公認心理師 2024-143

事例の特徴を踏まえて、診断名を選択する問題です。

かなり絞りやすい問題だったと思います。

問143 9歳の男児A、小学3年生。母親BがAの家庭や学校の様子を心配に思い、スクールカウンセラーに相談した。Bによると、Aは、幼少時から全般的な発達の遅れはなかった。しかし、熱心に取り組もうとはするものの、一人で着替えるのに時間がかかり、箸やスプーンを使うことも苦手である。縄跳びや自転車に乗ることがうまくできない。また、書字では、マス目に沿って書くことができなかったり、力を入れすぎてノートを破ったりするため、学校生活に支障が出始めている。
 DSM-5に基づくAの病態の理解として、最も適切なものを1つ選べ。
① 脱抑制型対人交流障害
② 常同運動症/常同運動障害
③ 反抗挑発症/反抗挑戦性障害
④ トゥレット症/トゥレット障害
⑤ 発達性協調運動症/発達性協調運動障害

選択肢の解説

⑤ 発達性協調運動症/発達性協調運動障害

まずは事例についてポイントを挙げていくと以下のようになります。

  • 9歳の男児A、小学3年生。
  • Aは、幼少時から全般的な発達の遅れはなかった。
  • 熱心に取り組もうとはするものの、一人で着替えるのに時間がかかり、箸やスプーンを使うことも苦手である。縄跳びや自転車に乗ることがうまくできない。また、書字では、マス目に沿って書くことができなかったり、力を入れすぎてノートを破ったりするため、学校生活に支障が出始めている。

全般的な発達の問題は無いけど、身体を細かく扱うことが苦手な様子が明確に生じていることがわかりますね。

そして、こういった問題の場合、きちんと年齢もチェックしておくことが重要です(DSMでは年齢制限があるものが設けられている場合もあるので)。

これらを踏まえて、各疾患を見ていくことにしましょう。

発達性協調運動症/発達性協調運動障害の診断基準は以下の通りです。


A.協調運動技能の獲得や遂行が、その人の生活年齢や技能の学習および使用の機会に応じて期待されているものよりも明らかに劣っている。その困難さは、不器用(例:物を落とす、または物にぶつかる)、運動技能(例:物を掴む、はさみや刃物を使う、書字、自転車に乗る、スポーツに参加する)の遂行における遅さと不正確さによって明らかになる。

B.診断基準Aにおける運動技能の欠如は、生活年齢にふさわしい日常生活動作(例:自己管理、自己保全)を著明および持続的に妨げており、学業または学校での生産性、就労前および就労後の活動、余暇、および遊びに影響を与えている。

C.この症状の始まりは発達段階早期である。

D.この運動技能の欠如は、知的能力障害(知的発達症)や視力障害によってはうまく説明されず、運動に影響を与える神経疾患(例:脳性麻痺、筋ジストロフィー、変性疾患)によるものではない。


以上のように、本事例が呈している問題は基準Aの内容に相当するものと言えそうですね(学校生活に支障をきたしているので、基準Bも満たしている)。

また、発達段階早期であるという基準Cにも合致していますし、幼少期からの全般的な発達に問題はなかったということで基準Dも満たしています。

よって、選択肢⑤が適切と判断できます。

① 脱抑制型対人交流障害

DSM-5における脱抑制性対人交流障害の診断基準を示しましょう。


A.以下のうち少なくとも2つによって示される、見慣れない大人に積極的に近づき交流する子どもの行動様式:

  1. 見慣れない大人に近づき交流することへのためらいの減少または欠如
  2. 過度に馴れ馴れしい言語的または身体的行動(文化的に認められた、年齢相応の社会的規範を逸脱している)
  3. たとえ不慣れな状況であっても、遠くに離れて行った後に大人の養育者を振り返って確認することの減少または欠如
  4. 最小限に、または何のためらいもなく、見慣れない大人に進んでついて行こうとする。

B.基準Aにあげた行動は注意欠如・多動症で認められるような衝動性に限定されず、社会的な脱抑制行動を含む。

C.その子どもは以下の少なくとも1つによって示される不十分な養育の極端な様式を経験している。

  1. 安楽、刺激、および愛情に対する基本的な情動欲求が養育する大人によって満たされることが持続的に欠落するという形の社会的ネグレクトまたは剥奪
  2. 安定したアタッチメント形成の機会を制限することになる、主たる養育者の頻回な変更(例:里親による養育の頻繁な交代)
  3. 選択的アタッチメントを形成する機会を極端に制限することになる、普通でない状況における養育(例:養育者に対して子どもの比率が高い施設)

D.基準Cにあげた養育が基準Aにあげた行動障害の原因であるとみなされる(例:基準Aにあげた障害が基準Cにあげた病理の原因となる養育に続いて始まった)。

E.その子どもは少なくとも9ヵ月の発達年齢である。

該当すれば特定せよ
持続性:その障害は12カ月以上存在している。

現在の重症度を特定せよ
脱抑制型対人交流障害は、子どもがすべての症状を呈しており、それぞれの症状が比較的高い水準で現れているときには重度と特定される。


こうした読めばわかる通り、「脱抑制」という表現どおり、対人交流をすることへの抑制が無いことを特徴とする障害になります。

上記のような脱抑制型対人交流障害の特徴は、本事例の問題(熱心に取り組もうとはするものの、一人で着替えるのに時間がかかり、箸やスプーンを使うことも苦手である。縄跳びや自転車に乗ることがうまくできない。また、書字では、マス目に沿って書くことができなかったり、力を入れすぎてノートを破ったりするため、学校生活に支障が出始めている)を説明できるものではありませんね。

よって、選択肢①は不適切と判断できます。

② 常同運動症/常同運動障害

まずは、DSM-5における常同運動症/常同運動障害の診断基準を見ていきましょう。


A.反復し、駆り立てられるように見え、かつ外見上無目的な運動行動(例:手を震わせるまたは振って合図する、身体を揺する、頭を打ちつける、自分の身体を噛む、自分の身体を叩く)

B.この反復性の運動行動によって、社会的、学業的、または他の活動が障害され、自傷を起こすこともある。

C.発症は発達期早期である。

D.この反復性の運動行動は、物質や神経疾患の生理学的作用によるものではなく、他の神経発達症や精神疾患[例:抜毛症、強迫症]ではうまく説明されない。

該当すれば特定せよ
自傷行動を伴う (予防手段を講じなければ自傷に結び付くであろう行動を含む) 自傷行動を伴わない。

該当すれば特定せよ
関連する既知の医学的または遺伝学的疾患、神経発達症、または環境要因[例:レッシュ-ナイハン症候群、知的能力障害(知的発達症)、子宮内でのアルコール曝露]

現在の重症度を特定せよ
軽度:症状は、感覚的な刺激や気晴らしによって容易に抑制される。
中等度:症状は、明確な保護的手段や行動の修正を要する。
重度:重大な自傷を防ぐために、持続的な監視と保護的手段が必要となる。


本問で求められているのは、事例の特徴(全般的な発達に問題はなかったけど、着替えや箸・スプーンの扱い、縄跳びや自転車、書字で細かく書くときに力の入り具合の調整が困難など)を説明することですが、常同運動障害に見られる特徴は説明するものになっていませんね。

「反復し、駆り立てられるように見え、かつ外見上無目的な運動行動(例:手を震わせるまたは振って合図する、身体を揺する、頭を打ちつける、自分の身体を噛む、自分の身体を叩く)」といったことは本事例に見られません。

よって、選択肢②は不適切と判断できます。

③ 反抗挑発症/反抗挑戦性障害

まずここでは反抗挑戦性障害の診断基準を示します。


A.怒りっぽく/易怒的な気分、口論好き/挑発的な行動、または執念深さなどの情緒・行動上の様式が少なくとも6ヵ月間は持続し、以下のカテゴリーのいずれか少なくとも4症状以上が、同胞以外の少なくとも1人以上の人物とのやりとりにおいて示されている。

怒りっぽく/易怒的な気分

  1. しばしばかんしゃくを起こす。
  2. しばしば神経過敏またはいらいらさせられやすい。
  3. しばしば怒り、腹を立てる。

    口論好き/挑発的な行動
  4. しばしば権威ある人物や、または子どもや青年の場合では大人と、口論する。
  5. しばしば権威ある人の要求、または規則に従うことに積極的に反抗または拒否する。
  6. しばしば故意に人をいらだたせる。
  7. しばしば自分の失敗、また不作法を他人のせいにする。

    執念深さ
  8. 過去6ヵ月間に少なくとも2回、意地悪で執念深かったことがある。
    注:正常範囲の行動を症状とみなされる行動と区別するためには、これらの行動の持続性と頻度が用いられるべきである。5歳未満の子どもについては、他に特に記載がない場合は、ほとんど毎日、少なくとも6ヵ月間にわたって起こっている必要がある(基準A8)。5歳以上の子どもでは、他に特に記載がない場合、その行動は1週間に1回、少なくとも6ヵ月間にわたって起こっていなければならない(基準A8)。このような頻度の基準は、症状を定義する最小限の頻度を示す指針となるが、一方、その他の要因、例えばその人の発達水準、性別、文化の基準に照らして、行動が、その頻度と強度で範囲を超えているかどうかについても考慮するべきである。

B.その行動上の障害は、その人の身近な環境(例:家族、同世代集団、仕事仲間)で本人や他者の苦痛と関連しているか、または社会的、学業的、職業的、またはその他の重要な領域における機能に否定的な影響を与えている。

C.その行動上の障害は、精神病性障害、物質使用障害、抑うつ障害、または双極性障害の経過中にのみ起こるものではない。同様に重篤気分調節症の基準は満たさない。

現在の重症度を特定せよ
軽度:症状は1つの状況に限局している(例:家庭、学校、仕事、友人関係)
中等度:いくつかの症状が少なくとも2つの状況で見られる。
重度:いくつかの症状が3つ以上の状況で見られる。


上記からもわかる通り、反抗挑戦性障害の特徴は「怒りっぽく/易怒的な気分」「口論好き/挑発的な行動」「執念深さ」などの情緒・行動上の様式になります。

こうした特徴は、本事例の問題と関連があるとは言えませんね(本事例では「熱心に取り組もうとする」とされていますから)。

よって、選択肢③は不適切と判断できます。

④ トゥレット症/トゥレット障害

まずはDSM-5の基準を見ていきましょう。


A.多彩な運動チック、および1つまたはそれ以上の音声チックの両方が、同時に存在するとは限らないが、疾患のある時期に存在したことがある。

B.チックの頻度は増減することがあるが、最初にチックが始まってから1年以上は持続している。

C.発症は18歳以前である。

D.この障害は物質(例:コカイン)の生理学的作用または他の医学的疾患(例:ハンチントン病、ウイルス性脳炎)によるものではない。


上記の基準のような問題は、本事例のそれとは合致しないことがわかります。

問題になっているのは「全般的な発達に問題はなかったけど、着替えや箸・スプーンの扱い、縄跳びや自転車、書字で細かく書くときに力の入り具合の調整が困難など」であって、多彩な運動チックや音声チックではありませんからね。

よって、選択肢④は不適切と判断できます。

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