公認心理師 2018-122

学校における心理教育的アセスメントについて、誤っているものを1つ選ぶ問題です。

石隈先生の「学校心理学」の考え方に沿った問題になっています。
学校心理学とは「生徒の学習面と適応面での発達を援助する目的で、学校心理学の専門家が学校教育の一環として行う心理学的援助サービスの実践体系でありそれを支える学問体系」と定義されています。

臨床心理学も生徒のメンタルヘルスや適応の問題を扱いますが、学校心理学は心理的な問題と同時に学習上の問題に焦点を当てているところに特徴があります。
臨床心理学やカウンセリング心理学が子どもを全人格的に見ようとするのに対して、学校心理学は子どもを一つの人格としてみると同時に「生徒」としてみようとする立場をとります。

解答のポイント

石隈利紀先生の「学校心理学」の視点を把握していること。
チーム学校の考え方を把握していること。

選択肢の解説

『①一定のバッテリーからなる心理検査の実施が必須である』

石隈(1995)によると、三次的関与の準備の一つとして「生徒への個別式知能検査の実施」を挙げておりますが、決まったバッテリーの必要性は示されておりません

選択肢にある「一定のバッテリーからなる心理検査の実施」については、いくつか問題点が浮かぶので列挙していきます。

  • 児童・生徒が示す問題によって、その背景にある心理構造に大きな違いがあると言え、「一定のバッテリー」を定めることが難しい。
  • 例えば不登校事例などでは、そもそも学校に来ることが困難であるという事情があるので、「心理検査の実施」を必須とすることは適切と言えない。
  • 実施者の技量によってアセスメントの質に大きな隔たりが出てしまう。実際に、いくつかの都道府県では、SCの検査実施を禁じている。
  • 学校現場に「一定のバッテリー」を組めるほどの機材が揃っていることはない。
  • 児童・生徒が学校生活を送っている「自然な姿」から得るデータが重要である。
  • 保護者の許可、検査結果の保管など、倫理上クリアせねばならない事柄が多い。

学校現場では、児童・生徒本人、教職員、保護者などからの情報を統合する形でアセスメントを行うことが多いと言えます。
これらの情報は、心理検査によって得られる情報以上に多くの事柄を教えてくれます。

また、ある心理検査を実施するにしても、本人および保護者への丁寧な説明を行い、納得の上で行いますし、こうした丁寧な手続自体が心理療法的意味を持ちます。

以上より、選択肢①は誤りと判断でき、こちらを選ぶ必要があります。

『②学校生活における子どもの観察が重要な要素の1つである』

心理教育的援助サービスには以下の3段階があるとされています(この点は問98で詳しく述べています)。

  • 一次的援助サービス:
    「すべての子ども」を対象に行われる発達促進的、予防的援助サービスを指します。
    予防的援助サービスは、ある場面で多くの生徒が出会う問題を予測して前もって援助することを指し、発達促進的サービスは、生徒の一般的な適応能力(学習スキル、対人関係能力等)野発達を促進するサービスを指します。
  • 二次的援助サービス:
    登校しぶり、学習意欲の低下、孤立など、学校生活で苦戦している、もしくは転校生などの苦戦する可能性が高い「一部の子ども」を対象に行います。
    早期発見、早期対応が鍵となります。
  • 三次的援助サービス:
    不登校、いじめ、非行、虐待などの問題状況によって特別な援助ニーズを持つ「特定の子ども」を対象に行われます。
    一人ひとりの子どもの問題状況は異なるため、それぞれの子どもの状況について心理アセスメントを行い、具体的な援助を組み立てながら問題の解決にあたります。
    教育・援助目標(長期の目標、短期の目標)を立ててそれを達成するための教育計画を作り実践していきます。
そして石隈(1995)は、例えばLDが疑われる生徒の三次的援助サービスの準備としては以下のような事柄があるとしています。
  • 生徒への個別式知能検査の実施
  • 学級での観察
  • 保護者との面接
  • 援助チームが得た生徒に関する情報の総合的な分析に関しての助言
こうした就学中の生徒の心身の発達に関する心理教育アセスメントについての専門性が、スクールカウンセラーには期待されています。
以上より、選択肢②は正しいと言えます。

『③心理教育的援助サービスの方針や計画を立てるためのプロセスである』

石隈(1995)では、スクールカウンセラーが行う心理教育的援助サービスの主なものの一つとして心理教育アセスメントをあげています。
そして、「学校教育におけるすべての心理教育的援助サービスは心理教育アセスメントに基づいて行われる」としております。

また、「WISC-Ⅲアセスメント事例集」には以下のような記載があります。

  • 心理教育的援助サービスの手法は、アセスメント、カウンセリング、コンサルテーション等から構成される。
  • 特にアセスメントは、サービスの方向性を決定する基盤として重要であり、学校では子どもの実態把握や理解につながる専門的な観点でのアセスメントの利用が進められつつある
  • また、特別のニーズのある子どもに応じた教育的支援が求められるようになり、従来の学校不適応などの社会性の問題だけではない、発達や能力も視野に入れた包括的なアセスメントのニーズが高まってきている。

以上より、選択肢③は正しいと言えます。

『④複数の教師、保護者、スクールカウンセラーなどによるチームで行われることが望ましい』

石隈(1995)は、心理教育的援助サービスの担い手はスクールカウンセラーだけでなく、教師や保護者も含むとし、3段階のヘルパーのモデルを示しています。

  • 一次的ヘルパー:
    心理教育的援助サービスを主たる仕事とする専門家を指す。授業は行わず心理教育アセスメント、カウンセリング、コンサルテーションを主に行う。
  • 二次的ヘルパー:
    仕事や役割の一部として心理教育的援助サービスを行う者のこと。学校の教職員や保護者が該当する。
  • 三次的ヘルパー:
    援助する生徒や援助のパートナー(教師や保護者)にとって援助的に働いている者を指す。友人などが該当します。
上記のような様々なヘルパーがチームとして援助にあたることが望ましいとされています。
また「チームとしての学校の在り方と今後の改善方策について(答申)」においても、教員以外の専門スタッフの参画、授業等において教員を支援する専門スタッフなどの参画が示されており、以下のような記述があります。

「学校現場で、より効果的に対応していくためには、教員に加えて、心理の専門家であるカウンセラーや福祉の専門家であるソーシャルワーカーを活用し、子供たちの様々な情報を整理統合し、アセスメントやプランニングをした上で、教職員がチームで、問題を抱えた子供たちの支援を行うことが重要である」

以上より、選択肢④は正しいと言えます。

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