公認心理師 2018-1

サイコロジカル・ファーストエイドの活用場面を選ぶ問題です。

この分野は複数出ましたね。

やはり緊急支援は重要な領域と認識されているのでしょう。

問1 サイコロジカル・ファーストエイドを活用できる場面として、最も適切なものを1つ選べ。
① インテーク面接
② 予定手術前の面接
③ 心理検査の実施場面
④ 事故現場での被害者の救援
⑤ スクールカウンセリングの定期面接

解答のポイント

サイコロジカル・ファーストエイドに関する基本的な理解があること。

選択肢の解説

④ 事故現場での被害者の救援

サイコロジカル・ファーストエイド(Psychological First Aid:PFA)は、災害やテロの直後に子ども、思春期の人、大人、家族、災害救援者やその他の支援者に対して実施できる、効果が確認された心理的支援の方法を必要な部分だけ取り出して構成したものです。

PFAは、トラウマ的出来事によって引き起こされる初期の苦痛を軽減すること、短期・長期的な適応機能と対処行動を促進することを目的としています。

なお、PFAの原理および手法は、以下の4つの基本的規格を満たすとされています。

  1. トラウマのリスクと回復に関する研究結果に合致する
  2. 災害現場への適用が可能で、実用性がある
  3. 生涯発達の各段階に適切である
  4. 文化的な配慮がなされており、柔軟に用いることができる

上記のPFAが用いられる状況に関する記述は、本選択肢の「事故現場での被害者の救援」という状況に合致していることがわかりますね。

以上より、選択肢④が最も適切と判断できます。

① インテーク面接

インテーク(intake)面接とは、受理面接あるいは初回面接とも呼ばれ、クライエントに対して行われる最初の面接のことを指します。

インテーク面接では、クライエントがどのような問題を抱えているか把握し、必要なアプローチを判断します。

同時に、クライエントの動機づけを高めることも重要で、この「見立てに必要な情報収集を行う」と「動機づけを高める」がインテーク面接の一般的な目的と言えます。

上述の通り、PFAは「極度のストレスをもたらす出来事の直後にどのような支援を行うべきかについて、最新の科学と国際的な合意を反映したもの」です。

よって、インテーク面接という「さまざまなクライエントが想定される場面」において優先的に用いられるものではないことがわかりますね。

以上より、選択肢①は不適切と判断できます。

② 予定手術前の面接

この選択肢が丁寧なのは、わざわざ「予定」という文言を入れてくれているところです。この文言があることで迷いなく本選択肢は除外できます。

例えば、この手術が災害時のものであれば(つまり、災害緊急時における「予定外」の手術であれば)、もしかしたらPFAのアプローチも援用できる可能性があります。

PFA内には「手術」というワードは出てきませんが、対象にトラウマ反応が見られる場合にはPFAを念頭に置くという状況も否定できないでしょう。

しかし、本選択肢のように「予定」という文言があることによって、「平常時に行われる手術」という状況が想定されるはずです。

このことから、「極度のストレスをもたらす出来事の直後にどのような支援を行うべきかについて、最新の科学と国際的な合意を反映したもの」であるPFAを優先的に用いることはないと考えるのが妥当ですね。

以上より、選択肢②は不適切と判断できます。

③ 心理検査の実施場面

まず、心理検査を実施する基本的状況を踏まえておきましょう。

  1. クライエントの抱える問題・課題について、面接等とは別方向からの情報が欲しいとき。
  2. 検査を実施することによって得られる情報の重要度が、検査によってクライエントに与える心理的衝撃を上回っていると見立てられるとき。

1については多くの人が念頭に置いていると思うのですが、意外と上記の2を忘れがちかなと思うんです。

ですが、「情報は得られた。だが、クライエントは悪化した」ではやっていることが滅茶苦茶ですよね。

実践上はこの点を忘れないようにしましょう。

すでに述べたとおり、PFAが導入されるのは災害時のような危機状況です。

心理検査が導入されるのは平常時~緊急時の幅広い場面が想定され、PFAという緊急時にのみ採用される対応がここに入ってくるのは不適切と言えますね。

ちなみに、実施される心理検査がトラウマに関するものの場合であっても、本選択肢は適切とは判断されません。

なぜなら、「心理検査の実施場面」という時系列で言えばトラウマ反応の有無が判定される前にPFAが導入されるのは矛盾があります。

PFAが導入されるならば、心理検査によってトラウマ反応が認めらえるとなった後のはずですよね。

つまり、「心理検査の実施→トラウマ反応あり→PFAの導入」となるのが自然であり、本選択肢の内容だと「心理検査の実施時にPFAを導入」となりますから、明らかに矛盾があるということです。

以上より、選択肢③は不適切と判断できます。

⑤ スクールカウンセリングの定期面接

本選択肢も選択肢③と同様、とても丁寧です。

なぜなら「定期」という文言を付してくれているからです。

定期的な面接という状況設定は、PFAが適用されるような緊急事態ではないということがわかりますね。

また、スクールカウンセリングという状況設定もあまりに限定的です。

もちろん、学校でもしばしば緊急事態が起こります。

事件や事故、不祥事などがその状況と言えますね。

しかし、PFAは災害時に広く採用される対応であり、本選択肢の状況設定は不適切と言えるでしょう。

以上より、選択肢⑤は不適切と判断できます。

ちなみに、学校における緊急事態では、各県で対応が定められていることが多く、スクールカウンセラーとして勤務するなら定められている緊急時の動きも理解しておくことが大切になってきます。

その理解に基づき、スクールカウンセラーが対応の指針を示し学校の安定を図ることは、組織全体が揺さぶられる緊急時における支援の重要な一手と言えるでしょう。

そういえば、日本においては学校CRT(Crisis Response Team)の活動指針が示されたこともありましたね。

学校CRTは「児童・生徒の多くにトラウマを生じかねないような事故・事件等が発生した場合に学校に駆けつけるこころのレスキュー隊」と説明されていますが、あまり全国的な広がりはなかったようです。

これは学校に限らずですが、組織の中でカウンセラーが対応する場合、その組織の文化・風土を踏まえて対応にアレンジを加えていくことが大切です。

理論的には正しくても、その組織の文化や風土の中では実践が難しいことも少なくありません。

よく支援会議で「正しいけど、それを言い出したら始まらないでしょ」という発言をしている人はいませんか。

心理支援にあたる上では「正しいけど非常識」「正しいけど非人情」ということもあるのだと理解しておくことが大切ですね。

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