バウムテストに関する問題です。
各心理査定については、どの程度出題されるのか不透明でしたが結構出ましたね。
これは来年度以降の受験においても、一つの指針になるでしょう。
臨床心理士でもバウムテストについては頻出と言ってもよい(平成3年~26年の間で8回出題。公開されていないものを含めれば、2年に1回以上は出ているのでは)でしょうが、公認心理師試験では、より踏み込んだ内容の出題となっていました。
余談ですが、コッホの住んでいたスイスは寒冷地のため、樹木画を描かせると樹形の単純な針葉樹が多くなったようです。
そこで教示を「実のなる木」と工夫しました。
木の種類を限定してでも、ある程度以上、複雑な樹形が描かれることを優先したということですね。
日本において「実のなる木」という教示にそれほどこだわらない方がおられるのは、日本ではそこにこだわる必要がないためかなと思います。
解答のポイント
バウムテストの基本的解釈仮説について把握している。
発達的指標についての把握をしている。
問題文の細かいところに引っかかる。
選択肢の解説
『①K.Kochが精神疾患の診断を目的に開発した』
バウムテストは、元々は職業適性検査(Emil Jucker(エミール・ユッカ?ジャッカ?)が創案)の一つでした。
コッホは元々機械工をしておりましたが、心理学の道に入り、今で言う産業カウンセラーのような仕事をしておりました。
そんな中、コッホはとある会社から依頼をうけ、その流れでバウムテストを開発することになります。
コッホは当初、バウムテストを職業相談の領域から育てていきました。
職業適性を見るために、その人の人格特性を反映するものとしてバウムテストを活用していたということです。
コッホが精神疾患と関連しながらバウムテストを開発したという事実はなく、選択肢①の内容は誤りであると言えます。
『②形状の年齢的変化では、二線幹のバウムは6歳までには減少する』
『③樹冠の輪郭の有無によって、心理的発達の成熟又は未成熟が把握できる』
5歳以降はほぼすべての事例で樹冠の輪郭が描かれるようになっていきます。
この点は多くの指摘がかねてからされております(例えば、こちら)。
この選択肢に解答するには、輪郭の有無が何を表しているかについての情報が必要です。
この点について中島(2007)は、樹冠が表現され始める時期のバウム画には大きく2つのタイプがあることを指摘しています。
複雑な枝組と葉からなる樹冠部を「まとまり」として表現するタイプと、樹冠部の主たる構成要素である「枝」で表現するタイプです。
この解釈として、前者は部分よりも全体を、後者は全体よりも部分を主とする被験者の「認知パターンの表われ」としています。
よって選択肢③については不適切な内容と判断できます。
『④M.Grünwaldの空間象徴理論に基づいて解釈を行うことを基本とする』
こちらはある意味ひっかけ選択肢だと捉えております。
バウムテストについて学んだ人の多くは、グリュンワルドの「空間象徴理論」についても触れていると思われます。
どうしても知っている概念が出てくると引っ張られてしまいがちですが、この選択肢の誤りで、後半の「…解釈を行うことを基本とする」という箇所が問題だと思われます。
バウムテストの解釈では、以下の点を重視しつつ行っていくとされています。
- 全体的評価:
細部の特徴にこだわらず、全体としての印象を重視し、描画が全体として調和が取れているか、歪んでいるか、全体として各部分が自然と構成できているか、奇妙な印象を与えないかなどを見ます。
感覚的・直観的なものではあるが、描かれた絵から被験者の表現しようとしたものに接近しようとする姿勢でじっくりと絵と対面することが重要。 - 形態的側面の評価:
描かれた樹木の形を分析することを指します。
描かれた樹木の形を年齢段階に従って分析していくと、発達とともに形態が変化していくので、発達分析と見る向きもある。 - 筆蹟学的側面の評価:
動態分析とも言います。
鉛筆の動きを観察することを指し、同じ形態の樹木でも、描く人物の性格によって鉛筆の動きが異なり、その相違からその人物の性格を読みとることができるとされています。 - 空間象徴的側面:
樹木の紙面における配置の意味を読みとることを指します。
紙面のどの位置にどのような方向付けをもって描かれたかによって、その人物の生活空間における自らの位置付けおよび対人関係の場におけるその人物のあり方を推測することが可能です。
それによると「空間象徴について、コッホはグリュンワルドから実証された置きテストの空間象徴図式を参考にして、樹木の定位に関する解釈を示している」ということです。