高齢期に関する理論とその理論が重視する高齢期の心理的適応の組み合わせについて、誤っているものを1つ選ぶ問題です。
高齢期の理論については、以前の記事で詳しくまとめています。
この記事の内容で十分解けるようになっていますので、ご参照ください。
解説も上記の記事から抜粋する形で書いていきます。
類似問題が公認心理師2018-125で出ています。
比較すると、以前の方が難しかったと思いますし、上記の問題を解いていれば本問は与し易かったと言えます。
こういった点が、過去問の有無の違いですね。
解答のポイント
高齢期の代表的理論について把握していること。
選択肢の解説
『①活動理論 - 中年期の活動水準を維持すること』
活動理論はHavighurstが示した理論であり、「望ましい老化とは、可能な限り中年期のときの活動を保持することであり、退職などで活動を放棄せざるを得ない場合は、代わりの活動を見つけ出すことによって活動性を維持すること」という考え方です。
この内容は選択肢の文言と合致します。
よって、選択肢①は正しいと言えるので除外することが求められます。
『②離脱理論 - 社会的活動から徐々に引退すること』
離脱理論はCumming&Henryが示した理論であり、「高齢者は自ら社会からの離脱を望み、社会は離脱しやすいようなシステムを用意して高齢者を解放するべき。高齢者が社会から離れていくのは自然なことと捉えている」という考え方です。
この内容は選択肢の文言と合致します。
よって、選択肢②は正しいと言えるので除外することが求められます。
『③老年的超越理論 - 物質的で合理的な世界観を捨て、宇宙的な世界観を持つこと』
老年的超越理論はTornstamによって、離脱理論、精神分析、禅を取り入れて構築されました。
加齢とともに、物質的・合理的(経済的)な視点から、神秘的・超越的な視点に移行するので、喪失はあっても心理的には安定を保つことが可能であるという知見です。
この内容は選択肢の文言と合致します。
よって、選択肢③は正しいと言えるので除外することが求められます。
『④社会情緒的選択理論 - 情緒的安定のために他者からの知識獲得を行うこと』
社会的情緒的選択理論はCarstensenが提唱した理論で、時間的見通しによる動機づけの変化によってエイジングパラドックスを説明しようとしています。
残り時間が限定的だと感じると、感情的に価値ある行動(嫌な人とは付き合わない、やりたいことだけをやる等)のような、情動的に満足できる目標や活動に傾倒するとされています。
選択肢にある「情緒的安定のために他者からの知識獲得を行うこと」は、社会情緒的選択理論の逆の内容になっています。
社会情緒的選択理論では、人生の残り時間が少なくなると、強い選択を行うようになり、自分の持つ資源を情動的に満足できるような目標や活動に注ぎ込むようになるという考え方なので、交際の範囲を狭めていくことになるとされています。
この内容は選択肢の文言と合致しません。
よって、選択肢④は誤りと言えるので、こちらを選択することが求められます。
『⑤保障に伴う選択的最適化〈SOC〉理論 ‐ 喪失を補償すべく領域を選択し、そこでの活動を最適化すること』
SOC理論とは、Baltesが提唱した高齢期の自己制御方略に関する理論です。
この理論では、加齢に伴う喪失に対する適応的発達のあり方として、獲得を最大化し、喪失を最小化するために自己の資源を最適化するとされています。
SOCとは、以下を指します。
- 喪失に基づく目標の選択(Loss-based Selection):
若い頃には可能であったことが上手くできなくなったときに、若い頃よりも目標を下げる行為を指す。
例:ピアニストが、コンサートの演奏曲を絞り込むことで曲目を減らす。 - 資源の最適化(Optimization):
選んだ目標に対して、自分の持っている時間や身体的能力といった資源を効率よく割り振ることを指します。
例:ピアニストが、一曲の練習時間を増やして曲の完成度を高めるということ。 - 補償(Compensation):
他者からの助けを利用したり、これまで使っていなかった補助的な機器や技術を利用したりすることを指します。
例:ピアニストが全体はゆっくり弾くけど、早いパートだけしっかり弾いて、聴衆に早く弾けるように見せる。
こうした方法を用いて、衰えたとしても自己資源を調整し、得られるものを最大化していこうという理論になります。
この内容は選択肢の文言と合致します。
よって、選択肢⑤は正しいと言えるので除外することが求められます。