公認心理師 2018-34

自殺対策におけるゲートキーパーの役割についての設問です。

ゲートキーパーは、自殺の危険を示すサインに気づき、適切な対応(悩んでいる人に気づき、声をかけ、話を聞いて、必要な支援につなげ、見守る)を図ることができる人のことで、言わば「命の門番」とも位置付けられる人のことです。
厚生労働省のホームページに詳しい記載があります。

解答のポイント

ゲートキーパーに関する活動について把握していること。
特に「ゲートキーパー養成研修用テキスト」について把握していること。

選択肢の解説

『①専門家に紹介した後も地域で見守る』

ゲートキーパー養成研修用テキスト(第3版)には「医療機関と地域の連携を目的として、患者をサポートするような地域のネットワークづくりを行うことは、重要な自殺対策機能を担う」とされており、医療機関等の専門機関につなぐことが重要である。

一方で、以下のように地域での見守りの重要性も指摘しています。
地域における様々な社会資源を活用しながら、自殺のハイリスク者を支援するような体制づくりが必要です。そして、こころの健康に関する地域づくりという観点からは、地域住民参加型の活動が根付いていくことが重要です。住民組織、民間団体、行政、専門家など自殺対策に関わる社会資源が包括的に自殺対策に参画していくことは、こころの健康づくりを地域で支え合うことにつながるでしょう」

以上のように、ゲートキーパーの重要な役割として、医療機関をはじめとした専門機関につなぐことが考えられるが、同時に地域での見守りを続けていくこともその役割に含まれています。

役割が明確に分けられているという考えではなく、各機関が繋がりながら、地域全体として支援をしていくということが重要になります。
よって、選択肢①の内容は適切であり、除外することができます。

『②悩んでいる人に寄り添い、関わりを通して孤立や孤独を防ぐようにする』

ゲートキーパー養成研修用テキスト(第3版)には「自殺を考えている人の心理」として16項目記載があります。
その一つとして、「孤立感:「誰も助けてくれない」、「自分はひとりきりだ」と孤独を感じる気持ち」という記載があり、自殺者は孤立感が強いことを示しています。

厚生労働省のゲートキーパーに関するページにも以下のような記述があります。
「自殺対策では、悩んでいる人に寄り添い、関わりを通して「孤立・孤独」を防ぎ、支援することが重要です。1人でも多くの方に、ゲートキーパーとしての意識を持っていただき、専門性の有無にかかわらず、それぞれの立場でできることから進んで行動を起こしていくことが自殺対策につながります」

以上のように、選択肢②の内容は適切といえ、除外できます。

『③専門的な解釈を加えながら診断を行い、必要に応じて医療機関を受診させる』

ゲートキーパー養成研修用テキスト(第3版)には「メンタルヘルス・ファーストエイド」についての記載があります。
その中には、「判断・批判せずに話を聞きましょう 」とされており、具体的には以下のような記載があります。

  • どんな気持ちなのか話してもらうようにしましょう。責めたり弱い人だと決めつけたりせずに聞きましょう。
  • この問題は弱さや怠惰からくるのではないことを理解しましょう。 
  • そして、周囲のものがじっくりと話を聞くこと自体が、極めて重要な支援です。
  • 相談者は
    つらい気持ちや考えを体験していることを周囲に聞いてもらい、共感してもらうことを希望しており、アドバイスの前にこのステップを踏むことが重要です。
また「適切な専門家のもとへ行くよう伝えましょう」ともされています。
  • 心療内科や精神科を受診するように勧めてみましょう。
  • 「心の問題が体に関係することもあるので、専門家に心のことも相談してみましょう」といった言い方が、受診への抵抗感を減ずるかもしれません。
  • 医療福祉や法律、その他の相談機関など専門家のところに行くことの有益性を伝えることが大切です。 
以上のように、選択肢にある「解釈を加えながら診断を行い」が誤りと判断できます。
これに引っかかりやすいと思われるのが、「自殺総合対策大綱」において9つの当面の重点施策の一つとしてゲートキーパーの養成を掲げており、その養成対象としてかかりつけの医師を含めています。
すなわち、医師をゲートキーパーとして養成していくことを目指す旨の記載があり、これを踏まえて「解釈・診断」ということがあり得ると判断させようとしている可能性があります。
上記に加え、「医療機関を受診させる」という表現にも引っ掛かりを覚えてほしいところです。
「~させる」という強制の表現については、心理業務のほとんどの場面において採らない、もしくは採ることが躊躇われる方針です。
本設問の場面設定はゲートキーパー、すなわち自殺対応ですので強制力を持った対応もあり得ますが、こうした強制的な表現についてはちょっと立ち止まって考えてみることが求められます
いずれにせよ、選択肢③の内容は不適切といえるので、こちらを選択することが求められます。

『④悩んでいる人のプライバシーに配慮しつつ、支援者同士はできるだけ協力する』

自殺対応に限らず、支援者には限界があります。
この点については「全ての問題を解決できる支援者はいません。どこに相談したらよいか、地域の相談窓口等を事前に確認しておくとよいでしょう」とされています。

またゲートキーパー養成研修用テキスト(第3版)には、連携について以下のように示しています。
「さまざまな支援を連携させていくためには、相談者の生活や状況に合わせて支援全体をコーディネートして調整を図ることが必要です」

これを実現するためには、支援者同士のネットワークが重要になります。
相談者の状況や「死にたい」という欲求を安易に他者に伝えることは、当然信頼関係に係わる問題です。
一方で、地域で包括的に支援していくためには、支援者同士のネットワークを拡充し、多面的に支えること、自身の限界を感じたときにリファーできることなどが重要となります。

以上より、選択肢④の内容は適切であり、除外することができます。

『⑤悩んでいる人から「死にたい」という発言がなくても、自殺のリスクについて評価する』

厚生労働省の研究助成を受けた「自殺未遂者および自殺者遺族等へのケアに関する研究」によると、自殺のアセスメントにおいて自殺念慮の有無を含めている。

「自殺念慮はあっても一時的」という状態は、自殺のリスクは軽度として評価されています。
しかしこのことは、「死にたい」という発言がないことは、自殺のリスクを評価しないということではなく、その発言の有無、思いの有無によって自殺のリスクの高低が変わってくるということを意味します

すなわち、「死にたい」という発言の有無に関係なく、自殺のリスクについて評価は行います(というよりも、それを尋ねること自体が自殺リスクの評価になっている)。
以上より、選択肢⑤の内容は適切といえ、除外することができます。

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