心身症について、正しいものを2つ選ぶ問題です。
心身症の治療は、その示している病態によって適宜選択されるべきです。
私個人が重要だと思うのは「示している症状を「その人自身」だと思って関わっていくこと」です。
明らかな心理的要因が見受けられたとしても、例えば腹痛であれば、それがそこに有ることを前提としながら関わっていくことが大切だと思います。
単純なことですが、心理療法を行う立場としては心理的要因に偏るという特徴が生じやすいと思われます。
このことを自覚し、自分の言動をきちんと統制することが求められます。
予後ですが、まずは「症状」以外が良くなっていき、次いで「症状」が少しずつ和らいでいくという印象を持っています。
最後まで残る「症状」は、お守りのような力を持っているようにも感じています。
解答のポイント
心身症の定義、支援方針等を把握していること。
神経症との違いを把握していること。
選択肢の解説
『①社会的に不適応を来すことが多い』
社会適応の面において、神経症の患者が概して些細なことで感情的になり、対人的にトラブルを起こして問題が表面化しやすいなど、不適応傾向が目立つのに対して、心身症の患者ではしばしば真面目人間、模範的、頑張り屋、仕事中毒症、過度に気を使う、頼まれると嫌と言えない、優等生、良い子などと表現されるような、社会的に過剰適応の傾向を示すことが多いとされています。
こうした特徴はアレキシサイミアに見られる性格傾向と類似する面も多く、少なくとも従来の神経症理論とは異なる概念として心身症を見ていく必要があると言えます。
以上より、選択肢①は誤りと言えます。
『②リラクセーション法の有効性が高い』
1991年に心身医学会が心身症の定義(選択肢③参照)を示しましたが、同時に心身医学的な治療法について複数挙げております。
一例を列挙すると以下の通りです。
- 一般内科ないし臨床各科の身体療法
- 生活指導
- カウンセリング
- 薬物療法
- ソーシャル・ケースワーク
- 自律訓練法、自己調整法、筋弛緩法
- 精神分析療法
- 行動療法
- 作業療法
- 温泉療法
他にもありますが、上記の通り、「自律訓練法、自己調整法、筋弛緩法」などのリラクセーションを中心とする方法が取り入れられております。
自律訓練法が臨床的に適用されるのは主に神経症および心身症とされています。
特に心身症にとっては非特異的な心理療法であり「心身症の基礎心理療法」(Iversen)として位置付けることができます。
具体的には、消化器系、心臓血管系、呼吸器系、内分泌および代謝系、筋骨格系の病理に用いられることが多く、一方で、心筋梗塞、低血糖患者、迫害妄想がある患者などには合わないことが多いとされております。
また治療では、以下のような段階を踏むことが多いとされています。
- 第1段階:受容的雰囲気の中でいたわりの言葉や態度を示しながら、患者の苦痛をわかろうとする気持ちが伝わるようにして、不安や防衛を和らげ、十分に時間をかけて病歴、生活歴の聴取を行い、心身医学的診断を進めながら、治療への導入を図る。
- 第2段階:抑えていた陰性感情を表出するようになる。十分に傾聴・共感的に接することによって、内的緊張が是正(自律訓練法によるリラックス法の習得、環境調整など)され、症状が軽減してくる。
- 第3段階:それまでの日常の対人関係や生活の仕方を見直させる。
- 第4段階:外的・内的な心理的刺激の受け止め方と、それに基づく対処行動を、より適切なものとするよう援助する。
- 第5段階:再発を防止するための対応の仕方が習得できたことを確認して、次第に治療間隔をあけ、治療を終結に持っていく。
上記の通り、リラックス法の習得は重要な要素になっていることがわかります。
以上より、選択肢②は正しいと判断できます。
『③発症や経過に心理社会的要因が関与する身体疾患のことである』
心身症という概念はイギリスのHallidayによって初めて提唱され、その後、Alexanderらの古典的研究をはじめ、数多くの研究報告がなされています。
日本では心身医学会が1970年に「身体症状を主とするが、その診断や治療に心理的因子についての配慮がとくに重要な意味を持つ病態」と定義しています。
一方でこの規定では、身体症状を主とする神経症やうつ病も含まれる可能性があり、概念理解の混乱を招きました。
そこで同学会は1991年に「心身症とは、身体疾患の中でその発症や経過に心理社会的因子が密接に関与し、器質的ないし機能的障害が認められる病態をいう。ただし、神経症やうつ病など、他の精神障害に伴う身体症状は除外する」と定義し直しました。
以上より、選択肢③は正しいと判断できます。
『④発症の契機が明らかになると、改善の方法も明らかになることが多い』
心身症の発病には何らかの葛藤や挫折体験が関係しているのが普通であり、それを取り繕うとしているうちに心身症へと病態化したと考えられることが多いとされています。
ただし上記の点が治療の課題になるのは、現在ある症状が緩和された段階であり、しかもしばしば現在の問題に取り組むうちに発病時の要因は解消されるので、あえて発病時の葛藤や挫折体験を取り上げる機会がなかったり、明確にならないまま治療が終わることも少なくありません。
心身症の総論的な治療法としては、まず休養と身体医学的治療が優先されます。
心理的要因にのみ目を奪われて身体的治療をおろそかにすれば、場合によっては患者の命を危険に陥れたり、身体の不可逆的変化を招くこともあります。
急性期の状態であれば、患者をストレス状況から引き離し休養させることが重要になります。
内省や心の深層の分析はそのあとで十分とされています。
治療の第一歩は、彼らの「頑張り」に敬意を払いつつ、疲れ傷ついた体を休養させることにあります。
それと並行して、食習慣、飲酒や喫煙、睡眠・覚醒のリズム、運動量など、日々の生活習慣を把握し、その調整を図ります。
上記の通り、心身症は心理社会的要因が関与する病態ではあるが、その治療において重要なのは、その理解よりも心理療法としての身体に焦点を向けることです。
心身症患者の悩みはあくまでも身体症状であるため、心理的側面から面接を受けることに抵抗を示すことがあります。
心身相関についての理解は、治療がある程度進まないと難しい場合も少なくありません。
以上より、選択肢④は誤りと判断できます。
『⑤病気の症状と心理社会的要因との間には象徴的な関連が認められることが多い』
こちらの内容は「神経症」について記しているものと思われます。
神経症は忌避された不安を原因とする緊張や防衛機制によって、本人が制御し得ないような特殊な個人的内面的問題やストレスを処理する努力から生じるものであり、不安を転換や解離、置き換え、強迫的に制御しようとすることになります。
特に「恐怖症」では、不安がその源泉から引き離されて、願望の象徴を通常なしている何らかの状況や対象へと置き換えられることを指しています。
これは象徴化とも呼ばれており、この仕組みがあることで、症状を細やかに観察することを通して本人の無自覚な不安について推測することが可能になります。
こうした点は、主に選択肢④で挙げたような心身症の治療方針とは異なっております(神経症の精神分析的治療では、こうした象徴化の意味を解釈することも多いが、心身症では第一選択とされない)。
以上より、選択肢⑤は誤りと判断できます。