周囲の状況の影響を十分に考慮せずに、他者の行動が内的属性に基づいて生じていると評価する傾向について、正しいものを1つ選ぶ問題です。
社会心理学の概念に関する問題となっています。
概念の説明を提示し、その概念名を選ばせるというオーソドックスな問題になります。
その概念を知っていることに加え、それ以外の概念を知っていることも重要ですね。
前者で正解は選べますが、後者が整っていると不安なく自信をもって答えることが可能です。
この種の不安は積み重なると心身のパフォーマンスを低下させますから、試験においては意外と重要な要素だと思っています。
解答のポイント
設問で示されている説明が、なんという概念を説明しているのか理解できること。
他の選択肢の概念の説明ができること。
選択肢の解説
『①対比効果』
人の記憶や知識は等しく利用できるわけではなく、ある特定の知識が活性化するかどうかを決定する要因はいくつかあります。
そのうちの一つが「文脈(依存)効果」です。
例えば、動物園と聞くと、動物園に関する知識が活性化します。
そこで「赤ちゃんがポケットから顔を出していた」という言葉を聞くと、すぐにカンガルーのことだと思い浮かべることが可能ですが、事前に動物園と聞いていないと何のことやらという感じになりますね。
このように状況(文脈)に依存して引き出される解釈が変化することを指します。
こうした「文脈効果」を前提として、特定の知識を活性化させる方法の一つが「プライミング」という手法です。
ある特定の刺激、例えば「冷たい」という形容詞は、その後の人物評価にネガティブな影響を与えるとされています。
この際の刺激を「プライム刺激」と呼び、プライム刺激によって活性化した知識や概念などが、後続の情報処理に影響を与えることを「プライミング効果」と呼びます。
「プライミング効果」において、プライム刺激と同じ方向へ情報処理が影響されることを「同化」と呼び、逆方向に影響されることを「対比(効果)」と呼びます。
プライミング効果を例にとると、どうしても対人知覚などの領域と思いがちですが、要は対比した結果、逆方向の知覚が強まることを指します。
知覚で言えば、エビングハウス錯視などがそれに当たります(小さい〇に囲まれていると中央の○が大きく見える)。
印象形成では、いわゆる「ギャップ萌え」が対比効果です(印象形成における対比効果を「ゲイン・ロス効果」と呼びます)。
ただし、この「ゲイン・ロス効果」と「対比効果」は微妙な違いがあり、対比効果では個人内でのギャップによる印象形成だけではなく、人をまたいでの効果も見られます。
なお、今回は説明のために記憶・知識を例にとって解説を行いましたが、文脈効果~対比効果は知覚・認知の領域で幅広く見られます。
対比の例として一番有名なのは「スイカに塩をかけると甘く感じる」というものです。
こちらは味覚における対比効果です。
さまざまな例を押さえておくようにしましょう。
以上より、選択肢①は誤りと判断できます。
『②割増原理』
Kelleyの帰属理論の中でに登場する概念であり、因果推論に関する一般的ルールを意味します。
「割引原理」と「割増原理」をセットにして覚えておきましょう。
「割引原理」とは、ある現象を生じさせる原因が複数存在するとき、ある1つの原因を重視した場合、他の原因の果たす役割は小さくなるというものです。
二世議員が若くして大臣になっても、実力の評価は低くなりがちですよね。
大臣になるには多くの要因があるはずですが、「二世議員」という要因を重視すると、その他の要因(その人の能力や人柄)は低く見積もられてしまいます。
「割増原理」とはその逆で、複数あるべき原因のいずれかが不在であるにも関わらず、ある現象が生じているとき、存在していた原因の果たす役割は大きくなるというものです(ちょっとわかりにくいですね)。
無名の選手が努力の結果、素晴らしい成績を残したとします。
その際、成功をもたらした多くの要因(複数あるべき原因が不在)には関心は払われず、その選手の努力(存在していた要因)の果たす役割が大きく認識されることを指します。
上原浩治などはその例ですね(雑草魂が大きく影響したと思われている)。
以上より、設問の説明と選択肢②の概念は合致しません。
よって、選択肢②は誤りと判断できます。
『③転向モデル』
印象形成において、ステレオタイプという概念があります。
大阪人はオチが無いと怒る、政治家はカネに汚い、子どもは笑顔でいる…などのように、特定の社会的カテゴリーや集団成員に一定の特徴を付与する認知的枠組み、過度に一般化された信念や固定化イメージを「ステレオタイプ」と呼びます。
さまざまな要因によって、このステレオタイプは変化することがあり得ます。
Rothbart(1981)は、反証事例が積み重なるにつれて徐々にステレオタイプが変化する「簿記モデル」と、極端な反証事例によってステレオタイプが劇的に変化する「転向モデル」の2つを提示しました。
前者は反証事例の数を重視し、後者は反証事例の極端さを重視したモデルと言うことになりますね。
以上より、設問の説明と選択肢③の概念は合致しません。
よって、選択肢③は誤りと判断できます。
『④対応バイアス』
状況の影響力に比較して行為者の内的属性を過大評価する傾向を、根本的帰属エラーもしくは対応バイアスと呼び、状況の影響力を明らかにしようとする社会心理学において特に重要な概念とされています。
Ross(1977)によるクイズに答えさせる実験において、回答者と観察者はクイズを出題する人を「物知りな人」と判断しました。
クイズを出題する人は、その役割上「物知りな人」に見えるものですが、回答者と観察者はそうした状況を考慮せず、個人の内的属性(知識量の豊富さ)へ帰属がされたためと説明されています。
このように、人は他者の行動からその人の属性を推論するときに、その人のおかれている状況(外的な要因)を十分に考慮せず、取られた行動に対応した属性を推論しやすいということになります。
このような推論傾向を「対応バイアス」と呼ぶわけです。
類似概念として「行為者-観察者バイアス」があります。
他者の行動はその人の内的属性に、自分の行動は状況に帰属される傾向を指します。
他者が悪いことをしたときには「もともと悪い奴だ」という内的な属性に、自分が悪いことをしたときには「こういう状況だったから」と言うわけです。
ただし、この「行為者-観察者バイアス」はそれほど安定的で強固と言えないとされています。
以上より、設問の内容は選択肢④「対応バイアス」のことを示していると言えます。
よって、選択肢④は正しいと判断できます。
『⑤セルフ・ハンディキャッピング』
社会心理学の概念のひとつとされています。
自己を守るために否定的な評価が下ることを回避しようとして、自分自身で不利な条件を作りだすことを指します。
失敗が予想される状況で、説得力のある因果的な説明を創作し、脅威を下げようとする行為です。
例としては、試験前にあえて妨げとなる音楽を聴きながら試験を受けることを選択した、などがあります。
また、徹夜しておいて「試験中に睡魔に襲われて」と説明することで、成績の悪さは寝不足と結び付けられて、実力不足であるという評価は控えられますね。
自分や他者の目に否定的な自分が映し出されることを避けようという動機が背景にあるとされています。
時折、試験前に掃除をしてしまう行為を「セルフハンディキャッピング」と説明している本を見かけます。
確かにそういった側面で説明は可能でしょうが、私はこの説明には否定的です。
他の側面からも説明が可能だからです。
例えば、ある疾患患者の特徴として「外界がそのまま自分の頭の中の状態になりやすい」というのがあります。
部屋が汚れていると、自分の頭の中までぐちゃぐちゃした感じになってしまいます。
そういった特徴を備えている人にとって、部屋を片付けるという行為は、言い訳の用意ではなくむしろ勉強に向かって前向きに努力している姿と受け取ることも可能です。
いずれにせよ、設問の説明と選択肢⑤の概念は合致しません。
よって、選択肢⑤は誤りと判断できます。