公認心理師 2019-126

問126は秘密保持義務に関する問題ですね。
頻出問題の一つと言って良いでしょう。

問126 クライエントに関する情報提供が秘密保持義務よりも優先される状況について、適切なものを2つ選べ。
①クライエントが虐待されていることが疑われる場合
②クライエントに直接関係ない専門家の研修会で事例として取り上げる場合
③成人のクライエントについて、一親等の家族から情報開示の請求がある場合
④クライエントとの面接で、誹謗中傷される相手が特定できる可能性がある場合
⑤クライエントが自分自身の精神状態や心理的な問題に関連して訴訟を起こし、その裁判所から要請がある場合

こうした秘密保持義務に関する問題では、必ず公認心理師法第41条の内容をおさらいしておきましょう。
「公認心理師は、正当な理由がなく、その業務に関して知り得た人の秘密を漏らしてはならない。公認心理師でなくなった後においても、同様とする」

秘密保持義務に関しては過去に数問出題されており、その傾向がおぼろげながら見えてきました。
思いつくままに挙げていきましょう。

  • 法律に絡む場合:虐待がある場合に秘密保持義務を超えて通告してよいか否かなど
  • SVとか事例検討などの専門家間での情報共有はOKか?
  • 訴訟がらみでの秘密保持義務に関しては?
  • クライエントに同意を取ることが可能か否かでの判断。
  • 親きょうだいなどの親しい人からの情報提供依頼の際の判断。
  • クライエントが未成年の場合の個人情報の取り扱いなど。
これらが今までの問題で問われているポイントであると思います。
参考までに。

解答のポイント

秘密保持義務の例外状況を理解していること。

選択肢の解説

①クライエントが虐待されていることが疑われる場合

虐待と聞いて思い出してほしいのは、児童虐待防止法、高齢者虐待防止法、障害者虐待防止法の3法ですね。
本問に関係のある上記3法の条項を抜き出しましょう。

【児童虐待防止法 第6条】
第1項:児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者は、速やかに、これを市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所又は児童委員を介して市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所に通告しなければならない。

第2項:前項の規定による通告は、児童福祉法(昭和二十二年法律第百六十四号)第二十五条第一項の規定による通告とみなして、同法の規定を適用する。

第3項:刑法の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、第一項の規定による通告をする義務の遵守を妨げるものと解釈してはならない

【高齢者虐待防止法 第7条】
第1項:養護者による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は、当該高齢者の生命又は身体に重大な危険が生じている場合は、速やかに、これを市町村に通報しなければならない。

第2項:前項に定める場合のほか、養護者による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は、速やかに、これを市町村に通報するよう努めなければならない。

第3項:刑法の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、前二項の規定による通報をすることを妨げるものと解釈してはならない

【障害者虐待防止法 第7条】
第1項:養護者による障害者虐待を受けたと思われる障害者を発見した者は、速やかに、これを市町村に通報しなければならない。

第2項:刑法の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、前項の規定による通報をすることを妨げるものと解釈してはならない
※第16条には「障害者福祉施設従事者等による障害者虐待に係る通報等」として、第22条には「使用者による障害者虐待に係る通報等」として同様の条項が規定されています。

上記の通り、いずれの虐待においてもその通告に関しては秘密保持義務よりも優先されるということがわかりますね。
よって、選択肢①は適切と判断できます。

②クライエントに直接関係ない専門家の研修会で事例として取り上げる場合

専門家間の話し合いでクライエントの個人情報を、許可なく取り上げてよいのは「クライエントのケアに直接関わっている専門家同士で話し合う場合」となります
こちらについては2018追加-78の選択肢④に示されておりますね。

クライエントに直接関係があるかないかは、許可なく個人情報を取り上げてよいか否かの判断基準にはなりません。
また「直接関係ない」という点から、クライエントに知られるか否かということに焦点を当てている印象も受けますがクライエントに知られるか否かは重要ではありません
こちらは臨床的な判断です。

クライエントの秘密を許可なく漏らしたという事実は、必ずカウンセリング場面に影響を与えてしまいます。
特にクライエントの深層の課題や問題についてやり取りしているならば、秘密を漏らしたという僅かなカウンセラーの罪悪感が治療関係に影響を及ぼすでしょう。
守秘義務を守るのは、そのクライエントとの治療関係を保つために必要なことなのです。

以上より、選択肢②は不適切と判断できます。

③成人のクライエントについて、一親等の家族から情報開示の請求がある場合

個人情報保護法第23条には「個人情報取扱事業者は、次に掲げる場合を除くほか、あらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供してはならない」として、以下が規定されています。

  1. 法令に基づく場合
  2. 人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。
  3. 公衆衛生の向上又は児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。
  4. 国の機関若しくは地方公共団体又はその委託を受けた者が法令の定める事務を遂行することに対して協力する必要がある場合であって、本人の同意を得ることにより当該事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとき。

この内容を言い換えれば「ここに掲げた場合には、本人の同意を得なくても個人データを第三者に提供できます」ということですね。

選択肢③で示されているのは「一親等の家族からの請求がある場合」という条件だけであり、第23条で定められた第三者提供の条件には合致しておりません
成人のクライエントの場合、法令に基づく場合(本問の選択肢①の状況など)、本人の同意を得るのが難しい状況(2018追加-78の選択肢③など)などが該当しますが、本選択肢にはそのような状況が示されておりませんね。

親族であっても個人情報を伝えてはいけないという点に関しては、2018追加-126の選択肢②でも示されております。
こちらの解説もご参照ください。

よって、選択肢③は不適切と判断できます。

④クライエントとの面接で、誹謗中傷される相手が特定できる可能性がある場合

この選択肢は、私にはちょっと読み取りづらかったです(第2回の試験では、時々こういう問題がありますね)。
「クライエントの面接で、誹謗中傷される相手が特定できる」とあるのですが、誰が誹謗中傷されるのでしょうか?
この主語がクライエントだったら、そもそも守秘義務も何もないわけですからそれは除外されます。
「クライエント以外の第三者が」誹謗中傷されていて、クライエントとの面接内容を公開することで誹謗中傷している人が特定できる場合、と考えて解説していきましょう(この状況だと、誹謗中傷されている第三者に情報を公開するということになるのかな?)

秘密保持義務の例外状況は以下の通りです(現任者講習会テキストより)。

  1. 明確で差し迫った生命の危険があり、攻撃される相手が特定されている場合
  2. 自殺など、自分自身に対して深刻な危害を加えるおそれのある緊急事態
  3. 虐待などが疑われる場合
  4. そのクライエントのケアなどに直接関わっている専門家同士で話し合う場合(相談室内のケース・カンファレンスなど)
  5. 法による定めがある場合
  6. 医療保険による支払いが行われる場合
  7. クライエントが、自分自身の精神状態や心理的な問題に関連する訴えを裁判などによって提起した場合
  8. クライエントによる明示的な意思表示がある場合
上記のように、生命が差し迫った場合(タラソフ判決等)や法的な定めがある場合等を除いては、例外状況にはなりません。
誹謗中傷というのは由々しき事態ではありますが、「明確で差し迫った生命の危険があり」とまでは言えないことがわかりますね。
以上より、選択肢④は不適切と判断できます。

⑤クライエントが自分自身の精神状態や心理的な問題に関連して訴訟を起こし、その裁判所から要請がある場合

先述しましたが、秘密保持義務の例外状況は以下の通りです(現任者講習会テキストより)。

  1. 明確で差し迫った生命の危険があり、攻撃される相手が特定されている場合
  2. 自殺など、自分自身に対して深刻な危害を加えるおそれのある緊急事態
  3. 虐待などが疑われる場合
  4. そのクライエントのケアなどに直接関わっている専門家同士で話し合う場合(相談室内のケース・カンファレンスなど)
  5. 法による定めがある場合
  6. 医療保険による支払いが行われる場合
  7. クライエントが、自分自身の精神状態や心理的な問題に関連する訴えを裁判などによって提起した場合
  8. クライエントによる明示的な意思表示がある場合
上記のように、クライエントが起こした訴訟の中で、裁判所から要請がある場合には秘密保持義務違反にはならないことが示されております。

秘密保持義務と訴訟との関連については、2018追加-78の選択肢①にもありますね。
目を通しておきましょう。

以上より、選択肢⑤は適切と判断できます。

2件のコメント

  1. 詳細でわかりやすい解説ありがとうございます
    さて今回、解釈的にわかりようでわからない部分があり連絡させていただきました
    ⑤クライエントが自分自身の精神状態や心理的な問題に関連して訴訟を起こし、その裁判所から要請がある場合の中の・・・

    「その6:医療保険による支払いが行われる場合」
    なんとなくわかるようで、今ひとつなんともイメージがわいてこない感じです
    例えば・・どんな場面での状況を想定したらいいのでしょうか

    お忙しいところ申し訳ありません
    ご都合のいいときにでもアドバイスいただけたら幸いです

    1. コメントありがとうございます。

      医療保険の支払いに関しては、医療保険の支払いに伴ってクライエントに関する情報が医療保険の支払いに関わる関係者に知られるということを想定しているものです。
      国民健康保険法や厚生年金保険法にも、秘密保持の規定が定められていますが、それは支払いに伴って知った情報を漏らしてはならないということを指しています。

      当然のことのように思われるかもしれませんが、人に知られたくない病理というのもありますから、医療保険の申請に伴って情報漏洩を恐れて医療保険を申請しないという事例もあるわけです。
      他にも、ある人の個人情報が知ることができる立場の人というのはたくさんいます。
      その立場の人には、やはり法的に秘密保持義務が定められていますね。

      以上、お返事になっていれば幸いです。

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