チームアプローチにおける公認心理師の姿勢に関する問題です。
本問の解説に役立つような書籍や知見もあるとは思うのですが、一つひとつの選択肢について文献を引用するのも大変なので、今回は私の考えを中心にして解説していきましょう。
問110 チームアプローチをとる際の公認心理師の姿勢として、不適切なものを1つ選べ。
① 自分の役割と限界を自覚する。
② チーム形成の目的や、支援方針を共有する。
③ チーム内のスタッフ間の葛藤や混乱を整理する。
④ チームアプローチのためには、社会人としての常識を必要とする。
⑤ チームアプローチであっても、職務に関する問題は、専門家として責任を持って一人で解決を図る。
解答のポイント
チームアプローチにおける常識的な対応について理解している。
選択肢の解説
① 自分の役割と限界を自覚する。
さて、チームアプローチですが、そもそも「どこまでがチームなのか?」という前提によって、他職種と関わっている・いないに関わらずチームアプローチになり得ます。
クライエントは、カウンセラーとの関係だけでなく、多くの人や物との関係の中で改善が見られます。
家族はもちろん、友人・知人、親せき、優しくしてくれた見ず知らずの人などが、実はクライエントに対して大きな影響を与えるという事実は、語られる範囲でもかなり見受けられます(語られない影響も含めるとさらに大きいでしょう)。
また、自然と触れ合うという体験の影響もあり得るので、そうなると他職種と関わっていなくてもチームアプローチであると言え、臨床実践においては「あらゆるものとチームを組んでやっていく」というのが実態であると言ってよいでしょう。
ただ、本問ではそういう「どこまでがチームなのか?」という本質的な問いは棚上げし、単純に「他職種とチームを組んでアプローチしていく」という状況を前提として解いていくこととしましょう。
本選択肢の「自分の役割と限界を自覚する」というのは、個人臨床はもちろん、チームにおいても重要ですね。
チームアプローチをとる、他職種と一緒になって支援を行っていく場合、たいていは「多くの支援者が関わる方が効果的である」という事態があるわけです。
例えば、クライエントの生活など現実面の支援が必要ならソーシャルワーカーのような立場のアプローチが必要ですし、身体疾患があればそれに適する専門家の支援も欠かせません。
これらの支援は「心理に関する支援を要する者」に対して支援を行うのが前提(公認心理師法第2条)の公認心理師では、助言はできても手は出せないという範囲になるでしょう(もちろん、手が出せる範囲はカウンセラーによってかなり異なるが、少なくとも福祉的・制度的なところの支援が必要な場合は文字通り「手が出せない」はずですね)。
こういう範囲の支援が必要なクライエントに対して、他領域とチームを組んでやっていくことが大切なわけです。
そして、こういう「他職種が関わる方が効果的」という事態において、カウンセラーが「自分の役割と限界を自覚」していなかったら大きな問題が生じます。
「自分の役割と限界を自覚する」ことができていない場合、「自分がやるべきことを認識できていない」「他職種がやるべきことを自分でやろうとする」「他職種の職域に踏み込んでしまう」ということが生じやすくなってしまいます。
自分の役割を小さく見積もればカウンセラーとしての役割を果たさねばならない場面で機能できませんし、カウンセラーが自身を肥大させていれば依頼すべき場面でそれができないわけです。
特に後者の場合、クライエントの問題の内容から他職種との連携がすぐにできれば、問題が大事にならないうちに何とかなったものを、万能感を背景にしたカウンセラーが抱えすぎたためにクライエントや周囲が大変な苦労を背負うことになるということもあり得るわけです。
カウンセリングに限らず心理支援全般に言えることですが、「終わり良ければ総て良し」ではなく、「最初が肝心」なんです。
このように自分の役割と限界を自覚せずにいることで、クライエントやその周囲に対して多大な負担をかける恐れがあります。
よって、選択肢①は適切と判断でき、除外することになります。
② チーム形成の目的や、支援方針を共有する。
チームアプローチでは、クライエントを支援するという前提は当然ですが、個々のクライエントで「全体的な目標」と「個々の支援者の目標・役割」というものが存在すると思います。
全体的な目標に関しては、クライエントの主訴によって「不登校の改善」「社会復帰」「生活の再建」など様々なものがあり得て、これ自体が本選択肢の「チーム形成の目的」になる場合が多いでしょうね。
そして選択肢後半の「支援方針」ですが、「チーム形成の目的」に向けて具体的に行っていくことになりますが、これは先述の「個々の支援者の目標・役割」になるでしょう。
それぞれの支援者の目標や役割については、他職種の「できること」の範囲で定められていくでしょうし、カウンセラーの役割でできることについてはきちんと伝え、チームで共有することが重要になります。
さて、当然のことのようですが「共有」が大切なのは、他職種がやっていることを理解しておくことで、①チームとして支援する形を取りやすい、②知らず知らずのうちに他職種の範囲に踏み込むリスクが減る、③クライエントが他職種のアプローチに対してどのような反応を示すかで見立てがしやすい、ということが挙げられるでしょう。
このように本選択肢の「チーム形成の目的や、支援方針を共有する」のはチームアプローチにおいて重要なことであると言えますが、留意点もやはり存在します。
事故学の知見ですが、事故が起こりにくい環境としては「各人の役割が重なっており、ダブルチェックが自然に行われている」ということが挙げられます。
チームアプローチで、それぞれの専門家の役割を確認し共有するというのは当然の手続きですが、「チームアプローチ」という人が作ったものを入れることによって、どうしても各専門家の境目が線引きされやすくなってしまいます。
先述の通り、クライエントは多くの人や物から支えられているのが実態ですし、クライエントを支援するための「チームアプローチ」がこういう「自然な支援」からの分断にならないように気を付けておくことが重要です。
特に心理支援はカウンセラーの特権ではなく、多くの人が自然と行っているものですから、「心理的な支援はカウンセラーにお願いします」という方針がチームとして共有されることも多いのですが、それは実態とややずれたものになる可能性があることを知っておく必要があります(チームアプローチの場で言う必要はないけど)。
以上のように、チームアプローチにおいてチーム形成の目的や、支援方針を共有することは大切であると言えますね。
よって、選択肢②は適切と判断でき、除外することになります。
③ チーム内のスタッフ間の葛藤や混乱を整理する。
よくチームアプローチにおけるカウンセラーの役割で、クライエントへの心理支援に加えて、チーム内の潤滑油になるということが挙げられます。
「チームアプローチ」と言っても、実態としてはクライエントの問題によって、ある専門職に負担が偏るということもあり得るでしょうし、ある専門職のアプローチの成否次第で別の専門職のアプローチが可否が決まるということもあり得ます。
こういう専門職間のバランスの悪さはどうしても生じるものですから、その辺の調整や不満のケアも大切になります(ほんの一言、〇〇さんの負担が大きくなって申し訳ないです。そして、こういう時にはうまくいかないことも多いし、そうなったらそうなったでやれることをまた集まって考えましょう。などと伝えておくだけでも良いわけです)。
また、多少例外的ではありますが「チームの専門家間の関係を悪くする」というクライエントもおります。
例えば、本当はクライエントの意見なのに「〇〇先生がこういう風に言っていた」と言って、クライエントの話を真に受けた別の専門家が不満を示す(学校にいると、カウンセラーが学校に行かなくていいって言った、などがあり得ますね)、他の専門家の言葉の一部を切り取ってネガティブなニュアンスとして伝えてくる、などがあり得ます。
これはカウンセラー自身がネガティブな意見を言った側としてやり玉に挙げられることもあれば、他職種の言動が問題として伝えられることもあります。
いずれにしても「そういうことが生じ得るクライエントである」という見立てができていれば、チーム会議の中で「こういうことが生じる可能性があるけど、そういう話がされたときに他の専門家のやっていることについて否定的意見をクライエントに言わないようにしましょう」と伝えて予防することができます。
もしも、そういう事態になったとしても、私は「先生がそういうことを言わないのはわかっています。クライエントの問題の一つとして捉えてやっていきましょう」と伝えて混乱を鎮めることが多いです(もちろん、この前提には各チーム成員に対する信頼がある)。
いずれにせよ、チームが揺さぶられる自体もそれなりに生じるものであると考えておきましょう。
以上のように、チームアプローチにおける心理職の役割に、チームの葛藤や混乱に対処するということも挙げられます。
よって、選択肢③は適切と判断でき、除外することになります。
④ チームアプローチのためには、社会人としての常識を必要とする。
これは別にチームアプローチに限らない話であろうと思います。
私たちは「心理支援者」である前に「社会人」であり、「社会人」である前に「一人の人間」であるわけです。
「心理支援者」「社会人」「一人の人間」という役割が重層的に備わっているわけで(人によっては、男性(女性)である、親である、と言った役割が入ってくるでしょう)、それぞれの役割において「常識的・倫理的・道徳的に求められるところがクリアされている」ということは支援というよりも人と関わること、社会活動をする上での前提と言えます。
そして、上記のような一人の人間が有している様々な役割は、それぞれが独立で成り立っているのではなく、関連しあいながら成熟していく面があります。
つまり、「心理支援者」として成熟していくと「一人の人間」としての成熟も促しますし、その逆も起こってきます。
ですから「心理支援者としては優秀だけど、社会人としてのマナーができてないね」ということは相対的には生じにくいはずですが、やはり起こらないというわけではありません。
私が経験するところで最も多いのが服装に関するものですが、心理支援者の中には公的機関に平気でラフな格好で行く人も散見します(そういう人は比較的、腕も悪いですけど)。
「常識に囚われない」「精神的に自由である」ということと、「その場のPTOを弁えない」ということは全く別のベクトルです。
きちんとした「心理支援者」として見られたいのであれば、「社会人」「一人の人間」として弁えておくべき常識は備えていると周りから見られるように振る舞うことが重要です。
もしも「心理支援者」が常識のない言動を取ることで、心理支援者が語る方針について他専門家が懐疑的になるなどの影響が出れば、最も不利益を被るのはクライエントなんです。
クライエントの利益が最大化するためにも、チームアプローチをする中でも、社会人として一人の人間としての常識やマナーがきちんと備わっているということが重要です。
以上より、チームアプローチにおいてカウンセラーは社会人としての常識を備えていることが重要になります。
よって、選択肢④は適切と判断でき、除外することになります。
⑤ チームアプローチであっても、職務に関する問題は、専門家として責任を持って一人で解決を図る。
チームアプローチにおいて「職務に関する問題は、専門家として責任を持って一人で解決を図る」ということですが、これではチームアプローチの重要な要素を外してしまうことになります。
一見して「カウンセラーの職務に関する問題」だとしても、それはチーム全体に影響を与えることもあり得ます。
例えば、クライエントが「面接に訪れない」「遅刻が多い」という場合が問題だったとしても、福祉職との金銭に絡む要件だと「クライエントから連絡が来る」「遅刻がない」という場合もあり得ますね。
そうなると、クライエントの「現実的な問題の深さ」や「心理的なゆとりの無さ」が、そのコントラストによって見立てられることもあります。
すなわち、上記のような状況でクライエントの遅刻等を「職務に関する問題は、専門家として責任を持って一人で解決を図る」ということをやっていると、クライエントの見立てが不十分なままでアプローチを続けるということになりかねません。
チームアプローチの大きな利点としては、「クライエントの特徴が多面的に見ることができる」ということが挙げられます。
ですから、チームアプローチの中で見られる「職務に関する問題」は、実はチーム全体の支援の質を上げるために重要な情報になり得るのです。
これを「責任を持って一人で解決を図る」というのは、重要な情報がチームに還元されないということになりますから、結果として支援の足を遅らせる恐れもありますね。
以上より、チームアプローチにおいては、その専門家の職務に関する問題はクライエントの重要な情報であり、その情報をもって他専門職の支援に役立てることができるという点で一人で解決を図るものではないと言えます。
よって、選択肢⑤が不適切と判断でき、こちらを選択することになります。