公認心理師 2018追加-54

心の健康問題により休業した労働者が職場復帰を行う際に、職場の公認心理師が主治医と連携する場合の留意点として、正しいものを2つ選ぶ問題です。

こちらの問題は厚生労働省から出されている「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き~メンタルヘルス対策における職場復帰支援~」を基準に解いていくものです(以下、「手引き」とします)。
公認心理師2018-77(解説に誤りあり)公認心理師2018-77(修正・最終版)などが類似問題となります。

手引きについては、繰り返し出ている印象が強いので、しっかりと読んでおきましょう。

解答のポイント

職場復帰における主治医との連携について把握していること。

選択肢の解説

『①主治医と連携する際は、事前に当該労働者から同意を得ておく』
『③主治医に情報提供を依頼する場合の費用負担については、事前に主治医と取り決めておく』

手引きの「主治医との連携の仕方」によると、「主治医との連携にあたっては事前に当該労働者への説明と同意を得ておきます」と記載があります。
上記以外にも、主治医に対して職場復帰支援に関する事業場の制度、労働者本人に求められる業務の状況等について十分な説明を行うことが示されております。

更に、「主治医と情報交換を行う場合、労働者本人の職場復帰を支援する立場を基本とし、その情報は職場で配慮すべき事項を中心に必要最小限とします」「主治医に情報提供を依頼する場合等の費用負担については、あらかじめ主治医との間で取り決めておきましょう」とされています。

以上より、選択肢①および選択肢③は適切と判断できます。

『②主治医の復職診断書は労働者の業務遂行能力の回復を保証するものと解釈する』
『⑤当該労働者の業務内容については、プライバシー保護の観点から主治医に提供すべきではない』

手引きの「主治医による職場復帰可能の判断」の箇所に、以下のように記載があります。
主治医の判断は、日常生活における病状の回復程度によって職場復帰の可能性を判断していることが多く、必ずしも職場で求められる業務遂行能力まで回復しているとの判断とは限りません
「このため、主治医の判断と職場で必要とされる業務遂行能力の内容等について、産業医等が精査した上で採るべき対応を判断し、意見を述べることが重要です

更に、「あらかじめ主治医に対して職場で必要とされる業務遂行能力に関する情報を提供し、労働者の状態が就業可能であるという回復レベルに達していることを主治医の意見として提出してもらうようにすると良いでしょう」とされています。
このことは、あらかじめ主治医に職場で求められる能力を把握してもらい、職場復帰が可能か否かの意見を提出することを求める内容となっています。

上記の通り、選択肢の内容は手引きと異なった内容になっています。
よって、選択肢②および選択肢⑤は不適切と判断できます。

『④主治医から意見を求める際には、事例性よりも疾病性に基づく情報の提供を求めるようにする』

まずは「事例性」「疾病性」という表現に関する理解が必要です。
簡単に言えば、疾病性はその人の問題や症状に限定して焦点を当てていく見方であり、事例性は生活体としての生身の人間全体そのものの文脈の中で問題や症状を捉えていく見方になります

臨床心理士資格試験H9-56にも出題されています。
A:臨床的態度とは、対象の疾病性(illness)の表れとしての心的疾患に対する援助的態度を言う(×)。
B:臨床的態度とは、事例性(caseness)の成立した特定の個人の問題に、個別性を基盤として理解を進めていく態度である(○)。

心理職の実践においては、事例性を重視する姿勢が基本とされていますね
上記の内容は、例えば医師が疾病性を重視する、という論理が展開されて心理職の役割との比較が行われることもありますが一概には言えないでしょう(きちんと事例性を重視する医師もいる)。

手引きの関連する箇所としては「職場復帰可否の判断基準」があります。
職場復帰可否については、個々のケースに応じて総合的な判断が必要です。労働者の業務遂行能力が完全に改善していないことも考慮し、職場の受け入れ制度や態勢と組み合わせながら判断しなければなりません」
上記の「個々のケースに応じて総合的な判断」という点については、事例性について述べていると捉えられます

また、他選択肢の解説でも示されているように、職場で求められる業務内容について主治医が把握し、その上で復帰の可否を判断するという点も、社会の文脈の中で捉えているという意味で事例性を重視していると言えるでしょう

以上より、選択肢④は不適切と判断できます。

2件のコメント

  1. こんにちわ。いつもありがとうございます。
    一つ、質問なのですが、「主治医に情報提供を依頼する場合の費用負担については、事前に主治医と取り決めておく」というのは、費用を、依頼した会社側が負担するのか、医師が休業中の労働者に請求するのか、ということなんでしょうか? 
    もしよければ教えて頂けましたら幸いです。よろしくお願いいたします。

    1. コメントありがとうございます。

      >費用を、依頼した会社側が負担するのか、医師が休業中の労働者に請求するのか、ということなんでしょうか?
      こうした状況で生じる費用に関しては、労務管理の一環として見なせますから、ふつうは企業側であると考えられます。
      むしろ、書面による情報提供を依頼したり、職場関係者が情報収集のために直接面談を求めたりすることによって発生する費用を誰(どの部署)が負担するかに関しての取り決めが実態となるのではないかと思われます。

      例えば、こういう規定があります。
      「主治医から情報提供に係る費用(診断書料等)の請求を受けた場合は、原則として当該職員の負担とし、発生する旅費等は所属の負担とする。ただし、情報提供に係る費用(診断書料等)について当該職員の職場復帰に関する意思表示とは直接関係なく、所属長が主治医から主体的に当該職員の治療状況等の情報提供を受ける場合は人事課任用担当に相談する」
      こういう風に、医師との連携においてもある項目の費用は本人で、ある項目の費用は所属で、また別の項目の費用は人事で、ということもあり得ますね。

      以上、ご参考になれば幸いです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です