先日、スクールカウンセラーで行っている高校で進路相談を受けました。
心理学を学びたい学生を対象に、心理学に関する講義を行い、どういったことを大学や大学院で学ぶのか、公認心理師と臨床心理士の違いなどを伝えました。
改めて考えてみると、出回っている多くの心理学に関する書籍が、専門家向けだったり、当事者・家族向けだったり、心理学を学んでいるさなかにある人向けだったりします。
そんな中で、私が高校生向けとして良いなと思うのが「岩波 高校生セミナー11 カウンセリングの心理学-物語に映るあなたの心-」です。
倉光修先生が、実際に高校生向けに行ったセミナーを書籍化したものなので、高校生が実際に質問し、先生が答えている様子なども書かれています。
高校生向けの心理学書籍はあるにはあるのですが、このような双方向で書かれているものは見当たりません(私が知らないだけかもしれないけど)。
倉光先生と言えば、多くのアプローチを先生なりに統合して臨床にあたっておられる有名な臨床家です。
この書籍では、倉光先生のアプローチの基本的仮説がわかりやすく述べられております。
「心の病」「心の傷」「個人的当為」「諦め」などの、倉光先生のアプローチに関する解説もあり、本書が絶版なのがもったいないなと感じます。
ちなみに倉光先生のアプローチをしっかりと学びたい方はこちらがお勧めです。
また、「諦め」についてはこちらが詳しいです。
これらの書籍もお勧めなのですが、実はこの「カウンセリングの心理学」には付録があります。
倉光先生が実践で得られた「カウンセリングのコツ」がまとめられており、これは他の書籍では読めないものになっています(たぶん)。
一例を紹介します。
- クライエントが話していない感情や欲求については、その際、「そういう状況だと、~だったのではないですか」といった質問形式にするのが無難。相手がそう言っていないのに、「~でしょう」は危険。まして、「それは大変でしたね」とか、「その気持ちはわかります」などと安易に言わない(相手の内界を完全に理解できるはずはないのに、こう言うと、すべてわかるかのように誤解される。あるいは、本当にはわかっていないということがクライエントにわかる。結局、信頼を失う)。
- 個人的なことを聞かれたら、簡単に答えて、それをなぜ聞きたかったかを推測して、確認してみる。
- 「うんこ」「おちんちん」などは、否定されがちな自分の一部を象徴しやすい。そこで、そういう発言があるときは、存在価値と、コントロール価値を共に伝えるとよいことが多い。
- 話された内容と、表情や声の調子、身体の動きなどが矛盾する場合は、後者を重視する。
- 決して、自分が同じ体験をしたとは言わない(全く同じ体験であるはずがないので、同じ体験と誤解されるか、自分はだめだと否定的感情を引き起こすか、この人は自分のことがわかっていないと正しく評価されて信用を失うか、どれかである)。
本書では、倉光先生が誠実に高校生たちの質問に答えているのがわかります。
その中には現在の状況と齟齬がある応答もありますが、それは1999年に出版されている本ですから、その当時からどのくらい臨床心理学の世界が変わったのかを見ていくという姿勢で読むのが良いでしょう。
それにしても、手に入らなかったり、絶版になっている本の紹介ばかりになっていますね…。