公認心理師 2018-36

問題行動を起こした児童生徒への学校における指導に関する設問です。
不適切なものを選ぶ問題ですね。

こちらの問題は「生徒指導提要」を把握していることが求められているように思えます。
生徒指導提要とは、生徒指導の実践に際し、教員間や学校間で教職員の共通理解を図り、組織的・体系的な生徒指導の取組を進めることができるよう、生徒指導に関する学校・教職員向けの基本書として、小学校段階から高等学校段階までの生徒指導の理論・考え方や実際の指導方法等を、時代の変化に即して網羅的にまとめたものです。

文部科学省のホームページから全部見れます。
個人的な意見ですが、学校領域で活動される方は読むべきものだと思います。
生徒指導という営みがどういうものなのかを知っておくことは、連携の上で欠かせないと言えます。

上記提要を軸におきつつ、それ以外の実践的な知見も踏まえて解説を行っていきます。

解答のポイント

生徒指導提要を一読していること。
生徒指導という行為について理解していること。

選択肢の解説

『①問題行動の迅速な事実確認を行う』

生徒指導提要には以下のような記述があります。
「教員は、すべての児童生徒には問題行動の要因が潜在している可能性があるということを常に念頭に置き、児童生徒の発するサインを見逃さないよう、日ごろから、観察や面接、質問紙調査、関係機関や地域とのネットワークづくりを進めるなどの方法により、児童生徒理解を着実に進め、問題行動の早期発見に努める必要があります。その上で、問題行動の迅速な事実確認を行い、その原因を分析し一人一人の児童生徒に応じた指導方針を確立することが重要です」

選択肢の内容は、生徒指導提要の中に明確に記載されています。

また、中井久夫先生は「「踏み越え」について」という論文の中で、犯罪を「踏み越え」によるものと捉えつつ、それを生じやすくさせる条件を挙げておられます。
その中で「侵犯が見逃され、放置され、処罰されないこと」を挙げ、犯罪の最大の防止策は速やかな発見と検挙であるとしています。

ここでの犯罪と本問の問題行動をイコールで見てよいかは異論があるところかもしれませんが、事情は同じように思えます。

そして子どもたちと大人との時間間隔には大きな開きがあります。
年を取ると時間が過ぎるのが早いというのは研究としても示されており、すなわち時間を置くほどに、大人が感じる以上に子どもたちにとっては「昔の話」になってしまいます

更に、学校内の事情を考慮すると、生徒指導の先生が当該児童生徒に指導を行う場合、正確・客観的な事実に基づいて指導を行うことが求められます
上記の時間間隔のことを踏まえても、迅速に事実確認を行うことによって、より正確な情報の把握が可能と言えます。

以上より、選択肢①の内容は適切といえ、除外することができます。

『②問題行動の原因や背景を分析して指導計画を立てる』

上記の生徒指導提要の引用部分に、この点も記載があります

また、それ以外の部分にも以下のような記載があります。
「問題行動を起こした児童生徒への指導のねらいは、自らの行動を反省し今後の将来に希望や目標を持ち、より充実した学校生活を送ることができるようにすることにあります。問題行動の原因や背景を分析して計画を立て、組織的に指導を行います」


実際上の対応で述べていくと、問題行動によって、その背景に何があるのかが変わってきますし、それによって指導の仕方も変わってきます

例えば、知的もしくは発達的要因によって「これを行うとどうなるか」という予測が難しい児童生徒の問題行動の場合。
指導として「これをしたらダメでしょう」というのは通じにくいと考えられ、それよりも「これをしたら、こういう結果になって、それはあなたにとって嫌な体験になったね。次はどうしたらいいか考えよう」というやり方になると思います(他にもやり方はあり得ますが、一例として)。

児童生徒の能力によっては、倫理的なものが通じにくかったり、行動や結果に焦点を当てた方が通り易かったりするので、それを踏まえた指導計画が重要になります。

また問題行動の質によって、指導方法にも違いが出てきます。
緊張感の増大によって生じやすい問題行動がいくつかありますが、その場合、社会通念上の指導は行いつつも、児童生徒の緊張感を緩める方策が求められることになります。

以上のように、選択肢②の内容は適切であり、除外することができます。

『③保護者に問題行動について十分に説明し、理解を求める』

先述したように問題行動の質によって対応はさまざまです。
中には、保護者の協力が重要な事例もあります。

児童生徒の問題に対して、家庭と学校で相互協力的に改善するようなアプローチを行っていくことが求められます。
学校での指導と家庭での関わりに矛盾が大きいと、こちらで火を消して、向こうで火をつけてという様相にもなりかねません。

例えば、心理的要因によって行われる窃盗の場合、単純に倫理観を説く関わりでは改善が見られにくい場合も多いものですが、家庭では往々にして強くそれを説くか、何度言っても繰り返すことに辟易して放置という形になりがちです。

こういった状況において、心理師の見立てが重要となります。
教員とは異なる視点で問題行動の背景を見立て、説明を行うことによって学校と家庭とをつなぎつつ、多面的に支援を行うことが求められます。

また、保護者には学校が行う指導について理解・納得してもらっていることが重要になります。
学校からの指導が適切であっても、それを批判的に捉える家庭環境があれば、やはり問題行動の改善が生じにくいと言えます。

生徒指導提要の中には以下のように面接に対する心構えが記されています。
「児童生徒との面接と同様、保護者とのラポールの形成や傾聴の姿勢が大切になります。保護者も、面接の際には、批判されるのではないかなどの不安や、子どもとの関係での悩みを抱えています。また、教員に対する不満を抱えている場合も少なくありませんが、その場合も反論ではなく、まず共感的な態度で傾聴することが大切です」

このことも、保護者の理解を得るために必要な構えとみなすことができますね。
以上より、選択肢③は適切といえ、除外することができます。

『④児童生徒のプライバシーを守るために、担任教師が一人で行う』

生徒指導提要には以下のような記述があります。
「生徒指導体制というのは、生徒指導部など校務分掌、学級担任・ホームルーム担任や学年の連携、学校全体の協力体制、校長のリーダーシップ、教職員の役割分担とモラール(意欲や道義心)、さらには関係機関との連携など、各学校の生徒指導の全体的な仕組みや機能を表しています」

また同提要内の「指導体制の確立と協働のシステムづくり」には以下のような記述があります。
「生徒指導担当だけが多くの事例を抱え込んでしまい、本来その解決のためにある組織が機能しなかったり、情報が共有されないために、解決のための糸口となる情報が伝わらず解決のために多くの時間が費やされたりすることがあります」
「「学校全体で取り組む」ためには、1で挙げた「校務分掌(分担)ごとの生徒指導の機能」についての認識が共有されることが、その起点になります。問題となっているケースについて、学級担任・ホームルーム担任としてどのように考えているか、養護教諭として、学年のメンバーとして、生徒指導担当として、どのようなかかわりができるのか、ということについてそれぞれの分掌(分担)を超えて共有することです」

上記のように、問題行動の指導にあたっては生徒指導や教育相談、担任や養護教諭などがそれぞれの役割に応じた関わりを中心にしながら相互補完的にアプローチしていきます。
児童生徒の問題行動への対応では、選択肢にあるような「担任が一人で抱え込む」ということが生じてしまうことがむしろ問題といえます。

これが例えば、担任への秘密の伝達の場合は、それを全体に共有することが必要か否か、必要ならば本人とその点についてどのように話し合うか、がテーマとなりますが、この設問は「児童生徒の問題行動への指導」ですから、全体もしくは必要と思われる立場で共有して指導にあたっていくことが大切になります。

提要の中にも以下のような記述があります。
「原則的には、児童生徒に対して保護者との相談・面接の目的とその内容についてきちんと話すことが望まれます」

よって、選択肢④の内容は不適切であり、こちらを選ぶことが求められます。

『⑤児童生徒自身がどうすればよいかを考え、実行し、継続できるように指導する』

生徒指導提要の中に以下のような記載があります。
問題行動を起こした児童生徒への指導のねらいは、自らの行動を反省し今後の将来に希望や目標を持ち、より充実した学校生活を送ることができるようにすることにあります」

また別の箇所には以下のように記載されています。
児童生徒が自らの力で課題を解決しようとする態度や力を身に付けることは、将来、直面する可能性のある様々な課題にも柔軟に対応し、社会で自立していくために必要な力を身に付けることができると考えられます」

以上のように、選択肢⑤の内容は適切であり、除外することができます。

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