成人の脳波に関する問題です。
脳波に関する基本的事項から、認知症で増加しやすい波形まで把握しておく必要があります。
主に「臨床脳波学 第6版」を参照にしました。
解答のポイント
各周波数の出現ポイントについて把握していること。
選択肢の解説
『①α波は閉眼で抑制される』
健常成人が、覚醒、安静状態にあって目を閉じている時の脳波には、10Hz前後で、電位50μV前後のα波が連続して後頭部優勢に出現しており、このα波に、電位10〜20μVの速波が混在しているのが普通です。
よって、選択肢①の内容は誤りと言えます。
α律動の周波数は8〜13Hzと規定されていますが、成人の場合には普通10Hz前後で、8Hz前後の時には「slow alpha activity」といって、何らかの脳機能障害の存在を予想します。
12〜13Hzのα律動を示す者は、健常者のうちにもかなりいるが、10〜11Hzのα律動に比べると、その出現頻度ははるかに低いとされています。
『②α波は前頭部で優位である』
先述した通り、α波は後頭部優勢に出現します。
よって、選択肢②は誤りと言えます。
『③β波はレム睡眠で抑制される』
レム睡眠では、比較的低振幅でさまざまな周波数の波が混在し、併せて挿間的急速眼球運動(REM)の出現によって判定されます。
睡眠第1段階に類似した周波数パターンが出現するとされ、これとREMsの出現、身体の姿勢を保つ抗重力筋の筋緊張低下が生じるとされます。
REMsの群発と同時に、頭頂部と前頭部に、常にではないがしばしば陽性の切れこみを持つθ波帯付近の律動波が出現し、特に他の睡眠段階からレム段階に移行する時期に見られやすいとされています。
α波は睡眠第1段階よりも顕著で、覚醒時よりも1〜2Hz低い。
以上より、レム段階ではさまざまな周波数が生じるとされており、選択肢③の内容は誤りと言えます。
『④δ波は覚醒時に増加する』
α波よりも周波数が遅い波を総称して「徐波」といい、最も遅いδ波と、中間徐波であるθ波に分けられます。
両者とも覚醒状態にある正常成人の閉眼安静脳波にはほとんど出現しません。
徐波は、生理的には、幼小児の脳波、睡眠時の脳波などに見られ、病的状態としては、てんかん、脳腫瘍、脳血管障害などの種々の器質脳疾患、意識障害、低酸素状態、低血糖など種々の脳の機能障害の際に出現します。
以上より、選択肢④の内容は誤りと判断できます。
ちなみにδ(デルタ)波は、波形が三角形に見えるところから名付けられました。
θ(シータ)波はWalterという人が発見しましたが、視床(thalamus)付近から出現すると考えていたため、thをとってtheta波と名付けたとされています。
θ波は入眠時の脳波として見られますので、「やっと寝まシータ(θ)」と覚えましょう。
『⑤θ波は認知症で増加する』
一般に老年性認知症疾患の脳波は、基礎律動の周波数の徐化、基礎律動の消失、徐波(θ波、δ波)の増加、速波帯の減少によって特徴付けられます。
ただし、アルツハイマー型認知症と健常老人者の脳波に質的な違いがあるかは、議論が多い問題とされています。
健常老年者の中にも、α波周波数徐化、広範性のθ波、δ波の増加、側頭部δ波増加などが見られます。
ただし、一般的には選択肢⑤にある通りθ波が増加することは知られており、この選択肢が正しい内容と判断できます。