公認心理師 2024-89

説得的コミュニケーションにおいて、中心ルートと周辺ルートを仮定する理論やモデルを選択する問題です。

初出の理論・概念も多いので、把握するようにしておきましょう。

問89 説得的コミュニケーションにおいて、中心ルートと周辺ルートを仮定する理論やモデルとして、最も適切なものを1つ選べ。
① 接種理論
② 防護動機理論
③ 二重処理モデル
④ 精緻化見込みモデル
⑤ 心理的リアクタンス理論

選択肢の解説

① 接種理論

人々は日常的に説得の機会にさらされていますが、接種理論では、そうした弱めの説得に接した経験が「免疫」となり、自由を奪うほどの協力の説得に対して反発や抵抗ができるようになるとする考え方です。

1960年代に社会心理学者William McGuireによって提唱された理論であり、医療用ワクチンが将来の感染に対して生理的な抵抗力を与えるように、心理的な予防接種も将来の心理操作に対する抵抗力を与えるという考え方に基づいています。

あらかじめ弱い反論を聞かせておくと説得されにくくなるということであり、みんながこれは当たり前だとか、当然だというように、自明の理に近いと思っている信念というのは反論に非常に弱いのです。

それに対して、あらかじめ何か反論を聞かせておくと、なかなか態度が変容しにくくなるというのが接種理論になります。

こうした接種理論の考え方は、本問の「説得的コミュニケーションにおいて、中心ルートと周辺ルートを仮定する理論やモデル」に合致しないことがわかります。

よって、選択肢①は不適切と判断できます。

② 防護動機理論

防護動機理論とは、脅威アピール説得分野の代表的理論の1つで、脅威アピール説得とは受け手に脅威が迫っていることを強調しつつ、受け手にその脅威を予防・低減するための対処行動の実行を求める説得です。

脅威アピール説得は、人々の健康や安全を確保する上で非常に重要であり、これまでその説得効果を予測するための理論が提唱されてきました。

防護動機理論では、脅威評価と対処評価によって防護動機が形成され、対処行動意図および実際の行動につながることが仮定されています。

脅威評価について、具体的には、深刻さ認知(被害の大きさに関する認知)、生起確率認知(被害の生じる確率に関する認知)、外的報酬認知(不適応行動を行うことから得られる他者からの賞賛などに関する認知)、内的報酬認知(不適応行動を行うことによる身体的快感や満足感に関する認知)の4つの認知的要因から形成され、それぞれ独立した要因であることが仮定されています。

また、恐怖は対処行動意図に直接的には影響はなく、深刻さ認知を通じて対処行動動機に間接的に影響を及ぼすことを仮定しています。

対処評価については、反応効果性認知(特定の対処行動を行った場合に当該の被害をどれだけ避けることができるかに関する認知)、反応コスト認知(対処行動を行うことによる金銭的、精神的コストに関する認知)、自己効力感(行動を自身で実行できる自信や見通しなどに関する認知)の3つの要因から形成され、それぞれ独立した要因であることを仮定しています。

この脅威評価と対処評価によって防護動機が形成されるとするのが、防護動機理論の基本的枠組みとなります。

この理論は多くの研究によって検討されており、比較的予測精度の高いモデルであり、主に健康リスク分野や自然災害リスク分野で用いられています。

こうした防護動機理論の考え方は、本問の「説得的コミュニケーションにおいて、中心ルートと周辺ルートを仮定する理論やモデル」に合致しないことがわかります。

よって、選択肢②は不適切と判断できます。

③ 二重処理モデル

2種類の情報が、どのように利用されて他者についての評価や判断が行われるかを説明する代表的なモデルとして、Fiskeらの「連続体モデル」とBrewerの「二重処理モデル」があります。

連続体モデルについては「公認心理師 2023-137」にて解説していますので、ここでは挙げられている選択肢でもある二重処理モデルについて述べていきましょう。

このモデルでは、新たな人物と出会うと、まず性別、年齢、人種といった原初的なカテゴリー属性が即座に同定され、相手が現在の自分の要求や目標と関連性があるかどうかを、あまり意識せずに自動処理する段階を設定しています。

そこで何らかの関連性が認められた場合には、次の統制処理の段階に進むことになりますが、その際に自己関与の程度によって情報処理の様式が異なってきます。

自己関与が高いときには、その人物の個人的特徴を吟味する「個人依存型処理」、低いときにはその人物を特定の社会的カテゴリーの一員として捉えようとする「カテゴリー依存型処理」という具合に、2つの異質な処理過程を想定している点が、このモデルの特徴になっています。

上記では、自己関与の有無によって個人依存型処理(個人化)とカテゴリー依存型処理(個別化)という2つの異質な処理過程が行われていることを想定している。

カテゴリー依存型処理で用いられる社会的カテゴリーには、例えば「学者」「心理学者」「教育熱心な若い女性心理学者」など抽象度の異なるさまざまなレベルが存在し、その人物と特定のカテゴリーの特徴が一致するまでカテゴリー内容を「個別化」する形でトップダウン的処理が継続します。

すなわち、その人物を捉えるための社会的カテゴリーとの照合がなされ、特徴が一致すればそのカテゴリーの一員として表象されるが、不一致の場合は、そのカテゴリーの特殊例と見なしたり、同じような特徴を持つ人物をまとめてサブタイプを形成するなど下位カテゴリーとして位置づけようとする試みが繰り返されるわけです。

一方、個人依存型処理では、その人物に関する個々の情報がボトムアップ的に統合して「個人化」されることになるが、それでは個人が属する社会的カテゴリーは、その人が持つ多くの属性の1つとして扱われます。

例えば、心理学の授業の受講者にとって教壇の人物Aは「心理学者」というカテゴリーに従属し、心理学者の表象の一部となるかもしれないが(カテゴリー依存型処理)、Aと交際する可能性のある人物にとって「心理学者」という職業は、特定の人物表象の一部として、その人物に従属する属性として捉えられることになります(個人依存型処理)。

こうした二重処理モデルの考え方は、本問の「説得的コミュニケーションにおいて、中心ルートと周辺ルートを仮定する理論やモデル」に合致しないことがわかります。

よって、選択肢③は不適切と判断できます。

④ 精緻化見込みモデル

説得は論拠に基づいた態度の形成や変化であり、説得の受容において受け手の情報処理のプロセスの検討は、説得の成否の理解に大きく関わってきます。

精緻化見込みモデルは、1980年に、アメリカのミズーリ大学の心理学者Rechard E. Petty教授とシカゴ大学の社会神経科学者John T. Cacioppo教授によって発表された「説得に対する態度変容」に関する論理モデルのことです。

このモデリングでは説得に対して情報を処理する上での思考ルートとして、中心ルート思考と周辺ルート思考の2通りのルートを対比的に提示しています。

中心ルート思考の過程においては、説得のプロセスは提示された情報の真のメリットを深い思考を伴って検討することによって成立する可能性が高いとされており、情報の受け手側によって議題に関する多くの認識が生成され、高いレベルでの情報の精緻化をしばしば伴います。

態度の変容の結果は比較的容易には変わり得ず、持続的かつ予測的であるとされています。

一方、周辺ルート思考では、説得のプロセスの成立は提示された情報に関する肯定的または否定的な手がかりとの受け手側の個人的な関連、或いは提示された情報のメリットに関しての比較的単純な推論に起因するとされています。

周辺ルートを経由して受け手側が得るその情報に関する手がかりは、一般に情報そのものの論理的品質とは無関係であり、これらの手がかりには情報そのものではなくその情報のソースに関しての信頼性や魅力、またはその情報の制作品質などの要因も含まれます。

上記の図はこちらのサイトからの転用です。

大雑把に言えば、中心的ルートは論理的関与であり、消費者に論理的な情報を合理的に検討させるのに対し、周辺的ルートは感情的関与であり、消費者に感情的な手がかりを与えて判断させるというものになります。

こうした精緻化見込みモデルの説明は、本問の「説得的コミュニケーションにおいて、中心ルートと周辺ルートを仮定する理論やモデル」に合致すると言えますね。

よって、選択肢④が適切と判断できます。

⑤ 心理的リアクタンス理論

1966年にアメリカの心理学者であるジャック・ブレームが提唱した心理学理論で、人は自分が自由に選択できると思っていることに対して制限や強制をされてしまうと、抵抗や反発感情が生じる現象のことを指します。

ある行動に対して「自分は自由にその行動を取ることができる」という信念を持っており、その自由が重要であるほど、また自由への脅威が大きいほど、喚起されるリアクタンスは大きくなります。

特に説得的コミュニケーションでは相手の態度や行動に影響を与えようとしますが、このことで却って説得される個人は、制限される行動の魅力をより感じ、説得に抵抗することもあります。

難しく書いていますが、要は「やれ」と言われれば「やりたくない」となる、あの心理状態のことを指しているわけで、多くの児童・生徒は経験しているやつですね(宿題しなさい→今やろうと思ってたのに、やる気なくなった!みたいな)。

こうした心理的リアクタンスに関する説明は、本問の「説得的コミュニケーションにおいて、中心ルートと周辺ルートを仮定する理論やモデル」とは合致しないことがわかります。

よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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