チーム医療において公認心理師が行う内容として、適切なものを2つ選ぶ問題です。
こちらの問題は概ね3つの視点から解いていく必要があります。
1つ目は、公認心理師ができないこと、その代表は診断になりますが、それに足を踏み込んでいるような場合は不適切になります。
2つ目は、その行為の内容として公認心理師の立場を超えていたり、実施するのが不自然である場合も不適切と言って良いでしょう。
3つ目は、診療報酬点数票で示されている臨床心理・神経心理検査を把握していることです。
1つ目に求められるのは「公認心理師と他職種の境界線を把握していること」となりますし、2つ目に求められるのは「その行為の詳細を把握した上で、公認心理師の立場で行えるか否かという判断」です。
ただしチーム医療のイメージとしてですが、「あっちは医者の仕事、これは看護師の仕事、こっちは心理師の仕事」という風に明確に区切るものではないという認識が大切です。
それぞれの職種の役割が重なるようになっていることによって、自然とダブルチェックが行われ大きな事故を防いでいます。
事故が重なる状態というのは、一つの事故によって成員が「自分の仕事だけしっかりやろう」と緊張感による硬直が自然なダブルチェック機能を喪失させることによって生じます。
自分の役割やその境界線を把握しつつ、その境界で「切らない」という相反する心持ちが求められるわけですね。
解答のポイント
各評価法について把握していること。
その評価法の実施状況を理解していること。
診療点数票で示されている臨床心理・神経心理検査を把握していること。
選択肢の解説
『①BDIによる評価』
ベック抑うつ質問票のことです。
うつ状態の測度であり、うつの重症度を判断するには適切だが、それ以外の病理の判定は難しいです。
DSM-Ⅳの診断基準に沿って作成されており、過去2週間の状態についての21項目の質問によって抑うつ症状の重症度を評価します。
選択肢にあるようにあくまでも「BDIによる評価」なので公認心理師が実施しても問題ないといえます。
これが例えば「BDIの評価を基に診断」などになっていれば不適切と言えますね。
BDIは他の問題でも複数回出題されており(たとえば、公認心理師2018-92)、公認心理師が行う質問票としてポピュラーなものと言えます。
以上より、選択肢①は適切と判断できます。
『②COGNISTATの実施』
認知機能の多面的評価を目的としており、障害されている能力と保持されている能力を視覚的に捉えることができるスクリーニング検査です。
認知障害のプロフィールから、リハビリテーションを行う上での有益なヒントが得られます。
以下のような内容を把握することが可能です。
・ 脳器質性の損傷による認知障害の特徴把握
・ リハビリやケアの指針の検討
・ 痴呆性疾患、脳血管障害、頭部外傷の臨床評価
・ 統合失調症、うつ病、アルコール性障害等の認知障害の評価
MMSEやHDS-Rは見当識や遅延再生の評価項目が入っていますが、刺激の提示から再生までが比較的短時間であるため、より軽度の健忘症などを評価する場合には、提示から再生までの時間が長いコグニスタットが適しています。
HDS-Rよりも認知症の鑑別に感度が高いとされています。
コグニスタットの大きな利点は、WAISなどのように各下位検査を認知プロフィールで表示できることにあります。
これによってどの認知領域にどの程度の障害があるのか、どの領域が保たれているかを視覚的に理解することができます。
すなわち、被験者の「保持されている能力」と「低下している能力」を視覚的にとらえることができるということです。
平成30年診療報酬点数表において、臨床心理・神経心理検査として複数の区分が示されております。
こちらに記載されている検査は、公認心理師が実施してよいものと見做して問題ないと思われます。
【D283 発達及び知能検査】
- 操作が容易なもの:80点
津守式乳幼児精神発達検査、牛島乳幼児簡易検査、日本版ミラー幼児発達スクリーニング検査、遠城寺式乳幼児分析的発達検査、デンバー式発達スクリーニング、DAMグッドイナフ人物画知能検査、フロスティッグ視知覚発達検査、脳研式知能検査、コース立方体組み合わせテスト、レーヴン色彩マトリックス及びJART - 操作が複雑なもの:280点
MCCベビーテスト、PBTピクチュア・ブロック知能検査、新版K式発達検査、WPPSI知能診断検査、全訂版田中ビネー知能検査、田中ビネー知能検査Ⅴ、鈴木ビネー式知能検査、WISC-R知能検査、WAIS-R成人知能検査、大脇式盲人用知能検査及びベイリー発達検査 - 操作と処理が極めて複雑なもの:450点
WISC-Ⅲ知能検査、WISC-Ⅳ知能検査及びWAIS-Ⅲ成人知能検査
【D284 人格検査】
- 操作が容易なもの:80点
パーソナリティイベントリー、モーズレイ性格検査、Y-G矢田部ギルフォード性格検査、TEG-Ⅱ東大式エゴグラム及び新版TEG - 操作が複雑なもの:280点
バウムテスト、SCT、P-Fスタディ、MMPI、TPI、EPPS性格検査、16P-F人格検査、描画テスト、ゾンディーテスト及びPILテスト - 操作と処理が極めて複雑なもの:450点
ロールシャッハテスト、CAPS、TAT絵画統覚検査及びCAT幼児児童用絵画統覚検査
【D285 認知機能検査その他の心理検査】
- 操作が容易なもの:80点
CAS不安測定検査、SDSうつ性自己評価尺度、CES-Dうつ病(抑うつ状態)自己評価尺度、HDRSハミルトンうつ病症状評価尺度、STAI状態・特性不安検査、POMS、IES-R、PDS、TK式診断的新親子関係検査、CMI健康調査票、GHQ精神健康評価票、MAS不安尺度、ブルドン抹消検査、MEDE多面的初期認知症判定検査、WHO QOL26、COGNISTAT、SIB、Coghealth(医師、看護師又は臨床心理技術者が検査に立ち会った場合に限る)、NPI、BEHAVE-AD、音読検査(特異的読字障害を対象にしたものに限る)、AQ日本語版、WURS、MCMI-Ⅱ、MOCI邦訳版、日本語版LSAS-J(6月に1回に限る)、DES-Ⅱ、EAT-26、M-CHAT、STAI-C状態・特性不安検査(児童用)、DSRS-C、長谷川式知能評価スケール、MMSE、前頭葉評価バッテリー、ストループテスト及びMoCA-J - 操作が複雑なもの:280点
ベントン視覚記銘検査、内田クレペリン精神検査、三宅式記銘力検査、標準言語性対連合学習検査(S-PA)、ベンダーゲシュタルトテスト、WCSTウイスコンシン・カード分類検査、SCID構造化面接法、遂行機能障害症候群の行動評価(BADS)、リバーミード行動記憶検査及びRay-Osterrieth Complex Figure Test(ROCFT) - 操作と処理が極めて複雑なもの:450点
ITPA、標準失語症検査、標準失語症検査補助テスト、標準高次動作性検査、標準高次視知覚検査、標準注意検査法・標準意欲評価法、WAB失語症検査、老研版失語症検査、K-ABC、KABCⅡ、WMS-R、ADAS、DN-CAS認知評価システム、小児自閉症評定尺度、発達障害の要支援度評価尺度(MSPA)、親面接式自閉スペクトラム症評定尺度改訂版(PARS-TR)及び子ども版解離評価表
上記のうちで、よく「操作が容易なもの」などという記載がありますが、厳密には以下の通りになります。
- 操作が容易なもの:検査及び結果処理に概ね40分以上を要するもの
- 操作が複雑なもの:検査及び結果処理に概ね1時間以上を要するもの
- 操作と処理が極めて複雑なもの:検査及び結果処理に1時間30分以上要するもの
なお、臨床心理・神経心理検査は、医師が自ら、又は医師の指示により他の従事者が自施設において検査及び結果処理を行い、かつ、その結果に基づき医師が自ら結果を分析した場合にのみ算定することになっています。
上記の通り、COGNISTATも入っています。
以上より、選択肢②は適切と判断できます。
『③バーセルインデックスの評価』
身体機能評価の一つに、身体機能を生活行動と関連させて日常生活機能として測定する方法があります。
日常生活活動度は、基本的日常生活活動度(BADL)と手段的日常生活活動度(IADL)があり、バーセルインデックスは前者を測定するものになります。
以下のような項目で構成されています。
- 食事:
自立、自助具などの装着可、標準的時間内に食べ終える:10
部分介助(たとえば、おかずを切って細かくしてもらう):5
全介助:0 - 車椅子からベッドへの移動:
自立、ブレーキ、フットレストの操作も含む(非行自立も含む):15
軽度の部分介助または監視を要する:10
座ることは可能であるがほぼ全介助:5
全介助または不可能:0 - 整容
自立(洗面、整髪、歯磨き、ひげ剃り):5
部分介助または不可能:0 - トイレ動作
自立、衣服の操作、後始末を含む、ポータブル便器などを使用している場合はその洗浄も含む:10
部分介助、体を支える、衣服、後始末に介助を要する:5
全介助または不可能:0 - 入浴
自立:5
部分介助または不可能:0 - 歩行
45m以上の歩行、補装具(車椅子、歩行器は除く)の使用の有無は問わない:15
45m以上の介助歩行、歩行器の使用を含む:10
歩行不能の場合、車椅子にて45m以上の操作可能:5
上記以外:0 - 階段昇降
自立、手すりなどの使用の有無は問わない:10
介助または監視を要する:5
不能:0 - 着替え:
自立、靴、ファスナー、装具の着脱を含む:10
部分介助、標準的な時間内、半分以上は自分で行える:5
上記以外:0 - 排便コントロール
失禁なし、浣腸、坐薬の取り扱いも可能:10
ときに失禁あり、浣腸、坐薬の取り扱いに介助を要する者も含む:5
上記以外:0 - 排尿コントロール:
失禁なし、収尿器の取り扱いも可能:10
ときに失禁あり、収尿器の取り扱いに介助を要する者も含む:5
上記以外:0
これらの内容からも分かる通り、その人の日常生活に関わっていないと評価が難しいと言えます。
こちらは看護師や介護士などの用便、整容、入浴、更衣などの場面に関わる職種が行うのが適切であり、公認心理師が行う内容として適切とは言えません。
よって、選択肢③は不適切と判断できます。
『④入院患者のせん妄のリスク評価』
公認心理師2018-33でも示した通り、せん妄の要因は多岐に渡りますが、一般に物質の中毒または離脱、医薬品によるもの、全身的な身体疾患(感染)または睡眠剥奪によって生じる短期間の認知の混乱とされています。
せん妄のなりやすさを示す素因と直接の原因となる直接因子、せん妄のきっかけとなる促進因子に分類することができます。
素因としては、認知症、高齢者、脳血管疾患の既往等が挙げられます。
また、直接因子としては以下のものが挙げられます。
- 脳神経疾患:脳の器質的な病変、てんかん、血管障害、外傷など
- 熱傷、感染、腫瘍、甲状腺機能亢進・低下、手術侵襲
- 代謝障害:腎不全、肝不全、低血糖、高血糖、電解質異常、高アンモニア血症、脱水など
- 呼吸・循環障害:心不全、呼吸不全、低酸素血症、不整脈、ショックなど。
- 薬剤:アルコール、ステロイド剤の連日投与、抗コリン薬(パーキンソン病薬)、抗精神病薬など。
これらからもわかるとおり、せん妄の判断は極めて医療的な見地から行われる必要があります。
更に、せん妄の促進因子としては、心理的ストレス、感覚遮断または過剰、環境の変化、ベッド上安静による不動化等が挙げられます。
これらは公認心理師として関わることや判定することが可能な領域と言えますが、あくまでも「促進因子」になります。
適切なせん妄のリスク評価については、上記のような「直接因子」を細やかに把握することが求められ、それは公認心理師の範囲を超えていると判断できます。
また、リスク評価とともに適切な治療が併せて行われることになりますが、その治療行為についても医師でなければ判断してはいけないものが多分に含まれております。
以上より、選択肢④は不適切と判断することができます。
『⑤グラスゴーコーマスケール〈GCS〉の判定』
GCSはほぼ全世界的に救急センターやICUで使用されている、最も一般的な意識の障害に関するスケールです。
頭部外傷患者の初期評価のために開発されました。
Comaとは昏睡という意味ですね。
意識障害の程度を定量的に表現することは、治療効果を判定したり、臨床経過を客観的に表現するなどの点で重要であり、そのためのシステムの一つがこちらのスケールと言えます。
以下のような項目で構成されています。
- 最大運動反応:
従う 6点
払いのける 5点
逃避反応 4点
異常な屈曲 3点
伸展反応 2点
なし 1点 - 言葉による反応:
見当識がある 5点
錯乱した会話 4点
不適切な言葉 3点
理解できない発音 2点
なし 1点 - 開眼:
自発性に開眼 4点
話しかけると開眼 3点
痛み刺激に開眼 2点
なし 1点
13〜15が軽症、9〜12が中等症、3〜8が重症とされるが、8以下は昏睡と定義されます。
頭部外傷の患者では、意識障害の程度を継時的に観察することが極めて重要なので、GCS等を用いて査定することが求められます。
こうした状況からも分かる通り、継時的に行うことが重要な検査であり、また、必要となった際にすぐに行われることが求められる検査とも言えます。
意識障害の判断はGCSの点数ですぐにできるわけでもなく、身体的な評価も併せて行うことが重要になってきます。
例えば、状況によっては点数の捉え方も変わってきます。
こちらは診断に関わる領域といえ、公認心理師が行ってよいものではありません。
公認心理師がGCSを実施できないというルールはないと思いますが、「判定」することはないと言えます。
GCSは意識障害の検査ですから点数を伝えることはできても、意識障害の「判定」を行ってよいのは医師になると思われます。
また、明らかに救急医療の現場で行われる割合が高い検査ですので、公認心理師の領域からは外れていくように思えます。
「Aさん、大丈夫ですか?」などのように呼びかけて判断することが多いので、看護師や医師など、そういった場面に自然に居る職種の方々がされるものだと考えておいた方が良いでしょう。