公認心理師 2018-77(解説に誤りがあります)

ここの解説には誤りがあります。
改めて正しい解説を別記事として作成します。

産業カウンセラーとしての対応を問う問題です。
かなり難しい問題だったなと思います。
なお、適切なものを2つ選択する問題になっております。

解答のポイント

厚生労働省が出している「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」(以下、手引き)の内容を把握している。
設問のかなり細かい部分まで注意深く拾うことができる。

選択肢の解説

『①AとBで復職に向けた準備を進める』

管理監督者、産業医、人事など関係するスタッフと連携取ることなく、復職に向けた準備を進めることは有り得ないと思われます。
組織の一員である自覚を持った活動が求められます。
よって選択肢①の内容は不適切であると考えられます。

『③Aは職場復帰の段階となったため相談を打ち切る』

産業カウンセラーの仕事は、職場復帰段階で終わるものではありません。
復帰後の職場環境の調整等も重要な役割であることを踏まえると、選択肢③の内容も不適切と考えてよいと思われます。

『④Aが自分で人事課に連絡を取り、復職に向けた手続を進めるように伝える』

こちらの内容については、以下のような点が気になります。

事例の内容では、Aが「復職可能との診断書をもらった」と言っていること以外何もわかっていない状況です。

このような状況において、復職に向けた手続を進めるよう伝えてよいものでしょうか。
「手引き」によると、職場復帰の可否の判断については以下のような情報の収集と評価が重要となります。
  1. 労働者の職場復帰に対する意思の確認
    →これはAが「早く職場に戻りたい」と言っていることから、一応確認が取れていると判断できるのかなと思います。
    (ただ、この表現には多分に「焦燥」を感じさせ、注意が必要だと思われます)
  2. 産業医等による主治医からの意見収集:産業医等は労働者の同意を得た上で、必要な内容について主治医からの情報や意見を収集します。
  3. 労働者の状態等の評価:治療状況及び病状の回復状況、業務遂行能力、今後の就業に関する労働者の考え、家族からの情報。
  4. 職場環境等の評価:業務及び職場との適合性、作業管理や作業環境管理に関する評価、職場側による支援準備状況。
  5. その他:その他必要事項、治療に関する問題点、本人の行動特性、家族の支援状況や職場復帰の阻害要因等。
状況から見て、4と5についてはともかく、2と3についての情報が得られないまま復職に進めるのは問題と思われます。
また、主治医の判断と、産業医を含めた職場の判断は常に同じではありません。
「手引き」に以下のような記述があります。
主治医による診断は、日常生活における病状の回復程度によって職場復帰の可能性を判断していることが多く、必ずしも職場で求められる業務遂行能力まで回復しているとの判断とは限りません。このため、主治医の判断と職場で必要とされる業務遂行能力の内容等について産業医等が精査した上で採るべき対応を判断し、意見を述べることが重要です」

選択肢④では、こうした主治医と産業医の判断の違いも踏まえていないと思われます。

これらの内容を総合し、選択肢④はやや性急な対応であり、不適切と判断しました。
ただし、この内容が法律的に誤りであるという箇所は見受けられませんので、以下の選択肢②の解釈によっては、こちらが適切な解答とみなすことになるかもしれません(2018/9/16追記)。

『②Bが主治医宛に情報提供依頼書を作成する』

こちらの対応については、課題が2点挙げられます。
1点目は、産業カウンセラーが情報提供依頼書を出してよいのか、ということです。
こちらについては上記に記載した「産業医は労働者の同意を得た上で、必要な内容について主治医からの情報や意見を収集します」が重要となります。
下線部にある「等」に産業カウンセラーを含んでもよいので、これはクリアできるものと思われます。
(上記の点、ご指摘を受けましたので以下のように修正致します:2018/9/16)

「産業医等」とは、産業医その他労働者の健康管理等を行うのに必要な知識を有する医師を指すとしております。
わざわざ「等」としているのは、小規模事業所でかかりつけ医などがその役割を兼ねている場合を想定していると思われます。

中小規模事業所におけるメンタルヘルス対策の進め方に関する研究」によると産業医がいない場合には、情報提供依頼書は「会社側の窓口担当者」が作成・提出することになります。
この窓口担当者として該当するのは、人事労務担当者やライン管理者、衛生管理者、衛生推進者、から選出されます。
事業内メンタルヘルス担当者がいる場合、それらのスタッフが適任とされています。

この「産業医がいない場合」をどの程度の状況を指すのか、というのが難しいところです。
産業医の実態として、選任していてもストレスチェックを担当しないケースが全体の50%程度を占めるなど、名義貸し程度の場合も多いようです。
こうした心理的不在の状況において、どの程度「事業内メンタルヘルス担当者」が動くことが許されるのか、その辺が明文化されていません。

例えば、情報提供書の用意はするが、産業医に確認の上、産業医の名前で提出するなど。
学校で医療機関への紹介状を出す際、医師からの紹介状しか受け付けてくれない病院があります。
その場合は、SCが書いたものを校医さんに確認の上、出してもらうことはありますが…。

いずれにせよ、明文化されていないものを根拠にして、問題を解くわけにはいきません。
上記のように選択肢②は「産業医が不在の状況ならば有り得る」と捉えておくに留めておきます。
(ここまでが追記分です:2018/9/16)

2点目は、Aの許可を得たという記述がないことです。
「手引き」にも、「主治医との連携にあたっては、事前に当該労働者への説明と同意を得ておきます」と明示されており、労働者本人の許可のないままに情報提供依頼書を出すのは不適切な行為です。
ただ、ここで重要なのが選択肢②の内容をよく読むことです。
『②Bが主治医宛に情報提供依頼書を作成する』とあり、提出するとはなってはいません
細かいようですが、これは大きな違いです。
Aから復職に関する話が出た時点で、主治医への情報提供依頼書を作り始め、そしてAに確認を取って速やかに提出するという流れが、職場復帰に絡む情報を集める上で最短になるのではないかと思われます。


よって、選択肢②は適切な内容と判断することができます。

(2018/9/16追記)
上記の追記の内容を読んでいただければわかるとおり、公認心理師が情報提供依頼書を作成するということの可否によって、この選択肢が適切と判断されるかは変わってきます。
もしも不適切ということであれば、選択肢④が適切ということかもしれません。




『⑤Aの同意を得て、Bが産業医にこれまでの経緯を話し、必要な対応を協議する』

こちらの内容については、同意を得ていること、産業医と連携すること、その上で職場内での必要な対応を協議するということなど、必要な対応を大きく拾っている内容だと思われます。
よって、選択肢⑤は適切と判断できます。

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