緩和ケアに関する設問です。
内容としては、緩和ケアの制度的な側面を中心に、という印象ですね。
法律的なところから解説を引っ張ってきたいと思います。
こちらは細かいところが出題されており、結構難しかったという印象です。
解説を作る上でも、例えば選択肢①のような、根拠をこちら側で限定しないといけないような内容は厄介だなと感じます。
説明根拠についてご指摘いただけると幸いです。
解答のポイント
WHOが示している緩和ケアの定義を把握していること。
緩和ケアに関する法律や通知を把握していること。
選択肢の解説
『①終末期医療への人的資源の重点配備が進められている』
厚生労働省が出している「在宅医療の体制構築に係る指針」では、「多くの国民が自宅等住み慣れた環境での療養を望んでいる。高齢になっても病気になっても自分らしい生活を支える在宅医療の提供体制を構築することは、国民の生活の質の向上に資するものである」とされています。
また、「超高齢社会を迎え、医療機関や介護保険施設等の受入れにも限界が生じることが予測される中で、在宅医療は慢性期及び回復期患者の受け皿として、さらに看取りを含む医療提供体制の基盤の一つとして期待されている」ことからも、終末期医療における在宅医療が重視されている流れが見受けられます。
そして在宅医療のためには人的資源の重点配備ではなく、「個々の役割や医療機能、それを満たす各関係機関、さらにそれら関係機関相互の連携により、在宅医療が円滑に提供される体制を構築する」ことが重視されています。
すなわち、退院支援、療養支援、急変時の対応、看取りがスムーズにいく体制作りが重視されています。
よって選択肢①は誤りと判断できます。
『②精神症状、社会経済的問題、心理的問題及びスピリチュアルな問題の4つを対象にしている』
近代ホスピスの創始者としてシシリー・ソンダースがおります。
彼女は、末期がん患者、デビット・タスマをケアしながら死にゆく人がどうやったらやすらぎを感じるか、今の医療に欠けていることは何かを話し合う中でトータルペイン(全人的苦痛)の概念や今のホスピスのイメージを作り上げていきました。
シシリー・ソンダースは、がん末期患者のケアを行いながら、彼らの抱える苦痛には4つの要素があることを提唱しました。
この4つを合わせて「全人的苦痛」とよんでいます。
以下の通りになります。
- 身体的苦痛:痛み、他の身体症状、日常生活活動の支障
- 精神的苦痛:不安・いらだち、孤独感、恐れ、うつ状態、怒り
- 社会的苦痛:仕事上の問題、経済上の問題、家庭内の問題、人間関係、遺産相続
- スピリチュアルペイン(霊的苦痛):「こんな状況で生きている意味がない」「なぜ私だけがこんな目にあうの?」
この中には選択肢にある「精神症状」は含まれず、「身体的苦痛」が含まれることがわかります。
また、WHOが出している緩和ケアの定義は以下の通りです。
「緩和ケアとは、生命を脅かす病に関連する問題に直面している患者とその家族のQOLを、痛みやその他の身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題を早期に見出し的確に評価を行い対応することで、苦痛を予防し和らげることを通して向上させるアプローチである」
この中で緩和ケアでの支援として以下の事項が挙げられています。
- 痛みやその他のつらい症状を和らげる
- 生命を肯定し、死にゆくことを自然な過程と捉える
- 死を早めようとしたり遅らせようとしたりするものではない
- 心理的およびスピリチュアルなケアを含む
- 患者が最期までできる限り能動的に生きられるように支援する体制を提供する
- 患者の病の間も死別後も、家族が対処していけるように支援する体制を提供する
- 患者と家族のニーズに応えるためにチームアプローチを活用し、必要に応じて死別後のカウンセリングも行う
- QOLを高める。さらに、病の経過にも良い影響を及ぼす可能性がある
- 病の早い時期から化学療法や放射線療法などの生存期間の延長を意図して行われる治療と組み合わせて適応でき、つらい合併症をよりよく理解し対処するための精査も含む
『③我が国の緩和ケアは、がん対策基本法とがん対策推進基本計画とによって推進されている』
がん対策基本法には以下のような記載があります。
「国及び地方公共団体は、手術、放射線療法、化学療法、緩和ケア(がんその他の特定の疾病に罹患した者に係る身体的若しくは精神的な苦痛又は社会生活上の不安を緩和することによりその療養生活の質の維持向上を図ることを主たる目的とする治療、看護その他の行為をいう)のうち医療として提供されるものその他のがん医療に携わる専門的な知識及び技能を有する医師その他の医療従事者の育成を図るために必要な施策を講ずるものとする」(第15条:専門的な知識及び技能を有する医師その他の医療従事者の育成)
「国及び地方公共団体は、がん患者の状況に応じて緩和ケアが診断の時から適切に提供されるようにすること、がん患者の状況に応じた良質なリハビリテーションの提供が確保されるようにすること、居宅においてがん患者に対しがん医療を提供するための連携協力体制を確保すること、医療従事者に対するがん患者の療養生活の質の維持向上に関する研修の機会を確保することその他のがん患者の療養生活の質の維持向上のために必要な施策を講ずるものとする」(第17条:がん患者の療養生活の質の維持向上)
がん対策推進基本計画には以下のように記載があります。
重点的に取り組むべき課題として「がんと診断された時からの緩和ケアの推進」が掲げられています。
「がん患者とその家族が可能な限り質の高い生活を送れるよう、緩和ケアが、がんと診断された時から提供されるとともに、診断、治療、在宅医療など様々な場面で切れ目なく実施される必要がある」
併せて、欧米諸国に比べて疼痛薬消費が少ないこと、国民全体に対しても緩和ケアについての理解が行き届いていないことなどが示されており、その対策として個別目標が定めらています。
よって、選択肢③は正しいと判断できます。
『④がん診療連携拠点病院における緩和ケアチームは、入院患者のみならず外来患者も対象とする』
「がん診療連携拠点病院」とは、専門的ながん医療の提供、地域のがん診療の連携協力体制の整備、患者・住民への相談支援や情報提供などの役割を担う病院として、国が定める指定要件を踏まえて都道府県知事が推薦したものについて、厚生労働大臣が適当と認め、指定した病院です。
また厚生労働省が定めている「地域がん診療連携拠点病院の指定要件」の中で「緩和ケアの提供体制」では、以下の記載があります。
「苦痛のスクリーニングの支援や専門的緩和ケアの提供に関する調整等、外来・病棟の看護業務を支援・強化すること。また、主治医及び看護師等と協働し、必要に応じてがん患者カウンセリングを実施すること」
「外来において専門的な緩和ケアを提供できる体制を整備すること。なお、「外来において専門的な緩和ケアを提供できる体制」とは、医師による全人的かつ専門的な緩和ケアを提供する定期的な外来を指すものであり、疼痛のみに対応する外来や、診療する曜日等が定まっていない外来は含まない。また、外来診療日については、外来診療表等に明示し、患者の外来受診や地域の医療機関の紹介を円滑に行うことができる体制を整備すること」
「医療用麻薬等の鎮痛薬の初回使用時や用量の増減時には、医師からの説明とともに薬剤師や看護師等による服薬指導を実施し、その際には自記式の服薬記録を整備活用することにより、外来・病棟を問わず医療用麻薬等を自己管理できるよう指導すること」
「がん治療を行う病棟や外来部門には、緩和ケアの提供について診療従事者の指導にあたるとともに緩和ケアの提供体制についてアに規定する緩和ケアチームへ情報を集約するため、緩和ケアチームと各部署をつなぐリンクナース(医療施設において、各種専門チームや委員会と病棟看護師等をつなぐ役割を持つ看護師のことをいう)を配置することが望ましい」
以上のように、緩和ケアチームによる外来患者の受け入れが「がん診療連携拠点病院」の指定要件となっています。
よって、選択肢④は正しいと判断できます。
『⑤診療報酬が加算される緩和ケアチームは、精神症状の緩和を担当する常勤医師、専任常勤看護師及び専任薬剤師から構成される』
緩和ケアチームの定義は複数ありますが、本選択肢の内容に合致しているのは「緩和ケア診療加算に関する施設基準」通知における必要な施設・チーム基準としての定義だと思われます。
その基準による構成員については以下の通りです。
- ア 身体症状の緩和を担当する専任の常勤医師
- イ 精神症状の緩和を担当する専任の常勤医師
- ウ 緩和ケアの経験を有する専任の常勤看護師
- エ 緩和ケアの経験を有する専任の薬剤師
なお、アからエまでのうちいずれか1人は専従であること。
ただし、当該緩和ケアチームが診察する患者数が1日に 15 人以内である場合は、いずれも専任で差し支えない。
また、緩和ケア診療加算に規定する点数を算定する場合には、以下の4名から構成される緩和ケアチームにより、緩和ケアに係る専門的な診療が行われていること。
- ア 身体症状の緩和を担当する常勤医師
- イ 精神症状の緩和を担当する医師
- ウ 緩和ケアの経験を有する看護師
- エ 緩和ケアの経験を有する薬剤師
お世話になっております。
①によれば、「終末期医療における在宅医療が重視されている流れ」とのことですが、具体的には、③で「がんと診断された時からの緩和ケアの推進」とされています。また、⑤「緩和ケア診療加算に関する施設基準」通知における必要な施設・チーム基準とは、癌の病棟の配置ということでしょうか。
というのは、ALSの方が自死を選ばれ、協力した医師が逮捕される、という事件がありました。この事件は②の「死を早めようとしたり遅らせようとしたりするものではない」「患者が最期までできる限り能動的に生きられるように支援する体制を提供する」が、尊重されていないこと、そして医師の中に緩和ケアを理解されていない方がいること、が示されていると考えます。
そこで、a.がんだけでなく対象疾病を広くする動きはありますか。b.病院だけでなく地域や在宅を緩和ケアの対象とする考え方は在りますか。C.人員の配置にしても、病院内だけでなく、地域を対象とする考え方はありますか。d.緩和ケアの理念を広める動きはありますか。
「過去問の理解」という点からずれる点があるかと考えますが、大事な視点かと思い、お問合わせします。
コメントありがとうございます。
お返事が遅れて申し訳ありません。
>⑤「緩和ケア診療加算に関する施設基準」通知における必要な施設・チーム基準とは、癌の病棟の配置ということでしょうか。
こちらに関しては、通知内以上のことはわかりかねますので、通知をご熟読ください。
また、a~dに関しましても、緩和ケアの現場にいない私にはわかりかねる内容です。
ご承知おきください。
いつも世話になっております。
緩和ケアとは ・・・について厚労省のサイトで「終末期だけでなく」という表現がありました。いかがでしょうか。
「『がん対策推進基本計画(平成24年6月閣議決定)』において、緩和ケアについては、『がんと診断された時からの緩和ケアの推進』が重点的に取り組むべき課題として位置付けられています。がん患者とその家族が、可能な限り質の高い治療・療養生活を送れるように、身体的症状の緩和や精神心理的な問題などへの援助が、終末期だけでなく、がんと診断された時からがん治療と同時に行われることが求められています。」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/gan/gan_kanwa.html
何度もすみません。