クライエントのニーズに合致する心理検査を選択する問題です。
これは検査目的を理解していればすぐに解ける内容ですね。
問152 21歳の男性A、大学3年生。Aは、学生相談室を訪れ、「就職活動を始めたいが、どこから手をつけてよいか分からない」と申込み用紙に記入した。相談室でAは、「これまで就職について考えたこともなく、自分にどのような仕事が合うのか、自分の性格的特徴は何かと問われても、よく分からない。2週間前にサークルの同期の友人からインターンでの体験を聞き、自分が出遅れていると感じる」と焦りを訴えつつも、「その他に特に困っていることはない」と話した。
現段階でAのニーズに応じて実施する心理検査として、適切なものを2つ選べ。
① BDI-Ⅱ
② CMI
③ IES-R
④ NEO-FFI
⑤ VPI
選択肢の解説
④ NEO-FFI
⑤ VPI
まず本事例のニーズは「自分にどのような仕事が合うのか、自分の性格的特徴は何か」ということであるのが示されていますね。
「その他に特に困っていることはない」と話したとあるので、少なくとも自覚的には上記がクライエントが求めていることであると言えます。
もちろん、クライエントに無自覚の心理的課題が背景にある場合も多々ありうるわけですが、試験問題ではそこに取り組むほど複雑な事例を提示することは困難でしょうから、大人しくクライエントの自覚的なニーズを満たす方向で考えていきましょう。
NEO-FFIは、人格研究の新たな主流となっている5因子人格検査として世界的に有名なNEO-PI-Rの短縮版です。
NEO Personality lnventory (NEO-PI)はCosta&McCrae(1985)の一連の研究に基づいて開発されたものであり、人格の生涯発達的研究を視点に入れた新しい検査です。
1978年から10年間にわたり研究、開発されてきたものであり、人格の5因子モデル(いわゆるBigFiveですね)に基づいています。
開発当時はBigFiveについての統一的見解は出ていませんでしたが、McCrae&Costaはこ れらの体系を比較、検討して行く中で、人格の分類の仕方や捉え方はそれぞれ異なるが、特に神経症傾向と外向性という高次の因子が存在することに関しては意見の一致がみられ ると考えました。
その点から、神経症傾向と外向性はより広いクラスターとして、その下位次元に分類・分割できると考えたのです。
そうした視点より、まずは人格特性を定めてそれらを下位次元に分類していくという作業を行いました。
このようなやり方をもって、神経症傾向と外向性に加え、開放性という第3の次元を加えました。
そして3次元と18の下位次元を特定し、NEO-PIおよびNEO-PI-Rの前身であるNEOインベントリーを開発しました。
その後、1983年にNEOインベントリーに調和性と誠実性の次元が追加され、1985年に神経症傾向・外向性・開放性の次元スケール+下位次元スケールおよび調和性・誠実性の次元スケールから成るNEO-PIが刊行されました。
更に1990年には調和性と誠実性の下位次元スケールも作成され、NEO-PI-Rとして1991年に刊行され、現在に至っています。
こうした流れで、McCrae&Costaは5因子モデル(Big Five)を洗練させていきました。
測定される次元は5つで、各次元はさらに6つの下位次元から構成されており、包括的な人格の測定を可能にしています。
1つの下位次元には8つの評定尺度があります。
5次元とそれぞれの下位次元は以下の通りです。
- 神経症傾向:不安、敵意、抑うつ、自意識、衝動性、傷つきやすさ
- 外向性:温かさ、群居性、断行性、活動性、刺激希求性、よい感情
- 開放性:空想、審美性、感情、行為、アイデア、価値
- 調和性:信頼、実直さ、利他性、応諾、慎み深さ、優しさ
- 誠実性:コンピテンス、秩序、良心性、達成追求、自己鍛錬、慎重さ
すでに示した通り、この5次元はMcCrae&Costaが提唱し、詳細な下位次元を定めました。
NEO-FFIはNEO-PI-Rの短縮版でありますが、基本的なコンセプトは変わっていないので、上記の通りNEO-PI-Rの内容解説で十分であろうと思っています。
もちろん短縮版なので、NEO-PI-Rが240項目であるのに対し、NEO-FFIは60項目となっていますね。
以上のように、NEO-FFIは人格特性についての検査になりますから、クライエントの「自分の性格的特徴は何か」というニーズに合致することがわかります。
ホランドは職業選択理論を提示していますが、これの基本的前提となるのは自分の職業の好みというものが、ある意味で根底にある性格のベールに包まれた表現であるということでした。
こうした前提のもと、ホランドはパーソナリティ(個人の職業興味)と環境(職場の環境)のタイプを6つに分類し、個人と職場のマッチングをはかる六角形モデルを提唱しました。
このモデルは、世界で最も権威のある職業興味検査やアメリカ労働省の職務分析に活用されており、主に大学生を対象とした進路選択支援ツールであるVPI職業興味検査のベースとなっています。
VPIでは、6つの興味領域(現実的、研究的、芸術的、社会的、企業的、慣習的)に対する興味の程度と5つの傾向尺度(自己統制、男性-女性、地位志向、稀有反応、黙従反応)がプロフィールで表示されます。
6つの興味領域は以下の通りです。
- 現実的タイプ(Realistic):「モノ」を扱うことが好きな人たち。その人達は「自己主張が強く、競争心が強く、協調運動や技術、体力を必要とする活動に興味がある」傾向が見られる。問題解決にあたっては「それについて話したり、座ってそれについて考えるよりも、何かをすることによって」アプローチを行う。また、「抽象的な理論よりも、問題解決への具体的なアプローチ」を好むとされる。そして、その人達の興味は「文化的、美的な分野よりもむしろ科学的、機械的な分野」に焦点を当てる傾向がある。
- 研究的タイプ(Investigative):「データ」を使って仕事をすることを好む人たち。その人達は「行動するよりも考えて観察し、説得するよりも情報を整理して理解する」ことを好む。また、「人を中心とした活動よりも個人を中心とした活動」を好む傾向がある。数学、物理、生物などに興味があり、好奇心が強く学者肌。物事の分析、意見を明確に表明する。
- 芸術的タイプ(Artistic):「アイデアやモノ」を扱うのが好きな人たち。その人達は「創造的、オープン、創意工夫、独創的、知覚的、敏感、独立、感情的」な傾向が見られる。また、「構造やルール」に反発する傾向があるが、「人や物理的なスキルを伴うタスク」を楽しむ傾向がある。そして他のタイプよりも感情的になる傾向が見られる。創造的な職業を好む。
- 社会的タイプ(Social):「人」と一緒に仕事をすることが好きで、「教えたり助けたりする場面では、自分のニーズを満たしているように見える」人たちである。また、「人との親密な関係を求めることに惹かれ、本当に知的な人たちで身体的なことを望む傾向が少ない」傾向が見られる。社会的な活動にも積極的。
- 企業的タイプ(Enterprising):「人とデータ」を扱う仕事が好きな人たち。その人達は「話し上手で、自身のスキルを使って人をリードしたり、説得したりする」傾向が見られる。また、「評判、権力、お金、ステータスを重視する」傾向にある。リーダーシップを取り、目標達成を好む。説得を得意とし、野心的な活動を好む。
- 慣習タイプ(Conventional):「データ」を扱う仕事を好み、ルールや規則を好み、自制心を重視する人。構造や秩序を好み、構造化されていない、あるいは不明確な仕事や対人関係を嫌う人たちである。また、評判、権力、ステータスに価値を置いている。責任感があり、緻密な活動を好む。
5つの傾向尺度は以下の通りになります。
- 自己統制尺度:自己の衝動的な行為や考えをどの程度統制しているかを示す。
- 男性−女性傾向尺度:伝統的な性役割にどの程度こだわっているかを示す。
- 地位志向尺度:社会的威信や名声、地位や権力をどの程度重視するかを示す。
- 稀有反応尺度:職業に対する見方がどの程度ユニークであるかを示す。
- 黙従反応尺度:どの程度幅広くさまざまな職業に関心を持っているかを示す。
実施時間は採点を含めて20分程度で、160個の職業名に対して自分の興味・関心の有無を回答する比較的簡便な検査です。
大学の就職課やハローワークなど、就職活動をサポートする支援機関で受けることができます。
主にこれから就職を考える大学生や求職中の方を対象に実施されることになりますね。
これらを踏まえれば、VPIは「自分にどのような仕事が合うのか」を知りたがっている、本事例には適切な検査であると言えますね。
よって、選択肢④および選択肢⑤が適切と判断できます。
① BDI-Ⅱ
② CMI
③ IES-R
これらの検査については、簡単に検査目的を示すに留めておきましょう。
- BDI-Ⅱ:
ベック抑うつ質問票のことで、認知療法の始祖であるベックのグループが作成した自己記入式質問紙です。13歳〜80歳の抑うつ症状の有無とその程度の指標として開発されました。DSM-Ⅳに準拠したうつ病の症状を網羅しており、全21項目から構成されており、それぞれに4つの反応形式が設定されています。BDI-Ⅱを定期的に行うことによって、自分自身の気分の傾向を数値として測定でき、自分自身を客観的に見つめることが可能になります(この辺が認知療法っぽいですね)。 - CMI:
CMI健康調査表は、幅広い身体的・精神的自覚症状を把握できる質問紙法。12区分の身体的項目と6区分の精神的項目についての質問から構成され、男性211項目、女性213項目。幅広い自覚症状に関する質問(精神科、内科・心療内科、外科・脳神経外科、整形外科、産婦人科、泌尿器科、皮膚科、眼科、耳鼻科、歯科)が含まれるので、臨床各科への応用が可能。精神医学では神経症、統合失調症、心身症に伴う不安の客観的な測定(スクリーニング)、またそれに対する心理療法の効果の測定において広く用いられている。記録用紙にある重症度評価段階基準に基づいて重症度がすぐに算出できる。 - IES-R:
PTSDの症状評価尺度として国際的に評価が高く、国内の数多くの研究で使用されています。PTSDの診断基準に則しており、ほとんどの外傷的出来事について、使用可能な心的外傷ストレス症状尺度です。旧IESは侵入症状7項目、回避症状8項目の計15項目より構成されているが、IES-Rは過覚醒症状6項目を追加し、さらに旧版の睡眠障害を入眠困難と中途覚醒の2項目に分け、計22項目より構成されています。IES-Rは災害から個別被害まで、幅広い種類の心的外傷体験者のPTSD関連症状の測定が簡便にでき、横断調査、症状経過観察、スクリーニング目的など、すでに我が国でも広く活用されています。
こうした各検査の特徴は、本事例の「自分にどのような仕事が合うのか、自分の性格的特徴は何か」というニーズには合致しないことがわかりますね。
よって、選択肢①、選択肢②および選択肢③は不適切と判断できます。