公認心理師 2018-62

産業医から企業内の心理相談室を紹介された35歳女性の事例です。
事例内容から対応を判断していくタイプの問題ですね。

選択肢のうち4つが具体性の強い対応になっており、受験者は「そう判断するに足る情報があるか否か」の見極めが求められます。
事例の情報を冷静に検証していくことが重要です。

解答のポイント

事例内容から「どこまで判断してよいか」を見極められること。
ひとつの方針に「決め切らない」ということができること。

事例の特徴

いくつかの側面に分けて、事例の特徴を押さえていきます。

現実的側面

  • 2年前に離婚した。
  • 発達障害の小1娘がいて、学校から呼び出されることが多い。
  • 原家族は遠方に住んでおり、育児や経済面への援助はない。

心理的・身体的側面

  • 責任感が強く、融通が利かない(娘の発達的特徴とも関連するか?)。
  • 仕事はこなせている。
  • 離婚や子どもの問題を考えると気分が沈む。
  • 余暇の楽しみはなく、休日はぐったりと寝ていることが多い。
  • 食欲はあまりなく食事を楽しめない。

このような特徴を踏まえて、選択肢の検証を行っていきます。

選択肢の解説

『①病気休暇を取得することを勧める』

この方針をとる場合、病気休暇に相当すると判断するに足る情報が必要です。
現状でそれに該当しそうなのが「離婚や子どもの問題を考えると気分が沈む」「食欲はあまりなく食事を楽しめない」というものですが、これらも例えば、うつ病に該当するという決定的なものとは言えません。

現実的な大変さや苦慮感も否定はしませんが、即病気休暇を取得できる状態であるという確定には至らないと思われます。

よって、選択肢①は不適切と思われます。

『③速やかに認知行動療法による介入を行う』

認知行動療法は、うつ病、パニック障害、強迫性障害、不眠症、薬物依存症、摂食障害、統合失調症などにおいて、科学的根拠に基づいて有効性が報告されています。

「速やかに認知行動療法を行う」という方向性が強く定まった対応を取る場合は、事例が上記のような認知行動療法が有効であると目される病理・問題を抱えているという確証が求められます
本事例のもっとも考えうる病理としては「うつ病」であると考えられますが、現状ではそれを確定するには情報が不十分です。
よって、現状から認知行動療法を単純に結びつけることは困難といえます。

以上より、選択肢③は不適切と判断できます。

『④原家族や娘の小学校に連絡して情報を得る』

この対応にはいくつかの瑕疵があります。

まずは本人に許可を取ったという記述がないことです。
秘密保持義務を超える場面であるかの検証も必要ですが、事例の内容から「本人の精神医学的問題が大きく、秘密保持義務を超えて対応することが必要である」と読み取ることは困難です。

またこの対応は、事例の状態悪化が「原家族が遠方にいて育児や経済面への援助がない」「娘の小学校からの呼び出し等」によって生じているという見立てに基づいて行われると思われます。
しかし、本人の「責任感が強く、融通が利かない」という点による、すなわち職場環境との兼ね合いによる苦慮感も考慮に入れる必要があると言え、選択肢のように見立てるのは早計だと考えられます。

以上より、選択肢④は不適切と判断できます。

『⑤生命が危険な状態にあるため危機介入を行う』

生命が危険な状態にあると判断するには、例えば、強い抑うつ状態やそれに伴う自殺念慮の存在が前提になると言えます。
しかし、本事例の記述を読む限り、そこまでの判断が可能な情報の記載はありません

よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。

『②非構造化面接や簡単な心理検査を行う』

これまでの各選択肢の解説からもわかるとおり、35歳女性の心身がどういった状態にあるのかを見極めることが支援の取っ掛かりとして求められます

抑うつが強く職務継続が困難であれば病気休暇を含めた対応を考えていくことになりますし、本人の苦慮感の背景に現実的支援の薄さがあるのであれば原家族等の支援を本人と話し合っていくことを考えます。

現状では、見立てと対応を確定できるほどの情報は見られないので、アセスメントがまずは求められます
企業内の心理相談室に来談したという設定ですから、選択肢にあるような「非構造化面接」や「簡単な心理検査」などの導入が容易い方法論をもって行うことが重要です。

場合によっては、傾聴を中心とした支援が一番のサポートになる可能性もあるので、「非構造化面接」や「簡単な心理検査」でしたら、状況に応じてアセスメントから心理支援等への柔軟な移行がしやすいです。

よって、選択肢②が最も適切と判断することができます。

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