公認心理師 2024-43

職業倫理に配慮した公認心理師の対応に関する問題です。

秘密保持義務等々の公認心理師に設定されている義務や、臨床のマナーなども含む問題になっていますね。

問43 職業倫理に配慮した公認心理師の対応として、最も適切なものを1つ選べ。
① 事例検討会の発表資料に記載するクライエントの居住地域の情報を、市町村名のみとした。
② 中学生のクライエントに心理検査を行う際、保護者のみに検査結果の取扱いについて説明した。
③ クライエントが自殺を遂行する決意と手段を面接で語り秘密を守るよう懇願した際、誰にも伝えなかった。
④ 面接で知り得た情報を専門職間で共有する際、誰にどの範囲の情報を伝えてよいかクライエントに確認した。

選択肢の解説

① 事例検討会の発表資料に記載するクライエントの居住地域の情報を、市町村名のみとした。

公認心理師 2023-98」でも示しましたが、たとえクライエントの了承を得ていたとしても、市町村名などの固有名詞を事例検討会の発表資料に記載することは避けるべきです。

心理臨床学会の「論文執筆ガイド」としても以下のようなことが示されています。

  1. 同意を得た場合であっても、臨床の現場に関する詳細な地域名や固有名詞を記載しない。
  2. 人名・地名等を示す場合は固有名詞を伏せるためのイニシャルの付け方に注意すること。例えば、「佐藤」という人名の論文中でのイニシャルを「S」とするのは望ましくない。地名や施設名に関しても、A市、B施設、C校など、アルファベットで記載するなど工夫する。
  3. 面接経過における年号の記載は、X 年、X+1 年のようにする。

イニシャルと同じような事情で、地名も具体的にわかってしまったり、相談開始日がわかってしまえば、かなり対象が限定されることが理解できると思います。

また、上記の論文執筆ガイドには示されていませんが、「相談が行われた機関」についても実際の名称を示さないことになっています(これも地名と関わる話ですね)。

論文には「著者の所属」も示されていますが、「相談が行われた機関」を明らかにしないことで、そして、それ以外の情報も伏せられていることで(面接開始日など)、その著者がいつ頃担当した事例なのかがわからないので、端的に「その著者の所属で受け持ったクライエントだろう」とはならないわけです。

そもそも「その著者が担当したクライエント」というだけで、かなりクライエントを限定することができますから、それ以外の情報は可能な限り伏せて、それ以上の限定を防ぐということが求められるわけですね(もちろん、そうした事情を理解してもらった上で論文掲載をしていくことが重要です)。

以上より、選択肢①は不適切と判断できます。

② 中学生のクライエントに心理検査を行う際、保護者のみに検査結果の取扱いについて説明した。

まず、中学生のクライエントに心理検査を行う場合には、保護者の同意は必須になります。

これは心理検査を行う場や、行われる心理検査が何であれ(簡便に実施でき、面接の中で行えるようなものであっても)、同様だと考えておきましょう(こういう事案がありますしね)。

また、検査結果の取り扱いについても、保護者に説明することが必須ですが、同時に検査を受けるクライエント本人にも説明することが求められます。

文部科学省のこちらのページにあるように「心理検査の内容は、厳しく守秘されなければならないプライベートな情報であるので、その情報がスクールカウンセラーと被検査者以外には漏れないように細心の注意を払わなければならない」とされています。

上記はスクールカウンセラーの活動の流れで書いてありますが、どの領域であろうがこれは同じです。

あくまでも心理検査にまつわるあらゆる情報は、クライエント当人に開示されることが前提であり(もちろん、評価項目や評価基準など検査の実施に差し支えるような内容は別)、これは守秘義務という枠に納まる話ではなく、クライエントを人格のある一人の人間と捉えているかどうかの話になります。

保護者への説明や開示については、身上監護権と財産管理権(要するに親権)をもつ保護者は子どもにまつわる情報を知る権利があるという点からなされるものと捉えて良いでしょう。

そういう意味では、クライエント本人に説明する必要性を語る文脈と、保護者へのそれに関する文脈は異なると言えます。

以上より、選択肢②は不適切と判断できます。

③ クライエントが自殺を遂行する決意と手段を面接で語り秘密を守るよう懇願した際、誰にも伝えなかった。
④ 面接で知り得た情報を専門職間で共有する際、誰にどの範囲の情報を伝えてよいかクライエントに確認した。

これらは秘密保持義務に関する設問になっていますね。

まず基本として、公認心理師法第41条に秘密保持義務が規定されています。


(秘密保持義務)
第四十一条 公認心理師は、正当な理由がなく、その業務に関して知り得た人の秘密を漏らしてはならない。公認心理師でなくなった後においても、同様とする。


ポイントは、こうした秘密保持義務の例外状況を把握していることですね。

秘密保持義務の例外状況は以下の通りです。

  1. 明確で差し迫った生命の危険があり、攻撃される相手が特定されている場合
  2. 自殺など、自分自身に対して深刻な危害を加えるおそれのある緊急事態
  3. 虐待などが疑われる場合
  4. そのクライエントのケアなどに直接関わっている専門家同士で話し合う場合(相談室内のケース・カンファレンスなど)
  5. 法による定めがある場合
  6. 医療保険による支払いが行われる場合
  7. クライエントが、自分自身の精神状態や心理的な問題に関連する訴えを裁判などによって提起した場合
  8. クライエントによる明示的な意思表示がある場合

これらの状況下では、秘密保持義務が適用されないということになるわけです。

選択肢③についてですが、クライエントが自殺など明確な意図をもって自分自身に危害を加えようとしているのであれば、その緊急性を周囲に伝えるということは秘密保持義務違反にはなりません。

なお、クライエントの自殺が「実行されるか否か」を見立てるポイントを知っておくことも重要になり、本選択肢ではその点の理解も求められています。

選択肢中に「自殺を遂行する決意と手段を面接で語り」という記述が確認できますが、これが自殺リスクの評価ポイントの一つとされています。

単に「自殺念慮を示した」というだけで家族に連絡するというのは、責められないにしても専門家としていかがなものかと言わざるを得ませんし、そういうことばかりしていてはクライエントは離れていってしまうでしょう。

きちんと自殺リスクの評価ができるからこそ、クライエントの「自殺念慮」にどういう意味が内包されているかを探索していくという行為が可能になってくるわけです。

また、マニュアル化されている「自殺リスクの評価ポイント」を単に当てはめるだけではなく、目の前の人間の命が遠ざかっていくという感覚も掴んでおきたいところです(自殺前に丁寧な態度でお礼を言ってくるということはよく耳にしますが、こういう時に感じられることが多いかもしれません)。

いずれにせよ、選択肢③の「自殺を遂行する決意と手段を面接で語り」とある状況は、自殺リスクがそれなりに高い状況であると捉えるのが妥当です。

この選択肢でポイントになるのは、クライエントから「秘密を守るよう懇願した際、誰にも伝えなかった」という点です。

クライエントから自殺しようとしていることを誰にも言わないよう「懇願」されたときにどうすべきかということですね。

事務的に言えば、これは秘密保持義務違反にならないから、いくら懇願されようとクライエントを監護してくれる人に連絡を取る必要があります。

でも実践上で大変なのは、懇願してくるクライエントとどう接するか、ですね。

結局は、外部の人に伝えることが必要になるわけですが、そういうこちらの意思を伝える過程にこそ「カウンセリング」が展開されるのだと思います。

まず、クライエントに死んでほしくないという思いがカウンセラーにはあるわけですが、その内訳として、社会的なマズさ(面接に来ている人が自殺したという事実が、カウンセラーの社会的評価を下げる可能性や機関にとってのマイナスなど)がありますが、それだけではなく、目の前の人と関係性を築いたカウンセラー個人の内にも「死んでほしくない」という思いが生じているはずです。

こうした「死んでほしくない」という思いがあること、しかし、それは突き詰めればカウンセラー側のエゴであることも自覚しておくことが重要です。

一方、クライエントが「死にたい」と思う気持ちも、それまでの思いを聞いているカウンセラーからすれば「正常な判断だ」と思えることもあるでしょうし、そうした判断を伝えつつも、でも死ぬという判断を支持するわけではないということも伝えることになるでしょう。

つまり、苦しさに共感することと、その行為を肯定することは異なるのです。

こうした「ぐちゃぐちゃしたやり取り」が行われることになるでしょうし、そうした情理を尽くしたやり取りを通してクライエントに何かしら「カウンセラーとの繋がり」を感じてもらえたら僥倖なわけです。

さて、最後に選択肢④についてですが、この「面接で知り得た情報を専門職間で共有する際、誰にどの範囲の情報を伝えてよいかクライエントに確認した」という内容は、どのような状況でも当てはまる基本的な対応であると言えます。

例えば、上記の例外状況のうち「そのクライエントのケアなどに直接関わっている専門家同士で話し合う場合(相談室内のケース・カンファレンスなど)」というパターンが示されており、こうした状況であれば、原則、クライエントの了承を得なくて良いわけです。

しかし、あくまでも「秘密保持義務の例外状況」であるだけであり、可能な限り、どこからどこまで共有して良いかについて話し合っておくことは、臨床のマナーとして大切であると言えます。

これが有用である理由として、①こうしたやり取り自体が「カウンセリング」の意味を持ち得る、②カウンセラーに生じる小さな罪悪感がカウンセリング過程に影響することを避けることができる、などが挙げられます。

①については、クライエントがどこからどこまでを共有して良いと考えるか、その理由は何か、などを話し合うことは、クライエントが自身の問題をどのように捉えているか、受け容れているかなどを反映するということですね。

また、②については、たとえ問題にはならないにしても、やはりクライエントに黙って情報共有を行うことは、カウンセラーに小さな罪悪感をもたらすわけですが、この罪悪感はカウンセリング過程に何かしら影響を与えるだろうという考え方です。

もちろん、「そんな小さなことが影響することはないよ」という人もいるかもしれませんが、そういう人はそういう人なりの臨床をやればよいと思います。

さて、以上を踏まえれば、選択肢③は不適切と判断でき、選択肢④が適切と判断できます。

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