない」というのは、そもそも公認心理師の力量が不足しているという吐露であり、その未熟さをクライエントの能力に帰属させるという卑怯な言い訳と見なすのが妥当です。

具体的な伝え方を述べておきましょう。

例えば、私が行動療法のある技法が適切と思える事例に出会ったとします。

その際には以下のように伝えることが多いです。

「あなたが困っていることは、人間だけに起こるのではなくて、イヌなどの多くの動物にも生じます。ですから、あなたに起こっていることは、人間の部分というよりも動物としてのヒトの部分が反応していると見なすことができます。そして、カウンセリングの中で、こういう「動物としての部分が反応した問題」にとても強いやり方があって、それを行動療法といいます」

「行動療法には、いろいろな方法がありますが、あなたに起こっている問題については、「不安になるようなことを考えて、でもその不安を消すような行動をしない」ことで、あなたの中に不安を抱えておく力を高めていこうという方法があります。雲のように不安をぽっかりと宙ぶらりんに浮かべておくようなイメージですね。それを続けていくことで、不安を抱える力が強くなって、嫌な場面は変わらなくても平気になっていくということが期待できます」

…といった感じでしょうか。

これはあくまでも一例ですし、他の方針なども併せて伝えていきます。

例えば、上記の「不安を消すような行動をしない」と伝えたときにクライエントの表情が曇るようであれば、そこで方向転換して別の方法の説明に移るなどの対応を取るわけです(日本語はこうした方向転換が容易い文法なので、非常に役立ちますね)。

こうした説明をするためには、公認心理師が「その理論を自分なりに咀嚼し、自分の言葉で説明できるようになっている」ことが大切だろうと思います。

以上のように、難解であろうとも公認心理師がクライエントや状況に合わせて説明をすること自体がインフォームド・コンセントですし、そもそもの職務とも言えますね。

こうした理解の可能性に応じて本人にもわかるような「やさしい説明と納得(インフォームド・アセント)」の手続きが重要になるということです。

このように、ここで挙げた選択肢はインフォームド・コンセントを取得する上で、不適切な行為と言えますね。

よって、選択肢①および選択肢③は不適切と判断できます。

② 深刻なリスクについては頻度が低くても情報を開示する。

インフォームド・コンセントを行う上では、そのリスクの発生可能性が低いと想定されたとしても、それが起こりうる可能性があることならば伝えることが責務となります。

これはクライエントを守ることにもなりますが、公認心理師を守ることにもなります。

万が一、そうしたリスクが発生した際、「事前にそのリスクに関する説明がなかった」ことが責任問題に発展する可能性もあるからです。

ですから、どちらにとっても「可能性の高低に関わらず、生じうるリスクは説明する」というのがインフォームド・コンセントでは大切になります。

本選択肢にある「深刻なリスク」とはどういったことを指すのでしょうか?

「自殺」は確かにリスクではありますが、それはむしろ治療しない方がハイリスクであることが多いわけですから、あまりピンときません(もちろん、人格を強く揺さぶるような心理療法をやればリスクはありますが、それはそもそもやるべきではないことですしね)。

クライエント個々で見ると、例えば、発達障害で絵カードを活用する事例があったとして、ただ親が絵カードで子どもを操作しようと多用したり子どもの気持ちと反することばかり提示したことによって、絵カードに対してPTSDの反応を示すようななった事例があることの説明が該当するかもしれないですね。

個々の事情に左右されない、多くのクライエントに共通する「深刻なリスク」を考えてみると、例えば、「クライエントが心理療法を継続したくなくなる」という事態が考えられると思います。

「クライエントが心理療法を継続したくなくなる」という事態は、例えば、母子並行面接などでよく見られ、子どもが心理的に改善してくると、家庭内で大人しかった子が急にワガママになるということがあり得ます。

そういう子どもを見て、母親が「心理療法をして悪くなった!」と考えて心理療法を中断してしまう、などが考えられますね。

こういう時には、事前にきちんと「家庭内で変化が出る可能性」と「それが一概に悪いわけではない」という見解を伝えておくことで防ぐことが可能です。

このように、実践では「支援法」と「それをしたときの変化の予測」も伝えておくことが重要で、それが本選択肢の「深刻なリスクについては頻度が低くても情報を開示する」ということとつながるでしょう。

なお、心理療法は、はじめは「浅く・狭く・短く・軽く」を心がけることが定石です。

最初から人格に踏み込むような関わりを行うのではなく、クライエントに起こっている問題を丁寧に見ていき、それらの問題が生活を妨げないようにすることから始めると良いでしょう(つまり、具体的・現実的な問題から話題にしていく)。

より具体的な事態を扱いつつ、その流れでクライエントの性格や人格に徐々に入っていくような(そうなることが自然な雰囲気が両者の間で流れるような)感じで進行していくのが定石的手順と言えます。

逆に、人格的なところから入って、現実的な事態にアプローチしようとすることは不可能に近く、この辺は薄味→濃味はできても濃味→薄味はできない料理と似ています(釣りでも強いアプローチをしてしまうと弱いアプローチが効きにくい気がします)。

そして、心理療法の「深刻なリスク」は、概ね人格的なところに入り込むような強いアプローチによって生じることが多いので、そういう関わりは具体的・現実的なところでのやり取りをする中で生じる信頼関係を基盤にして行う方がリスクが低いと言えるでしょう。

以上より、「深刻なリスクについては頻度が低くても情報を開示する」というのはインフォームド・コンセントを取得する上で大切なことと言えます。

よって、選択肢②が適切と判断できます。

④ クライエントに対して不利益にならないように、心理療法を拒否したときの負の結果については強調して伝える。

本選択肢については、多くの人が考える通り「負の結果については強調して伝える」という箇所が不適切です。

「強調」してしまっては、事実の説明になっていませんし、心理療法を拒否したときの負の結果を強調するというのは「脅迫」に他なりません。

いくら「心理療法を受けないことがクライエントの不利益になる」と考えたとしても、上記のようなやり方は操作的であり、避けるべきものであると言えます。

では、クライエントが心理療法を受けないときの不利益が大きいと想定される場合はどうすることが大切かを考えておきましょう。

「負の結果については強調」というのはいただけませんが、公認心理師が「なぜあなたに心理療法が必要だと感じるのか」については情理を尽くして語ることができるはずです。

もちろん、それ自体がクライエントの負担にならないよう、あくまでも「自分の支援については、自分の自由意思で決める」というクライエントの権利を保障しながらということになります(これはクライエントによって、公認心理師の伝え方がずいぶん異なってくることを意味しており、単に「インフォームド・コンセントだから事実を説明すればいい」ではないのです)。

適切なインフォームド・コンセントを行わないのは倫理にもとる行為ですが、心理療法によって改善可能性があるにも関わらずそれを勧めないのも治療倫理に反する行為であると言えますからね。

クライエントによっては「最終的に決めるのは〇〇さんだから、嫌だと思うことは勧められないから、これは専門家の私からのおせっかいだと思って聞いてほしいんだけど」と前置きすることで受け入れやすくなる人もいますね(特に自由意思の欲求が強い人は、「これはおせっかいです」という前提をすると入りやすい気がしている)。

以上のように、本選択肢はインフォームド・コンセントを取得する上で、不適切な行為と言えますね。

よって、選択肢④は不適切と判断できます。

2件のコメント

  1. お忙しい中、次々と詳しく解説をありがとうございます。とても勉強になります。
    単純ミスをお伝えします。
    本文中の「よって、選択肢③が適切と判断できます。」は②だと思います。

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