公認心理師 2018-13

社会的認知のバイアスに関する問題です。

問13 社会的認知のバイアスについて、正しいものを1つ選べ。
① 他者の内面を実際以上に理解していると誤解することを透明性の錯覚〈透明性錯誤〉という。
② 集団の違いと行動傾向との間に、実際にはない関係があると捉えてしまうことを疑似相関という。
③ 観察者が状況要因を十分に考慮せず、行為者の内的特性を重視する傾向を行為者‐観察者バイアスという。
④ 自分の成功については内的要因を、自分の失敗については外的要因を重視する傾向を確証バイアスという。
⑤ 人物のある側面を望ましいと判断すると、他の側面も望ましいと判断する傾向を光背効果〈ハロー効果〉という。

こちらは直前に臨床心理士資格試験の過去問(H29-4)でやっていたので、ちょっと安心して解くことができました。

解答のポイント

各バイアスについて理解していること。

選択肢の解説

①他者の内面を実際以上に理解していると誤解することを透明性の錯覚〈透明性錯誤〉という。

透明性の錯覚とは、自分の考えや感情を他者が理解していると思い込みすぎる傾向を指します。

透明性の錯覚はギロビッチが「集団による問題解決実験」という実験により確かめられました。

「集団による問題解決実験」とは、実験参加者たちに複数人の前で嘘をつくよう求め、その後その嘘を何人に見透かされたと思ったか尋ねたというもので、結果は見透かされたと実際よりも思いやすかったわけですね。

例えば、一生懸命伝えようとしても相手に伝わらない時にイライラしてしまうのも、そもそもが、相手が理解してくれるという思い(透明性の錯覚)によるものと捉えることが可能です。

こうした現象の理由としてよく示されるのが「(認知的)経済性」です。

単純に言えば「コストパフォーマンスが高い」ということであり、相手が理解しているかなどを正しく把握しようとすればするほど非常に大きな精神的交通が伴うことになり、その正確な判断をするエネルギーがもったいないので「相手がわかってくれてる」という前提で関わる方がラクということですね。

こうした特徴によって「わかってもらっている気になる」わけですが、そういう目で見てみると、カウンセリングは非常に「コストパフォーマンスが低い」作業になるわけです。

しかし、そのコストを払う人が少ないがために、我々のような職業が成り立つとも言えますね。

いずれにせよ、本選択肢は「他者の内面を」とありますが、透明性の錯覚の正しい理解は「他者が自分の内面のことを」となりますね。

以上より、選択肢①は誤りと判断できます。

②集団の違いと行動傾向との間に、実際にはない関係があると捉えてしまうことを疑似相関という。

本選択肢の内容は「錯誤相関」についての記述となります。

2変数の間に実際には相関(関連)がないにも関わらず、関連があるように感じられる現象のことを指します。

成員数が大きく異なる2つの集団があるとき、たとえ2つの集団の成員における悪い行いをする人の割合が等しくても、小さい集団の方が悪い行いをする人の割合が高いように感じられます。

これは、小さな集団の方が目立ちやすく、その中で悪い行いをする人が少数派となるため、二重に目立ちやすいことから過大視されてしまうと説明されています。

言い換えれば、小さな集団ではそれだけでネガティブなステレオタイプが形成されやすいとも言えます。

本選択肢の「疑似相関」とは、2つの事象に因果関係がないのに、見えない要因(潜伏変数)によって因果関係があるかのように推測されることを指します。

擬似相関は、客観的に精査するとそれが妥当でないときにも、2つの集団間に意味の有る関係があるような印象を与えます。

例えば、身長と漢字力には相関がみられますが、この間には「年齢」という潜伏変数が隠れています。

こうした疑似相関の可能性を常に考慮し、相関関係では「因果関係を包含しない」と言われます。

さて、本選択肢の解説で真に求められるのは「錯誤相関と疑似相関の違い」に関する理解です(もうすでに述べていますが)。

「疑似相関」については、2つの事象の間に「潜伏変数」が挟まっていることで、実際には関連がない2つの事象に因果関係があるように判断されてしまうことを指します。

このため、相関という概念を提出したピアソンは「相関がある≠因果関係」とすることが重要であるとしているわけです(相関があるように見えても、実際は潜在変数が挟まっているから)。

これに対して「錯誤相関」は、2つの事象の間には「関連がない」のに関連があるように錯誤してしまうことを指しています。

「疑似相関」では間に「潜伏変数」の存在がありますが、「錯誤相関」ではそれがないということですね。

本選択肢の「実際にはない関係があると捉えてしまうこと」というのは、まさに錯誤相関のことを指しているわけですね。

これを疑似相関として読み替えるなら「実際にはない関係が、隠れた変数によって関係があると捉えてしまうこと」ということになります。

このように細かく理解しておくことが重要になります。

よって、選択肢②は誤りと判断できます。

③観察者が状況要因を十分に考慮せず、行為者の内的特性を重視する傾向を行為者‐観察者バイアスという。

行為者-観察者バイアスとは、他者の行動については状況の特徴が影響していたとはあまり考えず、その人の内面(特性など)に原因があると考えるのに対して、自分の行動に関して出来事が生じた理由(原因)について答える場合、自分の性格を強調する理由と、その場の状況を強調する理由を同程度挙げる現象のことです。

すなわち、行為者として自分の行動の原因を考えるときには状況の影響力も考慮する一方で、観察者として他者の行動の原因を考えるときには行為者の性格や能力のような内的特性を重視しやすい傾向を「行為者‐観察者バイアス」と呼びます。

同一の行動(例えば、殴る)に対して、行為者本人は状況要因(相手から挑発されたから、向こうから睨んできたから等)に帰属するのに対して、観察者は内的要因(あいつは攻撃的だから、危ないやつだから等)に帰属する傾向のことです。

この「行為者としては状況要因を重視する」+「観察者としては内的特性を重視する」という両者の帰属が異なることを「行為者‐観察者バイアス」と呼ぶので、本選択肢の観察者としての視点のみが述べられている内容では「行為者‐観察者バイアス」にはなりません。

あくまでも「他者に対しては内的傾向を重視する」のに対して、「自身については外的傾向も考慮する」という、この「矛盾」を指して「行為者‐観察者バイアス」と称すると理解しておくことが重要です。

そもそも帰属を行う過程では、情報処理過程の特徴や自尊心を維持・高揚させたいという欲求によって、誤りや偏りが生じるとされています(あくまでも仮説の一つ。常にそうとは限らず、定説はまだないと思っておいて良い)。

一般的に、他者の行動の原因を推測する場合、個人の内部にある要因が重視され、状況的要因はあまり考慮されませんが、これが本選択肢の内容であり、このことを「根本的な帰属の誤り」もしくは「基本的な帰属の誤り」と呼びます。

「根本的な帰属の誤り」という概念と、「行為者‐観察者バイアス」という概念の違いは先述の通りですが、これらは関連のある概念として見てよいです。

たいていの教科書では、まず「根本的な帰属の誤り」について記述してあり、その上で、行為者と観察者で帰属に矛盾が生じるという「行為者‐観察者バイアス」が述べられます。

「根本的」「基本的」と呼ぶだけあって、この帰属の傾向を基盤に、他のバイアスについて展開していくという捉え方をしておきましょう。

他にも関連があるバイアスとしては、自分の成功は内的要因に帰す一方で失敗の外的要因に帰する傾向を指す「自己奉仕的(利己的)帰属」などがあります。

よって、選択肢③は誤りと判断できます。

④自分の成功については内的要因を、自分の失敗については外的要因を重視する傾向を確証バイアスという。

本選択肢の内容は「自己奉仕的バイアス」の説明になっていますね。

自己奉仕的バイアスとは、成功を当人の内面的または個人的要因に帰属させ、失敗を制御不能な状況的要因に帰属させることであり、成功は自分の手柄とするのに失敗の責任を取らない人間の一般的傾向を表しています。

「確証バイアス」とは、ある考えや仮説を検証する場合、その仮説に合致する情報を選択的に認知したり、重要と判断する傾向を指します。

いったんある決断をおこなってしまうと、その後に得られた情報を決断した内容に有利に解釈する傾向で、見た夢を正夢だと思い込むことなどがそれにあたります。

以上より、選択肢④は誤りと判断できます。

⑤人物のある側面を望ましいと判断すると、他の側面も望ましいと判断する傾向を光背効果〈ハロー効果〉という。

光背効果(ハロー効果、後光効果)他者がある側面で望ましい(もしくは望ましくない)特徴を有していると、その評価を当該人物に対する全体的評価にまで広げてしまう傾向を指します。

例えば、成績が良い生徒を、教師が性格・素行までも肯定的に捉えてしまうなどの場合がそれに該当します。

私は昔から(?)素行良好だったのですが、掃除当番で他の生徒と同じくふざけていたにも関わらず「その掃除当番の中でたった一人だけ真面目に掃除していた生徒」と思われていたことがあります。

これもまさに光背効果が発揮されたわけですね。

よって、選択肢⑤は正しいと判断できます。

3件のコメント

  1. いつも学ばせていただきありがとうございます。選択肢②と③について、これらは正解の要素を含んでいるようにも見えますが、いかがでしょうか?

    ②の場合、「集団の違いと行動傾向との間」が引っかけなのでしょうか?

    ③の場合、「観察者が状況要因を十分に考慮せず、行為者の内的特性を重視する傾向」は行為者-観察者バイアスの中に含まれる要素と考えられます。

    社会心理学の問題は、このような「含まれる要素」に引っかけられないように正解と導き出すことが求められるのでしょうか?

    論点がズレているかもしれませんが、ご教授いただけましたら幸いです。

    私たちのような初学者のためにこのような記事を書いてくださっていることに重ねて感謝申し上げます。

    1. コメントありがとうございます。

      確かにご指摘の点があいまいでしたね。
      2018年の解説は私自身のメモのようなつもりで書いていたので、解説がかなりあっさりしています。

      ですから、ちょっと書き直してみました。
      おそらく、これでご質問の点に関しては解消されると思います。

      それでは。

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