公認心理師 2024-115

EBPPの趣旨に沿った支援方針決定手続きに関する問題です。

エビデンスに関する適切な理解が求められていますね(エビデンス=科学的根拠、とだけ覚えている人が非常に多いですね)。

問115 2006年にアメリカ心理学会が示した「心理学におけるエビデンスに基づく実践(EBPP)」の趣旨に沿って支援方針を決定する際の手続に含まれないものを1つ選べ。
① システマティックレビューから知見を得る。
② 治療関係についての質的研究から知見を得る。
③ 治療技法に関するクライエントの希望を考慮する
④ ランダム化比較試験に基づく効果研究から知見を得る。
⑤ クライエントの文化的背景によらず、標準的な支援法を選択する。

選択肢の解説

① システマティックレビューから知見を得る。
② 治療関係についての質的研究から知見を得る。
③ 治療技法に関するクライエントの希望を考慮する
④ ランダム化比較試験に基づく効果研究から知見を得る。
⑤ クライエントの文化的背景によらず、標準的な支援法を選択する。

今日ではさまざまな臨床現場でエビデンスが重視されるようになっていますが、これは医療分野で 1990 年代初頭からはじまった「根拠に基づく医療」(Evidence-Based Medicine :
EBM)という概念の影響が大きいと言えます。

EBMの流れを受けて、医療領域における広範な対人援助の分野においても、エビデンスに基づく実践(EBP)という概念が生まれてきた。

根拠に基づく実践(Evidence-based practice:EBP)は1992年に正式に導入されてから普及してきた、臨床実践への学際的なアプローチであり、コ・メディカルと教育分野とその他に広がりました。

この中でさらに心理学においてエビデンスに基づく実践のことを Evidence-Based Practice in Psychology(EBPP)と言います。

このEBPPについては、2006年にアメリカ心理学会(American Psychological Association:APA)において「心理学におけるエビデンスに基づく実践は、患者の特徴や文化および選択(意向・嗜好)といった文脈において、利用可能な最良の研究成果と臨床的専門性とを統合す
ることである」と定義しました。

このEBPPの定義は、大きく以下の3つの要素から構成されています。

  1. エビデンス:
    内的妥当性および外的妥当性のバランスの取れた研究によるエビデンスのことであり、ランダム化比較試験が治療の効果を検証するためのより厳密な方法である。
  2. 臨床技能:
    患者の特性や好みに応じて、研究によるエビデンスを見出し、臨床データと統合する能力のこと。これは専門家といえども誤謬はつきものであり、すべての人間は誤りを犯し、バイアスを有するという前提に立っている。
  3. 患者の特性:
    現在の機能、変化へのレディネス、ソーシャルサポートのレベル、症状のバリエーション、年齢、発達段階やライフステージ、社会文化的要因、現在おかれた環境要因、ストレッサー、個人的嗜好、価値観などが含まれる。

したがって、EBPPの定義を要約すると、クライエントを尊重しながら、ベスト・エビデンスを選び出し、実践のなかで活用することということができるでしょう。

なお、エビデンスの内的妥当性とは「正式な教育や訓練を通じて得られた知識、日常の診療で蓄積された一般的経験、個々の臨床医と患者の関係を通じて得られた経験からなる」ものであり、外的妥当性とは「研究から得られるアクセス可能な情報であり、有効な外的エビデンスとしてはランダム化比較試験など」になります。

ランダム化比較試験については「公認心理師 2021-97」にありますが、心理療法の効果検証に有効な方法であり、選択肢④の「ランダム化比較試験に基づく効果研究から知見を得る」が適切な内容であることがわかります。

また、内的妥当性の内容として、選択肢②の「治療関係についての質的研究から知見を得る」も含まれていることがわかりますね。

更に、選択肢③の「治療技法に関するクライエントの希望を考慮する」というのも重要なEBPPの趣旨に沿った対応であることが明示されていますし、選択肢⑤の「クライエントの文化的背景によらず、標準的な支援法を選択する」については明確にEBPPの趣旨に反するものであると言えますね。

そして、EBMのデータベースとして有名なのは、イギリスの疫学者Cochraneが創始したコクラン共同計画ですが、これは疾患別に系統的なシステマティック・レビュー(文献調査)を行い、結果を「コクラン・ライブラリー」として インターネットで公表しています。

疾患にはうつ病などの精神疾患も含まれており、システマティック・レビューには、①研究テーマの設定、②研究結果の収集、③各研究の妥当性の評価、④要約、⑤メタ分析による統計学的解析、⑥結果の解釈、⑦編集と定期的更新という7つの要素が含まれています。

EBPPは単独で発生したわけではなく、EBMの台頭と強く結びつきながら生じてきているという経緯を踏まえれば、選択肢①の「システマティックレビューから知見を得る」というのもEBPPの趣旨に沿ったものであると見なすことができます。

以上より、選択肢①、選択肢②、選択肢③および選択肢④はEBPPの趣旨に沿った支援方針を決定する際の手続きに含まれると判断でき、除外されます。

そして、選択肢⑤がEBPPの趣旨に沿った支援方針を決定する際の手続きに含まれていないと判断できますから、こちらを選択する必要があります。

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