ハーズバーグの2要因理論、すなわち動機づけ衛生理論について問うています。
他の職務満足感に関する理論の概念も入ってきていますので、きちんと弁別できていることが求められますね。
問28 F. Herzbergの2要因理論に関する説明として、正しいものを1つ選べ。
① 達成動機は、接近傾向と回避傾向から構成される。
② 職場の出来事で満足を与える要因を達成欲求という。
③ 分配の公正と手続の公正は、仕事への動機づけを高める。
④ 職場での満足を感じる要因は、仕事への動機づけを高める。
⑤ 職場の出来事で不満足につながる要因をバーンアウトという。
解答のポイント
産業・組織における、職務満足感に関わる理論について把握していること。
必要な知識・選択肢の解説
働く人々の人間的な側面に大きな注目を集める契機になったのが、Mayoらによるホーソン研究で、働く場所における非公式組織の存在やその集団への帰属意識、そして集団のもつ集団規範、集団出来高払いの有効性などを発見しました。
これらは、働く人々が仕事の中で持つ感情(職務態度)や人間関係を中心とした非金銭的な動機に関する研究の発端となり、リーダーシップ、動機づけ、職務満足感やモラール、コミュニケーションなどの人間関係管理の主要な領域に関する研究が始まる契機となりました。
その中でも「職務満足感」とは、労働者が自分の仕事について抱く感情で、仕事に満足していると言わしめる心理学的・生理学的なものと仕事環境との組合せで生じます。
ただし、職務満足感は仕事以外の多くの要因と関連し、また人によってその意味は異なるので、独立変数としては捉えにくいという側面があります。
また、職務満足と職務不満足を両極にあるものとして扱うか、二つの概念的に異なる変数と考えるかも問題となります。
初期の研究においては、職務満足より職務不満足の研究が盛んで、生産性や欠勤率の説明要因として研究がなされました。
理論としては、ハーズバーグの動機づけ衛生要因理論(2要因理論)、社会的情報過程モデル、対抗過程理論、公平理論などが有名です。
なお、ハーズバーグの2要因理論と、シャクター&シンガーの感情の2要因理論は全く別のものですから、間違えないようにしましょう。
① 達成動機は、接近傾向と回避傾向から構成される。
まず、本選択肢にある「接近傾向」と「回避傾向」は、ハーズバーグの2要因理論の概念ではありません。
ハーズバーグの2要因理論で出てくる達成動機に関しては次の選択肢の解説で行っていきますので、ここでは「接近傾向」と「回避傾向」に関する理論の説明をしていきましょう。
接近傾向・回避傾向という考え方を採用しているのはアトキンソンのモデルです。
J.W.Atkinsonはアメリカの心理学者で、TATの洗練のための研究に参加したのち、達成動機に関する「アトキンソンのモデル」を提唱しました。
アトキンソンのモデルとは、達成行動の動機づけに関するモデルであり、期待=価値理論の一例でもあります。
個人のもつ要求(欲求)と課題達成に関する認知的要因が達成行動の生起を決定するという理論のもとに構成されました。
人は課題に直面した時、課題をやり遂げようとする接近要求(成功接近要求:Ms)と、失敗を避けたいという要求(失敗回避要求:Maf)とを持ちます。
成功接近要求が失敗回避要求より強い人は、課題を与えられた時に挑戦しようとします。
一方、人は、課題遂行の成功確率(Ps)を予測し、同時に課題成功の魅力(誘因価:Is)を評価します。
課題成功の魅力(Is)は、成功確率によって決定されます(Is=1-Ps)。
これらの各要因をまとめることにより、課題達成の強さ(Tr)は、「Tr=(Ms-Maf)×(Ps×Is)」の式によって推測されます。
この式に従えば、Ms>Mafの場合、成功確率が0.5のときにTrの値は最も大きくなり、行動が生起しやすくなるということです。
このモデルは、輪投げ課題などを用いた数多くの実験によって検討されました。
しかし、モデルを支持しない実験結果も数多く報告されており、より精緻な変数を用いた検討が必要とされています。
以上のように、本選択肢の接近傾向・回避傾向は、それぞれアトキンソンのモデルにおける成功接近要求・失敗回避要求に該当すると思われます。
よって、選択肢①は誤りと判断できます。
⑤ 職場の出来事で不満足につながる要因をバーンアウトという。
ハーズバーグの2要因理論(動機づけ衛生理論)とは、アメリカの臨床心理学者フレデリック・ハーズバーグが提唱した職務満足および職務不満足を引き起こす要因に関する理論です。
ピッツバーグの会計士と技師を対象に、対象となる事象が際立って鮮明に生起した事態を分析する「臨界事例法」を用いて実施した面接調査から生まれた理論です。
彼は、面接において「仕事上どんなことによって幸福と感じ、また満足に感じたか」「どんなことによって不幸や不満を感じたか」という質問を行ったところ、人の欲求には二つの種類があり、それぞれ人間の行動に異なった作用を及ぼすことを発見しました。
ハーズバーグは、人間が仕事に満足を感じる時に関心は仕事そのものに向いているのに対して、人間が仕事に不満を感じる時に関心は自分たちの作業環境に向いていることを見出し、前者を「動機づけ要因」、後者を「衛生要因」と名づけました。
すなわち、ハーズバーグは、人間の職務満足感と不満足感を別の変数であると考えていたわけですね(つまり、ある特定の要因が満たされると満足度が上がり、不足すると満足度が下がるとは考えなかった)。
以上より、選択肢②は達成欲求ではなく「動機づけ要因」であり、選択肢⑤はバーンアウトではなく「衛生要因」であると考えられます。
よって、選択肢②および選択肢⑤は誤りと判断できます。
なお、選択肢②の達成欲求は、マクレランドの欲求理論に出てくる概念です。
作業場における従業員には、達成動機(欲求)、権力動機(欲求)、親和動機(欲求)の3つの主要な動機ないし欲求が存在するという理論です。
達成動機(欲求)とは、ある一定の標準に対して達成し成功しようと努力する欲求であり、成功の報酬よりも自身がそれを成し遂げたいという欲求から努力するというものです。
高い達成動機(欲求)をもつ人は、①個人的な進歩に最大の関心があるため、何事も自分の手でやることを望み、②中程度のリスクを好み、③自分が行ったことの結果について迅速なフィードバックを欲しがるとされています。
権力動機(欲求)とは、他の人々に何らかの働きかけがなければ起こらない行動をさせたいという欲求で、他者に影響力を行使してコントロールしたいという動機(欲求)です。
親和動機(欲求)とは、友好的かつ密接な対人関係を結びたい、という欲求ですね。
なお、マクレランドは4番目の動機(欲求)として、失敗や困難な状況を回避しようという回避動機(欲求)という概念も追加しています。
また、選択肢⑤のバーンアウトは、Freudenbergerによって提唱された心身の症候群ですが、これを「極度の身体疲労と感情の枯渇を示す症候群」と定義したのがMaslachです。
フロイデンバーガーは「持続的な職業性ストレスに起因する衰弱状態により、意欲喪失と情緒荒廃、疾病に対する抵抗力の低下、対人関係の親密さ減弱、人生に対する慢性的不満と悲観、職務上能率低下と職務怠慢をもたらす症候群」としています。
いわゆる「燃え尽き症候群」ですね。
バーンアウトはもともと、医師や看護師・教師などのヒューマン・サービス従事者にあらわれる「極度の疲労と感情枯渇の状態」が注目されて生まれた概念です。
ヒューマン・サービスは心的エネルギーが過度に要求されるにもかかわらず、人間がという生の対象を相手にするため「目に見える成果」が得にくいものです。
そのストレスから生じる状態を、フロイデンバーガーが「バーンアウト=燃え尽き」と名づけたということです。
③ 分配の公正と手続の公正は、仕事への動機づけを高める。
こちらはGreenbergの組織的公正理論に基づいた考え方です。
組織的公正とは、組織の構成員が知覚する、組織の機能に関連する公正さのことであり、グリーンバーグはこれを「分配的公正」と「手続き的公正」に分類しています。
近年組織的公正はこれらの2つに加え、結果に至るまでにどれだけ個人的な配慮や誠意が示され、偏った対応をしていなかったかについての個々の知覚である「相互作用的公正」が加わっています。
ここでは「分配的公正」と「手続き的公正」について述べていきましょう。
分配的公正とは、決定や分配の結果や社会的行為に対する心理的な反応としての公正さを指します。
Homansは、人は対人関係において自己利益を最大化する動機をもっており、分配上の公正は互いの利益が投資に比例しているときに得られると考えました。
Adamsは、ホーマンズの考え方を認知的不協和理論と結びつけて、衡平理論を提唱し、人は交換関係において自己のインプット(自分が投入したものすべて)とアウトカム(金銭的報酬、地位といった自分が得られるものすべて。「上司からのねぎらい」や「同僚からの賞賛」のような内的報酬も含む)との比率を、交換関係にある他者の比率と比較することで分配的公正が決まると考えました。
こうしたアウトカムとインプットが自己と他者で等しくなるときを衡平と、アウトカムとインプットが等しくないときを不衡平と定義しました。
手続き的公正とは、結果を導くまでの過程に関する公正であり、社会的過程を支配する規範あるいは基準の適切さについての評価です。
Thibaut&Walkerは裁判の審議過程に関する心理学的研究で、証拠提示の回数や方法など手続きが判決の満足感に影響していることを示し、手続き的公正の概念を提唱しました。
さらにチボーとウォーカーは、手続き的公正を高める要因として決定コントロール(分配や評価の決定に参加して自分が影響を与えられる程度)と過程コントロール(基準づくり、問題点の提示といった決定までの過程に参加した程度)を挙げました。
そして、決定コントロールが低くても過程コントロールが高ければ、結果が自分にとって不利になっても人はその結果を受け入れやすいことを証明し、これを公正過程効果とよびました。
また、Leventhalは、報酬分配の公正感は結果ではなく、分配決定に至る過程の正当性によって決められると主張しました。
レーベンソールは手続き的公正を規定する以下の6つの基準を示しました。
- 一貫性:ある手続きが公正であるためには、人と時間を通じて一貫して適用されていること。雇用者(上司)が異なっても、昇進や昇格の決定の際には同じ基準で考慮すべきであることが示されている。
- 偏見の抑制:決定者が偏った決定をしないこと。自己利益や思想的偏見(個人的偏見を含む)を持ち込まないことが重要。
- 情報の正確さ:正確かつ豊富で専門的な情報に基づいて決定がなされていると確信させる手続きであること。
- 修正可能性:誤った決定を修正する規定をもっていること。つまり不服申し立てのメカニズムが重要ということ。
- 代表性:すべての利害関係者の意見を表現していること。その過程の全局面において関係者全員の関心、価値観、見解を考慮することを意味する。
- 倫理性:倫理や道徳に関する個人的基準に合致すること。脅しや身体的な危害を持って証言を引き出すことが許されないようなことを意味する。
こうした6つの基準が個人の手続き的公正判断を高めることが確認され、特に一貫性・倫理性・偏見の抑制・情報の性格さが手続き的公正判断の上で重要であるとされています。
手続き的公正理論の意義は、分配結果が個人にとって納得いくものであるかどうかとは別に、このような諸手続きを満たしていれば、公正であればある程度個人の公正感が満たされ得るという知見にあると考えられます。
この手続き的公正研究は、具体的な人事制度によるマネジメントへの応用が試みられ、実践的観点からの実証研究がなされており、手続き的公正施策を導入することで従業員の公正感を高める結果をもたらすことが示唆されています。
以上のように、分配的公正とは「受け取った報酬の総量に関して知覚された公平牲」、手続き的公正とは「決定される際の手続きに際して知覚された公平性」として定義できます。
この理論は動機づけとの関連を前提としたものではありませんが、一般的に組織へのコミットメントや好業績は働く意欲を高めると考えられ、組織的公正と動機づけとの関連は深いとされています。
ただし、本問はあくまでも「ハーズバーグの2要因理論」について問うたものであり、本選択肢の内容は誤りと見なすことができます。
なお、ハーズバーグの理論で捉えても、選択肢③の「分配の公正と手続の公正」は労働環境を指しており、衛生要因の「会社の方針と管理」や「労働条件」に該当するものであると考えられます。
よって、ハーズバーグの理論で捉えても、本選択肢の内容は「動機づけを高める」のではなく、「動機づけを下げない」のが適切な認識と言えるでしょう。
以上より、選択肢③は誤りと判断できます。
④ 職場での満足を感じる要因は、仕事への動機づけを高める。
先述の通り、ハーズバーグは人間が仕事に満足を感じる時に関心は仕事そのものに向いているのに対して、人間が仕事に不満を感じる時に関心は自分たちの作業環境に向いていることを見出し、前者を「動機づけ要因」、後者を「衛生要因」と名づけました。
本選択肢は、動機づけ要因および衛生要因の中身について問うています。
動機づけ要因として挙げられているのは、「達成すること」「承認されること」「仕事そのもの」「責任」「昇進」「成長」などで、仕事そのものの要素と言えます。
これらが満たされると満足感を覚えますが、欠けていても職務不満足を引き起こすわけではありません。
これに対して、衛生要因として挙げられているのは、「会社の方針と管理」「上司の存在」「上司との関係」「労働条件」「給与」「同僚との関係」「個人の生活」などで、いわゆる労働環境と言えるものです。
これらが不足すると職務不満足を引き起こしますが、満たしたからといっても満足感につながるわけではありません。
選択肢④の「職場での満足を感じる要因」とは、2要因理論における「動機づけ要因」のことであり、これが満たされていることで仕事への動機づけを高めます。
以上より、選択肢④が正しいと判断できます。