公認心理師 2018追加-58

高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律〈高齢者虐待防止法〉について、正しいものを2つ選ぶ問題です。

誰に通報するのか、誰がそれをする権限を有しているのか、ということは問われやすい事項のようです(公認心理師2018-105など)。
解説を書いていると、徐々に問題の傾向の輪郭が見えてきますね。
特に法律に関して学ぶ際には、どこを重点的に学ぶべきかを把握しておくことが重要と思います。

解答のポイント

高齢者虐待防止法の基本的事項を把握していること。

選択肢の解説

『①高齢者虐待を発見した場合の通報先は、都道府県である』

高齢者虐待防止法第7条の「養護者による高齢者虐待に係る通報等」には以下のように記載されています。

  1. 養護者による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は、当該高齢者の生命又は身体に重大な危険が生じている場合は、速やかに、これを市町村に通報しなければならない
  2. 前項に定める場合のほか、養護者による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は、速やかに、これを市町村に通報するよう努めなければならない
  3. 刑法の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、前二項の規定による通報をすることを妨げるものと解釈してはならない。

上記の通り、通報先は「市町村」となっております

本法律において、都道府県の役割が記載されているのは以下の通りです。

  • 第19条の都道府県の援助等
  • 第22条および第23条の養介護施設従事者等による高齢者虐待に係る通報等
  • 第24条の通報等を受けた場合の措置
  • 第25条の公表
市町村からの報告を受けて動く形になっていますね。
以上より、選択肢①は誤りと判断できます。

『②この法律の「養護者」とは、介護家族と養介護施設従事者のことをいう』

高齢者虐待防止法第2条には各用語の「定義」が記されております。
その中の「養護者」の定義としては、「この法律において「養護者」とは、高齢者を現に養護する者であって養介護施設従事者等以外のものをいう」とされています。
ただし「高齢者虐待」の定義は、「養護者による高齢者虐待及び養介護施設従事者等による高齢者虐待をいう」とされておりますので注意が必要です
この法律では「養護者による虐待」と「養介護施設従事者等による虐待」を分けて定義しております。
「養介護施設従事者等による虐待」の定義は以下の通りです。
  • 高齢者の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。
  • 高齢者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置その他の高齢者を養護すべき職務上の義務を著しく怠ること。
  • 高齢者に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応その他の高齢者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。
  • 高齢者にわいせつな行為をすること又は高齢者をしてわいせつな行為をさせること。
  • 高齢者の財産を不当に処分することその他当該高齢者から不当に財産上の利益を得ること。
なお、注意が必要な点として、本法による「高齢者」の定義は65歳以上の者を指しますが、65歳未満であっても「養介護施設に入所し、その他養介護施設を利用し、又は養介護事業に係るサービスの提供を受ける障害者」ならば養介護施設従事者等による虐待が成立します(第2条第6項)
こういう点は試験に出しやすいところですね。
以上より、選択肢②は誤りと判断できます。

『③高齢者の保護だけではなく、家族等の養護者に対する支援も大きな目的の1つとしている』

高齢者虐待防止法第1条の「目的」には以下のように記載されています。
「この法律は、高齢者に対する虐待が深刻な状況にあり、高齢者の尊厳の保持にとって高齢者に対する虐待を防止することが極めて重要であること等にかんがみ、高齢者虐待の防止等に関する国等の責務、高齢者虐待を受けた高齢者に対する保護のための措置、養護者の負担の軽減を図ること等の養護者に対する養護者による高齢者虐待の防止に資する支援(以下「養護者に対する支援」という)のための措置等を定めることにより、高齢者虐待の防止、養護者に対する支援等に関する施策を促進し、もって高齢者の権利利益の擁護に資することを目的とする」
更に第3条には「国及び地方公共団体の責務等」が記載されています。
「国及び地方公共団体は、高齢者虐待の防止、高齢者虐待を受けた高齢者の迅速かつ適切な保護及び適切な養護者に対する支援を行うため、関係省庁相互間その他関係機関及び民間団体の間の連携の強化、民間団体の支援その他必要な体制の整備に努めなければならない」
養護者の支援について明確に規定しているのは第14条になります。
  1. 市町村は、第六条に規定するもののほか、養護者の負担の軽減のため、養護者に対する相談、指導及び助言その他必要な措置を講ずるものとする
  2. 市町村は、前項の措置として、養護者の心身の状態に照らしその養護の負担の軽減を図るため緊急の必要があると認める場合に高齢者が短期間養護を受けるために必要となる居室を確保するための措置を講ずるものとする。
以上のように、養護者の支援も本法の大きな目的の一つとなっております。
よって、選択肢③は正しいと判断できます。

『④生命又は身体に重大な危険が生じている高齢者虐待を発見した場合は、速やかに通報しなければならない』

高齢者虐待防止法第7条の「養護者による高齢者虐待に係る通報等」には以下のように記載があります。
「養護者による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は、当該高齢者の生命又は身体に重大な危険が生じている場合は、速やかに、これを市町村に通報しなければならない
同様の内容は第21条の「養介護施設従事者等による高齢者虐待に係る通報等」にも定められています。
「養介護施設従事者等による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は、当該高齢者の生命又は身体に重大な危険が生じている場合は、速やかに、これを市町村に通報しなければならない(第2項)」
養護者と養介護施設従事者等でちょっとニュアンスが違います。
養護者の場合は「高齢者の生命又は身体に重大な危険が生じている場合」という但し書きが第1項に付いており、続く第2項には「養護者による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は、速やかに、これを市町村に通報するよう努めなければならない」となっています。
こちらの場合は、危険な状態であれば法的義務が、あくまで可能性段階では努力義務となっている点に違いがあります
これに対して養介護施設従事者等の場合は、第1項に「当該養介護施設従事者等がその業務に従事している養介護施設又は養介護事業において業務に従事する養介護施設従事者等による」とあり、こちらは行われている場所の指定が入っているような印象です(いわば内部告発をきちんとしましょうという規定ですね)。
第2項は上記の通りですが、こちらには場所の指定は入っていませんが「生命又は身体に重大な危険が生じている場合」ということになっています。
また、両方とも努力義務ではなく法的義務になっています
施設職員の虐待が一時期問題となったので、その辺も考慮されているのかもしれません。
いずれにせよ「高齢者の生命又は身体に重大な危険が生じている場合」には通報が義務づけられているということは共通しております
養護者による場合で上記のような状況になっていない場合は努力義務なので、その辺注意が必要です。
家の中だとケガをする可能性も高いでしょうから努力義務に留めており、そもそもケガをする可能性が低いように作られている施設の場合は法的義務にしているのかもしれないですね。
以上より、選択肢④は正しいと判断できます。

『⑤高齢者虐待の種別は、身体的虐待、心理的虐待、介護・世話の放棄・放任(ネグレクト)及び性的虐待の4つである』

高齢者虐待防止法第2条の「定義」に虐待種別の記載があります。
第1項:養護者がその養護する高齢者について行う次に掲げる行為

  1. イ:高齢者の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。
  2. ロ:高齢者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置、養護者以外の同居人によるイ、ハ又はニに掲げる行為と同様の行為の放置等養護を著しく怠ること。
  3. ハ:高齢者に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応その他の高齢者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。
  4. ニ:高齢者にわいせつな行為をすること又は高齢者をしてわいせつな行為をさせること。
第2項:養護者又は高齢者の親族が当該高齢者の財産を不当に処分することその他当該高齢者から不当に財産上の利益を得ること
すなわち、以下のようにまとめられます。
  • 第1項イ:身体的虐待
  • 第1項ロ:ネグレクト
  • 第1項ハ:心理的虐待
  • 第1項二:性的虐待
  • 第2項:経済的虐待
以上のように、高齢者虐待には「経済的虐待」を含む5つが該当します
ちなみに本選択肢の4種類は、児童虐待防止法(第2条)における虐待種別になっています。
この4種類に経済的虐待を加えた5種別を採用しているのは、高齢者虐待防止法と障害者虐待防止法(第6条)になります
併せて覚えておきましょう。
以上より、選択肢⑤は誤りと判断できます。

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