糖尿病の55歳男性の事例です。
治療を受けていたが、状態は増悪しているということで、生活習慣の改善を見直すことを目的に公認心理師に紹介された形です。
日本人を対象とした横断的/経年的疫学研究による糖尿病の発症危険因子として、1)加齢、2)家族歴、3)肥満、4)身体的活動の低下(運動不足)5)耐糖能異常(血糖値の上昇)であり、これ以外にも高血圧や高脂血症も独立した危険因子であるとされています。
予防対策としては「肥満の回避」、「身体的活動の増加」、「適正な食事」が合理的です。
これらの対策は生活習慣病としての高血圧、高脂血症への介入手段としても有効であり、また、脳卒中・冠動脈疾患などの心血管疾患の予防対策ともなりますね。
解答のポイント
事例Aの置かれている心理状態を理解しつつ対応を考えること。
選択肢の各対応が、どういった見立てのもとで行われるものであるかを把握できること。
事例の特徴
おそらくは糖尿病2型の事例と思われます。
ポイントは以下の通りです。
- 小売店を経営しており、取引先の仲間と呑むのが長年の日課。
- 主治医から暴飲暴食を止めるように言われている。
- 本人は「これは仕事の一部で、これだけが生きる楽しみ」と語る。
- 一方で「やめようと思えばいつでもやめられる」と語る。
- 次回の面接では生活習慣の改善は見られなかった。
これらを踏まえて、選択肢の検証を行っていきます。
選択肢の解説
『④Aが自分の問題を認識するための面接を行う』
今回は正答と思われる選択肢から入ります。
そちらの方が、他の選択肢の解説を行いやすいので…。
まずAの何が課題なのかを考えていくことが大切です。
事例内容からは、「Aが糖尿病という問題について、きちんと向き合うことが難しい状態」だと読み取ることが可能です。
まずは、なぜAが問題と向き合うことが難しいのかを考えてみます。
ずっと経営者として取引先と関わる中で作り上げた生活習慣は、まさにAの人生の一部となっていると考えることができます。
そして、生活習慣の改善を行うということは、今まで過ごしてきた人生とは異なる人生を歩むという意味にもなります(これは決して大げさな表現ではないと思います)。
「やめようと思えばやめられる」というのも、頭のどこかでは現状が良くないと理解しており、やめることが大切であるということも何となくはわかっているのだと思います。
それが、怒られる公算が高い治療の場に何度も訪れている、という形となって現われているとも言えます。
支援では、こうした人生の路線変更に伴う痛みをスムーズに経過していけるように関わっていくことが大切です。
上記のような、人生のパラダイムシフトへの思いを汲み取りつつ、糖尿病という問題にきちんと向き合い、関わることができるようにしていくことが求められます。
選択肢④にある「Aが自分の問題を認識するための面接」という表現は、そういったAへの支援の方針と捉えて矛盾が無いと言えます。
単純な言い方をすれば、「動機づけ面接を行うような事例なので」という理由づけも可能ですね。
ここで述べたようなAの心情の流れについてはあくまでも仮説に過ぎませんが、いずれにしてもAが自身の問題をきちんと認識するという方針は適切といえます。
よって、選択肢④は適切だと判断できます。
『①家族や仲間の協力を得る』
この対応はAが、自身をコントロールすることが困難であるという認識が背景にあると思われます。
しかし、この方針はややAを軽く見ている節があり、究極のところ本人の意思が重要となる糖尿病治療においてうまくいく公算が低いように思われます。
生活習慣の改善は見られなくてもキチンと治療の場に来ているというAの行動から、治療の必要性の自覚はありつつも、どうしてもスッと治療に与することができない複雑な心理の存在が読み取れます。
選択肢①の対応は、Aの治療意欲を削ぐ恐れがあると言え、適切ではないと判断できます。
『②飲酒に関する心理教育を行う』
心理教育を行うという対応は、「問題をきちんと理解していないから生活習慣の改善が見られないと考えられる。だから、そのリスク等をきちんと伝えると変化が起こる」という見立てがあってだと思われます。
しかし、Aが問題をきちんと理解していない、ということは無いだろうと思われます。
治療の場に来ているわけですし、「やめようと思えばやめられる」というのもやめることが大切であるということはわかっている場合の表現です。
もっと心理的なところで抵抗感があるという認識を持って関わることが大切であり、教育的アプローチによる効果は薄いと考えられます。
よって、選択肢②は不適切と判断できます。
『③断酒を目的としたグループを紹介する』
こちらの対応は、ある程度動機づけが高まってきたうえでのものだと思われます。
AA活動などでは、互いに励まし合いながら断酒を続けていくわけですが、それは断酒することの大切さを(ある程度)認識していることが重要です。
(実際は、AAにも色んな状態の方が来られるのですが…)
Aの状態は、治療の場に入る必要があるのはわかっているけど抵抗が拭えない、というものだと思われます。
こうした状態でA本人に参加を任せるような対応をしたとしても、行く可能性は低いと思われますし、行ったとしても温度差を感じることになりかねないと思われます。
よって、選択肢③は不適切と判断できます。
『⑤Aと一緒に生活を改善するための計画を立てる』
繰り返しますが、Aは治療の場に入る必要があるのはわかっているけど抵抗が拭えないという状態と思われます。
選択肢⑤の対応は、治療への動機づけ、意欲が備わっており、それに向かって進んでいく人への関わりだと思われます。
よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。