子ども虐待対応の手引き(平成25年8月改正版、厚生労働省)で示す児童虐待のリスク要因に該当しないものを1つ選ぶ問題です。
子ども虐待対応の手引きはインターネットで見られるので、印刷して目を通しておくと良いでしょう。
他の問題でも見受けられますが、やはり「リスクアセスメント」ができるということが大切であると思われているのでしょう(実際、大切ですしね)。
少なくとも各省庁から出されている、リスク要因についてはきちんと把握しておくようにしましょう。
解答のポイント
「子ども虐待対応の手引き」の内容を把握していること。
児童虐待のリスク要因となり得る項目を自分なりに理解していること。
子ども虐待対応の手引きにおけるリスク要因
この手引きでは、以下の4つの視点から児童虐待の発生要因について述べています。
1.保護者側のリスク要因
望まない妊娠・出産、若年の妊娠・出産などの妊娠・出産を受容することが困難な場合である。また妊娠中に早産等何らかの問題が発生したことで胎児の受容に影響が出たり、妊娠中又は出産後の子どもの長期入院により子どもへの愛着形成が十分に行われない場合もある。母親が妊娠、出産を通してマタニティブルーズや産後うつ等精神的に不安定な状況に陥っている場合もある。
また、攻撃的・衝動的であること、精神障害、知的障害、慢性疾患、アルコール依存、薬物依存等もリスク要因である。更に、保護者自身が虐待を受けて育ち、現在に至るまで適切なサポートを受けていない場合にもリスク要因になることがある。
保護者が精神的に未熟である場合は、育児に対する不安や日常的な生活ストレスが蓄積しやすい。また、保護者の特異な育児観や強迫観念に基づく子育て、あるいは子どもの発達を無視した過度な要求等もリスク要因としてあげることができる。
なお、近年の傾向として、食事が遅いとか泣き止まないなどの、その年齢であればごく正常な発達を示しているようなことであっても、保護者がそうした知識を持たないために、いらだち虐待行為に至ることもあるので注意が必要である。
まとめると以下の通りです。
- 妊娠そのものを受容することが困難(望まない妊娠)
- 若年の妊娠
- 子どもへの愛着形成が十分に行われていない。(妊娠中に早産等何らかの問題が発生したことで胎児への受容に影響がある。子どもの長期入院など)
- マタニティーブルーズや産後うつ病等精神的に不安定な状況
- 性格が攻撃的・衝動的、あるいはパーソナリティの障害
- 精神障害、知的障害、慢性疾患、アルコール依存、薬物依存等
- 保護者の被虐待経験
- 育児に対する不安(保護者が未熟等)、育児の知識や技術の不足
- 体罰容認などの暴力への親和性
- 特異な育児観、脅迫的な育児、子どもの発達を無視した過度な要求
2.子どもの側のリスク要因
乳児、未熟児、障害児など、養育者にとって何らかの育てにくさを持っている子ども等がある。
まとめると以下の通りです。
- 乳児期の子ども
- 未熟児
- 障害児
- 多胎児
- 保護者にとって何らかの育てにくさを持っている子ども
3.養育環境のリスク要因
家庭の経済的困窮と社会的な孤立が大きく影響している。
また、未婚を含むひとり親家庭、内縁者や同居人がいて安定した人間関係が保てていない家庭、離婚や再婚が繰り返されて人間関係が不安定な家庭、親族などの身近なサポートを得られない家庭、転居を繰り返す家庭、生計者の失業や転職が繰り返されている家庭、夫婦の不和、配偶者からの暴力(DV)等がリスク要因となる。
孤立した家庭は、子育ての情報を持たなかったり、情報にアクセスできない状況にあり、そのことがリスクをより高めると考えられる。また、支援のための社会資源が地域社会に不足している場合もリスクを高める。
まとめると以下の通りです。
- 経済的に不安定な家庭
- 親族や地域社会から孤立した家庭
- 未婚を含むひとり親家庭
- 内縁者や同居人がいる家庭
- 子連れの再婚家庭
- 転居を繰り返す家庭
- 保護者の不安定な就労や転職の繰り返し
- 夫婦間不和、配偶者からの暴力(DV)等不安定な状況にある家庭
4.その他虐待のリスクが高いと想定される場合
妊娠届が遅いことや母子健康手帳の交付を受けていない、妊娠中に妊婦健康診査を受診しない等の胎児及び自分自身の健康の保持・増進に努めないこと、飛び込み出産や医師や助産師の立ち合いがない自宅での分娩、出産時に定期的な乳幼児健康診査を受診させないことなどは虐待リスクがあると考える必要がある。
また、きょうだいに虐待がある場合には他のきょうだいへの虐待リスクに注意して対応すべきである。
更に、関係機関の支援を拒否する場合も虐待のリスクが高いと考えられる。
まとめると以下の通りです。
- 妊娠の届出が遅い、母子健康手帳未交付、妊婦健康診査未受診、乳幼児健康診査未受診
- 飛び込み出産、医師や助産師の立ち会いがない自宅等での分娩
- きょうだいへの虐待歴
- 関係機関からの支援の拒否
選択肢の解説
『①子どもが障害児である』
『③養育環境が単身家庭である』
『④保護者に被虐待経験の既往がある』
『⑤養育環境が子ども連れの再婚家庭である』
これらの選択肢については、手引きに記載があるのでリスク要因に該当すると言えます。
選択肢①については、子どもが障害児であることで受容が難しくなるというのはイメージできるかと思います。
出生前検査などによる「選別」については、さまざまな議論がありますね。
親自身が「こうでなくてはならない」という枠組みがある場合にも受け入れは困難になることが多いと思われます。
出産前から「こういう子ども」を無自覚にイメージしている場合が見受けられ、そのイメージが崩れたときの立て直しが大変という印象でしょうか。
選択肢③については、単身で子育てすることの大変さが大きいでしょう。
まったく自分の時間がないというのは大変なことです。
虐待による死亡事例の加害者で最多なのは「実母」であることも知っておきましょう。
選択肢④については、よく言われることですね。
ただ、この考え方を虐待をしている親と共有するか否かは一考する必要があるでしょう。
ある意味、虐待をしている責任を「外の要因」に帰属させるというアプローチですから。
それを伝えることがサポートになるか否かで、やり取りのテーマを考える必要があります。
選択肢⑤については、再婚した女性側が連れ子をともなってというパターンが一番多いと思われます。
加害者の割合として、実母・実父が多いのですが、次いで義父・義母が多くなっております。
以上より、選択肢①および選択肢③~選択肢⑤は児童虐待のリスク要因に該当すると言えるので、除外することが求められます。
『②子どもが幼児期である』
手引きによると「乳児、未熟児、障害児、多胎児」などがリスク要因として挙げられています。
この中に本選択肢の「幼児期」は入っていません。
以下の図をご覧ください。
この図を見てもわかるように、0歳~1歳までで虐待死のほぼ半数を占める形になっています。
このデータからも、「幼児期」ではなく「乳児」の被虐待による死亡リスクが高いことがわかります。
以上より、選択肢②が児童虐待のリスク要因として該当せず、こちらを選択することが求められます。