公認心理師 2019-49

問49は多職種チームでクライエントに関わる際の留意点についての問題です。
多職種チームは医療機関で見られることが多いですが、実際には教育と福祉での連携の中で構成されることが多いですね。
要保護児童地域対策協議会などもそのニュアンスがあり、最後に各機関の役割を確認し合って終わるというのが通例です。

問49 心理的支援を要する者へ多職種チームで対応する際に、公認心理師が留意すべき点として、不適切なものを1つ選べ。
①要支援者もチームの一員とみなす。
②要支援者の主治医の指示を確認する。
③多重関係に留意しながら関連分野の関係者と連絡を取り合う。
④チームに情報を共有するときには、心理学の専門用語を多く用いる。

各選択肢にそれなりに根拠はありますが、基本的には作法のレベルの問題ですね。
お行儀の良い連携を互いに心がけたいものです。

解答のポイント

多職種連携を行う上でのマナーを理解していること。
心理臨床の前提としてクライエントが重要な協力者であるという認識があること。

選択肢の解説

①要支援者もチームの一員とみなす。

この選択肢については類似の内容が2018追加-38の選択肢②に示されております。
上記の問題ではチーム医療の中での話でしたが、要支援者をチームに組み込んで考えていくことは「チーム」という捉え方以前に、心理臨床という枠組みの基本となります

多くの学派に見受けられる自己実現という概念(ユングは個性化過程などと表現しますね)ですが、学派によって使われ方は違うものの、クライエントの進む方向はその人自身が知っているという意味合いが多少なりとも含まれています。
当然、この方向の見極めはクライエントの協力なしには困難です。

各支援者が必要と感じることやその根拠を伝えつつ、クライエントの思いを聞き取り、それを汲み取る中で生じる矛盾も含め抱えていくことで、徐々にですがクライエントの進む方向が見えてくる(というよりも生じてくる)ものです
こうしたことを重視した支援として、オープンダイアローグがあります。
対話という困難であるけど支援に必須なことを、どこまで手を抜かずに行うことができるかが大切です。

具体的には、現在おこなわれている支援に対する意見、特に苦情を言ってもらい、それを受けてどうやり取りするかです。
大切なのは「それを受けての対話自体」であって、意見や苦情を受けて「対応を変えること」ではありません
そのやり取り自体に、実は治癒を促進させる力があるのです。

ちなみに対話する力とは、一般にイメージされるようなやり取りを重ね、それなりにうまくやっていくという類の力ではありません。
そのままでは切れてしまいそうな関係を、切らずに繋げる力が対話する力であり、これが本当の意味でのコミュニケーション力というものです。
「お互い気持ちよく、楽しく、それなりにやり取りする」というものは対話の力とも、コミュニケーションの力とも言えません。

ですから、コミュニケーション力は「意見が異なる者」「大きく立場が異なる者」「自分の苦しみは理解されっこないと思っている者」などとのやり取りの中で、その真価が問われるものです。
支援者には、こういう意味でのコミュニケーション力が求められているということになりますね。

以上より、選択肢①は適切と判断できるので、除外することが求められます。

②要支援者の主治医の指示を確認する。

こちらは公認心理師としての役割になります。
公認心理師法第42条第2項の内容に準じたものですね。
公認心理師は、その業務を行うに当たって心理に関する支援を要する者に当該支援に係る主治の医師があるときは、その指示を受けなければならない

この条項のため、クライエントに主治医がいる場合は指示の確認をすることが求められます
主治医の指示に関しては、その具体的な内容について運用基準も出ておりますので、しっかりと確認しておきましょう。

以上より、選択肢②は適切と判断できるので、除外することが求められます。

③多重関係に留意しながら関連分野の関係者と連絡を取り合う。

多重関係とは、「専門家としての役割と別の役割を、意図的かつ明確に同時にあるいは継続的に持ち続けること」を指します
具体的には以下の状況を指します。

  • クライエントと恋愛関係を持つ、性的関係を結ぶ。
  • ゼミの学生のカウンセリングを行う。
  • 職務上の部下の家族をカウンセリングする。

家族間、友人間のカウンセリングも好ましくないとされていますね。

本選択肢に沿って考えてみると、公認心理師としてクライエントへのカウンセリングを行っている可能性が高いわけです。
そのカウンセラーとしての役割以外の役割が、関連分野の関係者と連絡をとることで生じてしまう可能性があるということですね
例えば、関係者と連絡を取り合う中であまりに生活場面に関わるような形になってしまうと、カウンセラー-クライエント関係以外の関係性が生じてしまいかねません
そうなればカウンセリングの場が「守られた空間」でなくなってしまう可能性も否定できず、そこでのやり取りに影響を与えることが考えられます。

よってカウンセラーという役割を持つ者は、その連携が役割に影響を与えるほどのものにならないように留意しておくことが重要になります
そのために多職種で連携を取りつつ支援に当たっていくとも言えるわけです。

以上より、選択肢③は適切と判断できるので、除外することが求められます。

④チームに情報を共有するときには、心理学の専門用語を多く用いる。

こちらについては、2018-78(解説に誤りがあります)の選択肢②で述べていますので、再録しておきましょう。
解答としては誤っていますが、説明の中身については間違っていないのです。

連携を行う場合、多職種の人たちにとって公認心理師の専門語は馴染みが薄いものです
医療系であれば、精神医学的用語を共通語として用いることができますが、教育・福祉などでは共通語は少なくなりがちです。

土居先生は「専門語と日常語との間の風通しをよくしておくことが絶対に必要」(臨床精神医学の方法 p32)としていますが、連携において専門語を日常語に変換して説明する能力は不可欠なものといえます

複雑な心理現象を説明する場合、多くの人に馴染みがある例を示しつつクライエントの心理構造の理解につながるような伝え方をする必要があります。

そして、こうした専門語を日常語に変換するという行為は、専門語に対する深い理解があって初めて可能になります。

また、自身の分野の専門性を高めることは、自身の分野への有限性(自分たちにはここまでの支援が可能だ、という感覚)を自覚することにもつながるので、他の分野と連携を取る上で欠かせないと言えます
自分にできる範囲がしっかりと理解できていないと、他領域と連携を取る上での役割分担や住み分けが難しくなりがちです。

更に、自身の分野を通して他領域を理解するということもあり得ます。
これは他領域の行為を、自らの分野の知見に当てはめる、ということではありません。
自身の分野への理解の向上によって、対人援助職としての共通項を見いだすことが可能となり、そこを連携の要として要心理支援者へのアプローチを考えていくことが重要です

以上より、選択肢④が不適切と判断できるので、こちらを選択することが求められます。

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