2型糖尿病について、正しいものを2つ選ぶ問題です。
ブループリントには「人体の構造と機能及び疾病」の項目に「内分泌代謝疾患」と記載があります。
この疾患の一つとして糖尿病があるので、ブループリントから出た項目と言えますね。
この「人体の構造と機能及び疾病」については、これまでの臨床心理士の過去問等にはほとんど見られない分野ですが、精神保健福祉士の国家試験などには項目が設けられています。
今回の試験と北海道の追加試験などの情報を集め、この分野の問題がどのような出方をするのか検証していくことが大切ですね。
今回の問題の印象では以下を押さえておきたいところです。
- 発症要因
- 主な治療法(そしてそれに公認心理師がどのように関わるか)
- 危険因子や予防因子
解答のポイント
2型糖尿病の発症要因、治療、合併症などについて把握していること。
選択肢の解説
『①ストレスは身体に直接作用して血糖値を上げる』
糖尿病は発症要因から大きく1型、2型に分けられ、日本の糖尿病患者の約95%が2型糖尿病といわれています。
2型糖尿病は、「ストレス」、「肥満」、「運動不足」、「暴飲暴食」などのライフスタイルの乱れが主な原因となって起こります。
なお、1型糖尿病は、主にランゲルハンス島β細胞の破壊によりインスリン分泌が著しく障害されて発症し、その原因と予防は確立されていません。
心身にストレスがかかると、血糖値を上げるホルモンが分泌される一方で、インスリン抵抗性が強くなります。
「インスリン抵抗性が強い」とは、インスリンという血糖値を下げるホルモンに対する感受性が低下した状態を指し、インスリンはたくさん分泌されていても、血糖値が下がりにくくなります。
その結果、血糖値が上がるとされています。
動物に襲われると血糖値が上がるとされていますが、これはストレッサー(動物)への「臨戦態勢」に入る準備として、筋肉を最大限に働かせるために、エネルギー源となる大量のブドウ糖が血中に放出されるからです。
以上より、選択肢①は正しいと判断できます。
『②うつ病を合併すると、血糖値は下がることが多い』
2型糖尿病とメンタルヘルスは双方向の関係にあります。
うつ病の症状は血糖値の悪化と糖尿病関連の合併症の増加と関連していることが明らかにされており、糖尿病治療ではメンタルヘルスを重視し、予防プログラムを策定し、スクリーニングとケアを充実させることが、糖尿病予備群や糖尿病患者のQOLを向上するために重要です。
また、うつ病になったことがあると答えた人はそうでない人と比較して、2型糖尿病や肥満、脂質異常症が多く、間食や夜食の頻度が高いことが分かっています。
最近の調査研究で、うつの状態では、空腹時血糖値が正常な人でも食後血糖値が高くなりやすいことや、血糖変動が全く正常でも血中のインスリン濃度は高くなっていることがわかりました。
この点から、うつによって血糖値が上がる原因はインスリン抵抗性にあることがわかります。
実際、うつから糖尿病になった人の多くが、血中インスリン濃度が高い「高インスリン血症」の状態にあり、このようなケースでは、インスリンの量は十分なので、ふつうの糖尿病治療はあまり効果がなく、うつの治療を進めることが先決です。
これらより、うつ病はその心身への影響から血糖値が高くなりやすいことが明らかにされていると言えます。
糖尿病とうつ病は双方向の関係にありますが、糖尿病の人の2~3割はうつを併発しており、糖尿病以外の病気でのうつの併発(約1割)より、頻度が高いといわれています。
このことはうつ病を引き起こし、それが更に糖尿病を悪化させるという悪循環を生むとされています。
以上より、選択肢②は誤りと判断できます。
『③肥満や運動不足によってインスリンの効果が低くなる』
2型糖尿病のおもな原因は、肥満、過食、運動不足によるものとされています。
運動によりエネルギーを消費して、肥満を解消 ・抑制し、さらに運動を毎日続けることで筋肉の活動量が上がり、悪かったインスリンの働きも改善します。
さらに食後1時間頃に運動をすると、ブドウ糖や脂肪酸の利用が促されて血糖値が下がるという効果もあります。
運動療法の効果として、筋肉が増えてエネルギー消費が高くなる(つまり肥満の解消)と血糖値が下がりやすくなる、ということが挙げられます。
筋肉が増えると基礎代謝(何もしてなくても使われるエネルギー量)が高くなります(ある年齢を超えると太りやすくなるのは、こういうことが影響しています)。
他にも、運動時には大量のエネルギーが筋肉で必要とされるため、そのもとになる血中のブドウ糖が大量に消費され、血糖値を抑制するように働きます。
こちらは「運動の短期効果」であり、運動自体に血糖値を下げる効果があるということになります。
上記以外にも「運動の中・長期的効果」もあります。
2型糖尿病の患者にみられる「インスリン抵抗性」は、糖代謝におけるインスリンの作用不全を示す病態です。
このインスリン抵抗性があると血中のインスリンが細胞にブドウ糖を取り込む本来の役割を十分果たさないため、血液中のブドウ糖すなわち血糖値とインスリンの量(濃度)が上昇することになります。
筋肉は、食事由来のブドウ糖を取り込み、血糖をコントロールするとともにグリコーゲンとして貯蔵するという重要な役割を果たしていますが、活動量の低下や運動不足が続くと、ブドウ糖取り込み能力の低下を招きインスリン抵抗性の原因になるとともに、体力や基礎代謝の低下も引き起こします。
その結果、更に日常の活動量が低下し消費エネルギーが減ることで血糖値が上昇するうえ、体脂肪、特に内臓脂肪が増え、このことがインスリン抵抗性を一層促進することにつながります。
以上より、選択肢③は正しいと判断できます。
『④飲酒は発症のリスクを上げるが、喫煙は発症のリスクに影響しない』
飲酒は「百薬の長」と言われることがありますが、あれは間違いです。
あれの根拠になっている研究には、その研究法に大きな瑕疵があることがわかっており、飲酒はするほどに健康レベルを低下させる傾向があると明らかになっています。
一方、アルコール摂取が2型糖尿病に及ぼす影響は人によって異なるとされています。
プラスの知見として、例えば赤ワインに含まれるポリフェノール「レスベラトロール」には、血管の弛緩を減少させ動脈硬化を改善する作用があるとみられています。
ですが、基本的に飲酒はしても控えめに、という知見が多いようです。
1日1合以上飲む人は、飲まない人と比べて男性で1.3倍上昇するとされています。
多量の飲酒は糖尿病の危険性を高め、特に肝障害や膵障害が加わるとコントロールが難しい糖尿病になるため、糖尿病患者は多量飲酒は避けた方が良いとされています。
また、喫煙は糖尿病発症リスクを高めることが知られています。
喫煙は他の要因(BMI、身体活動、飲酒など)を調整しても、2型糖尿病の発症リスクを1.44倍上昇させることが示されています。
さらにこのリスクの上昇は喫煙本数が多いほど高く、禁煙者では喫煙者に比べてリスクの低下がみられました。
慢性的に喫煙を行うことでインスリン感受性が低下すると推察されており、それは喫煙によるアディポネクチンの低下などが関連すると考えられています。
ちなみに、禁煙によりインスリン抵抗性は8週間で改善することが報告されています。
上記の通り、飲酒については若干否定的な知見が見られるものの、適量ならば…という意見が多いようです。
一方で、喫煙については明確に発症リスクを高めるとされています。
以上より、選択肢④は誤りと判断できます。
『⑤薬物療法が中心になるため、服薬管理が心理的支援の主な対象になる』
2型糖尿病では食事療法、運動療法、薬物療法などが治療法として示されています。
食事療法では、身体に取り込まれる糖の量やエネルギーのバランスなどを調整します。
運動療法では、運動自体で糖を使い、筋肉の量が増えることで、糖をからだに取り込みやすくし、脂肪が減ることで血糖値を下げるインスリンが効果を発揮しやすい環境を作ります。
薬物療法では、インスリンの分泌を良くするもの・効きを良くするもの、食事でとった糖の分解・吸収を遅らせるもの、糖の排泄を促すもの、インスリンの分泌を促す注射や、インスリンそのものを外から補う注射などがあります。
治療では、まずは食事療法と運動療法、生活習慣の改善を行い、それでも目指すべき血糖の目標に達しないときには、内服薬や注射薬による治療が行われます。
薬による治療を始めた後も、食事療法や運動療法は続ける必要があるとされ、それは食事療法や運動療法をやめてしまうと、肥満が進んでしまったり、インスリンの働きが悪くなったりして、治療の効果が弱まってしまうためです。
以上より、2型糖尿病では食事療法・運動療法を基本としつつ、薬物療法も行っていきます。
特に食事療法や運動療法の役割は大きく、こちらの成否が2型糖尿病治療全体の成否を占うと言えます。
心理療法的アプローチは糖尿病治療にも活用されており、食事制限・肥満対策で認知行動療法的アプローチが活用されていたり、糖尿病の心理的負担の軽減を担うことになります。
よって、選択肢⑤は誤りと判断できます。