公認心理師 2018追加-78

公認心理師の秘密保持義務違反になる行為として、正しいものを1つ選ぶ問題です。

まずは第41条のおさらいです。
「公認心理師は、正当な理由がなく、その業務に関して知り得た人の秘密を漏らしてはならない。公認心理師でなくなった後においても、同様とする」

こちらは絶対に押さえておきましょう。

ただしこの問題、実は公認心理師法第41条を把握していれば大丈夫という類の問題ではないです。
むしろ他の法律の規定をきちんと把握しているかを求められています。

解答のポイント

個人情報保護法について把握していること。

選択肢の解説

『①クライエントの同意を得て裁判所で証言する場合』

まずクライエントがどのような状況なのか、例えば、刑事裁判なのか民事裁判なのか、被害者側なのか加害者側なのか等、まったくわかっていない状況です。
ですから、どのような状況であっても当てはまるように考えていくことが必要です。

本選択肢で重要なのは「クライエントの同意を得て」いるという点です。
個人情報保護法第23条「第三者提供の制限」の第1項には「個人情報取扱事業者は、次に掲げる場合を除くほか、あらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供してはならない」とあり以下が規定されています。

このことは、本人の同意があれば個人データを第三者に提供してよいということになります
この他、上記の法律第1号に「法令に基づく場合」が規定されており、例えば、警察や検察等の捜査機関からの照会(刑事訴訟法第197条第2項)や、検察官及び裁判官等からの裁判の執行に関する照会(同法第507条)などは本人の同意を得なくても大丈夫です。

先述したように、裁判での立場によっては「証言しないで」とクライエントから言われることもあるでしょう。
このような状況だと、それこそクライエントがその裁判においてどのような立場なのかによって是非が分かれてくると思いますが、「クライエントの同意を得て」いる場合はどういった状況であっても証言は可能と見做してよいでしょう

以上より、選択肢①は秘密保持義務違反とならないので不適切と言えます。

また、基本的に個人情報保護法内で同意の取り方については記載がありませんが、以下のような資料がありますので参考までに。
地域における若者支援推進課長等会議が取りまとめた「ネットワーク、個人情報の取扱いに関する考え方」中間取りまとめ(平成20年1月30目)において、「個人情報の取扱いについて、少なくともこれを満たせば問題ないと考えられる方法」が記載されています。

  • 個人情報の第三者提供には本人の同意を得ること
  • 同意したことを確実に認識できる方法とすることが望ましい(書面に署名や押印があること)
  • 同意書には少なくとも、①提供先、②提供される情報の内容、③提供先における利用目的を明記すること。

このように、本人の同意と併せて、それを書面で確認すること、書面内に必要事項が記載されていることが大切になります。

『②養育者による虐待が疑われ児童相談所に通告する場合』

児童虐待防止法第6条は「児童虐待に係る通告」ですが、第1項~第3項には以下のように規定されております。

  1. 児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者は、速やかに、これを市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所又は児童委員を介して市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所に通告しなければならない
  2. 前項の規定による通告は、児童福祉法(昭和二十二年法律第百六十四号)第二十五条の規定による通告とみなして、同法の規定を適用する。
  3. 刑法(明治四十年法律第四十五号)の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、第一項の規定による通告をする義務の遵守を妨げるものと解釈してはならない

上記の通り、児童虐待の通告は「法的義務」であり、その通告については秘密漏示罪関連の守秘に関する法律の規定を超えて行われるものとされています。

また個人情報保護法第23条の「第三者提供の制限」ですが、その第1項には「個人情報取扱事業者は、次に掲げる場合を除くほか、あらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供してはならない」とあり以下が規定されています。

  1. 法令に基づく場合
  2. 人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。
  3. 公衆衛生の向上又は児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。
  4. 国の機関若しくは地方公共団体又はその委託を受けた者が法令の定める事務を遂行することに対して協力する必要がある場合であって、本人の同意を得ることにより当該事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとき。

第1項の内容を言い換えれば「ここに掲げた場合には、本人の同意を得なくても個人データを第三者に提供できます」ということですね。

これに該当すると考えられる事例として、児童虐待、不登校、不良行為など児童生徒の問題行動について児童相談所、学校、警察、医療機関等の関係機関が連携して対応する際に、当該関係機関等の間で問題行動に係る児童生徒の情報を交換する場合や児童生徒の問題行動や児童虐待に対応するために関係機関においてネットワークを組んで対応する場合を挙げている。

すなわち、養育者による虐待の通告は、被虐待児の同意を得ることなく行うことができます。
よって、選択肢②は秘密保持義務違反とならないので不適切と言えます。

『③意識不明のクライエントの状況について配偶者に説明する場合』

前選択肢と同じですが、個人情報保護法第23条には以下が規定されています。

  1. 法令に基づく場合
  2. 人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき
  3. 公衆衛生の向上又は児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。
  4. 国の機関若しくは地方公共団体又はその委託を受けた者が法令の定める事務を遂行することに対して協力する必要がある場合であって、本人の同意を得ることにより当該事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとき。

第1項の内容を言い換えれば「ここに掲げた場合には、本人の同意を得なくても個人データを第三者に提供できます」ということですね。

本選択肢で定められた状況は、上記の第2号に該当すると見てよいでしょう。
よって、選択肢③は秘密保持義務違反とならないので不適切と言えます。

『④クライエントのケアに直接関わっている専門家同士で話し合う場合』

この選択肢の状況は、例えば、医療機関内の専門家同士の連携に留まらず、機関間の情報共有もあり得る状況だと思います。
精神医学的問題を抱えた高校生の事例で、学校に所属しつつ医療機関にも通い、併せて福祉機関と連携を取るということもあり得るでしょう。
こうした場合の専門家同士の話し合いでの情報共有が適切であるか否かですね。

個人情報保護法第15条「利用目的の特定」において、以下のように規定されています。

  1. 個人情報取扱事業者は、個人情報を取り扱うに当たっては、その利用の目的をできる限り特定しなければならない
  2. 個人情報取扱事業者は、利用目的を変更する場合には、変更前の利用目的と関連性を有すると合理的に認められる範囲を超えて行ってはならない。

更に、第16条には「利用目的による制限」が定められています。

  1. 個人情報取扱事業者は、あらかじめ本人の同意を得ないで、前条の規定により特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて、個人情報を取り扱ってはならない
  2. 個人情報取扱事業者は、合併その他の事由により他の個人情報取扱事業者から事業を承継することに伴って個人情報を取得した場合は、あらかじめ本人の同意を得ないで、承継前における当該個人情報の利用目的の達成に必要な範囲を超えて、当該個人情報を取り扱ってはならない。

よくアンケートとかで「ここで得た情報は○○以外の目的で利用しません」とありますが、その基はこの条文になります。
言い換えれば、その個人情報の取り扱いは、利用の目的の範囲内であればオッケーであるということですね

ここで押さえておかねばならないのが、「クライエントのケアに直接関わっている専門家同士で話し合う」という状況が「利用目的の範囲内」であるか否かです。
クライエントのケアに関わる専門家ですから、当然利用目的は「クライエントのケア」に係わることになりますよね
利用目的の範囲内の行為であると見做すことに問題はないでしょう。

もちろん、このクライエント情報を「ケア以外の目的」で利用する場合、例えば、論文発表する場合は新たにクライエントに許可を取らねばならないということになります。

よって、選択肢④は秘密保持義務違反とならないので不適切と言えます。

『⑤通院中のクライエントのきょうだいから求められ病状を説明する場合』

まずこちらの内容では個人情報保護法第23条には該当しないことがわかります。
「人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき」という規定は、通院中のクライエントには該当しないと見てよいでしょう。

個人情報保護法の観点から考えると、個人情報の利用は本人の同意の範囲内において行われることになります。
よって、患者の家族等への病状の説明についても、個人情報の第三者提供に該当しますので、個人情報保護法の規定上、患者の同意が原則として必要です
ただし、それは家族への病状説明に関する説明が何もなかった場合です。

医療機関において患者の家族等への病状説明は医療機関の通常業務において想定される範囲内の行為です。
例えば、個人情報の利用目的として「家族等に対する病状説明」が明記されたものが院内掲示もしくは書面が交付されていれば、患者本人による留保(不同意)の意思表示がない限り黙示の同意が行われているものと取り扱われます。

本選択肢では、上記のような掲示や書面の交付がなされていたという記載が無いので、選択肢⑤は秘密保持義務違反になると思われます
よって、選択肢⑤が秘密保持義務違反ですから、こちらの選択肢を選ぶことが求められます。

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