肺癌の終末期で緩和ケアを受けている55歳男性の事例です。
解答速報でも答えが割れているようですね。
個人的にも解き方が難しかったなと思っています。
この問題のポイントは以下の通りです。
- 最近苛立ちやすく、性格が変わった(と家族が言っている)
- 夜間はあまり眠らず、昼間に眠っていることが多い
解答のポイント
「せん妄」の特徴とケアについて把握していること。
事例では何が起こっているのか?
上記で示されている「最近苛立ちやすく、性格が変わった(と家族が言っている)」「夜間はあまり眠らず、昼間に眠っていることが多い」ということは何によって生じているのかを考えていきます。
がん緩和ケアで生じやすい症状の一つに「せん妄」があります。
せん妄は、軽度の意識障害下に生じる精神的な混乱あるいは錯乱、引き続く行動異常です。
死亡までに70%のがん患者に生じる、見落としが多い病態であるとされています。
せん妄の中心症状としては以下が示されています。
- 時間、場所、人物に関する見当識障害
- 睡眠・覚醒リズムの障害(夜間不眠と日中傾眠)
- 短時間内の急激な症状変化(傾眠から興奮へ、ないしはその逆もあり)
- 短期記憶の障害(数分前のことを覚えていない)
- 活動性の亢進
- わずかな不快刺激で不穏、興奮
- 幻覚(特に幻視、幻聴)
- 錯覚(特に錯視)
- まとまりのない会話
- 周囲に対する注意力の減少
下線部のように事例の内容と合致する部分が多く見受けられます。
特に見当識障害や幻覚・妄想では、人格を損なうような異常言動が出現するため、患者のみならず家族の心にも大きな傷を残すことになります。
(※ただし、せん妄の幻覚では小動物視が特徴的とされています)
そのため、家族のケアが非常に重要で具体的な説明などがガイドブックには示されています。
鑑別診断では、せん妄の初期徴候を不安、抑うつ、怒り、治療に対する拒絶的態度、認知症などと誤診しないことが重要です。
特にせん妄と認知症との鑑別が困難とされていますが、鑑別のポイントは以下の通りです。
- せん妄は意識レベルの変動と見当識障害を特徴とし、症状は夜間に増悪する。
- 認知症は比較的意識が清明な人に認められ、睡眠・覚醒周期の障害はあまり顕著ではなく、記憶障害、判断力低下、抽象的思考の障害を伴う。
選択肢の解説
『②不安』『③意欲低下』『⑤抑うつ気分』
これらについてはせん妄との鑑別診断において気をつけねばならない事項として挙げられています。
本事例を「せん妄」状態にあると捉えて考えていった場合、これらについては除外する必要があります。
よって、選択肢②③⑤については、この患者の状態を評価する項目として「最も優先すべきもの」とは言えないと判断できます。
『①幻覚』
幻覚は重要な認知機能の障害ですが、せん妄は意識レベルの変動と見当識障害を特徴としているため「最も優先すべきもの」とするのは難しいように思えます。
次の選択肢の解説でも述べるように、ケアでは見当識の回復に対する支援が重視されています。
『④見当識障害』
よって、この見当識障害が重要な指標と言えます。
せん妄が生じた場合は抗精神病薬による薬物療法を中心にしつつ、せん妄についての説明、睡眠誘導、時間間隔の回復、環境調整、コミュニケーションの工夫といった非薬物療法を行っていきます。
こうした非薬物療法のケアにおいて重視するのが、「見当識の回復に対する支援」と「生活リズムの補正」とされています。
これらの改善がせん妄の改善とつながっていると言え、その意味で「見当識障害」がこの患者の状態を評価する項目として「最も優先すべきもの」と考えることが妥当と思われます。
よって、選択肢④を選択することが求められます。
正解は4でよいとは思いますが、肺がんは脳転移が多いという知識が必要とされます。この状況はせん妄とは限らないと思いますよ。