行きしぶりがある10歳女児の事例です。
実際は行きしぶりがテーマになっている問題ではないですね。
解答のポイント
事例内容から適切な見立てを読み取ることができる。
事例内容が、DSM-5の診断基準のいずれに該当するかがわかる。
事例の特徴
まずは事例内容を精査し、考えられる見立てを挙げていきましょう。
- 行きしぶりがある。
→不登校傾向?いわゆる「良い子」である記述がそれをにおわせている。
→下記の音読やその緊張感等による、原因が明確な「行きしぶり」の可能性も。 - 音読が苦手で、予習はするが授業中うまく音読ができない
→DSM-5(神経発達障害群)における「限局性学習障害」の「読みの障害」に該当する可能性。 - 緊張して瞬きが多くなっている。
→DSM-5(神経発達障害群)における「運動障害」の「チック障害」に該当する可能性。 - 「友達には合わせているが、本当は話題が合わない」と話している。
→この内容では、ASDやコミュニケーション障害とは言えない。10歳という年齢ということで、ウラとオモテの精神構造といった正常発達による違和感の発露か?
そしてこれらの内容に加えて、「教育相談室」という枠組みで行うことが可能な対応であるかを念頭に置きつつ、各選択肢の検証を行っていきます。
ちなみに「教育相談室」を、県や市の教育委員会の組織であると捉えて進めていきます。
「○○教育相談室」という名称は、例えば、臨床心理士指定大学院の附属相談センターの名称としてもよくありますが、こちらは除外します。
選択肢の解説
『①チック症状がみられるため、専門医への受診を勧める』
確かに事例ではチック症状が示されております。
しかし、この対応にはいくつか気になる点があります。
まず、事例内容では明らかに「音読ができない」ということを契機に緊張感が高まっており、それによりチック症状が出ていると考えることができます。
このことは、チック症状を主な問題と捉えて関わるという「見立て」の適切さに疑問符が付されると言えます。
「音読ができない」という背景にある女児の問題をケアしていくことが支援の中心であり、いわゆる二次症状と目される「チック症状」を中心にケアしていくのは適切でないと考えられます。
また「専門医への受診を勧める」とありますが、「チックの専門医」ということでしょうか、それとも単に小児科医を指しているのでしょうか。
いずれにしても、現状で即座に医療につなぐという対応は極端な気がしますし、「チックの専門医」はそれほど身近に存在するものでもないのでは、という気がします。
以上より、選択肢①は不適切と言えます。
『②うつ状態が考えられるため、ゆっくり休ませるよう指導する』
こちらはおそらく「行きしぶり」から導かれた見立てと対応になると思われます。
しかし、「行きしぶり」から「うつ状態」を結ぶのは根拠薄弱であると言えます。
また、「うつ状態」で「ゆっくり休ませる」というのはあり得る対応だと思えますが、「行きしぶり」だから「ゆっくり休ませる」というのはケースバイケースです。
見立てとしても対応としても、選択肢②は不適切な内容と判断できます。
『③発達障害の重複が考えられるため、多面的なアセスメントを行う』
DSM-5の「神経発達障害群」の中にある、限局性学習障害とチック障害が本事例からは認められるので、「発達障害の重複」という記述は適切と考えられます。
また、それに対して「多面的なアセスメントを行う」というのも、ごく自然な対応と考えることが可能です(実践的見地から具体性に欠けるという印象はありますが)。
この選択肢で「発達障害の重複」という記述の根拠がDSM-5のみであるということに引っかかる人がいるかもしれません。
ICD-10では、学習障害は「F8 心理的発達の障害」に含まれ、チック障害は「F9 小児<児童>期及び青年期に通常発症する行動及び情緒の障害」になります。
発達障害の定義は発達障害者支援法にありますが、法施行の際に出された次官通達の中で「法の対象となる障害は、脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するもののうち、ICD-10(疾病及び関連保健問題の国際統計分類)における「心理的発達の障害(F80-F89)」及び「小児<児童>期及び青年期に通常発症する行動及び情緒の障害(F90-F98)」に含まれる障害であること」とされています。
すなわち、チック障害も発達障害の枠組みに含めているということになります。
よって、選択肢③が最も適切であると判断できます。
『④発達障害が考えられるため、ソーシャルスキルトレーニング〈SST〉を行う』
本事例で認められる発達障害は(あくまでもDSM-5の枠組み)、限局性学習障害とチック障害と言えます。
その意味で、前半部分の「発達障害が考えられるため」というのは適切といえます。
一方で、その後の「ソーシャルスキルトレーニング〈SST〉を行う」に関しては違和感があります。
SSTは対人関係上のトレーニングが中心となる場合がほとんどですが、本事例の発達障害は学習障害とチック障害で、対人関係上の問題が直接の障害になるとはされておりません。
更に「友達には合わせているが、本当は話題が合わない」からも、本人に対人関係スキルが備わっていると認められます。
よって、選択肢④は不適切と言えます。
『⑤限局性学習症/限局性学習障害〈SLD〉が考えられるため、適切な学習方法を見つける』
まず前半部分の限局性学習障害の存在については適切といえます。
また、後半の「適切な学習方法を見つける」というのも、誤りとは言えません。
よって、選択肢⑤はある程度適切な選択肢と判断できます。
一方で、問題文にあるとおり本問は「最も適切なもの」を選ぶ必要があります。
選択肢⑤の場合、チック障害について勘定に入れておらず、その点で選択肢③よりも優先度が下がるように感じます(行きしぶりは限局性学習障害との連関がある可能性が考えられますね)。
よって、選択肢⑤は「適切」ではありますが、「最も適切」ではないと考えられるため、除外する必要があると思われます。
他肢の丁寧な説明で納得できました。毎日見に来て参考にしています。ありがとうございます。