公認心理師 2021-114

アウトリーチに関する問題です。

本当に基本的な理解を問うているという感じの問題ですから、しっかりと取っておきたいですね。

問114 アウトリーチ(多職種による訪問支援)の説明として、不適切なものを1つ選べ。
① 多職種・多機関でのチーム対応が求められる。
② 虐待事例における危機介入で用いられる手法の1つである。
③ 支援者が自ら支援対象者のもとに出向く形態の支援である。
④ 対象者のストレングスの強化より病理への介入が重視される。
⑤ 対象者の多くは、自ら支援を求めない又は求められない人である。

解答のポイント

アウトリーチに関する基本的な理解を有している。

選択肢の解説

本問の解説は以下の書籍を基に起こっていきます。

というより、おそらく本問自体が上記の書籍の「アウトリーチ」の項目を踏まえて作られたものであると考えられます。

③ 支援者が自ら支援対象者のもとに出向く形態の支援である。
⑤ 対象者の多くは、自ら支援を求めない又は求められない人である。

アウトリーチとは、直訳すると「手を伸ばす」という意味であり、支援者が対象者のもとへ出向く、すなわち「家庭訪問」に近いニュアンスで用いられます。

近年、包括型地域生活支援(重症の精神障害者に対して、地域で包括的な支援を提供するプログラム。ACTと称される)が広まるにつれて、アウトリーチの必要性が現場に求められてきました。

しかし、アウトリーチの対象者は、援助を求めない、あるいは援助を求められないために、自ら支援機関に繋がることがない人たちであることも多いです。

アウトリーチは、支援・治療の前段階として位置づけられ、このような対象者を適切な支援機関・サービスにつなぐことが目標となります。

そのため、アウトリーチは対象者と一対一の人間関係として出会うことから始まります。

対象者に寄り添い、徹底して受容的態度で話を聞き、対象者の相談に対する小さなニーズに一つひとつ応えながら、地域の支援機関や様々な支援サービスを紹介したり、支援の必要性を伝えていきます。

場合によっては、時間をかけて何度も訪問する等、対象者と関係性を築き、実質的な支援に繋いでいくことが求められます。

ただし、アウトリーチでは対象者の過程や所属機関に出向く以上、通常の面接室における「治療構造」や「枠」というものは成り立ちません。

また対象者は相談に対するニーズが低く、支援への抵抗感から、支援者に対して攻撃的・拒否的な態度を取る場合も多いです。

そのため、アウトリーチでは対立関係を乗り越えるプロセスが、支援機関につなぐための最初の課題になることも少なくありません。

以上のように、アウトリーチは支援者が自ら支援対象者のもとに出向く形態の支援であり、その特性上、対象者は自ら支援を求めない又は求められない人であることが多いです。

よって、選択肢③および選択肢⑤は適切と判断でき、除外することになります。

② 虐待事例における危機介入で用いられる手法の1つである。

対象者が自傷他害の可能性を持っている場合、アウトリーチは法的介入のニュアンスを持つことも多くなります。

例えば子ども虐待を例に挙げると、子どもを虐待する養育者のもとにアウトリーチを行う際には、事実確認をした上で、子どもの安全のために、不適切な養育を止めてもらう「一歩も引かない態度」が必要となります。

度の過ぎた虐待の場合は(虐待に度も何もないと思うけど)、児童相談所による子どもの一時保護など、法的な介入も辞さないことになります。

しかしながら、法的介入を受けた養育者側からすれば、支援機関に子どもを奪われたという日概観を感じることから、攻撃的・拒否的な態度をあらわにすることが非常に多くなります。

養育者の攻撃的な態度には、支援者は「怒りを見立てる」ことが重要になります。

一方、拒否的な態度を示す養育者には、生活の中で、どんなことに困っているのかを見立て、支援に対する「ニーズの引き出し」が求められます。

支援者は、強権的な態度と支援的な態度のバランスを取りながら、養育者の攻撃的・拒否的な反応を見立て、子どもの安全を最低限守ることについて養育者と共有した後、信頼関係を構築するために、養育者の情緒に焦点を当てた関わり、そして実際に養育者を支援する機関に繋いでいくことになります。

このように、アウトリーチでは虐待事例の危機介入で行われることが多いと言えますね。

よって、選択肢②は適切と判断でき、除外することになります。

① 多職種・多機関でのチーム対応が求められる。
④ 対象者のストレングスの強化より病理への介入が重視される。

アウトリーチをする際には、豊富な地域リソースの知識、および生物‐心理‐社会の視点から統合的なアセスメントスキルが求められます。

また、すぐさま関係が築けない場合でも、対象者への絶えざる関心が必要不可欠になります。

特に被害者支援におけるアウトリーチでは、既に信頼関係が構築された対象者への訪問看護や危機介入的な家庭訪問とは異なり、セラピーではなく、あくまで支援や機関につなぐための一つの処遇というニュアンスが強くなります。

そのため、アウトリーチをする際には、強固な信頼関係の構築を目指すのではなく、対立していてもある程度の信頼関係を基に多機関に繋いでいくことが目標となります。

また、アウトリーチの前提として、一機関、一担当者だけが抱えるのではなく、多職種・多機関でチームを組んだ対応が求められます。

対象者からの攻撃や拒否を受けることも考えられるので、支援者は所属機関で守られる安全な環境も必要不可欠です。

さらに、アウトリーチの際には、動機づけ面接の視点と、対象者と関係を切らさないようにエンパワメントしていくためにも、ストレングス視点を支援者側で意識することも非常に有用です。

ストレングスとは、1980年代後半からソーシャルワークにおいて「病理」に対抗する用語として用いられるようになった概念であり、ざっくりと「強み」という意味があります。

目標、才能、自信、資源、人材、機会など様々なものを指す用語ですが、大枠としては「その人の強み」「生きていく力」というイメージで用いていることが多いですね。

アウトリーチにおいては、病理モデルで捉える、すなわち「その人の持っている問題や障害」にばかり目を向けるのではなく、「様々なことができない状況のなかでも対応して生活してきたクライエントのストレングスをどのように生かして支援するか」という捉え方が重要になってくるとされています。

もちろん、「良いところだけを見て、悪いところは見ない」というのではなく、きちんと「良いところ」「その人が有している力」を見つけ、そこを伸ばすような姿勢が重要であるということですね。

以上より、アウトリーチでは、多職種・多機関でのチーム対応が求められ、対象者のストレングス強化を目指した介入が重要とされています。

よって、選択肢①は適切と判断でき、除外することになります。

また、選択肢④が不適切と判断でき、こちらを選択することになります。

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