裁判員裁判に関する設問です。
こちらの設問は「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」(以下、裁判員法)から引っ張ってきている部分が多いです。
加えて、最高裁判所の裁判員制度に関するページがあり、こちらに細かいところは記載されております。
解答のポイント
裁判員法について把握していること。
最高裁判所の裁判員制度に関するページ内容を把握していること。
選択肢の解説
『①原則として、裁判官3人と国民から選ばれた裁判員6人の計9人で行われる』
裁判員法第2条第2項には以下のように記されております。
「前項の合議体の裁判官の員数は三人、裁判員の員数は六人とし、裁判官のうち一人を裁判長とする。ただし、次項の決定があったときは、裁判官の員数は一人、裁判員の員数は四人とし、裁判官を裁判長とする」
選択肢にある「原則として」というのは、同条第3項を指してのものだと思われます。
「第一項の規定により同項の合議体で取り扱うべき事件のうち、公判前整理手続による争点及び証拠の整理において公訴事実について争いがないと認められ、事件の内容その他の事情を考慮して適当と認められるものについては、裁判所は、裁判官一人及び裁判員四人から成る合議体を構成して審理及び裁判をする旨の決定をすることができる」
つまり、被告人が事実を争っておらず、当事者に異議がなく、裁判所が適当と認めた場合は第2条第3項に合致すると思われます。
よって、選択肢①は正しいと判断できます。
『②被告人が犯罪事実を認めている事件に限り審理し、量刑のみを判決で決める』
どういった事件が裁判員裁判の対象となるかは、裁判員法第2条第1項の「対象事件及び合議体の構成」に掲げられています。
「地方裁判所は、次に掲げる事件については、次条の決定があった場合を除き、この法律の定めるところにより裁判員の参加する合議体が構成された後は、裁判所法第二十六条の規定にかかわらず、裁判員の参加する合議体でこれを取り扱う」
- 死刑又は無期の懲役若しくは禁錮に当たる罪に係る事件
- 裁判所法第二十六条第二項第二号に掲げる事件であって、故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪に係るもの
この条文に、犯罪事実を認めているか否かは判断基準として記載されておりません。
裁判員法第2項第2項からも「犯罪事実を認めている事件に限り審理し」ということは誤りだと分かります。
「犯罪事実を認めている」場合には、裁判官及び裁判員の人数が変わる可能性があるだけです(第2条第3項)。
裁判員の役割として、裁判員法第6条に「裁判官及び裁判員の権限」が定められています。
「第二条第一項の合議体で事件を取り扱う場合において、刑事訴訟法第三百三十三条の規定による刑の言渡しの判決、同法第三百三十四条の規定による刑の免除の判決若しくは同法第三百三十六条の規定による無罪の判決又は少年法第五十五条の規定による家庭裁判所への移送の決定に係る裁判所の判断のうち次に掲げるものは、第二条第一項の合議体の構成員である裁判官及び裁判員の合議による」
難しく書いてありますが要は「裁判所で判断することのうち、以下は裁判官と裁判員の合議によって決めますよ」ということです。
- 事実の認定
- 法令の適用
- 刑の量定
すなわち、この3つが裁判員裁判にて決められることと言えます。
よって選択肢②は誤りと判断できます。
『③裁判員は判決前には評議の状況を外部に漏らしてはいけないが、判決以降は禁止されていない』
裁判員法第70条には「秘密」についての定義がなされています。
「構成裁判官及び裁判員が行う評議並びに構成裁判官のみが行う評議であって裁判員の傍聴が許されたものの経過並びにそれぞれの裁判官及び裁判員の意見並びにその多少の数(以下「評議の秘密」という)については、これを漏らしてはならない」
つまり「評議の秘密」とは、どのような過程を経て結論に達したのかということ(評議の経過)、裁判員や裁判官がどのような意見を述べたかということ、その意見を支持した意見の数や反対した意見の数、評決の際の多数決の人数が含まれていると言えます。
裁判員法第9条には「裁判員の義務」が定められています。
- 裁判員は、第七十条第一項に規定する評議の秘密その他の職務上知り得た秘密を漏らしてはならない。
- 裁判員は、裁判の公正さに対する信頼を損なうおそれのある行為をしてはならない。
- 裁判員は、その品位を害するような行為をしてはならない。
ここまでが選択肢の前半部分についてですね。
前半部分の内容に誤りはありませんが、後半の「判決以降は禁止されていない」について検証をしていきましょう。
最高裁判所の「
裁判員制度」に関するページには以下の記載があります。
「評議の秘密や裁判員の職務上知り得た秘密を漏らしてはいけません(守秘義務)。裁判員の守秘義務は、裁判員として裁判に参加している間だけではなく、裁判員としての役目が終わった後も守らなくてはならず、この義務に違反した場合、刑罰が科せられることがあります」
これは裁判員に選ばれた人が一生守秘義務を負うことを意味し、更にそこに懲役刑も定められております。
これは裁判員裁判における課題と言えますね。
ちなみに秘密を洩らした時の罪は、裁判員法第79条の「裁判員等による秘密漏示罪」に定められています。
「裁判員又は補充裁判員が、評議の秘密その他の職務上知り得た秘密を漏らしたときは、六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する」
余談ですが、裁判員法第73条には「裁判員等に対する接触の規制」が定められており、「何人も、被告事件に関し、当該被告事件の裁判員又は補充裁判員に接触してはならない」「何人も、裁判員又は補充裁判員が職務上知り得た秘密を知る目的で、裁判員又は補充裁判員の職にあった者に接触してはならない」ということが示されています。
これは反社会勢力が圧力をかけるために接触すること、マスコミが情報を得るために接触することを禁じている条項と考えられます。
裁判員本人のみならず、周囲の者にも秘密を知ろうとしない旨の条文が定められているということですね。
以上より、選択肢③は誤りと判断できます。
『④職業裁判官と裁判員が評議をつくしても全員の意見が一致しない場合、多数決の方式を採用して評決する』
この点については、最高裁判所の「
このページ」に明示されております。
「評議を尽くしても全員の意見が一致しなかったときは、多数決により評決します。この場合、被告人が有罪か無罪か、有罪の場合にどのような刑にするかについての裁判員の意見は、裁判官と同じ重みを持つことになります」
とされています。
更に、
「ただし、裁判員だけによる意見では、被告人に不利な判断(被告人が有罪か無罪かの評決の場面では、有罪の判断)をすることはできず、裁判官1人以上が多数意見に賛成していることが必要です」
とされています。
例えば、裁判員5人が「犯人である」という意見を述べたのに対し、裁判員1人と裁判官3人が「犯人ではない」という意見を述べた場合には、「犯人である」というのが多数意見ですが、この意見には裁判官が1人も賛成していませんので裁判官1人以上が多数意見に賛成していることが必要という要件を満たしていないことになります。
よって選択肢④は正しいと判断できます。
『⑤地方裁判所の裁判員裁判の決定に不服があって高等裁判所で審理をされる場合も裁判員裁判をしなければならない』
裁判員法第2条の「対象事件及び合議体の構成」にあるとおり、「地方裁判所は、次に掲げる事件については、次条の決定があった場合を除き、この法律の定めるところにより裁判員の参加する合議体が構成された後は、裁判所法第二十六条の規定にかかわらず、裁判員の参加する合議体でこれを取り扱う」とされています。
裁判員制度のホームページにも以下のように記載があります。
「裁判員裁判は、地方裁判所で行われる刑事事件が対象になり、刑事裁判の控訴審・上告審や民事事件、少年審判等は裁判員裁判の対象にはなりません」
よって選択肢⑤は誤りと判断できます。